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リアクション
第5章 その身を喰らおうとする悪魔
「やっと休憩場につきましたねぇ〜。ここにウサギと持ってきた水を置いておきましょうか」
メイベルは袋に入れたウサギとポットにいれた飲み水を地面に置く。
「獲ってきたんで、料理お願いできますか?」
先に到着している弥十郎に、ウサギを料理してくれないか頼む。
「簡単な焼肉でよければいいよ」
「それでお願いします」
「じゃあちょっと待ってね」
ウサギの毛を包丁で剥ぎ取り、切り分けた肉をフライパンに乗せ、火術の火力を調節して焼く。
「どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございますぅ〜」
「美味しいっ」
「焼き加減がちょうどいいですわね」
皿に盛られた焼肉を、セシリアとフィリッパが箸でつまんで食べる。
「これもらいます」
メイベルも熱々のお肉をぱくりと食べた。
「うーん、これにしよう!んーっ柔らかい〜」
箸でどれにしようか選び、リーズはもぐもぐと頬張る。
「ふぅ・・・ごちそーさん」
食べ終わった陣が水を飲む。
「お腹もいっぱいになったことですし、行きましょうか」
「気をつけてね」
月雫鉱を採掘しに行くメイベルたちを弥十郎は片手を振って見送る。
「何かに見られているようですね。休憩エリアを出た辺りから殺気を感じます・・・」
殺気看破で気配を感じ取ったメイベルが陣に小声で言う。
「この感じ・・・悪霊でしょうか」
「足音で気づかれったんか・・・」
静かな洞窟内では足音まで消しきれなかったかと、陣はメイベルの視線の先を見る。
「陣くんは退いてて、光輝属性の魔法攻撃とか出来ないからね」
「んなっ」
水場以外の場所にもかかわらず、まったく戦えない状況に彼はズゥーンとへこむ。
「お下がりくださいご主人様」
真奈は光術を放ち、とり憑こうとする悪霊から陣を守る。
「攻撃出来ないからって、ただ見てるわけにはいかないっつーの!」
「ナイス、陣くんっ」
陣が奈落の鉄鎖で悪霊の片腕に絡みつかせた鎖をつたって、破邪の刃の聖なる光が邪悪な霊を斬り裂く。
「潰してあげるっ」
セシリアはモーニングスターの形状をした光条兵器で殴りナラカへ沈める。
「まだ何か近くにいるようだから、見つからないうちに走れ!」
ディテクトエビルで悪霊の気配を探知した陣が、セシリアたちに急いでその場から離れるように言う。
「月雫鉱・・・じゃなかった。これもただの石ころかっ。どこにあるんだ、もたついているとまた敵に見つかるかもしれないし」
「皆様、こちらへ来てください」
「どうしたんだ?」
真奈に呼ばれ陣たちが駆け寄る。
「行き止まりじゃないか」
「いえ、よく見てください。土壁の中にわずかですか、鉱石が光っています。おそらくこれが月雫鉱かと」
「おしっ、じゃあ採掘するかっ」
つるはしで硬い土壁を削り、月雫鉱を採掘する。
「宝石みたいでキレイだね。こんなのあったら、闇商売しているやつが取りに来そうだけど」
「このような場所は、危険すぎて誰も来れないのでは」
薄い象牙色の鉱石を見つめるリーズに真奈が言う。
「それで誰も取りに来れなかったのかな」
「何だろうこれ、骨・・・?」
足元にある骨をセシリアが拾ってメイベルに見せる。
「これは・・・人間の骨じゃないでしょうか・・・」
渡されたそれを見て、形からして獣の物ではないようだ。
「うっ、やっぱり誰か取りに来て死んだのかな」
2人の会話を聞いてしまったリーズが頬に一筋の冷や汗を流す。
「いつもはこれくらいじゃ疲れないんだけどな。これも瘴気の影響なのか・・・」
瘴気の影響を受けて体力が減退してしまった陣はヒールで回復する。
「集めたやつは陣さんが持ってきてくれた、おもちゃの袋の中へ入れましょう〜」
「ちょっ、詰めすぎじゃ?」
「僕のもお願いね」
「わたくしが集めたのもここへ入れておきますわ」
「えっ、全部オレが持つんか!?」
