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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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第4章 パラ実の入口


 4月に1度実家に帰り両親に報告を済ませた並木は、現在ジャタの森に近いヴァイシャリーの学生寮にお世話になっている。パラ実の授業は実質ないので、今日は午後から顔を出す予定らしい。その前にゴビニャーのもとへ挨拶へ行くことにする。
「師匠、笹塚並木です!! 登校初日のご挨拶にまいりました!」
「よくきたにゃー。きちんと制服も着てますにゃん」
 並木はパラ実のセーラー服をひざ上5センチくらいで、紺色のハイソックスと合せていた。師匠の言うとおり日本の一般的な制服の着方にしたらしい。
「今日は……並木君にプレゼントがあるにゃん」
「ええっ、本当ですか!?」
「本当ですにゃ。はい」
 ゴビニャーは照れながらリボンのついた木製のバットをプレゼントした。これはドージェが野球好きと聞いて、その学校に早くなじめるようにジャタの木を削って作った手作りのバットだった。プレゼントを喜んでくれるかドキドキしてしまい、うっかりその情報を伝え忘れたのが唯一の誤算だろう。
「!?」
 ごくりと唾をのんだ並木。
 前回、パラ実は喧嘩相手に苦労しない好戦的な学校だと聞いた。確かに一般人の自分は知らない人に攻撃され、未契約の危険性を体で覚えた。つまりこのバットは一般人である自分の自衛手段として使うように贈られた武器なのであろう。確かに木刀をいただくよりバットのほうが操りやすそうだ。
「師匠の心遣い、無駄にはいたしません。このバットを使って早く学校の皆さんに認めていただけるよう、努力していきます!」
「うむ、そのいきですにゃ!!」
「師匠、釘ありますか?」
「釘?」


 コンコン。


「はーい、どちら様ですかにゃ? おや、並木君。お友達にゃー」
「え?」
 ドアの向こうにはセーラー服を着たルカルカ・ルー(るかるか・るー)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が並木の様子を見に来てくれていた。
「セーラー服、おそろ〜い♪ よよしくっ!」
「……並木さん、本当に女性だったのかッ」
 友人のルカルカから話は聞いてはいたものの、実際にセーラー服の姿を見て驚きを隠せないエース。貧血のような眩暈がしたらしい。
「こほん。おめでとう。そしてパラミタへようこそ。
 修業は大変だと思うけれど、自分で決めた未来に向けて頑張れ。無理せず時々は休みつつ。根は詰めすぎないようにね」
「ど、どうも」
 並木はキャラの濃い2人の突然の来訪に戸惑っているが、エースのプレゼントはありがたく頂くことにした。厚みのあるかたい手触り、これはハードカバーの本だろうか? 白とピンクで可愛くラッピングされたプレゼントには数本のスイートピーが添えられている。その花言葉は……。
「『門出』ですよね。たしか。あっ、これ日記帳ですか。凝ってるな〜」
「日々の修業とか書いていけば良い記録になるんじゃないか。しかし、花言葉をご存じとは」
「いや、前は知らなかったんですけどパラ実で予習できそうなのが農業科だけだったので。実家に帰った時に植物の本を読んでいたんです」
 エースの贈り物は鍵付きの日記帳だった。茶色の革拍子に金色の金具と、薔薇の蔦模様の装飾が施された鍵が付いていた。高級そうである。
「実はルカルカ、D級四天王ちゃんで〜す☆ 教導団員だけど、成り行きで何時の間にか、なったみたいな〜」
「四天王? 学校に派閥があるんですか?」
 しかもD級とは何のことだ。……生徒の実力編成別にクラスが振り分けられるのかな。あれっ、でもルカルカさんは教導団の人だよな。うーん、まあいいか。なんだか、大きな袋を持っているな。
「四天王ってすごいですねっ」
「あはは、人生いろいろね〜☆」
「しかしパラ実へ転校とは。やっぱり並木さん、ご両親が泣いてるぞ……。時々は実家に連絡を入れてあげて欲しいな」
「本当にパラ実でいいの? 不良校だし」
「そう自分も思っていたですにゃ……」
 ゴビニャーも両親が反対するだろうと考えていたのだが、並木のご両親は転勤が多い仕事に就いていたらしく、娘が同じ場所で友達が作れないのを申し訳なく思っていたらしい。そのため高名な格闘家のもとで高校生活を送るのをそれほど反対はしなかったようだ。
「電話だと、お小言が降ってくるかもしれないけど。、葉書に『元気っ』と大きく書いて送るだけでも、安心してもらえるよ」
「そだ。並木ん、携帯交換しよー♪」
「すみません、携帯もったことなくって……」
 どうやら、並木は携帯電話を持ってないらしい。もらったことはあるのだが、現在使う気にならないらしかった。
「そろそろ行くにゃ。おむすび作ったから皆で食べるにゃー」
「はい、行ってきます!!」
 並木はゴビニャーが作ってくれたお弁当をもらうと、ルカルカとパラ実入口まで移動することにした。もらったチョコバーを食べながら、この前はお茶ももらったし、自分も何かお返しがしたいと考えた。何がいいかな?


