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五機精の目覚め ――紅榴――

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五機精の目覚め ――紅榴――

リアクション


・請負人


「えー、ほんとに知らないの?」
「分からないと言ったら分かりませんよ」
 エミカは聞き込みで苦戦していた。暴走事件に関して、あまり話そうとしない人もいるのだ。
「ささいな事でもいいんです、何か知りませんか?」
 ジョシュアがエミカに代わって質問をした。
「そう言われてもなあ……機械がおかしくなると、必ず近くの機晶姫もおかしくなってるみたいだってくらいしか。これも聞いた話だけどさ」
 困惑した様子で、答えてくれた。
「ありがとうございます」
 お礼の言葉を述べ、またもや集まって話しこむ。
「うーん、機晶姫が暴走すると機械も暴走するのかな。でも、何でだろう?」
「ちょっと見てみるわね。バイクとか飛空挺が暴走した場所と、機晶姫が暴走した場所……ほとんど重なってるわ」
 アルメリアが分析した。
「一体どうなってるというんだ?」
 顔をしかめるエヴァルト。
「もしかしたら、ボクが暴走し出すこと、なんてのもあるのかな?」
 機晶姫であるロートラウトが呟く。
「そればかりは分からないな。ただ、そうなって欲しくはないが……」
 話しこんでいる時の事だった。
「あれ、確かリヴァルトの……」
 エミカ達の近くを偶然通り掛かった、佐伯 梓(さえき・あずさ)と彼のパートナー、カデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)の二人が彼女に気付いた。
 たまたまツァンダに遊びに来ていた二人だが、リヴァルトやエミカがPASDという組織にいる事や、ツァンダで起きている事件の事は多少耳にしていた。そこで、とりあえず彼は今の状況をエミカから聞いた。
「宜しければ僕らもご一緒させて下さい。人数は多い方がいいでしょう」
 カデシュがそう申し出た。
「じゃ、お願いね。おっと、連絡が来たっと」
 ちょうど彼らが合流したところで、エミカの携帯電話が鳴った。
『はーい、調子はどう? うん……あ、おっけー、んじゃあ伝えとくよ』
 アリーセからだった。
「何だった?」
 エヴァルトが尋ねる。
「機晶石を操れる人と、凄腕の請負人の噂が流れてるんだって。それで、これからそれについて調べるみたい」
「それじゃ、もしかして事件を起こしてるのは……」
 陽太が口を開く。
「その人かもね。問題はなんでそんな事をしているのか、だけど……暴走も、確か機晶姫の場合は苦しみ出す、だったよね?」
 と、沙幸。
「なぜ苦しませるのか、ですわね」
 美海がさらに疑問を重ねる。
「事件の発生場所がまばらだけど、機晶姫は必ず居合わせる。何かを確かめている、のかねぇ」
 にゃん丸が推測する。
「確かめる、ツァンダ、遺跡……そういえば、五機精だっけ? 『研究所』の調査報告にあったのって。もしかしたらそれを探しているのかもー」
 梓が考えたのは、有機型機晶姫である『五機精』を、その請負人は探しているかもしれないという可能性だった。
(さっき、リヴァルトに頼まれたから調べ始めたって言ったよなー。何で調べようと思ったんだろ?)
 疑問に思う梓。彼もエミカも、パーティの日にリヴァルトが襲撃されていた事を知らない。そして、その人物が機晶姫を操る力を持っていた事も。
「もしかしたら、そうかもしれないねぇ。あの日以降、ワーズワースの他の遺跡も動き出しているのだとしたら、五機精がもう外に出ていても不思議はないしなぁ」
 ただ、そうなると五つの遺跡は既に解放されている事になる。古代に造られた兵器である彼女達がシャンバラのどこかを歩いているかもしれない、というのはぞっとしない話だ。
「それでは、その請負人という方を追いましょう」
 陽太が静かに言った。
「ただ、あまり情報がないんだよー。電話でも、ちょっと物騒な人達に聞きに行くかもしれないって言ってたくらいでね」
 そのエミカの言葉と、これまでの情報、請負人という事柄から陽太が向かうべき場所を決めた。博識、捜索という特技を駆使した結果だ。
 接触出来そう、もしくはその情報が得られそうな場所へ向かう最中、アリーセとも合流し、彼らは『請負人』の正体を探ろうとする。