無遠慮に詰め込むメイベルたちに、陣が抗議の声を上げる。
「入らない分はちゃんと持つよ」
「どれくらい入るんでしょうねぇ〜」
「あのーもしもし?軽く50kgくらいありそうな気がするんだけどー?」
「うん、頑張ってね。引きずればなんとかなるんじゃない?」
おもちゃの袋を睨む陣に、リーズは可愛らしい笑顔で言う。
「そんなにあるの?僕たちもこれでいっぱいだから、持つの手伝えないね」
セシリアたちは動きやすいように、集めた鉱石をリュックに入れて背負う。
「あっ、ちょっ・・・待て!」
「どうしたの陣くん、急がないと今度は悪魔が出るかもしれないよ。もしもの時、いっぱい荷物持つと戦えないし」
手伝えと呼び止める陣を、リーズが遠まわしに拒否する。
「くっ・・・あとで覚えてろぉっ」
陣は袋の口をロープで結び、大荷物を1人でズルズルと引きずる。
-PM14:00-
「分かれ道ですか・・・たしか、そっちが白籠石ある場所ですから。遙遠たちが行く方はもう1つの道ですね」
「それじゃまた後で」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は白籠石を集めに来た東條 カガチ(とうじょう・かがち)たちと別れて右側の道へ進む。
「運ぶの大変なんだから怪我しないようにね」
「あぁ分かっているよカガチ・・・」
彼の忠告を聞き椎名 真(しいな・まこと)は、自分まで荷物として運ばれないように気をつけると、軽く返事を返す。
「いつもみたいに無茶するなよ?」
原田 左之助(はらだ・さのすけ)がさらに釘を刺す。
「―・・・兄さんも、無茶しないでよ?」
仲間を庇って怪我をしてしまうのではと思い、不安そうな表情をする。
「当然だ、荷物になりたくはないからな」
「そう・・・だよな、はははっ・・・」
ただでさえ人数が少ないのに、なるはずがないだろうと当然のように言う彼に、真は乾いた笑いを漏らす。
「あっ、悪霊!?」
ナラカの蜘蛛糸の端を掴み、不気味な幽霊を警戒する。
「悪霊・・・?あぁ・・・、これは遙遠の使い魔ですよ」
遙遠は首を傾げ、レイスを攻撃しようとしている真に言う。
「―・・・なんだ、遙遠さんの使い魔か。ごめん・・・」
謝りつつ真はシュルルッと糸を引っ込める。
「召命石・・・たしか水色の石でしたよね」
どんな形状だったか確認しようと、遙遠はメモを見る。
「そろそろヒールで体力を回復しておきましょうか」
漂う瘴気により奪われた体力を回復しておく。
「おい来てみろよ」
「兄さんもしかしてもう見つけたのか?」
「あぁ、案外早く見つかったな」
「これで間違いないようです」
「ん?足元に何かあるな」
左之助はそれが何か確認しようと拾い、手で触れてみる。
「うわっ、何だこりゃ!」
白骨化している人間の骨だと分かり地面へ投げ捨てる。
真っ暗な空間だから人の骨だと気づかなかったのだ。
「―・・・ちっ、せっかく見つけたっていうのに敵がいやがる」
岩場の陰に隠れて得物を狙う悪魔の気配を、左之助が殺気看破で察知する。
「なんだか予想以上に数が多いな兄さん」
「おおかた召命石を狙ってやってくるやつらを喰らおうと、この辺りをウロついていたんじゃないのか」
「この石はこいつらにとって、いい餌ということだな」
「そういうことだ!」
魔法を使われる前に仕留めようと、左之助は忘却の槍で悪魔の頭部を貫こうと、気配を頼りに地面を駆ける。
「レイトウ、ニクッ」
氷術の冷気を人差し指の指先に集め、向かってくる彼に放とうとする。
「させるかっ」
彼を守ろうと真が悪魔の両腕を糸で縛る。
「よくやったっ」
ニッと笑いランスバレストの一撃をくらわす。
砕かれた頭の骨と脳が土壁へドチャアッと飛び散る。
「こういう場所じゃ、上段の技を使わないのが基本だな。平突きの方が仕留めやすい」
片手で柄を握りもう一方の手で支えるように構え、2匹目を仕留めようと心臓を貫く。
「―・・・避けろ真!」
「オマエ、ジャマ」
もう1匹の悪魔が一瞬の隙をつき、ファイアストームを放ち真を焼き殺そうと炎の嵐で囲む。
「あぁああ゛ーっ!!」
