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「思い出スキー」

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「思い出スキー」

リアクション

 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)はスキーに行かなかった子ども達と雪合戦をしようと提案した。
「ルールは簡単なの♪」
 ヴェルチェは、クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)クレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)と共に、大人の腰くらいの高さまで雪を積み、ボウルを立てて的を作っておいた。その周囲は、ロープで1mほどの距離で囲まれている。
「この的を雪玉で倒したチームが勝ちなの、スキルは禁止よ」

 厨房が一段落した弁天屋 菊(べんてんや・きく)ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)、それに晃月 蒼(あきつき・あお)も試合に加わる。

 午前中は子ども達とのスキーを楽しんだ霧島 春美(きりしま・はるみ)は、パートナーの獣人ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)のたっての希望で、雪合戦に参加したが、ルールを聞いてちょっと不安になっている。
 獣化した姿のディオネアは、子ども達に大人気だ。
 耳を引っ張られたり、背中に飛び乗られたりしている。
 ディオネアは、不安そうな春美の側に来て、
「楽しそうですね、ボクと同じチームにして、うーんと頑張るから」

 ここに、レッテ、ヴァセク、テアン、チエの孤児院の4人が加わる。
 参加者は頭に紙風船をつける。この風船がつぶれたら、退場。
「子どもだけ特別ルールにしましょう♪ 紙風船が割れてももう一度付け直せば、復帰できる特別ルール」
 子ども達から拍手が起こる。

「チーム分けはオレがする」
 レッテはいつも一緒にいるパートナー同士の真ん中に手を入れて二つに分けてゆく。
「どうだ!」
 レッテは、ヴェルチェ、菊、春美、蒼のチームと、クリスティ、クレオパトラ、ガガ、ディオネアのチームだ。
「どんな分け方するんですか」
 蒼は関心するやらあきれるやら。
「で、オレたちも一チーム。3チームの戦いでやろうぜ」
「ちょっと待って、審判がいるでしょ♪」
 ヴェルチェがレッテの服を抑える。
「それに子どもチームは復活可能なんだから、負けるわけ無いじゃないの」
 レッテの目が光った。
「そう、それを狙ったのだ!」
.ピー!
 子どもの誰かが口笛を吹いた。戦闘開始だ!
「レッテは浅はかじゃのう」
 クレオパトラが呟く。
「本当ですわ、このルールだと子どもに紙風船を付ける審判がいませんもの、せっかくの子どもルールも台無しです」
 クリスティも困惑している。
 実際に、大人ヴェルチェチームの圧勝で終わった。
 その後、ゲームはヴェルチェとクリスティ審判で行なわれた。
 大人と子どもを半々に分けた試合は、真剣になっている。
 クレオパトラは、頭の紙風船を両手で守り、いったん後方に下がったと見せて、的に向かって全力で走る。ロープ際まで走り雪を丸めて的に投げつける。
 敵方のガガは、クレオパトラの後方に近寄り、彼女が雪玉を作る瞬間を狙って頭の紙風船に雪玉をぶつける。

 春美や蒼は、テアンやチエと雪合戦を楽しんでいる。同じルールで同じ試合を戦っているのだが、こちらはほのぼのムードだ。結局は子ども以外、大人全員の紙風船が割れてしまった。
「引き分けかしら♪」
 みんな肩で息をしている。
 鬼崎 朔(きざき・さく)が、その様子をカメラに収めている。

