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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第1回/全3回)

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(6)キャンプ場パニック @ゴビニャー

「キャンプってテンション上がるのですー、自然を存分に感じますしっ」
「歩くんはカレーかい?」
 キャンプ場では桐生 円(きりゅう・まどか)桐生 ひな(きりゅう・ひな)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がカレー作りにチャレンジしていた。可愛らしい女の子3人、さぞや見目麗しいカレーが……。
「あたしはルー作りを頑張ってみますね」
「ひなくんはなにやんのー?」
「テント設営を担当しますねっ、力仕事はお任せくださいですー。2人に配慮して中は少し豪勢にしましょー、布団は1つですけどっ」
 ひなは華奢な外見とはうらはらに、重そうなテントをてきぱきと組み立てていた。その後ろでは料理担当が材料を広げているが、円は何やら納得いかない様子でじっと地面を睨みつけていた。そんな円をひなはころころと笑いながらからかっている。
「電源が無いじゃないか! どうやって炊けばいいんだ!」
「カレーは歩さんに任せて、私はパンとかデザートを用意するですっ。私の料理すると私用の料理しか出来ないので自重するつもりですよー?」
 カレーどころか飯も炊けていなかった。円は米を炊くために『米』『洗剤』『炊飯器』を持ってきている……洗剤は何に使うのかな? 苦笑しながら歩は唯一まともに料理をこなしている。包丁さばきは勿論のこと、調味料に気を配ることも忘れない。百合園生の中にもまともに料理ができる人間がいることが証明された。
「円ちゃんがごはん、ひなさんがナンを買ってきたみたいだから、ちょっと本格的なインドカレーを作った方が合いそうかなぁ」
「ナン、ナン、ナンッ♪」
 ひなは買ってきたナンに、マヨネーズを塗ってから炙り焼きにしている。油分が焼ける、あの、たまらない匂いが3人の鼻をくすぐった。
「ひなさんが好きなマヨネーズは果実酢使ってるのなら、酸味も爽やかで甘みも合いそう。うふふ」
「米はいいや、肉やろう。とりあえず牛肉とレバーとタンを買ってきたよ」

 内臓のことがー! 好きだからー!!!
 うっわ、すっげえ生臭い。

「円ちゃんが好きなレバーは臭み消して、しっかり煮込めばシーフードっぽい食感になりそうかな?」
「臭み……? 抜き方わかんないなとりあえずコショウふっといちゃえ」
「とっとっと。円ちゃん、今回は焼かずに煮込みましょう?」
 歩のフォローで至れり尽くせり! 洗剤で洗われそうになった米を救いつつ、皆ができそうな仕事を回していった。2人が料理が苦手な事を知っていたので、彼女は真面目に作っていたようだ。
「デザート作ったのですー♪」
「ピーマンは入ってないよね!?」
 ひなは隠し味に醤油を垂らした、特性白玉ポンチを作った。あまじょっぱくて、意外と美味い!! 
「キャンプで作るミルクティーはガチなのですよっ」
 ひなは小鍋に茶葉と牛乳を入れるとぐつぐつと煮込んでロイヤルミルクティーを作る。カレーとの相性もなかなかだった。
「苦くない……? ん、これは」
「本当、これは美味しいですね♪」
 そこにポテポテと、ご飯を食べて翡翠たちと別れたゴビニャーが通りかかった。

「けふっ、美味しかったにゃーん」
「「「!!!」」」

 真っ先に円が真正面から突撃し、ひなが右、歩が左からがっちりと包囲する。息の合ったコンビネーションの前に抵抗する術を持たなかったゴビニャーは訳の分からないままもみくちゃにされた。
「ニャニャ!?」
「お喋りできる猫さん〜、可愛い!!」
 もふもふもふもふ。
「うわーい、ふかふかだね!」
 もふもふ、もふもふもふ。
「それにしても可愛いねこさんなのですー」
 もふっ、もふっ、もふっ!


