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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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 学校内に設置された救護所では、水晶化した花嫁たちにジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)ヒールをかけて治療をしていた。そこに、エリザベートからの緊急連絡が届けられた。
「花嫁たちが利用される、ですか?」
 言伝の内容は、人質交換に向かった花嫁が、全身を水晶化させられ、さらに操られてしまったということ。そして、パッフェルの同志が学校内に潜入している可能性があるということであった。
 ジーナの隣で花嫁の看護をしているガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)も、言伝を聞いて顔を上げた。
「なるほど、水晶化を進行させる者が既に潜入しているのであれば、花嫁たちを操り、戦力とされる危険性があるという訳だな」
「ここには発症した花嫁たちが集まっています。警戒する必要はありそうですね」
「それならば、衝立や遮光カーテンといったもので休憩スペースを簡易的に個室化するとしよう」
「姿を隠すスキルを使ってくるかもしれません。定期的に殺気看破での監視もお願いできますか?」
「了解した」
 ガイアスがジーナに背を見せた時、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が悲声を上げて駆け込んできた。
「誰か! 誰か! ユリを診てくれ!」
「どうしたんだ?」
 ジーナと同じく、花嫁たちへの治療をしていた和原 樹(なぎはら・いつき)がリリに声をかけた。見上げていた樹の視線を、リリは自身の後方へと誘導すると、ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)を抱きかかえたララ サーズデイ(らら・さーずでい)が息を荒くして走りこんできていた。
「ユリの、ユリの水晶化が首にまで! このままでは息ができなくなる!」
「落ち着いて! フォルクス、頼む」
「わかった。さぁ、その子は我が運ぼう」
 ララは警戒した様子でフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)を見上げたが、ユリにそっとヒールを唱えるフォルクスの真っ直ぐな目を見て、彼にユリを抱き渡す事を決めた。フォルクスはユリを抱えて運ぶと、ベッドの上に横たえた。
「なるほど、衰弱している。樹、イケるか?」
「もちろんだ。あぁ、もちろんだ」
 ベッドの脇に腰を下ろした樹は瞬間によろけたが、樹は笑顔を見せてヒールを唱え始めた。
「2人でヒールをかけるのか?」
「そんなに悪いのか!」
「落ち着いて! 落ち着いて。体力の低下が水晶化を進行させる事が分かってる。だから、とにかくまずは2人で―――っつ」
「樹!」
 フォルクスの声に、樹は意識を取り戻したが、瞬間、確実に飛んでいた。
「大丈夫?」
 ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)は、呟くように、聞こうとしなければ聞こえないような小さな声で言うと、そっと樹の頬にキッスをした。アリスキッスにより、SPが回復しているのだろう、しかしそれ以上に体が軽くなるような心地を樹は感じて、笑みで応えた。
「ありがと。ショコラちゃんも無理はするなよ」
 額にアリスキッスのお返しを貰ったショコラッテは小さく頷くと、綿のように駆け行き、花嫁たちの治療に戻って行った。どさくさに紛れてフォルクスが樹の頬にキスをしようと近づいたが、あっさりと殴られていた。
「本当に大丈夫なのか?」
 リリは不安に思ったが、ユニの顔色を見れば明らかに良くなっているのが分かった。安心はできない、何も解決はしていないのだ、それは分かっているのだが…。リリとララは互いに視線を交わして、落ち着くよう暗示をかけているようだった。
 少し離れたベッドにはラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)が横たわり、その手を譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が優しく握っていた。ラキシスの水晶化は右腕を残した上半身の全て、そして首から左頬にかけて進行していた。上半身は既に自分の意志では動かせないようだ。
「本当に、良いのですね」
「ぅ…… ぅん」
 舌の一部、そして喉も水晶化が始まっているのであろう。言葉を発する事も……。
