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どこに参ろか初詣

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どこに参ろか初詣

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「辛気臭いのだよ!」
 煮え切らない布紅に苛立ち、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が声を荒げた。
「自分がここで神様なんか出来ないと思ってるなら、出て行けば良いのだよ。ここに括られて動けないというのなら、それをぶっ壊してやるのだよ!」
 面倒くさがりの八神 誠一(やがみ・せいいち)をやっと引っ張り出して初詣に来れば、当の福神はぐずぐずと貧乏臭いことを言ってるばかり。そんなに厭ならやめてしまえとばかりに、オフィーリアが社へ上がり込み、布紅のご神体が収められている木箱を破壊しようとするのを、誠一が抑える。
「お正月から破壊活動だなんて、めんどくさいことはやめておこうよ」
「だってせ〜ちゃん……」
「その木箱を直したり、掃除したりさせられるのはごめんだからねぇ」
 誠一はそう言ってオフィーリアを社から連れ出し、頭を抱えてしゃがみ込んでいる布紅に、もういいですよと声を掛ける。
「そんなにあれこれ厭なら解放してもらえばいいのに、それをしないのはここにいたいからなんじゃないですかぁ? それと、自分が貧乏神だって胸を張れないのは、福の神に戻りたいからじゃないのかなぁ」
 布紅は頭を抱えた腕は解いたが、座り込んだままで言う。
「……そうなのかも知れません。でも福の神に戻れたとしても、私にできるのは些細なことだけで……それなら……いない方がいいのかも……」
「誰かの為じゃなくて、自分がしたい方を選んだら? 自分がそうしたいから、そうする。そんなんで良いんじゃないかなぁ。些細だどうだって言うけれど、少なくとも僕は、幸運続きの毎日よりも変わらない毎日で時々少し楽しいことがある方が好きですし、大きな幸運よりも、のんびり昼寝していられるくらいの幸運がいいですよ」
 大きな幸運には得てして面倒なものが付随する。ならば、そうでない方がのんびりできて誠一には有り難い。
「……そもそも、小さいだとか大きいだとか……幸せとやらはサイズを比べなければならないものなのか?」
 くだらない、とアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)は吐き捨てた。正月だからと思い切ってレンタルした振り袖を着、テオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)にもドラゴニュートに合う羽織袴を探して着て貰ったのに、こんなことに巻き込まれては気分も台無しだ。
「同じお参りするなら……大きい幸せを貰えた方が嬉しくないですか?」
 布紅は遠くを見る目を巡らせた。空京神社の境内にある他の社を見通そうとでもするように。
 その質問に答える為、アルフレートは自分の子供の頃の話を始めた。
「……私は子供の頃、親戚の家を転々としていた……周囲に馴染めず、友だちもいなかったが……ある日何の気まぐれだか1人、遊びに誘ってくれた奴が、いてだな……まぁ、その……その後またすぐに引っ越したし、別になんていうこともなかったんだが……誘ってくれたその一言が、すごく、その……嬉しかった、というか……」
 自分の話に照れて、アルフレートの声はどんどん小さく早くなり、最後の方は掠れて消えた。恥ずかしさを振り払うように、ともかくっ、とアルフレートは呼吸と気持ちを整える。
「……事の内容なんてどうだっていい……心にどう響くかが問題なんだ……お前が見るべきは、振りまいた現実的な出来事ばかりじゃない……お前から幸せをもらった人たちの心だ……目に見えることばかり、気にするな!」
 誰かに遊びに誘ってもらう。そんな小さな事、記憶に残らない人も多いだろうけれど、アルフレートにとってそれは、今も大切に抱える幸せの思い出だ。小さな幸せに意味がないというのなら、アルフレートのこの思い出にも意味がないということなのか。そんなはず、ない。
「……アルフレートの言葉がきついのはいつものことだから、あまり気にしないほうが良い」
「何か言ったか?」
 布紅に言った小声を聞きとがめたアルフレートに睨まれて、テオディスは慌てて咳払いをした。
「……俺は絵を描くんだが、絵の具で思うような色が作れず悩んでいた。そんなとき、たまたま筆から落ちた一滴が、とても素晴らしい色を作り出したことがある。人から見たら些細なことだろう。だが、俺にとっては暗闇の中で灯りを見た思いだった」