 イルミンの本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、パートナーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)と共に、民宿の厨房を借りて夕食の準備をしている。
 メインの料理は鍋だ。
「外のイメージをそのままに、雪見鍋にしようか」
 涼介は、民宿に来る前からクレアとメニューの相談をしてきた。
 まず、鍋のベースはカツオ昆布出汁の醤油味。
 じっくりとだしをとっている間に、涼介は、クレアに野菜や肉の切り方を教えている。
 人数が多いので、鍋の数も多いし野菜も肉も大量に必要だ。
 クレアは教わったとおりに、にんじん、椎茸、白菜、水菜、葱、シメジ、えのき、豆腐を切り、鶏肉を切っている。
 その間に、涼介はひたすら大根を下ろす。
 雪見鍋は大量の大根おろしを雪に見立てて食べる鍋だ。大根の量が少なくては見栄えが悪い。ひたすら、もくもくと大根を下ろす涼介。
 野菜を切り終わったクレアは、鰯のつみれをつくっている。
「クレア、味見して」
 涼介は、鍋の醤油味を調節している。
 すーっと、一口飲むクレア。
「やったね、お兄ちゃん」
 抜群の味だ。
 だし汁と具材が切り終わえ事前の準備が終わったころ、大きな魚を抱えた風天たちが戻ってきた。菊も一緒だ。
 菊と涼介は、大魚を目の前に頭を悩ませている。
「小さな魚は、天ぷらにするとして、この大きな魚は…刺身?」
「天ぷら?」
 二人の頭には、様々な料理が浮かんでいようだ。
「トントン」
 外から窓を叩く音がする。
 菊が外を覗いてみると姫宮 和希(ひめみや・かずき)が立っている。
「入れてくれ」
 勝手口を開けると、和希はあたりを窺いながら入ってくる。

 菊は、涼介らに目配せすると、和希を空き部屋に連れて行った。
 パラ実生徒会賞金首になった和希には追っ手が多い。室内に入って、なお、周囲を窺っている。
「これで子供たちに暖かい服か美味い飯でも買ってやってくれ。仲間と来たんだが途中ではぐれちまった」
「休んでおいきよ、ここに食事も持ってくる」
 コタツを暖める菊。浴衣を出してその上に置く。
「ありがとよ、だけど子ども達の様子も見た。みんな元気そうで安心したぜ、少し休んだら消えるよ」
 和希は、コタツの中に足を入れる。
 そっと障子を閉める菊。


5・夜


 空の色が変わってきている。みなが宿に戻ってくる。
 パートナーのブルーズ・アッシュワースが寝付いたまま起きてこない、黒崎 天音(くろさき・あまね)は、ずっと部屋の中っから遊ぶ子ども達を見ていた。
 戻ってきた子ども達の顔色をさりげなく見やる天音。
「おや、顔が赤いね……痛くないかい?」
 一日中遊んで、炎症で雪焼けで炎症を起こし顔が赤くなっている子どもがいれば冷たいタオルで冷やす。
「風呂のあとにクリームやローションをぬるといい」
 手や足、顔に小さな擦り傷を負ってる子どもも多い。
「消毒しておくよ、少ししみるけど我慢して」
 一人一人の怪我に、魔法を使わずに対応している。


 食事の前に子ども達は風呂に連れて行かれた。


 レイ・コンラッド(れい・こんらっど)は、多めにタオル類を用意してきた。既に男湯の前で待機している。
 子ども達は、どやどやっと一団でやって来た。
 それぞれにかごを渡すレイ。
「じぶんのかごに服を脱ぐのですよ」。
 教導団鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)は、既に男湯に入り子ども達が来るのをまっている。獣人の弧狼丸は女性だか、男女別という意識がないのでそのまま男湯に入っている。レイも女性との入浴に抵抗はないらしい。
 レイにタオルを渡されて、子ども達は次々とお風呂に入ってくる。
「でけぇー!」
「外にも風呂があるッ!」
 子ども達は大はしゃぎだ。
「身体を洗ってから入るんだぞ」
 真一郎は、そのまま湯船にダイブしようとする子を抱えては、蛇口まで連れてゆく。
「タオルは、風呂には入れるなよ」
 真一郎は子どもと接する機会がないので、叱り方が分からない。つい、過剰に世話を焼いてしまう。
「ほら、石鹸が残ってる」
 お湯をかける真一郎。
「自分でやんなよ、そのぐらいできるだろ」
 弧狼丸は指示するが手は出さない。することもないので、のんびり湯に使っている。
「世話焼きすぎか?」
「ああ、弧狼丸も孤児同然に育ったからな」
 そのとき、レイが、小さな男子と手を繋いで入ってくる。
「走ってはいけませんよ」
 はやり、湯船に飛び込もうとする男子を抑えている。
「鷹村様、私は世話好きですから」
 レイは二人の会話が聞こえていたようだ。
「誰かに世話をしてもらえるのは、子どもの頃だけです。甘えることは子どもの特権ですよ」
 レイは、子ども達の頭を洗っている。
 丁寧なやさしい洗い方だ。

