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雪が降るまで待ってて

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第8章 雪が降るまで待ってて

「また生徒のみんなを巻き込んじゃったなあ」
 目の前を舞う白いものを眺めながら、ケインは後ろ頭をポリポリとかいた。
 視界のずいぶん遠くでは、イルミンスールの教師達が残骸となった雪だるま型の古王国遺物を運んでいるのが見える。
 結局、あの遺物を設置して、イルミンスール付近の温度を寒くしてしまえば、冬限定の、より希少な生物たちが山ほど集まってきて狩り放題――というのが密猟者達の狙いだったらしい。
 古王国の遺物による被害などという厄介なものが、結果的に学生寮で止まったのは幸いと言えるのかもしれなかった。
 この後は資料庫へ保管されるのだろう。
 教師達は重そうに運んでいるが、ケインがさっき『手伝います』と申し出たら『お前はいい!』とその場にいた教師全員に青い顔で全力で言われた。

「すっかりお騒がせ教師だなあ、僕は」
「で、でも! ケインのせいじゃないよ!? それに、悪い密猟者も捕まえたよ!? それに、それに、ロッテも助けてくれたし!」

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 時間は少し戻ってイルミンスール。

「ゆ、唯乃さん! それっ! それさっさと壊してくださいっ!」
「ばか言わないでよっ! あっつくて今触れないわよっ! そっちこそそのでっかい焚き火消せないの!?」
 唯乃は額に滲む汗を振り払ってクロセルに叫び返した。
「あっはっは、努力はしてますが――」
 ぶわさぶわさとクロセルはマントで仰ぐ。
「まったく衰えません」
「うわああ! エル! 氷術!」
「ふええ! もうSPなんて残ってないですよーう」
 古紙の山は景気よく燃え上がり、銀の半球からの反射熱は止まず、今や学生寮一体の温度は急上昇。
 寮で暖をとっていた生徒達は、どてら姿から半袖へ、一気に衣替えを強要されることとなった
「火の用心! 火の用心! 火の用心!」
 吹笛が霙使いの意地で氷術を連発していたが、今のところ温度上昇にわずかに歯止めをかけるに止まっていた。

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「わたしをイルミンスールへ! 早く!」
 密猟者達の小屋の中。
 蒼也から電話の内容をと聞くやいなや、シャルロッテが急かした。
 しかし、透き通るような白い肌、薄青い髪に蒼い瞳。雪の結晶のような羽をはやしたブリュンヒルトの友人は、一抱えほどもある檻の中に閉じこめられている。
「か、鍵は?」
 と全員が勢い込む中、

「あ、それ僕だ」
 まさか手を挙げたのはケインだった。

「ち、違います! 先生は私を助けようとして魔法の鍵をかけたんです! 檻から連れ出さなければ売りに行けないからって……!」
 シャルロッテのひと言で生徒達が抱いた殺意はそのままケインへの賞賛にすり替わった。

「ただ、おかげで監禁で済んでたんだけど……でも、とっさに魔法をかけたんで、開け方を……その……忘れちゃったんだよね……」
 
 殺意が実行に移されなかったのは、ブリュンヒルトが何とかかばったからに他ならない。

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「雪、キレイだね」
 呟くブリュンヒルトの足下には、うっすらと白いカーペットが敷かれつつあった。
「リトルスノウ――雪を告げる精霊、か。君の友達のおかげで助かったよ」
 そのシャルロッテは、白くなった空のかなり高いところをまだ舞っている。
「誰かに助けられてばっかりだなあ」

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 結局、ケインとシャルロッテを救出した一行は、代わる代わるに順番で、シャルロッテを檻ごと運ぶこととなった。

「そうだ、ヒルトを鍵にしたんだっ! ヒルトが触れば開くよっ!」

 もうイルミンスールのキャンパスに入ったところでケインが叫んだのが暴動の引鉄にならなかったのは、ひとえに、とりあえず目の前の火事寸前の状況をどうにかしようと、生徒達が賢明な判断をしたからに他ならない。

 ヒルトの手が檻に触れ、鉄格子の扉はパカリと開いた。

 やっと自由を手に入れたシャルロッテは羽をパタパタと動かし、高く空へ昇っていく。
 その姿が視界から消えた頃――イルミンスールのキャンパスに一片の雪が舞い降りた。

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「やっとほんとの冬が来たね」
 古紙の焚き火も、銀の半球も、今は雪の下で黙って佇んでいる。
「もう冬かあ」
「そうだよ。ケインが夏バテしてから半年だよ」
「もうそんなに? なんだか……生徒達に迷惑ばかりかけていた気がするなあ……ここにいられるのも、みんなのおかげなんだよなあ。年が変わる前に……みんなには何かお礼をしときたいけど……」
「また補習?」
「……それくらいしかできないからねえ」
 ケインの悩んだ顔をみてブリュンヒルトはおかしそうに笑った。
「ま、来年は、みんなに迷惑かけないように、頑張るようにするよ」

担当マスターより

▼担当マスター

椎名 磁石

▼マスターコメント

 こんにちは、マスターの椎名磁石です。
 今回は「雪が降るまで待ってて」に参加していただきましてありがとうございました!
 お騒がせ教師とお騒がせ魔女の登場もこれで三回目となったわけですがいかがだったでしょうか。今回は寒いせいもあったのか、人恋しさを求めたアクションを寄せていただいた方が多く、悩みつつ、でもニヤニヤしつつリアクションを書かせていただきました。
 加減を間違っていなければいいのですが……。
 あいかわらず、あっちにこっちにと関わるところに迷われるシナリオだったのではないかなぁと思うのですが、どこに関わった方にも楽しんでいただける形に仕上がっていれば幸いです。
 それでは。いつかまたこの広大なパラミタ大陸のどこかでお会いできました日には、ぜひ懲りずにお付き合いください!