天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音

リアクション公開中!

【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音
【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音 【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音

リアクション


第9章 友に意思を伝える獄中演技

「暇だな・・・簀巻き状態にされてつらいけど、それ以上に眠い・・・」
 牢獄の中でゴロゴロと転がり、侘助は眠りそうになる。
「すやすや・・・・・・」
 瞼がだんだん重たくなり、寝息をたて始める。
「・・・はっ、いかんいかん、火藍が助けに来るかもしれんのに、俺がこんなんじゃ駄目だ!」
 目を覚まし、首をぶんぶんと左右に振った。
「今、どの辺にいるんだろうな・・・。地下には・・・いるよな?」
 自分を助けるために、どこまで進んでいるのか考えてみる。
「やっぱ眠い・・・・・・、いやいや、眠るな俺!」
 騒ぎながら侘助は眠気を飛ばそうと奮闘する。



「目の前で傷つく人たちがいるのに何も出来ないなんて・・・」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)は牢屋に捕まっている重症の生徒たちの方を見る。
「あの人なんて、もう脱出しないとやばい状態・・・」
 喋る力すらなくなっていそうなアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がいる牢を見て、どうにかして助けてあげたいと思った。
「思っていた以上にきついな」
 気力のないため息をつく。
「しかしここで暴れて怪我を負うようなことがあれば、結局足を引っ張ることになりかねない」
 自分だけじゃなく、他の生徒がもしかしたら怪我を負ってしまうかもと考える。
「この怒り、いずれくる時まで貯めさせてもらうぞ・・・」
 心の奥底にヴィゼントは怒りを溜め込んだ。



「いつでも逃げられる状態だけど。救出に来る生徒たちを待っておくか」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)のロープと鎖はアシッドミストで溶けたままだ。
 彼女の牢の鍵は解除されたままで、いつでも逃げられる状態だ。
 他の牢では天 黒龍(てぃえん・へいろん)が力なく、ぐったりとしている。
「(・・・・・・黒龍、これ・・・以上・・・・・・、ここに・・・いる、のは・・・危険・・・・・・だ)」
 紫煙 葛葉(しえん・くずは)はパートナーの黒龍の容態を心配し、なんとか脱出が出来ないか考え込む。
「天さん・・・これ以上、捕縛されていると入院だけじゃすまないかも・・・」
 斜め右側の位置にいる彼を見て遠野 歌菜(とおの・かな)は、すぐ近くにいるのに助けることが出来ない自分に、苛立ちと悔しさを覚えた。
「くぅっ、両手が使えないわ」
 ヒールで傷を塞ごうとするが、簀巻きにされているせいで出来なかった。
「寒い・・・」
 歌菜は高熱と悪寒に苦しむ。
「なんとか脱出しないと・・・」
 ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)は同じ牢の中で簀巻きになっている歌菜の方を見る。
「深手を負った生徒たちは皆、同じような症状か。くそ・・・意識が・・・・・・」
 彼自身も高熱と悪寒に苦しんでいる。
「どうにかしないと・・・・・・まずい状況だね・・・」
 リヒャルト・ラムゼー(りひゃると・らむぜー)も2人と同じ病を発症してしまっていた。