 湯船につかっていたハルが、じっと真一郎を見ている。
「その傷はなんだ?」
 右胸から肩を通って背中まである大きな傷に目を走らせるハル。
「これはお兄さんの誇りなんだよ」
 真一郎は、自分の傷を見る。
「まだ分からないかな…、大きくなったら分かるよ」
「ハルは、頭は自分で洗うのか」
 真一郎がハルに問う。
「当然だろ」
「そうか、今日は俺が洗ってやる」
「じゃ、あたしも」
 弧狼丸が俯きがちに呟く。
「勿論だ」
「…98、99、100」
 湯船の中では、レイと子ども達の数を数える声がしている。
「良く、温まりました」
レイの言葉で子ども達は、はしゃぎだす。
 泳ぐ子どももいるが、誰も叱りはしない。今日は大目に見よう、そんな空気があった。


 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)晃月 蒼(あきつき・あお)は、女の子とお風呂に入っている。女の子といっても、することは男子と変わらない。
 蒼はかごをもって、子ども達に渡している。
「この中に脱ぐんだよ」
 裸になったとたん、湯船にダイブしようとする子どもを止めるのは、既に中にいるエレンの仕事だ。
 エレンは湯船の中で歌を歌っている。数え歌だ。
「いい、歌が終わるまでは出ちゃだめよ」
 柔らかな歌声が響く。
 蒼は、少し大きな女の子たちと、数を数えている。
「100まで数えられる子、一緒に数えよ!」
 隣の男の子たちの声も聞こえてくる。
「…98、99、100」
 後から数え始めたのに、男子より早く終わってしまったのはご愛嬌。



 橘 舞(たちばな・まい)はレッテの髪を洗っている。百合園の舞は、家からシャンプーや石鹸、ブラシなどを持ってきていた。レッテに渡すためだ。
「髪も肌も丁寧に洗うと、つやがでるのよ」
 舞はレッテの顔も綺麗に洗っている。
「後で、眉を整えていい?」
「眉?」
 いつもの暴言を抑えて、されるがままになっていたレッテが聞き返した。
「そう、孤児院の女の子たちはもっと女の子らしさに気を配れば、すごく素敵になるとおもうの。特にレッテちゃんは」
 舞は、髪を流しながら離し続ける。
「少し眉を整えたり、髪を綺麗にとかすだけでも、印象って変わるのよ」
「オレも変わるか」
「勿論よ」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は、湯船の中で二人の様子を見ている。
「おかしい」
 ブリジットは首をかしげる。
「そうね」
 同じように二人の様子を見ていたエレンも呟く。
「レッテって一緒にケーキを作った仲だし、判ってるつもりだったんだけど、可愛いとか綺麗とか嫌いだと思ってたわ…それなのに、大人しくされるがまま。逃げ出すのを押さえつけるつもりで…」
 ブリジットは、不思議な面持ちでレッテをじっとみている。


 風呂から上がっても、レッテはされるがままだ。
「可愛いッ」
 舞の趣味で、ピンク色の地に可愛らしいリボンとフリルの付いたかぶりタイプのパジャマを着せられても、文句一つ言わない。
「ねえ、レッテ、そのパジャマ悪趣味だと思わない」
 さすがに、ブリジットが割って入った。
「まあ、しかたないか」
「レッテぇーー!大丈夫?熱でもあるの?」
 ブリジットはだんだんレッテが心配になってきた。
 舞は、舞い上がっている。
「レッテちゃん、やっぱり可愛いッ」