 それでも大和はラキシスの瞳に、強き決意を感じて自分自身を納得させようとした。
「お二方、お願いします」
「でも…、やっぱり…」
 大和の脇からラキシスを覗き込む峰谷 恵(みねたに・けい)が心配そうな声をあげたが、パートナーであるエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)は淡々とラキシスの左腕に装置の一部をセットしていった。
「準備ができました。いつでも」
「… お願いします。治療法を見つける為ならば、ラキは自らがその礎となることを望んでいます…… お願いします」
 頭を下げる大和の手が、ラキシスの手を強く握りしめるのを見て、恵はエーファに合図を出した。
「それでは、始めます」
 ラキシスの腕を挟むように設置された機械が、腕に圧力をかけてゆく。
「水晶は圧力をかける事で電気を発生する性質があります。これを圧電効果といいますが、水晶化の部位でも同じことが起こるかを検証します」
「パッフェルが花嫁を操れるのは、これを電気信号として外部から操作している可能性があるって事」
 モニターは、僅かながらに電気信号を感知した事を示していた。あとは外部から信号を送り、腕が動けば…。
 一度目は、動かない。二度目も、動かなかった。
 その間もラキシスは笑みを保とうとしていた。これほどに悲しみを生む笑顔を一同は見た事が無かったが、想いは誰もが一つだった。
 どうにかして、水晶化の謎を解こう。大和も必死に、ラキシスに笑みを見せたのだった。


 イルミンスール魔法学校のベルバトス ノーム(べるばとす・のーむ)教諭は、自身の研究室にて風を起こしていた。見ているのか、本当に読んでいるのかと疑えるほどに、分厚い専門書のページを、風が起こるほどに速く送り読んでいる。それでも表情は一向に明るくはならなかった。
 山積みにした本を運んできたソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は、教諭の机の隅にゆっくりとその山を降ろした。
「ここに置くぜ、教諭さん。この辺りの本は用済みか?」
「あぁ、持っていってくれ。それから、本の質が落ちてる、しっかり頼むよ」
「ちっ、頭を使うのは苦手なんだっての。北都、教諭じゃなくて俺を手伝ってくれ」
 教諭と同じように専門書と睨み合っている清泉 北都(いずみ・ほくと)は、顔も上げずに口だけを開いた。
「大丈夫だよぅ、ソーマなら出来る、頼りにしてるよぅ」
 ソーマは肩をすくめてから、運べと言われた本を山にしていった。北都の隣で目頭を押さえた水神 樹(みなかみ・いつき)は、ソーマと同じく息を吐いた。
「しかし、見つかりませんね」
 人質交換に立ち会った生徒から、またパッフェルから襲撃を受けた生徒たちからの報告内容は教諭の元にも届いていた。その情報を元に、「毒」「水晶化」「波動弾」という要素から水晶化の解除法を探るべく調査をしていた。
 北都も手を止めると、小さく息を吐いた。
「教諭、僕は『青龍鱗』について調べても良いですか?」
「… どうしてだぃ?」
『青龍鱗』の力が何であれ、教諭や僕らがその力に気付かなかったのはシャンバラ女王の血を引いていないから… と考えると、僕らでは力を使えないという事になる… でも、それじゃあ困るんです」
「女王候補であるミルザム・ツァンダも女王器の力については軽言を吐かないようにしているようだしねぇ。まぁ、大いなる力は争いを加速させるからねぇ、気持ちは分かるけど」
『青龍鱗』の力の解明はきっと、水晶化の謎を解明するのにも繋がると思うんです、ですから」
「わかったよ、調べると良ぃ。ただし、私はこのまま続けるよ。『青龍鱗』が戻ってくるとは限らないからねぇ」
「ありがとうございます」
「私も北都さんを手伝います」
 北都と樹は、教諭の許可をもらうと、『青龍鱗』が封印されていたヴァジュアラ湾と人魚の関係から調べを始めるべく、アリシアの資料を探しに向かった。
 ソーマも北都について行ったため、大きな机の前には大量の本と教諭だけとなってしまった。そんな教諭を部屋の外から監視している影が一つあった。
「ったく、不用心な…」
 監視と言うと聞こえが悪い。出雲 竜牙(いずも・りょうが)はノーム教諭を陰ながら護衛していた。
(イルミンスールが保有する『青龍鱗』の研究データを末梢しに来る可能性もある、となれば狙われるのは教諭だろうからな)
 花嫁たちを水晶化していったのも、パッフェルの派手な登場も、人質交換を持ちかけた事も全て、イルミンの混乱を誘うためだとしたら…。
(まぁ、一度の襲撃でそんなに欲張る、なんて事はないと思うけど、警戒していて損はないだろうからね)
 教諭を狙う殺気や侵入者の姿は、今のところ見ていない。竜牙は殺気看破を駆使して、辺りを見回すのだった。