「「「はにゃ〜ん……!」」」


「ん? あれは……ゴ、ゴビニャー選手ニャ〜!」
「ニャーちゃん可愛い〜♪ 可愛いから刀真と契約して家の子になると良いよ! 是非なろうよ!」
「ひいいいい」
 朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)と、刀真を伴った漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)もゴビニャーを見るともふもふの輪に加わった。
「サ、サインを!! あ、でも色紙なんてもってきていないな。そうだ、着てるTシャツに書いてもらおう」
「千歳と一緒に剣の修行にきたのですが……誰ですの、ゴビニャー選手って?」
 イルマ・レスト(いるま・れすと)は急に走って行ったパートナーを追いかけ、ドレスのすそをつまみながら小走りに近寄ってくる。
「あの獣人ですか……まったく、千歳の猫好きにも困ったものですわ。修行はどうなるのですか? まぁ、そういうところも私嫌いではないですけど、ふふ」
「あうう、お姉さん。助けてにゃぁ……く、くるしいにゃ」
 目を渦巻にしながら、冷静そうに見えるイルマに前足を伸ばす。


 考えてほしい、猫が自分にだけなついてきたらどう思う?


 イルマは自分も輪の中に加わりたくなったが、周囲の目もありますし、ちょっと千歳を落ち着かせることにした。
「私たち最近気が緩んでいます。ぜひ、その肉球拳法で気合を入れてもらえないでしょうか!?」
「気合いって、気合い十分すぎるにゃ……」
「そうですわ。どーどーどー。
 って、ちょっと待ってください。私たちって……なぜ複数形ですの?」
 千歳はゴビニャーの肉球ビンタで幸せな一瞬を感じたいらしい。度を過ぎた猫好きの彼女は、普段の冷静な自分という殻をかなぐり捨てて新しい一面を自ら開拓していた。ゴビニャーの毛皮に顔をうずめてもふもふしている。
「せ、背中でよければサインしますにゃ」
「是非に!!!」
 ゴビニャーはイルマの用意してくれたサインペンで『千歳さん江 大江戸 ゴビニャー』と書き、ようやく解放してもらった。
「隙あり」
「ほどほどに、月夜」
 月夜は氷水を入れた水鉄砲でライバルたちを攻撃し、ゴビニャーをかっさらおうとした。水鉄砲は千歳の背中に当たる……残念、借りたサインペンは水性だった。イルマは要領よく逃げたため無事であるが、主人のがっかりっぷりを見るに見かねて月夜に仕返しすることにする。
「私、Mじゃないですし、殴られて悦ぶ趣味なんてありません。どちかといえば私はS……」
 サインペンを握りしめてチェインスマイトを応用。月夜のほっぺに猫のひげを書いた。
「私は気が緩んだりしていませんもの、ふふ。いえ、何でもありませんわ」



