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リアクション
第2章
太陽が沈みだし、オレンジ色で辺りが染まり始めた。
ジャタの森から離れると雲はまだなく、澄んだ空が見えた。
薬を取りに来たメンバーはタノベさんの運営する手作りダンジョンに到着した。
「これがサイクロプスの目玉なんですね」
「ええ」
待っていたタノベさんから手渡されたのはドロリとした液体の中でこちらを睨む1つの目玉。
とても大きく、人間の拳2つ分はあるだろう。
(気持ち悪い!)
女性陣の心の声が一致した瞬間だ。
「では代金を――」
「待って下さい。これを何に使うのですか?」
タノベさんはただならぬ様子を不審に感じ、質問をしてきた。
グランが手短に説明すると、タノベさんは大きく息を吐いた。
「分かりました……では、代金は今回は結構です」
「え……? ですが――」
「その代わり、あなたの宿でワタクシの仕入れた商品を使って下さい」
「有難うございます! 助かります!」
グランは頭を下げ、握手をした。
「待って! それ、本当に本物? あのおやじさんは腐っても薬屋、タノベさんの用意したサイクロプスの目玉をすり替えることができるのでは?」
鳳明の言葉に、皆の視線がサイクロプスの目玉に注がれる。
「確かめてみましょう」
タノベさんは瓶の蓋を開けた。
すると、辺りにはなんとも言えない、鼻の曲がりそうな……否、本気で曲がる寸前の臭いが充満した。
クサヤなんて目じゃない感じで、発酵や腐ったものとはまた違う臭いだ。
涙と鼻水と冷や汗と嗚咽が出た。
慌ててタノベさんはフタを閉めた。
臭いが残ってはいたが、外にいたので風が臭いを連れて行ってくれた。
「この強烈な臭いはなかなか作ることはできません。これで本物だと信じてもらえたでしょうか?」
タノベさんは鼻を押さえながら、鳳明へと聞く。
「うん、十分だよ……」
鳳明は涙目で答えた。
「では、空京へ――」
「ちょっと待ったーーーっ!」
グランの鞄の中から飛び出してきたのはボビン・セイ(ぼびん・せい)だ。
「そんなところに居たの!?」
ボビンを探していたカッチン 和子(かっちん・かずこ)はびっくりして目を丸くしている。
「いや、それよりホイップの行方を調べようとしている連中が、薬屋の家探しをする可能性がある。空京の警察が家探しする連中を不審者と勘違いしそうだ。だからタノベさんが、もし空京の警察にコネがあるんなら話しを通してもらえないか?」
「すみません、ワタクシは一商人です。流石に警察には……」
ボビンの申し出にタノベさんは申し訳なさそうに言う。
「大丈夫だよ! 携帯からは来た情報によると、皆、地道に調査をしてるだけみたい」
和子の言葉にボビンは恥ずかしそうに鼻の頭を掻いて、和子の鞄の中へと入ってしまった。
無事に材料を受け取った一行は空京の宿屋へと向かって行ったのだった。
■□■□■□■□■
空京の宿屋、ホイップの部屋に到着して、調合の為の準備を進めている者たちがいる。
優希は言われた通り、床を探ると隠し扉を発見出来た。
付いて来た晃月 蒼(あきつき・あお)は材料をそれぞれの種類ごとに分けて行く。
「こんなに道具が入っているなんてビックリです」
道具を取り出しながら優希は呟いた。
「わっ! 凄い量だね! そんなに必要なの?」
蒼は次々取り出していく道具を見て、驚きの声を上げた。
「そうみたいです」
「早く皆で一緒に遊びに行けるようになりたいな……」
蒼はうつむいてそう言った。
準備の手が止まっている。
「そうですね……その為にも今出来る事を為しましょう!」
「うん!」
元気に返事をすると、自分がしていた準備に戻ったのだった。
■□■□■□■□■
ホイップとじゃわの居る洋館の中。
(どこに移動する気なんです?)
ホイップの頭上で隠れているじゃわは首を傾げていた。
隠れてからすぐに、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が部屋に入って来て、台車を使って石化したホイップを運び出しているのだ。
1つ1つ、部屋を確認していくマッシュ。
ある部屋でその動きは止まった。
「うん、ここなら最適だね」
そう言うと、部屋の中へと入っていく。
窓からは西日が差しこみ、眩しい。
窓側へとホイップを置く。
マッシュは手をホイップの右頬から首筋、肩を撫でまわし、ウエストへと滑らせた。
(やめる……です)
更に、色々な所を撫でまわしていたと思ったら、今度は顔の前へと手を持って行き、その身を蝕む妄執でティセラに殺される幻を見せ始めた。
マッシュの顔は恍惚としてくる。
「やめるですーーーーっ!」
「おわっ!」
とうとう、我慢できなくなったじゃわが隠れ身のまま、マッシュへと飛び付いた。
「放さないと……コイツを壊すよ?」
びっくりしていたマッシュだが、相手がさっきまで氷漬けにしていたじゃわだと分かると冷静にそう言った。
「それもダメなのです! でも、ホイップ殿を傷つけるのも許せないのですーーっ!」
必死に抱きつき、マッシュを止めようとするじゃわ。
その手はいつの間にか、自分が傷つけた脇腹を触る。
「アハハ……面白い事してくれるね」
マッシュはじゃわを掴むとぶん投げた。
じゃわは部屋の壁や床を跳ねまわり、マッシュの顔面へと直撃した。
「まったく……何を遊んでいるんだ」
部屋へと入ってきたシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)はマッシュへと飛びつこうとしているじゃわを氷漬けにしてしまった。
じゃわは床へと転がった。
アイスプロテクトをじゃわは使用していたのだが、前回なかなか氷漬けにならなかったので瞬時に3回ほど氷術を使って凍らせたのだ。
「トライブにここの場所を伝えた。あとは……」
そう言うと、シャノンは使い魔の黒猫を放った。
その体には真っ黒な何か機械が取り付けられている。
「それと、トライブからの情報によるとどうやらそう掛からない内に到着するみたいだ」
そう伝えると、マッシュは部屋の中で隠れ身を使用し、姿を隠したのだった。
シャノンも屋根裏部屋と移動していった。
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