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「暗き森のラビリンス」毒草に捕らわれし妖精

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「暗き森のラビリンス」毒草に捕らわれし妖精

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第5章 石化を愛でる者

「床に気をつければ・・・と思ったけど。そう簡単に通してくれないようね」
 十六夜 泡(いざよい・うたかた)は空とぶ箒の上に立ち乗りしながら幻草陣の中に入る。
 ギャザリングヘクスを飲み、侵入を拒む棘をファイアストームで焼き払う。
「入り口付近はすでに他の生徒が起動したようね」
 泡のポケットから顔を出し、リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)がワープ装置を見下ろす。
「あれ、いったん降りないと反応しないのかしら」
 箒から降りて泡とリィムは2階へ移動する。
「よっと。さて・・・まだ起動してない装置はあるかしら?」
 泡は箒に乗り辺りを見回す。
「こっちは誰か通った形跡があるわね、向こうに行ってみようか」
「そうね」
 10mほど進むと1階で使ったワープ装置と同じ形のやつを見つけた。
「これに雷術を使えばいいの?」
 泡とリィムは起動させようと、雷術の雷の気を流し込む。
「上手く行ったわね」
「しっ、静かに・・・誰か来るわ」
 ワルプルギスの書を手に持ち人影を睨んだ。
「あれ?誰かと思ったら泡さんだ」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)が声をかける。
「よかった・・・敵対している方かと思いました」
 妨害しようとしている者ではないと確認し、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)もほっと安堵の息をつく。
 泡が見つけた人影の正体は彼らだったのだ。
「行き止まりだらけだな・・・」
 天 黒龍(てぃえん・へいろん)は疲れた様子でため息をつく。
「装置を使って移動すれば、行き止まりの先にいけるかもしれないわよ」
「―・・・つまり、2階に転送されたり・・・、1階へ降りたりして移動するのか・・・・・・」
 泡の説明に彼は、ややこしい仕組みだと顔を顰める。
「黒龍くん待ってよ」
 使い魔のカラスの羽音を頼りに進む高 漸麗(がお・じえんり)が、彼に追いつこうと必死に歩く。
「高漸麗・・・もたついていると、置いていってしまうぞ・・・」
「えぇーっ、待ってよー!パートナーを大事にしないと、また地味に嫌なことが起こるよ!」
「やかましい・・・。あ・・・あんなの・・・ただの偶然だ。―・・・ぁっ、ぶふっ!」
 漸麗を放って進もうとすると、黒龍は地面の蔓に躓き顔面直下してしまう。
「何か地味に嫌なことが起こったみたいだね?」
 黒龍の声を聞いた漸麗は、彼に何か起こったのだと気づいた。
「―・・・うっうるさい!偶然だ・・・偶然・・・・・・」
「ぷっ」
 傍で風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)がクスリと笑う。
「あの、望?」
「なんです?」
「普通こういうのは、逆なんじゃない?」
「お嬢様が物を探したり調査したところで、折角の手がかりなどを壊すのが相場です」
 ノートを見下ろすように、望は腰に両手を当てて断言する。
「うくっ・・・!わたくしをそんな風に思っていたとは・・・。酷い・・・酷いですわ!わたくしだって黒蝋の1つや2つ探して、皆の役に立てますのに。それなのに・・・、それなのに・・・うぅ・・・」
 袖を目元に当ててノートは床にぺたんと座り、泣き崩れるフリをする。
 周囲が急に真っ暗になり、彼女にスポットライトが当たる。
「泣きマネしても無駄です」
