天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

「思い出スキー」

リアクション公開中!

「思い出スキー」

リアクション

「ケンリュウガーのスキー教室!!」
 ポーズと共に大声を張り上げる武神。
「みんなー!俺が誰だか分かるかーい?」
「・・・」
 子ども達から返事は無い。
「俺は、ケンリュウガー。ただの正義の味方だ!」
「うぉーーーーーーーーーー!」
 特撮好きの男子が「正義の味方」に反応、声援が起こる。
「まず、俺の話を聞け!!」
 派手なポーズを決めるケンリュウガー。
「うぉーーーーーーーーーー!」
 再び声援が起こる、
「いいか、スキーでは約束を守らないと怪我をする!例えば!、俺を見ろ!」
 いきなり滑り出すケンリュウガー、そのまま直滑降で滑り降りる。
 ケンリュウガーのパートナーで、機晶姫のリュウライザーがケンリュウガーの滑りを解説する。
「スキーでは転び方、止まり方が大切です。それができないと・・・・」
 スピードが乗ったケンリュウガー、そのまま、先ほどコウがロープを張った大岩にジャンプする。
 派手にぶつかり、板が割れケンリュウガーが見事な宙返りを見せ、大岩の背後に落ちる。ドスーンと大きな音。
「彼はヒーローですから無事ですが、普通なら大怪我です。みなさん、真似をしないように・・・」
 見ていたレッテがそっとミルディアの腕を引っ張る。
「やつ、怪我してる、と思う。真奈さんのところに連れてってやろうよ・・」
「大丈夫だと思うけど、彼はヒーローだし」
 ミルディアは苦笑している。
 皆が心配していると、宙を飛んだ後に瞬姿を消していた牙竜が、ポンと大岩に飛び現れた。
「わかったか!みんな俺の真似をしちゃ駄目だぜ!」
 ポーズを決めるが、どこか痛々しい。
「私達はスキー場のパトロールをしています。困ったことがあったら、いつでもケンリュウガーを呼んでください!すぐに駆けつけます」
 リュウライザーの大きな声を聞き、ケンリュウガーが再度ポーズを決める。
 子ども達から歓声と拍手が起こった。
 リュウライザーの顔は笑顔だが内心は焦っている。怪我をしているだろうケンリュウガーの元に駆け寄る。
「大丈夫ですか」
 腕を擦りながら頷くケンリュウガー。
「民宿連れてってやろうか、バンソコウあるぞ!」
 リュウライザーの背後からレッテが顔を出した。

 スキー教室が再び始まった。
 夢見は歩くこともおぼつかない子ども達に、スキー板を外して転び方を教えている。
「雪の上に倒れるのは痛いけど、すごい勢いで人や壁にぶつかって大怪我しちゃったらもっと痛いんだよ。だから、これはとっても大事な事なんだよ。」
 先ほどのケンリュウガーを見てるので、子ども達も真剣に取り組んでいる。
「よぃっしょ」
 運動が苦手なルイや鈴子は、転び方で四苦八苦している。お尻を落とすのが怖いらしい。
「大丈夫、最初はゆっくりでいいのよ」

 コウのグループは上達が早く、転び方や止まり方をすぐに覚えて、板をつけて滑る練習を始めていた。しかし、ここには、ジュリエットの講義を逃れてきた男子一団がいる。
「ソコォーーーーーー、話を聞けーーーーーーー!」
 コウは怒鳴ってばかりいる。
「うっせーーー!俺は1人で滑るっ!」
 血の気の多いアキラが、ケンリュウガーさながらの直滑降で、民宿に向かって滑り降りる。
「ウォーーーーーーーー!」
 加速するアキラ、なまじ運動能力があるために転ぶことも出来ず、スピードを加速させ大岩に突進している。
「ウワァーーーーーーーー!」
 アキラの叫びが悲鳴に変わっている。
 ミルディアがスキーで、アキラを追いかける。
「転んでっ!アキラっ!」
 大岩に激突する手前で、アキラは派手に転倒した。
 追いかけてきたミルディア、転がったまま大の字になって動かないアキラを見て、クスッと笑う。
「偉かったね、ちゃんと転べたね!」
「うっせっー」
 アキラのスキー板を外すミルディア、彼の足には擦り傷がある。
「さあ、背中に乗って!」
 アキラの腕を取る。
「真奈に直してもらおう!子供は遊んで怪我して、それで強くなるもんだ! だけどルールは守らなくちゃ!」
 よいしょ、とアキラを背中に背負うと真奈の元に向かう。
 アキラはおとなしくミルディアの背中に顔を埋める。
 民宿で待機していた真奈は、アキラの怪我を見て、
「ヒールで直すことも出来るけど、このぐらいなら絆創膏で十分ですよ」
 アキラはヒールの威力を知っているので、イタイイタイと大げさに騒いでいるが取り合わない。
「自分で治すことも大切ですよ。これでよし、と。 スキーに傷は付き物! 怪我したらまた来るんだゾ?って、本当に来そうですね?」
 絆創膏の威力か、アキラの目は既にスキー場で遊ぶ仲間に向かっている。