 挫折しかけていたテオディスは、その灯りのおかげで絵を描き上げられた。小さな灯りは先に進む大きな灯りとなり、実を結んだのだ。
 幸せの大小なんて、与える側には計れない。出来事に意味を与えるのは受取った者の側にしかないのだから。
「幸せの大小は……関係、ない……」
 布紅はアルフレートの言葉をゆっくりと繰り返した。己の心にそうなのかと問うように。布紅に分かる言い方はないかと、ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)は考え考え、小さな幸せの大切さを説く。
「そうですね、たとえば……ここに困っている方がいて、布紅さんに願い事をするとしましょう。何もしなければその方は困ったままで何も変わりません。けれど、どんなにささやかでも、幸せを差し上げればその分その方は幸せになれるんです。それだけではいけませんか?」
「別の神様にお願いしたら、その何倍もの幸せをもらえます。だとしたら、私のしてることは何になるの……」
 隣に大きな岩があるのを見ながら、小さな石ころを積んで積んで。そんな自分の非力さに打ちのめされて、貧乏神になってしまった小さな福の神は呟いた。
「それでもその方は、幾つもあるお社の中からあなたを、あなただけを選ばれたのですから。たとえ小さくとも、あなたは変えられるのですよ」
 このぬくもりが伝わるといいと思いながら、ファレナは布紅の手を握った。神を信じず、それに祈ることもしないファレナだけれど、せっかく初詣に来たのなら布紅を福の神に戻した達成感の中でおみくじを引きたいものだ。
 布紅はファレナに手を取られたまま、じっと考え込んでいた。小さな幸せと、その意味を。その様子を見てレイディスは気づいた。何故布紅が貧乏神になったのか、その本当の原因に。
「布紅が小さな幸せを与えられるなら、それはとても素敵な事だ。決して悲観するような事じゃねえ。滅多にあえない大きな幸せを求めるあまり、小さな幸せに気づけない。そんなやつこそ『不幸』なんだ。だから今おまえは『不幸』だ、布紅」
 レイディスの言葉に布紅は音を立てて息を吸い込んだ。
 大きな幸せを求めていたのは、そしてそれを求める余りに小さな幸せをないがしろにしてしまったのは、参拝者ではない。布紅自身だ。
 だからこそ、布紅は小さな幸せを与える力を失ってしまった。不幸な神は不幸しか育めず、布紅は自ら貧乏神と成り果てた。それが、参拝者に多くの幸せをあげたいという気持ちから出たことであっても、小さな幸せを貶め疎んだのは事実。
 硬直した布紅に構わず、レイディスは貧乏社のおみくじを引いた。
「ダメ、それは……」
「……頑張れよ、布紅。来年も来るからな」
 そのままレイディスは立ち去った。
「私もまだおみくじ引いてなかったんだよね」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)もあっけらかんと言っておみくじの箱を振って逆さにした。
「引いちゃダメ……私は貧乏神になってしまったんだから」
 その時はじめて布紅は、自分のことをはっきりと貧乏神だと口にした。もしかしたら、でもなく、多分、とぼかすのでもなく、そうだと認めた。
 布紅は沙幸に駆け寄って、不運なおみくじが出てしまう、と止めたが沙幸は気にせずそのおみくじを手に取った。
「私は、今そうやって悩んでる布紅様のこともきちんと奉って差し上げたいんだもん。大丈夫。ポジティブ思考で考えれば、不運だって運のうち、だよっ」
「でも……」
 悲しげな布紅に、佑也は言う。
「君はまだ、立派な福の神だよ。そうやって人の不運を悲しむことができるんだから」
 貧乏神であることを認めたが故に布紅は、そのもたらす不運を悲しむことができるようになった。そして自分が小さな幸せを軽んじてきたことを認めたが故、そこから踏み出せるきっかけを手に入れた。
 少しずつ、布紅の気配は変わりつつあった。まだ見た目は貧乏神のままだけれど、溜息ばかりを吐かなくなった口からは、瘴気も漏れなくなった。
「ただいまっ」
 そこに、息を切らした葛葉 明(くずのは・めい)が駆けてきた。その後ろからは、同じように息を切らした青年がついて来ている。
「いい人を連れて来たんだよ。覚えてる?」
 明は布紅の前に連れてきた青年を押し出した。明が神社の周辺を聞き込んで回り、駆け回って探したこの青年は、ここが福神社だった頃に、身分違いの片想いをしている彼女とどうか結ばれますようにとお参りをしたことがあった。
「あの時はありがとう。ここでお参りをした後に、彼女に会いに行ったんだ。だけどどうしても切り出せなくて、今日も言えないまま終わるのか、と思った時に……」
 何かに呼ばれたような気がして空を見上げると、月が出ていた。あんまり綺麗だったから、月だ、と彼女に教えようとして声が掠れた。
