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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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第5章 パラ実の日常風景?


「あっ、本郷さんだ!!」
 竜司のバイクからぴょいっと飛び降りると、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)のもとに小走りで向っていく。涼介は他校の学生だが入学の助言をしてやった女の子のその後を聞き、入学祝いを届けに来たようだ。
「ここにいましたか。はい、どうぞ」
「……薬ですか?」
「顔に傷が残るのも、もったいないですしね」
 涼介は薬学と医学の知識を使い傷薬の軟膏を調合していた。小さな小瓶に入ったそれには、美容にいいスキンケア成分も配合されているらしい。
「メ、メガネ!! きゃー!!」
 ん? 遠くから悲鳴が聞こえたような。
 声の主を探すと気弱な皆川 陽(みなかわ・よう)ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)率いる不良軍団に絡まれていた。実はルカルカが退けた不良たちもヴォルチェの指示『ピアス型の結界装置をつけた人物の行方を捜せ』というものだったのだ。高額でさばけるということもあり一部の舎弟が暴走し、とにかく金持ちっぽい人物を襲っているらしい。
「怖いよぅ……日本に帰りたい〜!!!」
「むっきー! オマエら全員、超ウルトラスーパーやっつけるし!」テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は陽を背にかばい、忘却の槍で応戦しているようだ。
「モヒカン達に絡まれてカツアゲとかされてなければ良いけど……って、あの男の子たちピンチだよね!」
 偶然その場に居合わせた秋月 葵(あきづき・あおい)が光術でこっそりサポートしてやっているが、このままではカモられるのも時間の問題だろう。
「きゃ〜! 助けて下さい〜」
 ヴォルチェは地祇のたくらみで幼い外見を手にいれ、自らの舎弟に自分を襲わせて並木と涼介に助けを求めた。涼介は並木とヴォルチェを背にかばい、魔法の呪文を詠唱している。
「万物の根源たるマナよ、彼の者を凍てつかせよ!!」
 涼介の氷術により並木に向かっていったヴォルチェの射程はどうにかなりそうだが、陽とテディはずいぶん手こずっているようだ。陽には戦闘能力が全く期待できないため、相棒のテディが則天去私で奮闘している。
「……並木ちゃん、超感覚は?」
 ぽそりと囁くような声でつぶやくヴォルチェ。どうやら超感覚が目覚めているかどうかを試しているようだ。彼女なりの『洗礼』で契約済かを試しているのだが、その小さな声は聞こえていないらしい。ん〜、もう少し刺激が必要?
「ねー、並木さんー!!」
「なんですかー!?」
「平和で、なにもかもが苦労せず手に入った日本での暮らしを捨ててまで、パラミタに来て良かったって思ってるー!?」
 眼鏡をおさえながらテディの後ろで叫ぶ陽。彼にとってパラミタに来たのはアンラッキーでしかなく、良いうわさを聞かなかったパラ実に自ら入学したと聞いて驚いていた。そんなにいいところなのかとやって来てみたが、弱気なメガネなど肉食獣に食われる草食動物とそう変わらない。なぜか髪型をモヒカン風にしているテディは頼られることに喜びを感じているようだが……。
「思ってますよー!!」
 涼介が手ごわいと考えたヴォルチェはジェスチャーで舎弟に陽たちを襲わせることにした。面白ければなんでもいい、が彼女の行動理念のようだ。
「パラミタでの生活は、楽しいー!?」
 並木は地球にいたころは両親の都合で転校の多い生活を送っていた。一人っ子なのもあり確かに苦労したことは少ないのかもしれないが、彼女にとって自分の入りたいと思う学校を決めたのは小さいけれど達成感のある一歩だった。
「楽しいですよー!!」
 話は変わるが本日、テディはパラ実をモヒカンの巣窟だと解釈しているため原住民に溶け込むべく変装をしている。が、悲しいかなにじみ出る高貴な所作と隠しきれないあほっぽさが絶妙に絡み合い『高貴そうなモヒカン』という新ジャンルを開拓していた。
「ヨメ! ちょっと静かに……」
「あっ!!」
 どさくさに紛れてヨメと呼んでみる。自分がいないと駄目なんだと思っておくれっ。
 陽に文句を言おうとするテディの死角に不良が現れ、角材を振りおろそうとしていた!! 考えるよりも体が動いた並木は、思わずバットを握って不良に駆け寄ろうとする!!


