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薔薇と桜と美しい僕たちと

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薔薇と桜と美しい僕たちと
薔薇と桜と美しい僕たちと 薔薇と桜と美しい僕たちと

リアクション

【7】
「うわぁー、シーラさんの用意してくれた衣装、可愛い〜♪」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は瞳を輝かせ、シーラ・カンス(しーら・かんす)の用意した衣装に着替えた。
 真っ白な半袖のカッターシャツに赤と黒の斜めストライプネクタイ。あずき色を基調としたプリーツスカートは短く、ミレイユの白く細いその脚を惜しげもなく晒している。ただ、ミレイユはミニスカートを穿き慣れていないらしく、恥ずかしそうにもじもじそわそわとしていて、
「いい……いいですわ、その初々しさ、純真さ。自分色に染めたくなるような純白の心……!」
「ああ、なんて可愛らしい……!」
 その姿はシーラと望の心にクリティカルヒットした。
 褒められたらしいのだが、ミレイユとしては羞恥心が先に来たらしく頬を膨らませて二人を睨んだ。
「もぅっ。シーラさんも望さんも、変なこと言うのやめてよー!」
 けれど二人にとってはその姿も、
「なんだか、ミレイユさんみたいな小柄メガネっ子がそういう顔をしていると襲い掛かりたくなりますわね……」
「襲い掛かる! 望×ミレイユ! ああ、妖艶着物美女と清純派メガネっ子……!? いけませんわ、いけませんわ……!」
 こう映るらしい。
 ミレイユは小さくため息を吐いて、それから舞台に上がった。ミニスカートは恥ずかしいし、人前で踊ることも慣れてないけれど歌って踊ることは楽しい。
 踊っているところにミュリエル・フィータス(みゅりえる・ふぃーたす)がとことこと歩いてきて、桜の花びらをミレイユに渡した。そして舞台から降りていく。
「?」
 何をしに来たのかよくわからなかったが、桜の花びらが美しかったことから、おそらくこれがプレゼントであったのだろうと知って、
「かぁわいいーなぁ、ミューさんっ……♪」
 ご機嫌になって、歌を歌う声を大きくした。
「ミューさんに届け、ワタシの歌っ♪」


