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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション

「屋上には向かわないか。そりゃそうよね。よーし、今のうちに」
 これからパートナーの身に悲劇が起ころうなど、夢にも思うはずがない。リーンはトイレから出てきたリフルを呼び止め、申し出た。
「リフル、よかったから学校を案内するけどどう?」
 リフルは聞こえなかったかのようにリーンとすれ違う。
「一度案内されとかないと、また誰かに誘われるわよ」
 リーンはそう言ってリフルに並びかけると、あくまで自然を装って、わざとリフルの目に入るように足を滑らせて見せる。
「きゃ」
 バランスを崩すリーン。その手をリフルがつかんだ。
「あ、ありがとうリフル」
 リーンが体勢を立て直して礼を述べたときには、リフルはもう教室へと入っていた。
(ふーむ、根はいい人みたいね)
 リーンはリフルの後ろ姿を見てそう思った。
 リフルは筆記用具を持つと、再び席を離れようとする。神和 綺人(かんなぎ・あやと)は今が数少ないチャンスだと見てリフルに話しかけた。
「もしかしてこれから図書室に行くのかな。それなら、一緒に行ってもいい? 僕歴史系の本が好きでさ、最近シャンバラ史にも興味があるんだ。お勧めの本とか教えてくれると嬉しいな」
「で、できれば私もお供したいのですが」
 まだ人見知りを克服しきれていないクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も、好奇心に押されて綺人に続く。
 リフルはいつも通り無言で歩き去っていったが、綺人は想定内といった様子で彼女についていこうとする。
「アヤ、いいのでしょうか勝手についていってしまって」
「来るなとは言われてないから、きっと大丈夫だよ」
「アヤはいつでも前向きですね……」
 上の階に上がって図書室に入ると、リフルは二冊の本を手にとって一番奥の席に座る。遅れて近くにやってきた綺人たちに、リフルは片方の本を差し出した。
「これは……? あ、もしかしてお勧めの本? ありがとう、早速読ませてもらうよ!」
「私にも見せてください」
 綺人とクリスはリフルから本を受け取って読み始める。
「えーと、何々……ってこれ、よく分からない言語で書かれてるんだけど……。この単語なんだろう」
「文脈からして、人の名前ではないでしょうか」
「アム、アムリ……」
「アムリアナ・シュヴァーラ」
「あ、どうも。アムリアナ・シュヴァーラは……古代シャンバラ王国、の建国? にあたり――」
 こうして時折リフルが必要最低限の助け船を出しつつ、三人は読書を進める。綺人とクリスにとって、2時間目の終了を告げるチャイムが鳴るまでは一瞬だった。
「もうこんな時間か。次は体育だったね。早めに移動しないと」
「とても勉強になりました、ありがとうございます。リフルさんも何か困ったことがあったら言ってくださいね。私にできることならお力になりますよ」
「そうそう、何でも言ってよね。よかったら古代シャンバラ史についてもまた色々教えてよ。今日はありがとう。これからも仲良くしよう!」
 綺人たちは席を立つ。三人が次の授業に向かおうと図書室を出たとき、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)が目の前を通った。
「む、君は」
 イーオンはリフルを見て足を止める。
「その容姿……君がリフルくんだね。俺は大学部に通うイーオン・アルカヌムという者だが、噂は聞いているよ」
「イオ、立ち話をするようでしたら、五獣器についての資料を先に部屋でまとめておきましょう」
 セルウィーはイーオンから資料を受け取り、一人歩いていく。
「鏖殺寺院の暗躍や女王器、五獣器などについて歴史的観点から第三者的意見、情報を貰いたいのだが」
 イーオンの言葉に、リフルはぼそりと言った。
「……この学園には物好きな人が多いのね」
「ん?」
「何でも」
 廊下の先では綺人がリフルを手招きしている。
「リフルさん、急がないと遅れちゃうよ」
「それじゃあ、もう行くから」
「待ってくれ。時間があるときで構わないから、君の知っていることを教えてほしい。頼む」
「イーオンと二人になるのに気乗りがしないのでしたら、私と先ほどのセルウィーも同席いたします」
 アルゲオもイーオンを後押しする。彼女は最初、時間を無駄にせず必要なことを先延ばしにしないイーオンが急に立ち話を始めたことを怪訝に思ったが、次第にその意に気づいていた。
 そんな二人にリフルは一言だけ言葉を残す。
「気が向いたら」