「パシャ!」
 その様子をカメラに収めたのは、鬼崎 朔(きざき・さく)だ。今回、カメラ班を編成した朔たちは、スキーツアーの様子をカメラに収めている。
 勿論、これまでのスキー教室の様子も撮影済みだ。



 少し滑って、モイはスキーに飽きてしまった。運動が苦手なのだ。
 民宿に戻ろうとすると、陰から手招きをされる。
「運動が苦手なんだね、私と一緒だ」
 話しかけてきたのは五月葉 終夏(さつきば・おりが)、モイを呼び寄せて呟く。
「ねー、一緒に落とし穴を作って自分で落ちる遊びしない?」
「自分で落ちる?」
「そうだよ」
「誰かを落としたほうが楽しいよ」
 太目のモイは、いつも自分の体型をからかうハルが落ちる姿を想像して、クスッと笑った。
「遊びでも悪戯でも、相手怪我をさせるのはダメだからね。相手にも自分達も怪我をしない遊びと悪戯が、プロって奴だよ。プロのいたずらではまず自分で体験して安全を確かめないと。君もプロのいたずら師になりたいんだろ?」
 よく分からないが終夏の言葉に頷いてしまった。
 スキールートから少し外れた民宿脇で、落とし穴作りが始まる。
 スコップを使って懸命に穴を掘るのは、終夏とモイだ。終夏のパートナーブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)も穴掘りを手伝う。
 子どもの背丈ほどの穴が出来たときには、三人とも汗だくになっていた。
 終夏は、氷術で薄い雪のフタをつくり、穴にかぶせ、その上に雪をふわさとかぶせて落とし穴を完成させる。
「落とし穴に落ちるとこうなるから、よーく見てねー!」
 頷くモイ。
 ブランカが少し離れた場所から、さりげなさを装って歩いてくる。
「あると分かってる分、自分から落とし穴に落ちるのって結構度胸いるな・・・よーしガキ共!お兄さんの華麗な落ち方、よーく見てろよー!」
 歩くブランカ、華麗に落とし穴に吸い込まれる。
「なんだか楽しそうだぞぉーーーーーーーー!俺にもヤラセロ!!!!!!!!」
 スキー道具を投げ捨てて、雪山から落ちてきたのはハルだ。
 モイに向かって走ってくるハル、モイの腕を掴もうとした瞬間、ハルの姿が消える。
 落とし穴に落ちたのだ。
 モイの顔が喜びでゆがんでいる、そっと穴の中を覗き込むと、
「楽しいっ!」
 中ではハルが笑っていた。
「俺たちにもヤラセロ!!!!」
 男子が走ってくる。
「怪我をしないように遊ぶんだぞ」
 終夏は叫びながら、子ども達を見守りながら、自らも穴に落ちたり、ブランカを引きずり込んだりして、遊んでいる。
 一通り騒いだあとは、子ども達みんなで穴を埋めた。



 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、嫌がる王大鋸を無理やりコタツから引っ張り出した。大鋸の頭に購入したばかりのカラフルな帽子を無理やりかぶせる美羽。
「よせっ!」
 剥ぎ取る大鋸。自慢のモヒカンが曲がっている。
「雪山でその頭は寒いよっ!セレンちゃんと買ったんだよ、セレンちゃんと!」
 美羽は再び帽子を大鋸にかぶせた。

 パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、白い息を吐きながら外で遊ぶ子ども達を見ている。子ども達のスキーは少しずつだが、目に見えて上達している。そのなかで輪から外れている子がいる。
 ルイだ。足に大怪我をしたルイは怪我した足を庇ってしまう癖があり、スキー板を使いこなせないでいる。
「大丈夫でしょうか」
 ベアトリーチェがルイを見つめる。
 その視線に気が付いたのか、ミルディアがルイの手を引いて、民宿に戻ってきた。
「そろそろ子ども達のトイレタイムだよ。まずはルイからね」
 ミルディアがベアトリーチェに合図する。
「わかりました。さあ、ルイちゃん…」
 ルイは俯いて、動かない。
「まだ、頑張りたい…みんなと同じになりたい…」
「大丈夫、ルイ、少しずつだよ」
 ミルディアはポンとルイの肩を叩くと手を振ってスキー場に戻ってくる。
「ホットココアを作りませんか」
 ベアトリーチェがルイの背中を押した。
「砂糖とミルクたっぷりのホットココア、出来上がったら皆に差し入れに持って行きましょう」
 コクンと頷くルイ。
 二人、暖かな民宿の中に戻ってゆく。

 そのころ美羽と大鋸は、山頂近くまで登ってきている。
「さあ、行きますよ!」
 美羽は、しぶきを派手に巻き上げながらドリフト気味のパラレルターンをして、プロ級の滑りで斜面を降りてゆく。途中、雪しぶきを上げて止まる美羽、まだ山頂にいる大鋸に大声で問う。
「ダーくん、降りておいでよぉー」
 大鋸は大きく右手を振っている。
「よく考えろ、ヤンキーがスキーするかどうか」
 大鋸は寒さに耐えながらブツブツ呟いている。
 山頂に取り残された大鋸は、なぜかそこに、イーオンのパートナー、フェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が立っていることに気がついた。
「何してるんだぃ」
 ドラゴニュートのフェリークスは人型で人間のように見える。寒さ対策なのか、かなりの厚着をしている。
「子ども達が危険にならぬよう、高所から見ているのだ」
「といっても、ここじゃ高すぎるだろ」
「いや、スキーではこの高さは普通と聞いた。斜面を滑り降りるスポーツなのだ」
 ぶっきらぼうなフェリークスとの会話で、大鋸はひらめいた!
「よし!」
 愛用の血煙爪(チェーンソー)を機械音が響く。


 孤児院男子は、勝手気ままに暴れている。
「お手伝いします!」
 民宿からスキー板を手に駆けて来るのは、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だ。子ども達と初対面の歩は、息を切らせながら挨拶をする。
「あ、あたし今回お留守番の管理人さんの代わりに皆とスキーをする七瀬 歩っていうの。歩お姉さんって呼んでねー」
「歩さん〜!待ってくださいっ!」
 歩の追っかけ、百合園の幻時 想(げんじ・そう)も後から走ってくる。
「管理人の友達だってよ」
 それまで暴れていた男子が、歩たちの寄ってきた。
「ええっと、みんなどこまで教わっているの?」
「転ぶところ!」
 やんちゃを代表してハルが叫ぶ。
「そうそう、スキーは曲がれなくて止まれないのが一番怖いから、転ぶのは大切なんだ!」
 みんな、うんうん、頷いている。
「じゃ滑ってみようか?」
 歩は、集まってきた数人の男子を一列に並ばせた。
「真似してね!」
 歩は斜面をゆっくりと斜めに滑る。
 少し滑って、戻ってくる歩。
「斜めに滑るとスピードが出ないし、止まるのも楽だよ」
 歩は後を追いかけてきた想に、到達点に立ってもらう。
「いい、ここから、あのお姉さんのところまで滑るんだよ」
 ところが、想はぎくしゃくした動きで、なかなか歩の指示した到達点まで届かない。
「がんばれっ!」
 子ども達から声援が飛んでいる。
「しかたないなぁ」
 歩は滑っていって、想の腰を支えて到達点まで連れてゆく。
「あたしがここに立っているから、想ちゃんも一緒に練習ね」
「はいっ」
 想は真っ赤になっている。
 やんちゃな男子はなんでも直ぐに習得する。
「わ、飲み込み早いねー。よーし、それじゃ歩お姉さんがもっと凄いテクニック教えてあげるね!」
「えっと、上まではどうやって登るんだろ?」