            ***

「見かけねえ顔だな。何の用だ?」
 ファレナとシオンはツァンダの外れの、蛮族も出入りすると言われるバーに足を踏み入れた。
「最近噂の請負人を探していてね。ちょっと頼みたいことがあってさ」
 聞き込みをするのはシオンだ。ちなみに、相手はいかにもという感じの、体格がよく人相の悪い男だった。
「……そこへ行け」
 手渡されたのは一枚のメモだった。
「その情報屋なら、詳しい事を知っているはずだ」
 多くを語ろうとはしない。それは、二人が余所者だからなのだろうか、あるいは裏側の人間達にとっても、安易に口にするのがはばかられる存在なのか。


「情報屋?」
 合流したエミカ達は、そのメモを見る。
「この近くですね、行ってみましょう」
 陽太の案内でその住所の場所まで移動する一行。蒼空学園の生徒であり、クイーンヴァンガードでもある彼がこのメンバーの中では最もツァンダの街を熟知していた、ということだろう。
 辿り着いた場所は、廃墟だった。建物の形状から、元は工場だったと思われる。
「ここに、情報屋が……」
 その時、物陰から出てきた武器を持った男達に囲まれてしまう。
「もしかして、罠に嵌められたのかな?」
 状況を見て梓が呟く。
「かもしれませんね。ですが、このくらいならなんとかなるでしょう」
 カデシュが周囲の男達を見据える。だが、いきなり手荒な事をするわけにはいかない。情報屋がいる可能性はまだ残っている。

「ちょっと待った!」
 
 声が響いたのはその時だ。
「こんなところに来るなんて珍しい。大方、今ツァンダで起こってる事件でも調べてるんでしょ。ついて来て」
 十六、七くらいの少年だった。爽やかな笑みを浮かべて、男達に武器を下ろすように指示する。
「あなたが、情報屋?」
 ファレナが見た感じでは普通の若い学生、という感じだった。とても後ろ暗い人間には見えない。
「ま、ここではそんな事もやってる」
 廃墟の中に入り、エミカはその人物の顔を思い出した。
「あれ、この前のパーティに来てたよね?」
「うん。楽しかったよ、主催者さん」
 情報屋は、春休みにエミカが主催するパーティに来ていた、迷子になった連れを探している少年だった。
「それで、ここを知ったって事は例の噂を聞きつけたって事かな?」
 確認を取ろうとする情報屋。
「さて、オレはこっちではああいう連中を相手にしててさ。それに、自分の同業者なんだから注目はする。それで、二ヶ月くらい前から突然動き出したヤツがいるんだ」
 少年は話を続けた。
「さて、まとめた情報を話すよ。ま、パーティのお礼って事で情報料は今回ばかりはタダでいい。まず、その人物は先月死んだ」
「死んだの?」
 驚くアルメリア。他の者達も目を見開いている。
「その現場が目撃されているんだ。なんでも、メガネの男と戦って地上に落とされたとか。その周りには虚ろ目な機晶姫達もいたらしい」
「メガネ、まさかアイツ……」
 エミカは察した。人形遊びに巻き込まれたと言ったリヴァルトの事だと。時期も一致するし、怪我した理由にも納得がいく。
「断片的な話の内容では、ワーズワースがどうのこうのという事らしい。何やら蒼空学園と空京大学合同の調査チームでは、そのワーズワースとやらの遺産について研究されてるみたいだね。それに関わる重要人物の始末、それがその時の依頼だったそうだ」
 もう一つ、と彼は言う。
「死んだとは言われてるけど、それは偽者だと思う。ここを出入りしてるヤツらにも、ワーズワースの遺産を欲しがるのはいるからね。古代の力を手に入れて強くなりたい、ってのは多いんだ。そいつらの中には会ったヤツもいる。ほとんどは手も足も出ないまま殺されちゃったけどさ」
「でも、その人の顔は見てるんでしょ?」
「子供、だそうだ。さっき言ったメガネの男にやられたのとは違うみたいだけどさ。今は十二歳くらいの男の子の姿をしてるらしい」
 請負人の正体が子供というのは俄かには信じ難い。だが、このパラミタでは見た目の年齢など当てにはならない。
 暴走事件は人為的に引き起こされたのは、間違いないようだ。