 もっと速く走れればいいのに!!!


 並木が強く願うとぴょこっとウサギの耳が生え、地面を強く踏みしめると耳元で風を切る音がした。無我夢中でテディの近くの不良めがけて木製バットを振り下ろす。
「……君、スカートだと格闘する時に困るでしょ。契約おめでとう♪」
 陰でサポートにつとめていた葵は、不良たちが数を減らしたころに並木に話しかけてきた。本日の彼女の服装は黒いクラシカルなメイド服で、これはゴチメイ隊にあこがれた女の子に変装しているためだった。並木とは初対面だがキャンプ場でうわさを聞いていたらしい。
「ぜえ、ぜえ。け、契約??」
「そう、ほら。うさぎさんでしょ?」
「何のことですか??」
 並木は自分の変化に気づけていないらしい。
「ふーむ、自覚がないのかな。スパッツ履くのがおすすめだよー♪」
 葵はそういってにっこり笑うと、レースの付いた日傘をくるくると回して去っていった。ヴォルチェは舎弟が全員のされてしまうと、自分の正体に並木が気づく前に他のパラ実生がいる歓迎会の会場に向かうことにした。涼介は陽とテディの治療をするためその場に残ることにする。


「ほげー!!! な、並木さん。その耳は」
「げえっ。ネコミミの人」
 友人らの噂によると如月 正悟(きさらぎ・しょうご)のマイブームはネコミミの普及活動らしい。刀真や千歳が使用したネコミミは彼の作であるが、小さなタグには『つけるとネコミミ教徒になります』というメッセージがあったようだ……。正悟は空京大学でいったい何を学んでいるのだろう。
「しっぽ、しっぽはどうなってますか!?」
「だーもー、うっとうしい!!!」
「それでもっ、負けるわけにはいかない!!」
 並木のウサミミを見た正悟はしっぽを確認しようとセーラー服のスカートに手を伸ばす。こいつは殴って問題ないと判断した並木は正悟の顎をフルスイングした。
「初めまして笹塚並木さん、朱 黎明(しゅ・れいめい)と申します。同じ学校のものとして歓迎いたしますよ」
「は、はじめまして! 笹塚です。先生ですよね、職員室が分からなくて」
「いえいえ、私も貴女と同じ学生なのですよ」
「?」
 紳士的な口調に知的なスーツ姿の黎明を見て、この学校にも格好いい先生がいるんだな〜と思ったがどうやら違うようだ。じっと見つめられると胸がドキドキしてしまう。そんな少女の様子を見ると黎明はさわやかに笑った。
「貴女のように可愛らしいお嬢さんがお1人では危ないでしょう? もうすぐ歓迎会の場所なのですが、お迎えにあがりました。お姫様を迎えに来るのが遅れて申し訳ありません」
「え、えと。だだだだだ、大丈夫です!!!」
 普段女の子扱いされることが少ないせいか、甘い言葉をかけられて混乱しているようだ。
 この芝居じみた言動の男はキャンプ場で勧誘された少女の噂を知り、今後自分の敵となりえるかどうかを見定めに来ていた。このタイミングで現れたのも正悟からさりげなくフォローして印象をよくしようとしたためである。
「そこの新入生さん、コースが決まっていないなら改造科はいかがでしょうか?」
 リリ マル(りり・まる)を連れた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、活きのいい被験者候補を探すついでに並木の勧誘に来たようだ。本来なら一番いないであろう教導団の所属であるにもかかわらず、彼女はパラ実改造科に頻繁に出入りをしている。
「自分は農業科か工業科にしようかと……」
「生徒の個性を尊重、自由な気風、論より実践で受講科目によって高額の危険手当もつくのでお小遣いにも困らないのが特徴です」
「……手当てがつくのはいいですね」
 黎明はアリーセが登場すると少し離れた位置から並木の観察に専念することにした。実際は改造により限りなく人外になったり、生物兵器の脱走や行方不明事件が多いらしいのだが……。

