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リアクション
2-06 雪の陣地
東の谷の、黒羊郷の側。
ジャレイラ隊が陣を敷いている。
軍議の場で黒羊側の数名の将校が、今後の策について話し合っている。
そこには、メニエス・レイン(めにえす・れいん)の姿もあった。
十二星華ねぇ……とメニエスは思った。その目的は、か……。ま、何よりついでに教導団を潰せるチャンスでもあるわけだし、楽しませてもらおうじゃないの。……
そのジャレイラ・シェルタンの姿は、今ここにはない。
陣の外では……
「ロザ、遊ばないで、メニエス様の傍にいるのですよ」
メニエスの吸血鬼ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)である。話しかけているのは……
「はーいわかってるよ」
メニエスの手駒としれ召喚されたロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)だ。幼い少女の風貌だが、その瞳には冷徹な光が垣間見える。
「゛それ゛がどっか行かないよう、しっかり鎖を持っていることですわ」
「もちろん♪」
ロザリアスが、゛それ゛をつなである鎖をぎゅっと引っ張る。
「うぅ……」゛それ゛が、小さなうめきをもらす。
「でもー、おねーちゃん(メニエス)はまだ会議だし……その間ちょっとくらい、いいでしょ? 暇だし」
そう言ってまた鎖をぐいぐいと引く。「うっ……」
「そうね。まあ、好きになさい」
「やったぁー。ほら、ペット。起きろよ、さっきからうめいてんじゃねーよ! ほら!」
゛それ゛、と呼ばれたのは、鎖につながれた髪の短い女の子だった。その子を本気で殴りつけるロザリアス。
「暇でしょ。あたしが遊んであげる!」
もう一発、二発、容赦なく。「あははは!」
「う……ご、ごめんなさい……」
女の子は首輪にシャツ一枚。普段から殴られているのか、傷だらけだ。メニエス達のペットとして地下に監禁されているので、肌は土気色をしている。
「なんだって、聞こえないんだけど?」
組み伏せて、その上にどっかりと座る。
「あはは、なかなか座り心地のいい椅子……」
「何をしている? おまえ達は、確かメニエスの」
ジャレイラだ。
「あ、ええ……こんばんわー。うん、おねーちゃんを待ってるんだ。
会議はもう終わったの?」
ロザリアスは立ち上がって子どもの口調に戻る。ミストラルも、すっと一礼する。
「別用があったので今から行くところなのだ。……その子は?」
「ああ、これ? これはあたし達のペットなんだ」
組み伏されて、まだ倒れたままだった子の鎖を引っ張る。「ほら、ちゃんと挨拶しなよ?」
「……」
ジャレイラはしゃがみ込んで手を差し伸べた。
「我は、ジャレイラ・シェルタン。……名は?」
「う……私……ティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)」
ロザリアスは、何なのだろね、という表情でミストラルに視線を向けた。ミストラルは、ジャレイラの後ろに侍っている者に目を向けている。
「……(この女。また、こんなところで……。教導団ではありませんでしたっけ?)」
綺羅 瑠璃(きら・るー)であった。表情は少し虚ろな感じがする。何か、血のような液体の入った瓶を持っている。
「血?」
誰か来た。
「ジャレイラ様っ。こんなところに。軍議の方……あっ」
侍従の女のようだ。鎖につながれたティアを見て驚いている。
「わかった。では……な」
ジャレイラは、ティアに声をかけ、行ってしまった。綺羅瑠璃も続いて、とくに何も思う様子もなく去っていく。
「な、何? どうしたの、かわいそう……こんなに傷だらけで。手当て……」
心配そうに近づいてきたのは、琳鳳明(りん・ほうめい)だ。
「いーのいーの。ほっといて、これ、あたし達のペットなんだから」
軍議は終わったようで、そのうちにメニエスが出てくる。
「メニエス様」
「あ、おねーちゃん! ほおら、行くよ」
ロザリアスはティアをずるずる引きずって、ほら、と殴りながら引っ張って行った。メニエスはミストラルと何か話しながら、暗がりの方へ消えていく。
「はぁ……黒羊軍は何か疲れるな。でも」
ジャレイラという個人を知りたいと何故か強く思った琳。地祇となったヒラニィが土地に詳しいおかげで、侍従として従軍することが叶った。もちろんだが、教導団ということは伏せてある。黒羊軍は今まさに、その教導団と東の谷で戦いとなっているのだ。
「まさかこんなところに来ることになるなんて……あ、雪かぁ。まだ……寒いところだね、ここは」
今私のしようとしていることは、今までの自分を裏切ることになるのかな? それとも……。……
黒羊側の陣地でも、様々な思いが交錯しているのだった。
*
その頃……
李 梅琳(り・めいりん)は谷底へ落下している最中だった。
「……(アア。これで私もメガネと同じ運命を辿り、学校入口から消えるのね。ありがとう、さようなら蒼フロ……)」
「李少尉! 李少尉! 大丈夫ッス?」
「えっ。夢?」
「違うッス。ちゃんと谷底へまっさかさまに落ちてる途中ッスよ」
「……く、ちょ、ちょっと!!
せっかくの死亡シーンを。なんで
一般兵士(いっぱんの・へいし)と二人で死ななきゃなんないのよ! 目立たせてよっ」
「そ、そんなことできないっス。死ぬなら、一般兵士である俺が死ぬっス。さあ、俺をクッション代わりにして谷底に落ちたときの衝撃をやわらげるっス」
もう一人落ちてきた。
一般 騎士(いっぱんの・きし)だ。
「は、はぁ?」
「それなら、俺の役目ッス。李少尉殿の肉壁ッスよ。ラウンドシールドもあるッス。ランスには刺さらないように気を付けて落ちてくださいッス。
仮にも騎士ッス。背にいる奴を守れず何を語れるか」
「さあ、李少尉。俺たちを下敷きに……
あ、ああっ。おっぱいがっ。一般兵士には幸せすぎすッス。真面目な地道なアクションだったのに、今唯マスターに派手にさせられたッスこれからのアクションがとりづらいッスおっぱいが、おっぱいがッスス」
「……」
李梅琳と一般兵士と一般騎士は、こうしていつまでもどこまでも谷底へ落ちていくのだった。
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