「ねえ看守さんお話しない?俺とあんたの仲だろう、いいじゃないか」
 牢獄の入り口を見張っている兵に東條 カガチ(とうじょう・かがち)が声をかける。
 威圧や鬼眼を使ってこの建物の構造について、施設の種類や場所のことを聞こうとしたが、まったく話す気配がない。
「(効きがないみたいだねぇ)」
 無視されたカガチはしょんぼりとする。
「あっ、ねぇねぇ牢屋の天井にレンズがついてるけど。これ、何?」
 床に転がって天井を見上げる。
「そいつで牢獄にいる深手を負った者の魔力を奪うのさ」
 看守はようやく言葉を返した。
 話せるチャンスだと思い、カガチは話しを続ける。
「どういう仕組みなんだい?どこに魔力が流れているのかな」
「知ってどうする?」
「いやー・・・ちょっと気になってね。ちょっと興味があってね、教えてほしいな」
「今は言わない」
「(今はってことは、そのうち教えてくれるってことかねぇ)」
 いつか兵が教えてくれるのかと、少しだけ希望を持った、
「あのさ天井のそれ。レンズだっけ、邪魔だからとっぱらってくれない?」
「無理だな。十天君のお2人の命令だからな」
「―・・・そういえばあんたら姚天君のことどう思ってんのー」
 取り外しをしないと返答されたカガチは質問を変える。
「とても美しい方だが・・・生き物の命を材料としか考えていない残忍な方だ」
「(好意的なのかどっちか、いまいち分からないな)」
 顔を顰めて好意的なのかどうか考え込む。
「ところで飯美味いんだけど、これ作ってるの誰?」
 巻き寿司の乗っている皿に視線を移して言う。
「最近、1階の食堂で働いているヤツが作ったらしい」
 この看守が料理を作っている人がどんな人か、直接知っているわけじゃないようだ。



「俺はもう・・・生きられそうにない。そろそろナラカへ逝ってしまいそうだ」
 死んだフリをしようと、椎名 真(しいな・まこと)は氷術で自らの体温を下げる。
「紙を・・・紙をくれないか?」
「何でそんなもんが必要なんだ」
「せめて遺書を書こうと思って・・・」
 黙ったまま見下ろす兵を見上げ、やっぱり無理かと俯く。
「3分以内で書け」
「あぁ・・・分かった。(書く時間、短くないか?)」
 カップラーメンがちょうど出来上げる程度の時間しかもらえなかった。
「(書きづらいな)」
 拘束を解いてもらえず、真は鉛筆を口でくわえて紙に書く。
 紙に内容はこうだ。
 牢屋の天井に魔力を吸収するレンズがつけれた。
 どこかに蓄えている魔力を、逆流して水竜に流せないか。
 他に牢屋に捕縛されていた生徒から聞いた、奪った魔力で作ろうとしているウィルスのこと。
 それらのことについて紙に書いた。
「書き間違えた・・・」
 口で丸めた紙をカガチの方へ投げた。
「さっきのゴミ、捨てといてくれないか・・・“カガチさん”」
「これかな?」
 カガチは紙をくわえて残った巻き寿司に押し入れる。
「あぐっ・・・げほっ、ぐげぇっ。うごはぁああーっ!!―・・・・・・・・・」
 吐きそうだというフリをし、食事中に毒からのアレルギーショックを装い、死んだフリをする。
「―・・・・・・椎名くん?・・・ねぇ椎名くん。どうしたんだ・・・?ちょっと・・・悪い冗談はやめてよ。なぁ・・・起きてくれよ・・・起きてくれよぉおお!!」
 動かない友達を見てカガチが泣き叫ぶ。
「うるさいぞ貴様!」
「椎名くんが・・・椎名くんが死んだ!」
 兵は牢を開けて脈があるかどうか確かめる。
「生きてるじゃねぇか」
 真の生死を確認すると、兵は牢の扉を閉められた。
「ねっ、ねぇ。この料理で中毒症状が起こったんじゃないかな?」
「あとで他の兵に、そのまま食堂に下げさせてやる」
 考えついた行動が1つは成功したのかと、カガチはほっと息をついた。
「何を書いたのかな。この位置だと話しも出来ないけど」
 手前の牢に閉じ込められているラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)は、食事に詰めた紙がなんだろうと気になり、カガチたちの牢の方を見るが彼らはラズの視線に気づかなかった。