            ***

「リヴァルトに確認した方がいいんじゃないかな?」
 情報屋から離れた後、梓はエミカに言った。
「まあ、ほぼ確実だと思うけどねー。ワーズワースの子孫らしいなんて言われちゃってるわけだし」
 事件で分かった事も含め、リヴァルトに連絡するエミカ。
『やっほー、どんな感じー? うん、こっちはね……』
 遺跡内での出来事を、彼女達も知る事になった。
『ってか何、あたしに隠し事なんてしないでよ! まったくアンタはそうやって……え、説教は後で聞く? あ、リヴァルト、ちょっと』
 どうやら途中でリヴァルトが電話を切ってしまったらしい。
「リヴァルトは、なんだって?」
 にゃん丸が尋ねる。
「なんか、暴走事件がさっきの請負人だか何だかのせいかも、って言ったら急に声を張り上げちゃって。先遣隊は一人生存者は見つかったけど、その人が言うには内部に裏切り者がいるかもってよ」
 人為的な暴走事件、先遣隊の身に起きた出来事、ワーズワースの遺産を狙っているらしい請負人。
「まさか、暴走はそのための陽導!? いや、行方不明と事件は同時進行していたはず……ならば犯人は複数?」
 アルメリアが考える。一度死んだと言われてる事、目撃例によって姿が異なる事から、複数人のチームであるかもしれない。
「とにかく、急ごう!」
 にゃん丸が小型飛空艇に乗り、移動しようとする。
「……っ!」
 だが、操作が効かなかった。
「みんな、離れて!」
 ロートラウトが叫ぶ。顔を歪ませ、自分自身を抑え込んでいるようだった。
「まさか、犯人がこの近くに?」
 機晶石を持つものが暴走する。まさか今まさに自分達が遭遇する事は予想だにしていなかった。
「お、おおおお、な、何だ!?」
 リリ マルも声を上げる。ガタガタと揺れた後、急に静かになった。
『随分とこそこそ嗅ぎまわってくれるじゃないか。ま、これを少し使わせてもらうとするよ』
 声の主はリリ マルだった。だが、その口調は彼のものではない。
『ああ、別に君たちをどうこうする気は今はないよ。本命を見つけたところだからね。辿り着いた君たちに敬意を表して、挨拶だけでもしておこうと思ってさ』
 淡々と、それでいて見下したような話し方だった。
「何が目的だ!?」
 エヴァルトが声を上げる。パートナーを暴走させられ、憤っているのだろう。
『そうだね、今の依頼内容はワーズワースに関係する重要人物の排除、それと五機精もしくは有機型機晶姫の回収。最近、ツァンダにそれらしいのが現れたって聞いたものでね。いろいろ調べてたんだよ』
「裏にいるのは誰だ?」
『それは言えないなー。依頼人の情報は企業秘密さ。信用に関わるからね。ああ、もうツァンダで事件は起こさないから安心していいよ』
「どういうことですか?」
 ジョシュアが口を開く。
『さっきも言ったじゃないか。本命を見つけたと。今からそれを回収するだけさ。ついでに、この前の借りをあのメガネ君に返さないとね』
 言い終わると、リリ マルはもとに戻った。
「自分は一体何を……」
 その身に何が起こったのか、把握し切れていなかった。
「はあ、はあ……」
「大丈夫か?」
 ロートラウトの暴走も治まったようだ。
「どこだ、どこにいる!?」
 にゃん丸が周囲を見渡すも、話に聞いたような子供の姿は見当たらない。
「一体、何者なの?」
 沙幸が呟く。機械を暴走させるだけでなく、その意識も乗っ取ってみせた。いかなる能力か見当もつかない。
「遺跡のみんなが、危ない!」