 望の一言で演技効果が一瞬で消え去ってしまう。
「むっ、わたくしの迫真の演技を見破るとは・・・さすが望」
 演技を見破られてしまったノートは立ち上がり、服についた土を両手で払う。
「それじゃあ私たちは、他の装置を起動してくるわ」
「私たちは黒蝋を探すので、ここでいったんお別れですね」
 泡とリィムはクリスたちと別れ、別のワープ装置を起動させに行く。



「行き止まり?」
「いえ・・・ワープ装置がありますわ。まだ誰も起動してないようですわね」
 1階に降りた望とノートたちはワープ装置を見つける。
「ここはまだでしたね」
 メイベルたちが1階に降り、望たちの方へやってくる。
「―・・・動きました!」
 円型の部分が緑色に変わり、雷の気を流すことに成功した。
 装置に乗ると2階へ転送される。
「別の通路に出たようですわね」
 まだ通ったことのない道かどうか、フィリッパは辺りをキョロキョロと見回す。
「黒蝋、見つかりましたか?」
「あははっ・・・それがまだ1つも・・・。他の生徒さんがすでに見つけているかもしれませんね」
 首を傾げて聞くメイベルに、望が苦笑いする。
「もしかしておみくじの結果の影響とか?」
「なん・・・だと・・・・・・!?」
 漸麗の言葉に黒龍が、ぎょっとする。
「もしかして黒蝋が見つからないのって、黒龍様の不運が原因では?」
 望がこっそりメイベルに話す。
「あれから何時間探しているんですか?」
「もう3時間ですよ」
「えぇーっ、そんなにかかっているんですの!?」
 フィリッパが驚愕の声を上げる。
「黒龍くんが日頃、僕を大切にしてくれないから。おみくじが超凶だったし」
 正月のおみくじの超凶を引いてしまった影響だと言う。
「超凶ってなんですか!」
「これだけ探して見つからないってことは、わたくしたちにもその不運が!?」
 本人に聞こえないよう、小声で望とノートが話す。
「もしかして・・・ウイルスみたいに、私たちへ感染してるってことですかぁ〜!いやすぎますぅ〜!!」
 メイベルは恐ろしさのあまり、身震いをしてしまう。
「まったく・・・、そんなもの感染するわけないじゃないですか。もしそうなら傍にいません」
 それだけ言うと緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は先に進む。
「―・・・今、さりげに酷いこと言わなかったか・・・!?」
 遙遠の言葉を脳内で再生した黒龍は、先に進む彼の方へぱっと振り向く。
「あぁ〜、何か起こらなきゃいいけど」
「ふざけるなこれ以上何を・・」
「ねぇ、そのお探し物ってこれかな?」
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が背後から黒龍に声をかける。
「きっとそれだ・・・」
「何?その手」
「それをこっちに・・・」
「ふっふふー♪欲しかったら・・・、とってくればー?」
「んなぁっ!?」
 黒蝋を毒草の群れに投げられ、黒龍は唖然とする。
「さっそく何か起こった?」
「こ・・・これが・・・地味にいやなことか?ほんのりハードの領域に・・・、片足を突っ込んではいないか・・・!?」
 のん気にニコニコ笑顔で聞き返す漸麗に対し、黒龍は両手で頭を抱える。
「シャムシエルに会う前に、面白い不幸イベントに遭遇できたな」
 地獄の天使の羽で飛びながら、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)はクスクス笑い彼らを見下ろす。
「ついでにプレゼントをやろう」
 毒虫の群れを呼び、毒草に噛みつかせてワサワサと増やす。
「じゃあ俺からもあげちゃおうかな。喜んでくれるといいんだけど♪」
 マッシュは灰色の毒草にペトリファイを放ち、1匹から10匹へと増やしてしまう。
「それにしても、まさかこんなにいるなんてね」
 ノートたち見てニヤリと笑う。
「邪魔をするなら倒しますわよ!」