「あ、見つけたー」
「かわいい子は皆私の嫁だよ!」
 パラ実付近では、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)アリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が並木の様子を見に遊びに来ていた。
「あ、氷雨ちゃん!」
「パラ実に転校したって聞いたから会いに来たんだよー」
 不良学校というだけあり、目つきのよくない生徒が何かと理由をつけてからんでくる。氷雨は探している最中に絡んできたパラ実生は笑顔で気絶させながら、並木のもとまで来たらしい。腕にぎゅーっと抱きついてきた。
「お、おねーちゃん。落ち着いて。並木さんがびっくりしてるよ」
「並木ちゃんが女の子でないわけないじゃない!!話を聞いただけで可愛い女の子だって想像できたわー」
「氷雨ちゃん、こちら方どちらさま?」
 リースと並木は初対面なので、間に氷雨を立てて自己紹介した。来る途中でリースは並木のことを男性だと勘違いしていたとアリスに話しており、どういう女の子かと盛り上がっていたらしい。アリスは並木を自分の胸にギュッと押し付けようとするが、限りなく怪しかったので並木は護身用のバットを抱きつこうとするアリスのほっぺにぐりぐりさせて距離をとった。
「しかし、間近で見ると本当にかわいいわねぇ……とりあえず写真を撮るわよ! 男の子っぽく見せようとして短く切った黒髪のボブカットや透き通るような青い瞳……。それに、控えめだけどちゃんと存在をアピールしてる胸も素敵ね〜」
「無事に着いてよかったー。相変わらずモヒカンさんが多いな。面白い。そういえば、無事に弟子入りできたの?」
「ううん、師匠は夏休み入るまでは真面目に学校通うようにって。授業内容をレポートするように言われたんですよ」
「へえ、大変なんだね」
 並木は面倒なのでアリスを無視することにした。リースは姉が暴走したら止めようとしていたが、マゾっぽい楽しみを満喫しているようなので『あえて』放っておくことにする。まあ、この姉くらいでひるむようではパラ実でやっていくのは無理だろう。そういう判断らしかった。
「クールなのも素敵。私の心を揺さぶるわー。ファンになっちゃいそうね」
 並木は外見ならルカルカのほうが女の子らしくてツボなのではないかと思った。並木は気付いていなかったが、ルカルカは並木の背後にいる不良たちをギンッと鋭い眼光でにらみつけている最中だったのだ。
「ルカルカさん?」
「え〜っとね、こっちの人たちにナンパされちったので、ちょっちお話ししてから行くね☆」
 並木は心配そうにしていたが、ルカルカが大丈夫×2☆ と背中かを押したので先に進むことにする。
 
「争い事好きじゃないし」
 一応、そう警告はしていたのだが絡んできたパラ実生は並木の小型結界装置が欲しかったらしい。去っていく並木を追いかけようとした1人の腹部を竜アーツ剛力の拳強連打し、バク転で下顎蹴り砕いた。
「D級四天王と知って、アヤつけたんか。ああ?」
 ルカルカは袋に入れてた闇ギロチンを肩に担ぎ鬼眼で威圧し、倒した不良の背中をぐりぐりと踏みつけた。
「ダチにも、手ぇ出すんじゃねえぞ」
 そういってしばらく並木の背後を狙う不良たちをけん制していた。