『……きだ』
 すると彼女は、私も、と言って青年に抱きついた。舌が回らなかったという偶然の幸運は小さな幸せと結びつき、やがては大きく成長した――と青年は語った。
「結婚、するんです、僕ら」
 布紅には青年を結婚させる大きな力はなかったけれど、小さな幸運は彼らによって育てられ、実を結んだ。
「大きく叶えられる幸せより、もらった人が育てられる小さな幸せの方があたしは好きだな。貴方は気づいてないけれど、貴方に感謝してる人はいっぱいいるのよ。貴方のやっていたことは、小さかったかもしれないけど、無駄じゃなかったのよ」
 そして、包帯ぐるぐる巻きになった武尊もまた、奉納の酒を持ってやってくる。
「ありがとよ。オレの願いを聞き届けてくれて感謝感激だ!」
 幸せかそうでないかなんて、神様が決めることじゃない。不運も幸運ももらった人の手の中で変化して、何かに育っていくものなのだから。

「私……間違ってました」
 青年を見送って、布紅は呟いた。
「ここに来た時……神様なんだから、人をたくさん幸せにしてあげないと、って思ったんです。だってほら、福の神、なんて名前を貰っちゃったものだから……福をあげないとちゃんとした福の神だなんて言えないかな、って」
 最初は小さな福でもあげられることが嬉しかった。だけどそのうち、みんなを幸せにしてあげられる優れものの神様になりたくなった。けれど、布紅の持つ力は、布紅が与えたいと思うほどに強くはなくて、思うに任せぬ焦りが幸せの小ささを嘆く気持ちへと繋がってしまった。
 素直に打ち明けるにつれ、布紅にまとわりついていたくすんだ影が薄くなってゆく。
「君は最初から全てが上手くいく人がどれだけいると思ってたの? ごく一握りしかいないよ。それは神様も同じじゃないかな」
 そんなことで落ち込むなんてまるで人間みたいだと、サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)は可笑しく思う。神様らしくはないけれど親近感は湧いてくる。
「立ち止まったり転んだりしても、少しずつ先に進むことが大切だと思うよ。『ささやかな幸せ』であっても、間違いなく『幸せ』なんだから、それを育てていけばいいんじゃないかな。君からもらった幸せを人が育てていくようにね」
「私にも出来るでしょうか……」
「大丈夫。君は自分自身が思っている以上に人の心を癒しているし、人からも好かれている神様だと思うよ。だって、こんなにたくさんの人が君のことを気に掛けているんだから」
 貧乏神になってしまってからも、社には参拝者が訪れ、掃除しようという者も絶えなかった。近寄れば不幸になるかも知れないと言われているのに、ここには多くの人がいる。
「……はい。ありがとうございます」
 集まっている皆へ布紅は頭を下げた。
「布紅さん、布紅さん、ボクはプリン食べられてリルゥがそばにいればいつでも幸せなのです! どんなささやかな幸せでもいっぱい集まればおっきな幸せになると思うです。だからいっぱい幸せをあげるです」
 おじいちゃんがくれた宝物、兎のぬいぐるみのリルゥをいつものようにしっかり腕に抱いて、ナイト・フェイクドール(ないと・ふぇいくどーる)は狼尻尾をぱたぱた振った。
「いっぱい……それなら落ち込んで休んでいる暇なんてないですね」
 微かであったけれど、布紅は微笑んだ。
「布紅様が明るくなって嬉しいな。もっともっとポジティブ思考を身につけて、もうこんなことで落ち込まないでいられるようになるといいね。それにはポジティブの三段活用がいいんだけど」
 どんな不幸に見舞われても、風が吹けば桶屋が儲かる論みたいに強引に小さな幸せに結びつけられるようになれば、ずっと楽になるのに、と沙幸は言った。
「こんな所に穴場の社が、と思えばなにやら悩んでいる様子でありますな」
 人混みを避けて流れてきたらしきミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が沙幸の言葉の端を聞き、少々待っていて下さいとその場を離れた。戻ってきた時にはロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)を伴っている。
「余を『コタツ』というぬくぬくなものから引きずり出したと思えば、あのような混雑に放置とは。やはり異教の礼拝になど参加するのではなかったわ」
 怒りの余り乱暴な言葉遣いになっているロドリーゴを、だから穴場を見つけて来たではありませんかと、ミヒャエルは言葉巧みに社へと誘導する。
「穴場とは、魅力的な場所があったものですね」
 アマーリエは解説しながら、ビデオカメラをロドリーゴに向けている。