「毒草でじわじわ石化する姿を見るのもいいけどさぁ。それだけいるなら1人くらい直接・・・くくっ」
 翼の剣で向かってくるノートを狙い、さざれ石の短刀で彼女の腕を斬りつけようとする。
「くっ・・・、ぁあっ!」
 ノートを庇い黒龍が変わりに石化されてしまう。
「ちぇっ、そっちか。まぁいいや、あんたらはその毒草の群れと戯れてなよ。俺たちはシャムシエルと合流して、他のやつらを狙うからさ」
「そんなことはさせませんっ!」
 ワープ装置の方へ走り移動しようとするマッシュに向かって、遙遠がブリザードを放つ。
「何それ?ぜーんぜん痛くないねぇ〜」
 痛みを知らぬ我が躯の効果で、吹雪による凍結の痛みをまったく感じないマッシュは、シャノンと共に別のフロアへ移動してしまう。
「逃げられてしまいましたか・・・。(まったく効いていないわけではないようですから、対処のしようはありますね)」
「何?何があったの!?黒龍くんどうしたの?これ腕・・・だよね。石みたいに硬いよ!どうしちゃったの、ねぇ!」
 黒龍の悲鳴を聞き、漸麗はカラスの羽音を頼りに駆け寄る。
「叩くな・・・割れたらどうする・・・!」
「毒草は遙遠たちが片付けます。さぁあなたたち、よろしくお願いしますね」
 灰色の毒草をアンデッドに任せ、他の毒草を吹雪で凍てつかせる。
「植物も凍ってしまえば終わりですね」
 望はハルバードを振り回し、動けない毒草に止めを刺す。
「お嬢様。相手の特殊能力にだけはかからないくださいよ」
「の、望が私の心配を・・・!?」
「“ナーシング”もSP0じゃないんですから」
 黄色の毒草を爆炎波で燃やしているノートに向かってさらりと毒づく。
「あの草ってある程度、自由に動けるみたいですねぇ」
 黒蝋を蔓で放りながらどこかへ持っていこうとする毒草を見て、メイベルはきょとんとした顔をする。
「そんなまさか。何かのデジャブーじゃあるまし・・・あるはずがないです・・・って・・・どういうことですか!?」
「植物ですし・・・そういうふうに動くこともあるんじゃないですか?」
 驚く遙遠に対して、メイベルは当然のように言う。
「持ったまま動かれるよりはマシだと思いますよ」
「埋まったまま動く・・・たしかにあの人食い植物よりは・・・。いえいえ、今はそんなことを比べている場合じゃありません。まったくアンデッドたちは何をやっているんしょうか・・・。なっ!?あなたたち、何石化されているんですか!?」
 遙遠がアンデッドたちの方を見ると、毒草に石化されてしまっている。
「早く追わないと、見失ってしまいます!」
 蔓を斬り落としクリスは仲間たちに、黒蝋をどこかへ隠されてしまわないうちに追いかけようと促す。
「こんなところで石化しないでください」
「すまない・・・。(―・・・庇ったはずだが、何で怒られているだ・・・)」
 左足まで石化してしまい、まともに動けない黒龍は、望とノートに肩を貸りる。



「何か・・・すごい勢いでこっちに走ってきてる」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は超感覚により、犬耳と尾を生やして辺りを警戒する。
「他の生徒かな?」
 足を止めてエル・ウィンド(える・うぃんど)も、リアトリスの視線の先を見る。
「聞き慣れない足音だよ・・・。何か言ってる・・・おも・・・?まだ遠くにいるみたいがからよく聞こえないな」
「おも・・・?何だいそれ」
「仲間でないなら、ここを離れたほうがいいですね」
 パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)が他のフロアへ行こうと、ワープ装置の方へ走る。
「まずいよ、もう来る!」
「えっ、早くないですか!?」
 察知した数秒でやってくるのかと、パルマローザが目を丸くする。
「2人とも早く地面へ伏せて!」
「どうしたっていうんだいっ」
「いいから早く!」
 リアトリスはドンッと2人の背を押して地面へ伏せた瞬間、身体スレスレを冷気の剣風が通過する。