 そうやってミレイユが可愛らしく歌って踊っている最中。
「全力で空気読ませてもらおうか……」
 シーラの用意した衣装を手に、城定 英希(じょうじょう・えいき)は呟いた。
 衣装はミレイユとお揃いの……つまり女の子の服装で、スカートも変わらずミニだし、しかし英希は嫌そうな顔をするでもなく、むしろ不穏な笑みすら浮かべていた。
「ふん……美しさをアピールするならお誂え向きだろ? いいさ、白のカッターシャツ+プリーツスカートなら、コンセプトは……」
 独り言を呟いて、更衣室に入った。
 しばらくして、更衣室から声。
「ねーシーラさん、詰め物ないの? 20歳なら揺れた方がいいよね?」
「あら、揺らすというのね。少し待ってぇ、とてもリアルなブツを用意しますわぁ〜♪」
 耳ざとく聞きつけたシーラのその反応を聞いて、英希は狭い部屋の中でニヤリと笑う。
 そして更衣室から出てきたのは、どこからどう見ても清楚な女学生に他ならなかった。シーラに頼んだ詰め物のおかげでたわわな胸も作っている。
「おお……メガネが完璧に似合っておるのう」
「そのくせ巨乳だと? 英希さんエロ可愛い……!」
 忍とエルが褒め称える。それに対して恥らうように俯いてみせる英希の姿は完璧に女性のもので、
「ちょ、どじょう君……似合いすぎててキモいんだけど。何その本気」
 虚雲はむしろ引いている。
「あら、何事にも本気で尽力する、それが美しさの一つと私は思っていますのよー?」
「しかも何この柔らかな物腰。声まで中性的ってどうやってんだよマジで。無理無理ヤメテ」
「……無理? 否決するなら何かいい案があるんですよね? ね? 鈴倉虚雲様?」
「いや、あー、うー……」
 案など、ない。
 ないからこうして詰め寄られると滅法弱い。
 そこに神からの救いの手が述べられた。
「おまえ……美しさアピールでどうしてコスプレ状態なんだっ……!?」
 ジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)のツッコミだ。
「英希、おまえのその格好! 女装などコスプレよりも性質が悪いっ!」
「コスプレ? じゃあミレイユさんのこの姿もコスプレで卑猥で場違いで空気読め貴様な行動だと?」
 引き合いに同じ格好をしたミレイユを引っ張り出し、彼女の後ろに隠れるようにして英希が言うと
「そこまでは言っておらぬではないか! それにミレイユ殿は別だ、元々可愛い!」
 そう言い返されたので頬をぷくーっと膨らませた。
「ひどいっ。それは差別よっ。ちゃんと完璧なロジックで美しく清楚に変身したというのに……!」
 そしてしなだれ、涙を流すふりをすると、
「なーかせたー」
「泣かせたらダメだろ」
「何だ? 喧嘩か? 両成敗汚物は消毒ヒャッハーの出番か?」
 次々と上がる、声声声。
「…………」
 これには黙り込むしかないし、むしろツッコミの不毛さに泣いてもいいのではないかとジゼルは思う。
 そんなジゼルの肩に、虚雲が手をぽんと置いた。
「ツッコミ苦労人仲間☆」
 そうしてウインク。仲間と言われても正直嬉しくはなかったが、握手を求められた手は握り返しておいた。。
「あらあら虚雲様ー? そんな傷のなめ合いしてないで、美しさアピールらしくなんとかユカイでも踊ったらいかがですかー?」
 にこにこと英希が笑う。虚雲には悪魔の微笑みにしか見えない。
「踊れないし踊らないし。そもそも俺音痴でリズム感ゼロだし……!」
「ミュージックスタートですわ☆」
「えっシーラさんなんでそんなノリノリ……! っていうか曲持ってたのかよ!」
「ジゼル真ん中で」
「なっ!? なぜ私まで! しかも真ん中だと……!?」
「振り付けはエル殿とウィル殿が手本を見せるそうじゃ」
「ちょっ待て狐幼女。なんで俺がそんな踊り踊んなきゃなんねーんだよ! おかしーだろどう考えても! そういうのはエルと虚雲の役目だろ!」
「おいさりげなくボクを貶めるんじゃない!」
「え、待ってエル? 俺と同じポジションは貶められてるって?」
 収集がつかなくなりかけたその時。
「いっそ皆で踊ればいいんだよー!」
 リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)の大きな声が響き渡った。
 顔をほのかに赤らめたリースは、騒ぎの輪の中に飛び込んだ。
「みんなみんな、仲良くしちゃって、いいなぁ羨ましいなぁ! ずっと私も混ぜてほしかったんだよぅ? だからみんなで踊りたいなぁ!」
 その場に居る誰もが、こんな状態のリースは見たことがなかった。
 優しくて温和で、少し引っ込み思案なところもあって、こんな酔っ払ったような――
「まさか、リースさん……酔ってるの?」
 ケイラがぽつりと呟くと、リースは「うふふふぅ」と笑った。
「酔ってなんかないよぉ! 美味しいジュース飲んでただけだもん〜。そしたらなんだか気持ちよくなってきちゃってね〜?」