「脱走者がまだこの辺りをうろついてるかもしれない・・・。見回りに行って来る・・・」
 看守にそう伝えるとグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は無線機を渡す。
「なぁ誰か着いて来てくれねぇか?俺たち、新入りだからよく侵入者と間違えられて困るんだよ」
 怪しまれないように李 ナタ(り・なた)は、他のゴースト兵に見回りの同行を頼む。
「この施設の設備とかってどこで管理しているんだ?」
 設備の位置を知ろうとグレンが兵に聞いてみる。
「新人にそんなことを教えるはずがないだろう」
 まだ信用されていなのかと、心の中で呟く。
 押し黙るグレンの方に兵が顔を向ける。
「3階の資材置き場なら、まだ使う予定の何かあるかもな」
「それはそこへ見回りに行くとしよう」
 帽子を深く被り、3階へ行くことにした。
「どうするんですか?」
 階を移動する彼の傍を歩きながら、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が首を傾げて聞く。
「障害になりそうな装置や設備を破壊出来ないかと思ってな」
 兵に気づかれないように、小さな声音で言う。
「―・・・本当にそれだけですか?」
「勘が鋭いな・・・ソニア」
 聞き返すソニアに、グレンは苦笑いをする。
「あいつら・・・どこにいった?」
 移動中にグレンたちを見失った兵は、彼らを探して3階を歩き回る。
「うぐぁっ!?」
 背後からレールガンの銃身でソニアに殴られ、兵はただの死体に戻ってしまった。
「さて行動開始といこうか」
 油とガソリンを混ぜた手製の小型爆弾を資材置き場に投げ込み、雷術で破壊し爆発させた。
 兵の連絡をもらった女がグレンの前に現れる。
「・・・お前・・・只の雑魚じゃないな・・・誰だ・・・」
「あたしか?あたしは十天君の1人。董天君だ!」
 寒氷陣を発動させ、彼らを陣の中へ閉じ込める。
「え・・・雪?それにここは・・・?」
「寒っ!?・・・そういや確か十天君って、1人1人違った固有の空間を使うんだったな・・・」
「・・・この吹雪はお前の仕業か・・・。なら・・・お前を倒せばいいわけだな」
「そうだが・・・てめぇらみたいなガキに、それが出来るかぁ〜?」
 董天君は見下すような目つきでグレンを睨む。
「・・・加減はなしだ・・・覚悟しろ」
 相手から見えなくしようとグレンは光学迷彩を試作型星槍にほどこす。
「このまま長期戦は不利だ・・・仕留めるぞ・・・!」
 ナタクが放った煙幕ファンデーションで姿を隠す。
「これで・・・終わりです!」
 機晶姫用レールガンの銃口から爆炎波を放ち、SPルージュでSPを補給し、シャープシューターでターゲットを狙い撃つ。
「・・・ヒロイックアサルト・・・発動!」
 ナタクを踏み台にして董天君の頭上に跳ぶ。
「伸びろ!火尖槍!!」
 ヒロイックアサルトにより、ナタクの試作型星槍が闘気の炎を纏っているように見える。
 跡形もなく姿が消え、猛吹雪も消え去った。
「やったのか?」
「甘いな、小僧!」
「うぁああ!?」
 突然、何者かに槍で背を殴られたナタクが雪の上に倒れてしまう。
「いい作戦だったが。残念だったな」
「氷術で薄い氷壁と作ったんだな。それを鏡のように使って、自分の姿を映したのか」
 割れた氷の破片を見つけたグレンは、迂闊だったと悔しげに睨む。
「シンプルでいいアイデアだろ?この吹雪じゃ、本物かどうか見分けつきにくいしな」
 董天君はナタクの背中を片足で踏みつけながらケラケラとせせら笑う。
「埋もれちまいな!あーっははは!!」
「逃げろっ、ソニア!うぐぁああああっ」
 ソニアを守ろうとグレンが自分の傍から離す。
 陣の中で董天君が作りだした雪山の雪崩に、埋もれてしまった。
「こいつらを牢に連れて行け!」
 術を解いた董天君はゴースト兵に命令し、簀巻きにした彼らを牢へ連れていかせた。