「あ、ボクそろそろ帰らないと……また会いに来るねー」
「そうなんですか、今度は葦原に遊びに行きます」
 アリスを引っ張るリースは、このあと方向音痴の氷雨の面倒もみることになりそうだ。そんなことはお構いなしに鼻歌を歌いながらとことこと歩いていく氷雨。突然くるりと振り向くと、にっこりと笑って手を振った。
「何か困ったことがあったら相談してね。お友達が困ってるならボク、力になるからー。またねー」
「ありがとう〜!」
 並木も手を振ってそれにこたえる。氷雨はあだ名をつけようと思っていたのだが、どうやら契約できていないようなので次回に持ち越すことにしたようだ。
 入り口には姫宮 和希(ひめみや・かずき)瀬島 壮太(せじま・そうた)がいる。和希から連絡をもらっていた椿 薫(つばき・かおる)は木の上からこっそりと見守っていた。
「よお、この前は変な空気にしちまって悪かったな」
「あっ。かき氷の人」
 並木はこの兄さんは蒼学だった気がしたが、柄シャツを着ていたのでパラ実にもよく遊びに来るのかな? と思った。
「このパラ実でやって行こうってんなら、ある程度のトラブルは自分で乗り切っていけないとな」
「笹塚並木です。よろしくお願いします」
 和希はパラ実新生徒会会長として新入りの面倒をみてやろうと、自分と少し似た雰囲気の後輩と握手を交わした。
「まぁ、本当に困った時は俺や周りの奴に声をかけてみな。みんなコワモテで癖のある連中だが、気のいい奴らばかりだ」
「あんたからすりゃ護衛なんて屈辱かもしれねえけど、よかったら今日だけ俺も付いてくか?」
「うーん、どうしようかな……」
 並木はパラ実の不良に絡まれた時に、これまで周りの人がフォローしてくれていたので治安の悪さがピンと来ていないようだ。学校の先輩の和希はともかく、他校の壮太の世話になっていいものか迷っていた。並木自身は、壮太の所帯じみた感じが地球人ぽくてとっつきやすいと感じている。
「並木殿っ。ここは素直にお願いするでござるよ!」
「へ? あれっ、いまニンニン聞こえたような」
 他校に行ったもののなじめているか心配だった薫は、隠れ身と隠形の術を駆使して並木の周囲に張り込んでいた。袖触れ合うも他生の縁でござる。
「気のせいだったのかな。えと、瀬島さん。お言葉に甘えさせていただきます」
「万が一結界装置でも取られてあんたの身に何かあったら、辛い思いすんのはゴビニャーだからな」
「そうでござるよー」
 ……また、誰かの声が聞こえたような? ううむ。
「みんなコワモテで癖のある連中だが、気のいい奴らばかりだ。早く信頼できる『ダチ』ができることを祈ってるぜ」
 和希は登校していたパラ実生を集めて簡単な歓迎会をやろうとしていた。そこに並木を連れていくようだが、つきっきりなのもよくないと思い場所を説明すると金銭目当ての不良が絡まないように気を配っていた。
「アァ? パラ実に新入生だァ? じゃあ、そいつにパラ実の厳しさを教えねぇとなァ、グヘヘヘ」
 並木が和希、壮太と歩いていると前方からきた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と軽く肩がぶつかってしまった。いや違う、これは噂の当たり屋だ!!
「いてぇなあ。折れちまったんじゃねぇのぉ?」
「ててて、すみません。こちらの不注意でした」
「いいピアスしてんじゃねぇかァ」
 やばい、完全に因縁をつけられてしまった。どうしたものかとゴビニャーからもらったバットのグリップとお弁当箱をにぎりしめる。
「並木殿、紙が落ちたでござるよ!」
「ああもう、誰かわからないけどありがとうございます!!」
 うっかり屋さんのゴビニャーは七瀬歩からもらったメモをお弁当に挟んだまま伝えるのを忘れてしまったのだ。2つにたたまれたメモには『並木さんへ』という文字が書かれていたので、非常時ではあるが開いてみる!!


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困ったことがあったら、ナガンさんに相談すると良いですよー



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「誰だこれは!?」
 今、まさに困っているんですけどー!?
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)とは一体……。

 和希はオイタの過ぎた竜司にドラゴンアーツつっこみをしていた。翻るスカートの中身がちらちらと見えそうで薫はドキドキした。壮太は並木のメモを後ろからひょいっとのぞいてみた。
「ああ、こいつは超いい奴だ」
「グヘヘ、ナガンかよぉ」
「ナガン殿でござるかー」
「ナガンがどうしたって?」
 どうやらその場にいる人間は全員ナガンという人物を知っているらしい。並木は、知名度的にドージェのような存在なのだろうと感じた。
「罪を憎んで人を憎まず。な?」
「こういう風に絡まれる事があるから気をつけろよぉ」
「あ、演技だったんですか〜。アドバイスありがとうございます、吉永先輩」
「いきなりモヒカンのパラ実生に囲まれてもビビっちまうだろ
まずはイケメンのオレが慣れさせてやらねえとな、グヘヘ」
 自称イケメンの竜司によると、向こうで並木以外の新入生にもバイクを教えているらしい。ちょうどいいから誘ってみようとしたが、せっかくなので彼なりに手厚く歓迎してみたそうだ。