「ちぇー外しちゃったみたいだね」
 つまらなそうにシャムシエルが口を尖らせた。
「ある程度は覚悟してたけど、いきなりこんなのが現れるなんて・・・」
「今度はちゃんと当ててあげるからねっ」
 光条兵器の柄を握り、リアトリスへ切っ先を向けて土を蹴る。
 ガキィインッ。
「むっ、邪魔しないでしょ!」
 斬撃を止められたシャムシエルが顔を顰める。
「―・・・邪魔をしているのは、そっちのほうだろう・・・・・・」
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が初霜の両刀で止める。
「私たちに任せて行け・・・」
 黒蝋を探しているリアトリスを逃がそうと、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)はブライトシャムシールを構える。
「うん・・・ありがとう」
 リアトリスは軽く礼を言うと、エルたちと共に通路を走る、
「うぁー・・・すごいのまで来たね」
 ラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)は光学迷彩で姿を隠しながら、厄介な者が来てしまったと頬に冷や汗を流す。
「さっきより少ないな。ここを片付けたら、逃げたやつらもやっておくか」
 シャノンは毒草を毒虫の群れに噛ませて増やし、クルードたちを囲う。
「―・・・それくらい数、・・・一瞬で消してやる・・・・・・」
 乱撃ソニックブレードの刃風を放ち、標的を真っ二つに斬り裂く。
「そらそら、もっと増やしてあげるよ〜♪これだけいると、迂闊に技を使えないだろうねぇ〜?」
 苦戦するアシャンテを見て、マッシュは小ばかにしたように言う。
「―・・・っ。(私たちを消耗させて、いっきに仕留めるつもりか・・・?)」
 ブライトシャムシールでシャムシエルを狙うものの、灰色の毒草が邪魔をして相手に刃が当たらない。
「クリーチャーやアンデッドに任せて・・・、自らは高みの見物か・・・・・・」
「べっつにぃ、こっちから仕掛けてやってもいいけど。その代わり・・・石にされても文句言わないよね?」
 クルードの言葉をフンッと笑い飛ばし、マッシュは獲物を指でツゥーッと撫でる。
「(石化か・・・どこまでも卑怯な手を使うやつらめ・・・・・・)」
「今これをあんたに使うつもりはないよ。これから逃げたやつらを石にするんだからね」
「シャムシエル・・・そろそろ追わないと、逃げられてしまうかもしれないぞ」
「そうだねぇ、見てるのも飽きたし行こうか」
「毒草だけで・・・俺たちを止められると思っているのか・・・・・・?」
「ほぉ〜お?だったらグールたちもおまけにつけてやろう。行けっ、お前たち!」
 シャノンは7体のグールに命令して彼らを足止めさせる。
「まずいぞクルード・・・。彼らを石化させられてしまうと・・・」
「―・・・あぁ、これ以上時間を費やすかけにはいかない・・・。相手の計画が実行されてしまうかもしれないからな・・・・・・」
「ならば・・・ここを早く片付けるとしよう」
 エルたちを助けに行こうとアシャンテは、光の刃でクリーチャーを斬り消滅させる。
「お前らと遊んでいる暇はない・・・・・・、通させてもらう・・・」
 グールの爪を片方の刃でガードし、地面へ蹴り飛ばす。
「全てを相手にしている時間はない・・・。行くぞ・・・アシャンテ・・・・・・」
「了解した・・・」
 彼の言葉に軽く頷き、マッシュたちが向かった先を追う。
「わわっ、置いて行かれる!待ってよーっ」
 慌ててラズが後を追う。



「ここまで来れば平気かな?」
 マッシュたちが追ってこないか、リアトリスは耳を済ませる。
「―・・・ん?何か聞こえる・・・」
 ガサガサッと葉が擦れ合う音を聞き取る。
 ダンッタンタンッ。
 ステップを踏みながら、高周波ブレードの柄を咥え、捕らえようと迫る蔓を殴り潰す。
 カツンッタタンッタンッ。
 くるりと舞いパルマローザを狙う毒草の牙を拳でへし折る。