 あ、酔ってる。

 その場の全員の考えていることが一致した。
「あ、あの。リースさん?」
「リース殿?」
「リース」
「なぁんか、段々楽しくなってきたよ? ふふ〜。あ、そういえば、こういう場で盛り上げる時はとりあえず踊りながら服を一枚ずつ脱いでいけばいいってお姉ちゃんから聞いたことある〜」
 焦りや戸惑いを孕んだ、リースの名前を呼ぶ声も全て無視して彼女は服を脱ぎはじめた。
 まずは一番上に来ていた薄緑のパーカーを脱ごうとした。が、下に着ている白のブラウスに摩擦でひっかかって上手く脱げないでいる。めくれたブラウスから、リースの白い脇腹や小さなへそが見えた。
 誰もが茫然としていて止められずにいたが、
「ふふー、皆見てるー? 私も美しいよね〜?」
 その声で我に返った。
「うわーっ、馬鹿見るなお前ら! 見るなよ!? 絶対見るなよ!?」
 真っ先にエルが止めに入ると、リースは不満そうにエルを見上げる。
「えー兄さん、何で止めるのよ〜」
「これ以上脱いだら犯罪者が出るだろうがっ! レイスはどこだレイスはー!」
 叫んでレイス・アズライト(れいす・あずらいと)を探す。レイスは桜の木の下で御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)からお酌を受けていた。
「やっぱり綺麗な女性とお話ししながらお酒を呑むのはいいね」
「綺麗だなんて、そんな」
 千代は控えめに笑って謙遜する。が、謙遜してもなお美しさはにじみ出る。
 ウエストのくびれや形のいいヒップを強調するように身体にぴったりと張り付いたチャイナドレス。スリットから覗く脚線美。ショートカットの髪型は、彼女自身に似合うのは当然のこと、服装にも合っている。
「これだけ美しい貴方を綺麗と言わずに誰を綺麗と言えばいい?」
「やだ、お上手ですこと」
 淑やかに微笑み、千代がレイスの杯に酒を注いだ。ところに、エルが割り込む。
「うん? どうしたの、エル?」
「うん? じゃねぇよ! おまえかリースを酔わせたの!」
 リースはひとしきり騒いだところで完全に潰れたらしく、パーカーを着こまされた上ですやすやと寝息を立てて眠っていた。エルがレイスに詰め寄ったところで、千代がそんなリースを抱き上げ、ござを敷いた桜の木の下に運んで毛布をかけた。
「いやぁ、あの子が酔ったところを見たことがないからって酔わせたまでは良かったんだけど、その後美女にお酌されちゃってもー断るわけにもいかないしってね。美しさアピールだったら、僕は最初から美しいからする必要もないでしょ? だから……って、あれ? エルくんどうしてそんなに殺気立っているのかな?」
「そ こ に な お れ ー !」


 騒動の輪の外れで。
 桜の木の根元にしゃがみこみ、ミュリエルが何やらごそごそとやっている。
「どうしたんだ?」
 それに気付いたジゼルが声をかけると、ミュリエルの人形のように澄んだ青い瞳がジゼルを捉えた。
「これを埋めようと思っていたのです」
「……手紙?」
「はい」
「木の根元にこういうものを埋めたら、来年綺麗に咲かないかもしれないぞ」
「……それは、またこうして集まることが不可能となってしまう、ということでしょうか?」
「それに繋がるかもな」
「では、諦めます」
「手紙は?」
「埋められないなら、捨ててしまっても構いません」
「何を書いたんだ?」
「お礼です」
「お礼?」
 その時強い風が吹いた。
 桜の花びらとともに、ジゼルが代わりに受け取ったミュリエルの手紙が攫われて飛ばされていく。
「……あれは、もう手元には戻ってこないな」
「結構です。その方がいいかもしれませんし」
「そうなのか?」
「埋めるつもりでしたので、どちらでも」
「ふむ。そうかもな」
 相槌を打って、空を見上げた。
 だいぶ寒くなってきた。
 きっとそろそろお開きになるだろう。
 花見は片付け終わるまでが花見だと誰かが言っていたので、これから暗くなるまでに片付けねばならない。
 まずはあっちで騒いでいる面々を纏めなければならない、と思うと軽く頭痛がしたが――
「楽しかったな」
「はい」
 だから、それでいい。


*...***...*


 飛ばされた手紙が、空を泳ぐ。

「貴方は凄いから 面白かった 今日」

 そっけなくそれだけ書かれた手紙。
 誰かのところへ届いたとしたら、きっと疑問符しか浮かばないけれど。
 紛れもなく楽しかった、今日という一日の記録。


*...***...*

担当マスターより

▼担当マスター

灰島懐音

▼マスターコメント

 お久しぶりです。あるいははじめまして。
 ゲームマスターを務めさせていただきました灰島懐音です。
 参加してくださった皆様に多大なる謝辞を。

 今回はほのぼのとさせていただきました。
 音楽で美しさをアピールしたり、料理だったり、絆だったり、肉体美だったり、自然体だったり。
 アクションにあった様々な美しさを見て、書いたと思います。それが上手く皆様に伝わると良いのですが。

 このリアクションが公開される頃には、もう桜が咲きますね。いや、まだ早いかな……?
 灰島は桜が好きなので、お花見に行ってきたいです。予定は未定なので引きこもり万歳しているかもしれませんけど。
 この春、どうか皆様にも素敵な思い出ができますことを。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。