 そういう事ならと和希・壮太・薫は竜司に後を任せることにする。バイク訓練場では武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が助っ人で参加している。パラ実に入学した日比谷 皐月(ひびや・さつき)雨宮 七日(あめみや・なのか)が元蒼学ということもあり特技の二輪を伝授していた。竜司は可愛い女の子の後輩が増えてうれしそうにしている。
「俺の名前はケンリュウガー!! 前回は悪かったな、今日はお前にバイクの乗り方を教えるぜ!!」
「えー」
「えーって言わない!!」
 どうせなら女の子と喋りたいな〜。並木は二輪の練習をしている皐月と、それを見ている七日に話しかけた。同期の友達が欲しかったのかもしれない。
「こんにちは、笹塚並木です。今日転校してきました」
「オレ達もここに来たばかりなんだよ。で、実際困ってたんだ。何せ、何もかもぶっ壊れちまってるからさ」
 皐月と並木は地球での暮らしや好きな食べ物、趣味などについて盛り上がった。しかし、皐月は七日に迷惑をかけた時にしているところがあるらしく、彼女のために何かしたいという気持ちがあった。並木に話しかけたのは若干、そういった思惑が働いてのことだったのかもしれない。
「なあ、良ければオレ達に付き合っちゃくれねーかな。キミさえよければ七日の友達になってくれない?」
「あの女の子ですか?」
 七日には皐月と並木の会話は筒抜けだった。
 まったく、どこにいようと自分は自分でしかないでしょうに。それなのにまたどうでもいいことを考えて、馬鹿馬鹿しい。……仕方有りません。面白くも何も無い目論見ではありますが、乗ってあげる事にしましょうか。
 自分を見つめる竜司の視線が痛かっただけかもしれないが、腰かけていたアスファルトから立ち上がりお尻の砂を払う。
「七日です、よろしく。獣人の師匠に弟子入りと聞きましたが、動物がお好きなんですか?」
「動物は可愛いと思うけど……そういえば皐月さんも格闘家なんですね! 自分は修業のために来たんですけど、七日さんたちはどうして転校したんですか?」
「……私たちにはここくらいしか、転校許可がおりませんから」
「?」
 パラミタの知識が少ない一般人に説明するのは難しそうだ。
 七日はケンリュウガーとやらと皐月がなにやら頑張っていますね、と話題をそらした。牙竜はスポーツクルーザーという種類のバイクを操り、ライザーが設定したコースを疾走している。
「バイク技術の向上とは言え、これは特訓であり修行。きっちりやらなければ!」
 ライザーは廃墟の地形をいかし、特技の土木建設で特撮ヒーローが爆炎の中を走り抜けるようなコースを用意していた。ジャンプ台も整備し、廃墟から採石場にいたる道では装備している機晶キャノンと六連ミサイルポッドを狙ってスリルのある演出をしていた。
「私には、まだ、皐月が居てくれていますので」
 基本的な操作をおそわったばかりの皐月は竜司とケンリュウガーにバイクの知識やドリフト、ウィリー、ジャンプなどを教わっていた。七日と目があった皐月は、女の子同士仲良くやれてると思ったのかにっこりとほほ笑んでいる。
「……まぁ、正直に言えば、周りに誰も居ないというのは寂しくも有ります。貴女はどうですか? 寂しくは、有りませんか?」
「あのケンリュウガーって人、悪い人じゃないんだけど強引なんですよね〜。
 ……んー、自分は覚えたいことややりたいことが多すぎて寂しい気持ちはまだないです。七日さん、自分たちも、バイクを教えてもらいに行きましょうか?」
「……嫉妬なんかしていませんよ。ただ、皐月には余り近付かないでください。『私たち』も学校に慣れるまで少々時間をいただくので」
 並木は七日の言葉に棘は感じたが、近くにいても怒られなさそうだったので仲良くなるのに時間がかかるタイプなのかなーと考える。
「おいぃ、ちょっと付き合えよ。どうせ暇してんだろ?」
「吉永先輩! わー、すごいバイクですね」
 竜司はスパイクバイクに並木を乗せて牙竜とライザーの作ったコースを走ろうと誘った。ケンリュウガーも気を利かせて七日がよければ後ろに乗せようか? と提案した。
「七日さん。吉永先輩っていい人ですね〜」
「……そうですね」
 七日は他のヒーローとの差別化を図るために個性的な改造を施されたケンリュウガーのバイクを見ながら、学校になじめる努力だけはしてみることにした。