「また何かくる・・・誰かの気配のような感じがするけど。冷たい冷気・・・アルティマ・トゥーレ!?この距離じゃもう避けられないっ」
「リアトリスさん!」
 エルはリアトリスを庇うように立つ。
「逃げてーっ!」
「女性を放っておいて、僕だけ逃げるなんて出来るものか!!」
「いいわね、その生き様。防ぎきれないかもしれないから、ちゃんと盾になってあげなさいよっ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がシャムシエルの光条兵器に殴りかかる。
 刃の軌道がずれ、冷気はエルの腕を掠めた程度だった。
「むっ、また邪魔なやつ」
「それはお互い様よ!」
 パワーブレスで打撃を強化し、相手の腹部を狙う。
「邪魔者は全部消してやる、えぇえいっ」
 切っ先で受け止め壁際へ突き飛ばす。
「―・・・うぅっ」
「あぁ〜、あんなに傷だらけになって。しかたねぇな」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)がリカインの傷をヒールで癒す。
「回復するなんてずるーい!」
「ふっ、持久戦になれば回復魔法を使ってもらえるほうが有利よ」
「うーんじゃあ、こういうのはどう?」
「何よ・・・」
 笑顔でいう敵に対し、リカインは目つきを鋭くさせて睨む。
「ボクがその子を洗脳しちゃうとか♪」
 表情を変えないままシャムシエルがアストライトを指差す。
「は・・・何言っているのよ」
「俺を洗脳するだと?」
「だーかーらー、ボクが洗脳して回復役に使うんだよ。あっはは、ボクってかしこーい」
 アストライトと目を合わせ、自分の光条兵器の力で洗脳しようとする。
「うっ・・・く・・・・・・リカ・・・」
「どうやって洗脳を・・・?」
「ボクに回復魔法使ってよー」
 シャムシエルの命令通り、アストライトは彼女にヒールをかける。
「ちょ、ちょっと!何で敵にヒール使ってるのよっ」
「呼んでも無駄だよ、洗脳しちゃったもんねー」
「うぅっ、仕方ない・・・ごめんっ!」
 ゴツンッ。
 リカインはアストライトの頭を殴り気絶させる。
「あぁーっ、ひっどぉおい!仲間を殴るなんて最悪〜」
「何よ、あんたがそんなことするからじゃないの」
「うわぁんっ、つまらない、つまらなぁあいっ〜!ボクだって回復役欲しいのにぃい!他のやつらばっか、ずるいよぉお!!」
 自分の思い通りにならないシャムシエルは、ドスドスッと地団駄を踏む。
「はぁ・・・まるで子供ね」
 その振る舞いにリカインはため息をつく。
「シャムシエル、さっきのやつらはどうした?」
 彼女の後を追い飛んできたシャノンは、エルたちがどこへ行ったのか聞く。
「あっ、そうだった!この子を片付けてからと思ったんだけどね」
「行かせないわよ・・・ティセラの敵は私が倒す!」
 鉄鋼をはめた拳を向けシャムシエルを睨む。
「へ・・・?」
 リカインの言葉にシャムシエルは、きょんとした顔で首を傾げる。
「ウイルスを作って剣の花嫁を倒そうっていうならあんたも敵よ」
「ぷっ、あっははは!やだなぁー邪魔な敵の剣の花嫁を倒すだけだし。ボクたちがティセラやパッフェルにそんなことするわけないじゃない」
「え・・・えぇ!?」
「だからぁー、キミの勘違いだよ」
 片手を振ってシャムシエルはシャノンたちと共に、リカインとアストライトをその場に残してエルたちを追いかける。
「勘違いをしていたとはいえ、そんな・・・そんなことを実行させていいの?ティセラに協力したと思っているけど、奪って傷つけるやり方を見逃すの?私はいったいどうしたら・・・」
 3人が去った後リカインは力なくぺたんと地面に座り、顔を俯かせてどうするべきか考え込む。



「見つからないな、あいつらが来る前に黒蝋を探さないと・・・」
 再び襲撃される前に探し出そうと、エルはフロア内を必死に探す。
「ん?蔓に何か絡まっているな」
 取ろうと手を伸ばすと、ベシンッと蔓に叩かれてしまう。
「イッたた・・・この蔓、毒草か?」