 歩と一緒にやってきた早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)は、孤児たちとは顔見知りだ。以前一緒に歌を歌った女の子たちが歩みに駆け寄っていく。
 小柄なチエや鈴子があゆみの周りにまとわりつく。
「スキー、少し疲れたっ」
 初めてから、それほど時間が経っていない。
 あゆみは二人に近寄って、しゃがみこむとスキー板を外した。
「もっとなだらかな斜面で練習しましょう、少しづつ練習すれば必ず滑れるようになるわ」
 あゆみは手に取った雪の塊をチエと鈴子の頬に押し付ける。
「つめたいッ」
「大丈夫、まだ元気あるわ、さっ、練習しましょう」
 二人の手を繋がせると、ポンと口の中にアメを放り込む。
「元気がでるおまじない、全部溶けたらまた頑張りましょう」
 あゆみはにっこりと笑った。


 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)も先生としてレッスンをしている。甘えん坊のヴァセクがメイベルを独り占めしようと躍起になっている。
 他の子がくると、わざと転んだり尻餅をついたり。
「大丈夫ですぅ、ヴァセク、今日はマンツーマンでレッスンしましょう」
 メイベルの言葉に照れるヴァセク。
 緩やかな斜面を選んで、メイベルはヴァセクの腰を掴んで滑り方を教えてゆく。
 時々、転んで二人とも雪を被っているが、気にならないようだ。


「かわいい子供がいっぱい〜!」
 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)はニコニコしている。
 目の前をよたよた歩くエナロに、
「駄目だよ、もっと腰を落として、ハの字にして〜、ゆっくりすべってみようね〜」
 アドバイスする。
 その言葉を懸命に聞いているのはふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)だ。ふぇいとはスキーは初心者だ。
「え、えーと」
 指示のようにスキー板をハの字にしているが、ハではなくソになってしまう。
「あっ、あっ、あっ」
 突然滑りだして驚きのあまり声も出ないふぇいと。
 その様子をエナロが見ている。
「きゃー」
 加速する間もなく、ふぇいとが転んだ。
「や〜ん、わかんないよぉ、足、いたい」
 ふぇいとは、雪に埋もれて可愛い顔にも雪がついている。
「ね、お姉ちゃん」
 エナロがどりーむに話しかけた。
「なあに?」
「ボクに教えるより、あの子に教えたほうがいいと思う、心配だよ」
 エナロが指差す先には、雪に埋もれて半べそを書いているふぇいとがいる。
「しょうがないなぁ」
 どりーむがふぇいとの元に向かう。
「足、いたいです」
「困った子、大人の時間がつまんないじゃない」
 どりーむはふぇいとの唇についた雪をぬぐう。
 ふぇいとの頬がほんのり紅く染まっている。


 弥十郎は、子ども達と一緒にスキーのレッスンをしたおかげで少し滑れるようになっている。
 ヴァセクやエナロなど大人しい男の子と一緒にスキーを楽しんでいる。いつの間にか、パートナーの響は姿を消していた。
 夢見が三人を見ている。
「頑張って!すぐ上手になるよ」
 励まされているのは、弥十郎だ。
「こういうお兄ちゃんもいるから、最初出来なくても大丈夫なのにね。ははは…」
 ボーゲンで曲がりそこなった弥十郎は、照れ笑いをしている。
 ヴァセクやエナロは、ボーゲンでなら数メートルをジグザグに降りてこれるようになっていた。弥十郎も昔の勘を取り戻してきて、だんだん難しい技もこなせるようになっている。
「やったね!できるじゃない、よーしよし。じゃあ、みんなで上まで上がってみようか?」