「他宗教の力を推し量る良い機会ではありませんか。さあ、是非こちらで参拝し、聖下の威光を知らしめるのです」
「あの、私まだ戻っているかどうか……」
 布紅が不安そうに言いかけたのを、ミヒャエルは身振りで黙らせた。隣でアマーリエも合図を送ってくる所を見ると、彼女も事情は知っているのだろう。知らぬはロドリーゴばかりなり、ということか。
 ロドリーゴは怪訝な顔をしていたが、布紅の前に進み出て自身の流儀で祈りを捧げる。
「ヴァノッツアのような良い娘に巡りあえますように」
 生臭坊主丸出しの願掛けになったのは、ミヒャエルとアマーリエの妙にウマのあっている様子に、取り残された気分だった所為もある。
「これで良いだろう」
 満足げに踏み出せば、いきなり靴が裂けてロドリーゴは転倒した。
「ああ、靴が傷んでたんだね。良かった。このまま冒険にでも行くことになったら大変だったよ。布紅様に気づかせてもらって良かったね」
 すかさず沙幸がフォローを入れれば、アマーリエも
「足下はすべての基本。正月からそのことを体験できるとは、なんと幸運なはじまりでしょう」
 と、ロドリーゴの足下をアップで撮りつつ解説する。
「そ、そうですね。しかし、今のでどうやら指輪をどこかに飛ばしてしまったようです」
「それは探さねばなりませんな」
 藪に引っかかれつつロドリーゴが指輪を這々の体で見つけて帰ってくれば、今度はミヒャエルがこう言う。
「聖下がそうして物を大切にする姿、ここにいる一同に感銘を与えたことでしょう。さすがは宗教者というところですな」
「そうでしょうとも」
 ロドリーゴは満足げに肯いた。
「ああやって、物事は良い方良い方に考えると前向きでいられるんだよ」
 沙幸に示された布紅は、なんだかお気の毒です、と言ったが、皆に励まされたロドリーゴがあんまり意気揚々としているので、くすっとつい笑みを漏らした。一度笑うと止まらなくなって、声を挙げて笑い出す。その途端……。
 社と布紅が白く柔らかな光に包まれた。
 光が収まった後に現れたのは、質素ではあるけれどこざっぱりとした社と、つんつるてんの着物を着て笑顔の福の神。
「やはり、これが一番基本的な縁起物ですわね」
 内心では布紅が笑えばいいのにとずっと思っていたマネットが、そっと呟いた。
 佑也は布紅の前で居住まいを正すと、二拝二拍手で手を合わせる。
「神様、あけましておめでとうございます。今年一番の俺の願い、どうか叶えてやってください。――ここにいる皆が、笑顔になれますように」
 佑也に続いてアインとツヴァイも願う。
「どうか、布紅さんが幸せになれますように! 神様にだって幸せになる権利はあると思います」
「ボクは姉上が幸せになってくれればそれで満足です。そして姉上は今、あなたの幸せを願っている。……姉上を幸せにするためにはどうすれば良いか。もうお分かりですな?」
 そしてアルマ・アレフ(あるま・あれふ)は願うのではなく布紅に言う。
「あたし達は神様ではないから、布紅ちゃんを幸せにしてあげることなんて出来ないかもしれない。けど、布紅ちゃんの味方になってあげることは出来る。困った時は一緒に悩んで、嬉しい時は一緒に悩んであげる。だからもう1人で抱え込まないで。ここにいるみんなを頼って、ね?」
 人から神様に願う一方通行の気持ちだけでなく、神様から人に願うことがあってもいい。そんな風に思うのは、福の神に戻ってからも布紅が神様らしく見えないから、なのかも知れない。
「ありがとう……お世話になった皆さんの為にも、私、がんばっていい福の神になります」
 両手の拳を握りしめる布紅は、神様というよりは子供のように見える。
「あんまり、頑張り過ぎなくていいと思う」
 皆が布紅を福の神に戻そうとしているのだから多分成功するだろう。そう思いながら推移を見守っていた珂慧は、空回りしそうにはりきっている布紅に言う。
「なんでもかんでも叶えてくれるカミサマだけが偉いとは言えないよね。人と近い視点で、一緒に笑ったり泣いたりして、気軽にお参りできる方が親しみがあっていい……って思う」
 そんな珂慧の願い事、というより目標は『1枚でも多くの風景を描けるよう』。そしてできればその景が悲惨なものでなければいい、と。
「白菊、寒くはありませんか?」
 寒さの中、社前にずっと立っていた珂慧を気遣いながら、クルトは声に出さずに願いを唱える。
(白菊と、彼に関わるひとたちが悲しい思いをしないよう)、と。それはクルトの願いであり、また誓いでもある。
「少々気になることがあるのだが……福の神に戻れば、俺の運も好転するのだろうな?」
 貧乏社に長々と参拝してしまったラフィタだけは、気がかりそうに布紅に尋ねた。
「えっとそれは……ごめんなさいっ!」
「なっ……」
「さ、冷えてきたから帰ろうか」
 珂慧はクルトに声を掛けると、驚愕しているラフィタを置いて参道を歩いて行った。