 氷術で凍らせて剣で斬り落とし、蔓と一緒に落ちた黒蝋を拾い上げる。
 術が解けて毒草の蔓がぐにゃぐにゃと動き、エルの足に絡みつこうと地面を這う。
「このっ、しつこいやつだな」
 踵でグシャッと踏み潰す。
「やっと見つけたね」
「これを持って石版部屋へ行こう」
 七枷 陣(ななかせ・じん)たちが待っている場所へ向かおうと歩き出した瞬間、何者かの足音が近づいてくる。
 それもかなり大勢だ。
「何?またあの人たち!?それにしても数が多いような・・・」
 リアトリスが耳をぴくつかせる。
「違うようですよ」
 パルマローザが遙遠たちの姿を確認する。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・エルさん、毒草の蔓が黒蝋をこっちへ運んだと思うんですけど、見ませんでしたか?」
「もしかしてこれかな?」
 見つけた黒蝋を遙遠に見せる。
「それです!よかった・・・てっきりまたどこかに隠されてしまったのかと思いました」
「いいのかなぁ?そんなに安心して」
 会いたくない者の声が聞こえ、生徒たちはいっせいに振り返る。
「みぃーんな仲良く石になっちゃいなよ」
 SPタブレットをポリポリ食べながら、マッシュは灰色の毒草に石化の術をかけて増殖させる。
「見物するのも面白ねマッシュ。これでお茶菓子でもあればいいのになぁ♪」
 シャノンの傍へ行き草の上に座ったシャムシエルは、ゆっくりと見学モードに入った。
「そうやってのん気にしていられるのも、今のうちですよ」
「ふーん、すごーく抵抗してくれるやつじゃないと楽しくないから。見てるだけで十分」
 睨みつける遙遠に対し、直接戦うまでもないと傍観を決め込む。
「いいねー、もがき苦しむ姿。苦しみながら石化してくれるなら、もっと最高だねぇ〜。ヒャハハ!!」
「こんな手にやられるなんて・・・」
「うぐっ、数が多すぎて倒しきれませんわ」
 リアトリスを庇い毒草に噛まれて石化するエルや、まともに動けないセシリアを守ろうとするフィリッパが餌食になる姿を見てマッシュが狂い笑う。
「絶望に沈めっ」
 シャノンは再び毒虫の群れを呼び毒草を増やす。
「こうしている間にも、魔力は奪われていくわけだ。どんな手を使っても、ティセラが女王になればいい・・・ククク」
「ねぇねぇぺっとたちは〜?」
「ふむ、もう片付いただろうからな、回収しに行くとするか」
 放ったグールを回収にしに行こうと、シャノンたちは毒草を放置してエルたちから離れていく。
「こんなにコケにされてしまうとは・・・。追いかけて叩き潰したいところですが、今は堪えてこの毒草をなんとかしないと」
 遙遠はブリザードで始末しようとするが、200匹に増えてしまった毒草を退治しきれない。
 メイベルも仲間を守るので手一杯だ。
「魔力を奪うまでの時間稼ぎされたのかな」
 綺人は妖刀で蔓を斬りながら遙遠に言う。
「えぇ、おそらくは」
「こうしてる間にも、グールを回収して戻ってくるかもしれないよ」
 毒草を殴り潰しているリアトリスが、マッシュたちが戻ってきて増やしにくるかもしれないと焦る。
「そんなことされたら、僕たちの体力がもうもたないよ!」
 冗談じゃないと綺人は首を左右に振る。
「探すのに手間取ってしまったな・・・・・・」
 大量のクリーチャーを、クルードが刃風の餌食にする。
「わぁー・・・なんか色と同じもんが・・・。動いてるの持ってくわけにもいかないから仕方ないけど」
 ラズは煎じて剣の花嫁たちに飲ませようと、動かなくなった毒草を拾う。
「もたもたしていると、やつらが来ちゃうよ。急ごう!」
 リアトリスたちは彼らが戻って来ないうちにその場から離れようと石版部屋へ走る。
 一方、グールを回収にしに行ったシャノンたちは、斬られてぐったりとしているグールを見て逃してしまったのかとため息をつく。
「まぁいい・・・この計画を阻止するならば、再び妨害してやるまでだ。なぁシャムシエル」
 そう言いシャノンはシャムシエルに笑いかける。