「何やってるんですかまったく!」
遙遠がブリザードで炎を消す。
「あなたたちもちゃんと遙遠たちの盾になりなさいっ」
何をするでもなく、ぼーっとしてるレイスに向かって怒鳴る。
「エサ、・・・ハンゲキ、イケナイ・・・・・・」
霊体であるレイスを通り抜け、火術の火球が遙遠の片足に直撃してしまうが、ディテクトエビルの守りのおかげで軽い火傷程度で済んだ。
「痛いですね、何するんですか・・・」
「チキュウジン、ナマイキ!」
術があまり効いていないことに悪魔は怒り、リジェネレーションで傷が徐々に癒えていく遙遠を睨む。
「クッテヤル、クッテヤル、オマエをクッテヤル!」
「遙遠を食べるですって?いい根性してますね」
「―・・・・・・」
「黙ったということは、遙遠に臆したということですか」
「ナマイキ、イケナイ!」
「臆した時点で、あなたの死は決まっているんですよ」
罪と死の暗黒の気をヘキサハンマーに纏わせ、悪魔の片腕をグシャッと殴り潰す。
闇の棘で刺し貫き胴体を断裂させて葬る。
「終わりましたね。さて・・・採掘のほうは進んでいますか?―・・・て、1つも取れていないんですか!」
スケルトンに採掘を手伝わせようとしたが、つるはしの使い方がよく分かってないらしく、使い魔たちはどうしたらいいか悩んでいる。
「はぁ・・・遙遠たちがやりますから退きなさい」
つるはしを使い魔の手から取り上げて採掘を始める。
結局、数十分間も採掘することになってしまった。
「慣れれば簡単だな。この岩にあるのはこれで最後か。おーい真、そっちは終わったか?」
左之助は石を袋に詰めながら、進み具合を聞こうと声をかける。
「終わったよ兄さん」
「こっちも終わりました」
「休憩エリアへ戻ろう、さすがにもう体力がもたない・・・」
瘴気の影響で真はかなり疲労してしまっている。
採掘した石を袋に詰めて背負い、夕飯を作っている弥十郎がいるエリアへ戻る。
「悪魔の他に悪霊もいるんですよね」
遠野 歌菜(とおの・かな)はちらりとカガチの方を見て言う。
「どうしてこっちを見るのかな?」
カガチは刺さるような視線に気づき振り返る。
「仕方ないですよ。だって、カガチですから」
笑顔で柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が言葉のミサイルを放つ。
「俺だからって、どういうこと!?」
「あまり大きな声を出してしまうと、悪魔や悪霊に気づかれてしまいますよ」
エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)は顔を顰め、大きな声で抗議するカガチを注意する。
「そうですよカガチ」
「えぇ!?(酷い・・・あんまりだよ・・・)」
ショックのあまりカガチはしょんぼりとする。
「本当に誰の手も入っていないんだな、真っ暗だ・・・」
暗闇の通路の奥を見ようと、ブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)は睨むように目を凝らして歩く。
「どこから襲撃されるか分からないから気をつけろよ」
「私とカガチ先輩の超感覚があるから大丈夫よ」
「だからといって、油断は禁物だぜ」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)が傍から口を挟むように言う。
「行ってる傍から来たみたいだ・・・。エヴァは先に行け、ここは俺たちがなんとかする」
「分かりました・・・後から必ず来てくださいね」
エヴァはそう言うと洞窟の奥へ走る。
「ムスメ、メシ!」
「行かせるかっ」
壁から壁へと飛び移る悪魔を羽純が雷術で撃ち落す。
「歌菜、貸してやる・・・使え」
細身の片手槍の形状をした光条兵器を歌菜に投げ渡す。
「借りるねっ」
投げ渡された槍を歌菜はパシッとキャッチする。
「くっ、すばしっこいわね」
悪魔を突き殺そうとするが、軽身功の体術で軽々と避けられてしまう。
「ウマソウ、バンメシ!」