「ふう、お姉さんのおかげで助かったにゃ……」
 イルマが気をひいてくれたおかげで、ゴビニャーはてってってーと女の子の集団から離れることができた。
「もう、今日は女の子の群れには近づかないようにするにゃん」
 木の上をがさがさと移動していると、ゴビニャーは変な物体を発見し全身の毛が逆立った。人間が猫に襲われている……木の上で昼寝をしていたレン・オズワルド(れん・おずわるど)の体中に猫がくっついていたのだ。さながらひっつき虫のように。
「お、お兄さん。大丈夫ですかにゃ?」
「家で飼っている猫の息抜きにジャタの森に遊びに来たんだが、何やら大変なことになっているな」
 レンは並木のことを言ったのだろうが、ゴビニャーにはさっきもみくちゃにされたことだと思われたようだ。この辺一帯では並木とゴビニャーの関係は周知の事実となっている。並木が殴ったり殴られそうになったりしていたので、キャンプ場ではうわさになってしまったのだ。
「進学、弟子入り、どれも今後の人生を左右する大事な選択だ」
「にゃん? お兄さん、並木君のことを知っているのですかにゃ?」
「ああ、笹塚並木にもイルミンスールを知ってほしい奴がいるらしいしな。ジャタの森に一番近い学校はイルミンスールだ。あそこは寮もあるし、俺も所属しているから何かあったら力になれる。
 ……あの子たちだ。話だけでも聞いてやってくれ」
 ゴビニャーが首をかしげると、2人の元にうさぎのアップリケを付けた女の子が駆け寄ってきた。宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)セイ・グランドル(せい・ぐらんどる)の手伝いをしていたのだが、同じイルミンのリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)と一緒にイルミンの良さをアピールしようと相談していた。
「はじめまして、大江戸 ゴビニャーですにゃ」
「リース・アルフィンです。実は私も転校したんですー」
 ほう? とゴビニャーは耳をピクリと動かした。
「蒼学時代からイルミンの敷地にしょっちゅう出入りして星を見にきたり、図書館に忍び込んで本を読んだりしてたな……魔法書や禁書の類に始まり……漫画やよくわからない本まで。色々ありますね」
「校舎が木造り! まず、ここです! 木の香りに包まれてご飯がおいしい! 勉強も楽しいですっ!
 ゴビニャー師匠のようにジャタの森在住のモンクさんもきっと気に入ってくれるハズ!」
「魔法実験室にも勝手に出入りして色々な実験? もやったなー」
「自然の中でこそ、本当の鍛錬ができる……と、うさぎは思うです」
 しかし、ゴビニャーは困ったなーという顔をしている。なぜなら、ゴビニャーと並木は魔法が一切使えないのだ。優れた身体能力……ゴビニャーは俊敏性、並木は動体視力を持っているのだが、魔法が使えないのでは学校に入学できないのではないか?
「ん? 魔法使いになるつもりはない? あぁ、それなら問題ないだろう」
 その疑問には先輩格のレンが答えてくれた。
「あそこには魔法を使わない魔法使い、イルミンスール武術部がある。まずは体験入学から始めてみれば良い」
 セイはイルミン・ジャタの森で採れた廃材を利用して、修行に来ている生徒のためにトレーニング器具を作成していた。
「まあ、俺も魔法使いってわけじゃないからな」
 彼は丸太をよけるトラップや、剣や武術の修行で使える巻きわらを作っているようだ。
「肉球使いすぎて荒れてんじゃない?」
 宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)はゴビニャーの前足をとると、魔女学と薬学を応用して作った天然素材100%の『煌特製魔法薬:荒れちゃい・や〜ん』を渡した。
「くんくん、いいにおいにゃ〜♪」
 これはイルミンの森&ジャタの森で採れた、薬草やハーブ、花やきのこなどをしようしており香りのいい安全なものだった。試しに使ってみたところ、肉球のツヤが一段と増した気がする。
「孫も喜ぶし、イルミンに来てくれれば……この薬、ずっとただで作ったげるよ」
「ぴょっ! 煌おばあちゃ〜んっ」
 みらびにちらっと目線をやり、にっこりと笑った煌星の書。孫思いの素敵な提案だった。わ、私も喋りたいっ。と、藍色のワンピースを着たノワール クロニカ(のわーる・くろにか)も少々頼りないが一生懸命よさを伝えようとしていた。
「はじめまして……」
「はじめましてにゃー」
 つっかえつっかえ言葉を紡ごうとしているノワールを、みらびは手製の小さな旗で応援しているようだ。
「この学校は……私みたいな災いの書と呼ばれる存在も置いてくれる特殊なところ……でもそのおかげでリースと会えたし。いま、こうして貴方の前にも現れる事ができた……すごい感謝してるの」
「私はすごくイルミンのことが好きですよ。並木さんも好きになってくれたら嬉しいな。日当たりもよくて日向ぼっこが気持ちいいの」
「校内を歩くだけでも精神鍛錬! 地下迷宮に潜れば肉体鍛錬! 修行や鍛錬にはもってこい! だと思うです。毎日ハラハラわくわくドキドキします☆」
 きちんと言いたいことが言えたノワールはリースを見てニコニコしている。彼女の言葉を引き継いで、リースも自分がイルミンが大好きな事を話した。
「焦るな若者。生き急いでも良いことないぞ。それと親御さんにもあんまり心配を掛けるな……と、ついでに伝えてくれ」
 苦笑しながら後輩たちの頑張りを見ていたレンは、サングラスの下で一瞬鋭い目つきになると突然体に張り付いていた猫の1匹をぽーんと放った。
「ど、どうしたんだにゃ?」
「……ジャタの森には最近裸族が出るそうだ。特に仮面を付けた裸族が居たら気をつけたほうがいい」
 セイはそれを聞くと、ジャタの森にみらびが行くときはしばらくついて行ってやろうと考えた。煌星の書も行くだろうが、女の子2人では少々不安だ。