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魔に魅入られた戦乙女

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魔に魅入られた戦乙女

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第八章 再び、神殿内部

「陽!無事か?」 
 見張りをなぎ倒し、勢いよく飛び込んできたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、ちょうど檻の前で背を向けて立っているフードの男にそのまま飛び掛った。階上からはテディに続いて数人がなだれ込んでくる。
 突然のパートナー出現に目を白黒させながら皆川 陽(みなかわ・よう)が止めに入った。
「テディ、待って待って!その人味方」
「え?」
「……ゴホッ」
 軽く咳き込んでフードを取ると、それは見張りに身を紛らせて隙を伺っていた白銀 昶(しろがね・あきら)だった。手には、くすねてきた牢屋の鍵が光っている。
「おお!そいつは悪ぃ」
「……こんな時だ。見逃してやるよ」
 鍵が外れると、救出に来た面々がそれぞれのパートナーや被害者たちに駆け寄り、拘束を外してまわる。
 テディは、思いっきり陽を抱きしめた。
「ちょ、ちょっとテディ、苦し……」
 陽は照れてオロオロと視線をさまよわせたが、幸い、辺りいっぱいそんな光景が広がっていた。
「エイボン、無事か?」
「兄さま!姉さま!」
 目に涙を浮かべて走りよるエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)を、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がしっかりと抱きとめた。
「よかった~!!エイボンちゃん、怪我はない?怖くなかった?」
 思い思いに喜び合うみんなの間を縫ってそっと昶の隣に来ると、清泉 北都(いずみ・ほくと)はにっこり微笑んでうなずく。ヤレヤレと肩をすくめてみせる昶だったが、その顔は笑っていた。
「ティーちゃん!」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)が見守る中、ユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)に駆け寄る。
「怖かったでしょ、だいじょーぶ?」
「べ、別に怖くなんかなかったですわ。わたくし、こんなことくらいへっちゃらですのよ!ユーリだってご存知でしょ」
「うん。偉かったねぇ~」
「だから、全然怖くなんか……!!」
気が緩んだのか、ポロリとティティナの頬に涙が伝った。一番見られたくないはずの相手を前に、一体どうして。
 うつむいてしまうティティナに驚いて、ユーリエンテはオロオロと真言の顔を見上げた。
「ユーリがしてあげたいようにしたらいいですよ」
そっと背中を押してもらって、ユーリは少しだけ背伸びして、ティティナの頭をなでなでした。
「くっ、来るのが遅いんですわよ……」
「うん、うん。ごめんねぇ~」
ふと、ユーリエンテとテディの目が合う。二人は互いの大事な人が無事だったことを、心からお祝いした。
 その中で、焦った様子のシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)が声を張り上げた。
「ちょっと待って、何だかハッピーエンドになっとうとこごめんやけど……ミリアちんはどこに行ったん?」
盛り上がっていた周囲が、シンと静まり返る。
「兄さま」
エイボンの書が涼介の裾を引く。不穏な予感に、涼介の背筋が冷たくなっていく。エイボンの書は泣いている。
「兄さま、ごめんなさい。ミリアさんが連れて行かれてしまいました」
「――!!」
 弾かれるようにして飛び出す涼介と一緒に、シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)を先頭に、これまでじっと沈黙を守っていた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)に、閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が続く。
「静麻殿」
 廊下を走り抜ける彼らの横を、気配もなく服部 保長(はっとり・やすなが)が現れて併走する。
「保長」
「遅いのでそれがし、生贄にされたのかと心配しておりましたぞ」
「ああ、悪かったな」
「これを」
保長の差し出したハンドガンを受け取ると、静麻は足を速めた。
「間に合ってくれよ~~~……」

 祭壇に直行する一同と別れて、ヒラリと庭に飛び出すとアルコリアは声を張り上げた。
「シーマちゃん!おじーちゃん!」
 アルコリアの武器を預かっていたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)と共に現れる。武器を渡しつつ、シーマが首をかしげた。
「アル、牢屋はもういいのか?」
「最低の気分でした。他の方たちが死んじゃったら困るからって好きなこともできませんし。……その分暴れさせてもらわないと、割に合いませんよねー」
クルクルと二刀流に切り替えると、髪をかき上げる。
「それはそれは、難儀じゃったのぅ」
ランゴバルトに微笑まれ、アルコリアは少しだけ頬を膨らませたが、すぐに祭壇の方へ向き直った。
「よし、それでは行きますよ!」
「イエス、マイロード・アルコリア様!」

 エイボンの書の頭を撫でて落ち着かせながら、クレアは優しく言った。
「大丈夫。ミリアさんも皆も、おにいちゃんたちがちゃんと助けてくれるんだから。ね?」
 非武装の人や、怪我人、一般人もたくさんいるけれど、駆けつけてくれた皆で協力すればきっと森を抜けられる。
「さぁ、私たちはみんなが無事に帰れるように、逃走経路を切り開いておきましょう!」
 クレアの言葉にうなずくと、グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)は武器を届けにきたアーガス・シルバ(あーがす・しるば)オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)に目配せすると、お茶目に提案したのだった。
「それでは血路を切り開かせていただくとするかのぅ」
「わかったでござる!」
「……ふん」
「戦えぬ者の護りは任せましたぞ」
ナイスミドルなおじ様たちが先陣を切って、人々は地下を後にした。