シュシュシュッと則天去私の殴りをくらわす。
「きゃあっ」
槍の柄でガードしようとするが、地面へ殴り飛ばされてしまった。
「悪魔め、歌菜に近づくなっ」
歌菜を喰らおうとする悪魔に羽純が雷術をくらわす。
「ギャエェエッ」
雷の気が身体中に走り気絶してしまう。
「他にもいますよ、カガチ!」
なぎこに言われて通路の奥を見ると、腹を空かした悪魔どもがこちらへ向かってくる。
「瘴気で体力が・・・。なぎさんリカバリで俺とカナちゃんたちを回復して」
「はいっ」
「ありがとう、なぎさん」
癒しの光を浴びたカガチたちは体力が戻る。
「踊ってやる時間がないからねぇ、さっさと片付けさせてもらうよっ」
カガチは太刀を角材のように振り回し、乱撃ソニックブレードの刃風で真っ二つに斬り裂く。
「まだいますよっ」
「結構いたからねぇ、倒しきれなかったか」
「エモノ、タクサン。オマエ・・・イガイ、ウマソウ」
ベキ・・・ゴキンッと音を立てて、悪魔が背から骨の羽を生やす。
地獄の天使の翼で飛び、エンドレス・ナイトメアの闇黒を発生させカガチたちを囲む。
「ぅ・・・頭がぁあっ」
カガチは太刀を地面へ落とし、割れそうなほど痛む頭を両手で抱える。
「ケーッケッケケ。ニク、レイトウ、スル」
動けない彼らに容赦なく悪魔はブリザードの吹雪で凍らせようとする。
「寒っ、目がかすんできた・・・。あぁっ寝るな俺、寝たら死んじまう!」
「シブトイ、マズイ、・・・ノ・・・カラ・・・・・・カタヅケル」
まともに動けないカガチの左肩を、鋭く尖った爪で貫きガリリッと引っ掻く。
ブシャアァアアッと鮮血を被った悪魔は、不快そうに手で血を拭う。
「よくもカガチ先輩を!」
仲間を傷つけられた怒りのあまり、歌菜は飛ぼうとする悪魔の頭を掴み、槍の柄で殴りつける。
「そのまま捕まえていてくださいっ」
なぎこはルミナスメイスを使わず素手で殴り殺す。
「酷い傷・・・」
「カガチはこれくらいじゃ死にません」
SPタブレットを食べてリカバリでカガチたちを癒そうとする。
「うーん・・・ちょっと傷を塞ぎきれなかったです」
「なんとか動けるからそんな顔しないで」
しょんぼりとするなぎこの髪をカガチが撫でる。
先に行ったエヴァを探すと、彼女は1人で採掘を始めていた。
「結構取れましたよ」
「見せて!」
「これです遠野さん」
白籠石を見せてもらうと真珠のように美しく輝いている。
「この白く光ってるやつを取ればいいのね?」
「そうです」
「地面の中にもあるみたいね」
つるはしを手渡された歌菜も採掘を始める。
「これもそうだな」
ブラッドレイも彼女の近くで、カツンコンコンッとたがねを使い周りの硬い石を削る。
「沢山ありますね、なぎさんもお手伝いします」
なぎこはメイスをハンマー代わりにし、たがねを土壁に打ちつけ、埋まっている白籠石を採掘する。
「あっ、いってて」
「カガチ先輩、無理しないでくださいっ」
手伝おうとするカガチに歌菜が休むように言う。
「(とは言ったものの、全部取るのに時間かかりそう)」
採掘を終えるまで1時間もかかってしまった。
「ふぅ、疲れました」
「取り終ったな、戻るか」
仲間たちが採掘した石を、羽純は袋へ入れる。
カガチ以外、荷物を背負い休憩エリアへ向かう。
「悪いね皆」
「怪我人に持たせるわけにはいかないからな」
「―・・・あっ、こんな時に・・・」
「どうしたんだ?」
土の上にドスンッと膝をつくカガチのところへ羽純が駆け寄る。
「ヒッ、ヒヒャヒャヒャ!」
「何すんだっ」
突然殴りかかってきたカガチの拳を間髪避ける。
「大変です、カガチが悪霊にとり憑かれてしまいましたっ!」
彼が悪霊に憑かれてしまったことに気づいたなぎこが叫ぶ。
「くっ、このやめろ!」
「ワキャキャキャッ。一緒にナラカへ行こうよぉ〜」
「ざけんな、誰がそんなとこ行くかっ」
「ごめんなさいカガチ先輩!」
カガチを気絶させて悪霊を追い出そうと、歌菜が石を詰めた袋で殴りつける。
「ぐへっ」
「やれやれ仕方ないな」
気絶したカガチの服の裾を掴んだブラットレイはため息をついて引きずる。