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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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 現場に向かうクイーン・ヴァンガードに課せられた使命は「人質の救出」であった。しかし、これはミルザム・ツァンダとその側近たちの意向である。
 無論に、この意向と命を最優先させる事が第一である。しかしヴァンガードには「ミルザム・ツァンダを女王にする」という最終目標がある、そしてその為には「五獣の女王器」の全てを集める必要がある。
 ヴァンガードの一行が現場に到着した時、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)煙幕ファンデーションで煙幕を張った所であった。歩み去るパッフェルの姿も見えていた、しかし、彼らは静観した。彼らのもう一つの使命、それは「女王器を確保すること」であった。
「まだだ」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、飛び出そうとした神野 永太(じんの・えいた)を止めた。
「なぜだ、今なら奴を」
「奴に協力する生徒たちが集まってきている、機を待つんだ」
「ちっ」
 ミッションは、単なる討伐にあらず。水晶化された花嫁たちは保護するだけでよい、水晶化の症状も、女王器の力で解除できるとミルザムから聞いていた。
 女王器を確実に確保する事、そして相手は驚異の狙撃力を誇っている。
 玲は視線を戻しながら、小さく口元を上げていた。


 神代 明日香(かみしろ・あすか)が叫びながらパッフェルに飛びかかった時、クイーン・ヴァンガードの面々も、一斉に行動を開始した。
「まずは、あの獣」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はパッフェルが跨る漆黒のグリフォンの足元に氷術を放った。これと同じ事を、霜月と逆サイドから行ったのがイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)である。
「いい塩梅どすなぁ」
 グリフォンの両足は地面と共に凍りつき、身動きが取れなくなった。両サイドから大きな手で捕まえたように、見事にガッチリ捕獲できていた。
 霜月はパートナーであるメイ・アドネラ(めい・あどねら)を呼ぶと、光条兵器である鍵剣を受け取った。
「行けっ、霜月っ!」
「おぅよ!」
 氷術の成功が、霜月のテンションを上げたのだろう。口調が乱れたばかりか、メイを察知したパッフェルが、花嫁を水晶化させる赤い光を放つ事に注意できていなかった。気付いた時には光は霜月の横を過ぎていた。
「メイっ」
 霜月が慌てて振り向いた時、メイの前には燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が立ち塞がり、メイを護っていた。機晶姫である彼女は光に撃ち抜かれても水晶化する事は無かったのである。
「ありがとう、助かったよ」
「構わないです。ここからが本番です」
 ザイエンデは優しく微笑むと、メモリープロジェクターを起動させた。辺り一面に、攻撃を行うザイエンデの映像が現れ、パッフェルを取り囲んだ。
 同時に飛び出した神野 永太(じんの・えいた)の一閃は、パッフェルに届くより前にトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)雅刀で防いでいた。
「邪魔をするな!」
「んな訳に行くか! 何があっても俺は姫さんを護ると決めたんだ」
 鍔迫り合いから距離を取ると、永太は着地と共に火術を放った。
「っと!」
 トライブがこれを避けた時、永太は既に間合いを詰めており、腹への膝蹴りと頸椎への殴打を叩きこんだ。連戦の疲れも相まって、トライブは反応する事が出来なかった。
「お前の相手をしている暇はない」
 すぐに永太は駆け出して、ザイエンデの映像に並び入った。これを合図に一斉掃射する事になっていたが、パッフェルは拡散させる事が出来る波動を、暴走したように次々と放っていった。
 波動の弾は映像も、ザイエンデ本体も、また霜月、明日香をも吹き飛ばしていった。初弾を避けた永太も波動の弾の狙撃を受けてしまった。
「お止め下さい、お止め下さい」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は必死にパッフェルに呼びかけたが、パッフェルは波動弾の掃射を止めようとはしなかった。岩造の言葉はパッフェルには届いていないように思えた。
 岩造は目に怒りを蘇らせると、握り締めた高周波ブレードを振りかぶった。
 その剣が、後方で動かなくなった。
「何をしているのかしら?」
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)リターニングダガーで剣を押さえていた。岩造は全くに動かせないでいた。
「裏切るチャンスを、この状況まで我慢したの? マゾねぇ」
「黙れ! 水晶化した花嫁たちを救うには、コイツを倒すしかない! 邪魔をするな!」
「ふぅん、あぁ、あたし、『青龍鱗』が欲しいの、一緒に彼女を倒したら『青龍鱗』、くれる?」
「なっ!」
「惑わされるな岩造!」
 パートナーであるドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が叫んだ時、放たれた氷術がパッフェルのトリガーを一瞬だけ凍らせた。
「今だよっ、ナナっ」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)氷術を放ったのも、ナナに叫んだのも、そして光学迷彩によって姿を消していたナナ・ノルデン(なな・のるでん)が飛び出したのも、全てほぼ同時であった。
 パッフェルが、また岩造たちが気付いた時には、空飛ぶ箒に跨り空から滑走したナナが、パッフェルに体当たりをした瞬間であった。 
 パッフェルもナナも勢いよく吹き飛んだ。
 そして、パッフェルが抱えていた『青龍鱗』は、ドラニオの足元に転がっていった。
「うぉぉぉぉおぉぉぉぉお!!!」
 突然の事態を、何とか冷静に受け止めようと… いや、単にパニックになったのだろう。
 それでもドラニオを動かしたのは「女王器を奪回する」というヴァンガードに課せられた使命が頭に叩き込まれていたからだろう。ドラニオは『青龍鱗』を拾い抱えると、叫び喚きながら駆け出していた。
 吹き飛ばされたパッフェルは桐生 円(きりゅう・まどか)が体を張って抱きかかえたが、直後にズィーベンが放った追撃の氷術が2人を襲った。
「ナナっ!!」
「えぇ」
 ナナは素早く空飛ぶ箒に跨ると、駆けて来たズィーベンを乗せて飛び立った。
「うぉぉぉぉおぉぉぉぉお!!!」
「待て! ドラニオ!!」
「あんっ、本気だったのに、残念♪」
 ドラニオを追う岩造に、ヴェルチェが口を尖らした。岩造がドラニオに追いつく前に、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が2人を叫び呼んだ。
「こっちよ! 乗って!!」
 クコが軍用バイクを2人に寄せて並走させると、無理やりに2人を乗せた。
「さぁ! 飛ばすわよ!!」
 一気に加速した、そして同じく軍用バイク道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が、小型飛空艇神野 永太(じんの・えいた)がパートナーと共に乗り込むと、倒れた霜月や明日香たちも乗せて発進していた。
 脱兎の如く、風の如く。ヴァンガードを中心とした一行は、見事、『青龍鱗』を奪い返し、逃走するのに成功したのだった。


 見事に成功した。見事すぎる程に、あっさりと。
 氷術を受けていたとは言え、パッフェルは動かなかった。
 動けなかった。それもある。重なる戦闘、花嫁たちを操り、右瞳にもダメージがある。
 しかし、桐生 円(きりゅう・まどか)マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が追おうとした時、パッフェルはそれを止めた。「追わなくていい」と。
 生徒たちが『青龍鱗』奪回を優先させ、一斉に去った事が。
 また、よく見れば、一行は皆、ボロボロであった事が。
 パッフェルに「追わなくていい」と言わせる事の後押しをしたのかは、パッフェル本人にも、はっきりとは分かっていないようだった。