「おお、笹塚さん。うわさ通りゴビニャー氏に弟子入りという名目で契約できたのだな」
「戦いに明け暮れる生活が出来そうで羨ましいですわー」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)コルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)は、前回かなわなかった手合わせを実現しようと修行も兼ねてパラ実にやってきた。
「超感覚はうさぎの耳か。何にせよ、良きライバルたり得る者が増えたとあれば、喜ばしいか」
「……ん!? なんじゃこりゃあああああ!!!!!! またあなたの仕業ですか!!!」
 並木はぺたり、と自分の頭をさわってみた。何やらふさふさとしたものが頭から生えている。アリーセが渡してやった手鏡で自分の変化に驚くと、先ほど殴った正悟の首根っこをつかんでガクガクとふっている。シェイクシェイク。
「ぐ、ぐどぅじぃぃぃぃ。
 ち、違うよ。それは契約の効果で超感覚っていうんだ。獣人と契約することで一時的に動物の耳が生えたり、身体能力が向上したりするんだよ」
「もし、ウサギの耳がいやでしたら改造科で手術もできますよ! 改造科、なんて言っても無茶な事ばかりやっている訳ではありません。個人個人に合わせた長期の肉体改造カリキュラム、なんてのも用意してますから、強くなりたい貴方にもお薦めです」
「契約祝なんて気の利いたものはないが、前回叶わなかった手合わせでも。格闘技で」
 その場にいた契約者たちから話を聞いたところ、並木は自分が特にそれらしことはしていないがゴビニャーと契約したらしいことがわかった。確かに体が軽くなっており、小さな音が以前よりもよく聞こえている。
「丸腰な人に戦いを挑むほど薄情ではありませんわ。でも、記念に戦ってはいけませんこと?」
「新入生歓迎キャンペーンと題して、今なら片腕のドリル改造手術を受けると同じ物を無料でもう1つ!!」
 アリーセのだしたパンフレットにはところどころ赤黒いしみがついていたが見なかったことにしよう。
「一度、格闘家として戦うのはいいんじゃないかな。少しずつ速度を上げていけば、自分の変化がどういうものなのかがわかるんじゃない?」
「パラ実は色々と物騒でしょうから護身用にこの便利なアタッシュケースを持っていくとよいです」
「えっ」
 先ほどからおとなしくしていたリリは、自分がだれかに持っていかれてしまう危機を感じてフリーズした。並木は試しにリリを持ち上げてみる。意外と軽く、護身用に一台あるのもいいかもしれない。
「おいくらですか?」
「しばらく無料レンタルしますよ」
「これが本当の『手も足も出ない』ってヤツでありますなー……」
 並木はリリに審判を頼むと、エヴァルトに稽古をつけてもらうことにした。エヴァルトは気を使って素手・スキルなしで戦うことにする。バトル好きのコルデリアはのほほんとした様子でアリーセから改造科がいかに、戦いに向いた学習環境かを教えてもらっている。
「もうやけであります! はっけよーい、のこった!!」
 黎明が観察したところ、並木はまだ超感覚の発動と先の先しか使用できないようだ。そのため急に早くなったりする状況に本人が対応できずにいるようだ。エヴァルトは超感覚の戻し方を教えてやり、そのおかげで並木はウサミミをしまうことができた。
「果たすべきことがある……まだ立ち止まれないんだ!!」
「真顔で何を言っているんですか!?」
 正悟も自分が素手で勝ったらネコミミを付けてくれと勝負を申し込んだが、並木はリリの火炎放射機能を使用しつつ全力拒否したらしい。


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黎明のメモ

笹塚並木の特徴
・黒髪、碧眼、ボブカット
・超感覚はウサギ
・バットを装備
・地球にいたころは転勤続きだったらしい
・噂によると将来の夢はアクションスター
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