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温室の一日

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温室の一日

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7.お仕事終了

 取ってきたタネコをケルベロスの前に差し出した。
 硬い表皮ごと、鋭い牙で噛み砕いていく。
「こえぇ〜やっぱ地獄の番犬、ケルベロスじゃのう」
 その様子を見て、長門が呟いた。
「あんな鋼鉄みたいに硬いタネ子の表皮を、いともあっさり……」
 その時。
 由宇がてこてことケルベロスの前に歩みより、砕かれた箇所から、生のタネ子の脳みそを抜き取った。
 網焼きにした物しか見たことがなかったが、生はちょっと豆腐のようだ。
「今のうちに取ったほうがいいですよぉ?」
 飄々とした顔で由宇が言った。
「うっわ、美味しい! ふわふわして口の中ですぐ溶けて…最高級のわた飴ですぅ!」
 その言葉に、皆は喉をならし、わらわらとタネ子に近づいていった。
「ふわとろプリンだ〜。甘くて美味しい〜♪」
 レキが頬を押さえた。
「本当、人によって味が変わるんだね」
「どれどれ、私も! ……うわぁ、にんじんみたいな味がする! にんじん大好きなんだよね!」
 透乃がはしゃいでいる横で、陽子も感嘆の声を漏らした。
「私は……肉じゃがです。これは……上品な味ですね。とても美味しいです」
「ん? ん? にんじん? 肉じゃが? 私はなんだか…人肉っぽい味がする…」
 タネ子の味の捕らえ方の仕組みを知らない芽美は、最初に思い浮かべたものが味として表れた。
 芽美はもう一度それを口に含み、不適に笑った。

「ご飯と一緒に食べたらどんな味がするんだろうか?」
 珍種果実がゲット出来なかったため、侘助は害虫駆除作業で疲れきった身体を叩き起こして、タネ子を一口、ご飯と一緒に食べてみた。
(ご飯だ……米の味しかしない…)
「え? 不味いですか? 俺はすごく美味しいですけど…」
 火藍がもごもご口を動かして、美味しそうに食べている。
「そっちのをくれ!」
 言うが早いか盗み食いをするが、やはり米だった。
「自分もお米の味です。ご飯にご飯のおかずはちょっと…」
 子幸の言葉に侘助は目を輝かせた。
「だよな、だよな! ……タネ子ってそんなに美味くないなぁ?」
「お米の味しかしないでありますよぉ」
「え? 俺、普通に美味しいけど? うまいよな?」
 莫邪が火藍に問いかける。
「えぇ、とっても。……ですよね?」
 朱曉も大きく頷いた。
「こりゃぁ、ぶちうまいの。ええ仕事しとるからじゃの」
 ほくほくと、朱曉は満面の笑みを浮かべてタネ子を頬張る。
 侘助と子幸は複雑そうな顔をして、米の味のするタネ子を、ご飯と一緒に食べ続けた……

「ケルベロスちゃん、たーっくさ食べてくださいね」
 エルシーがケルベロスを撫でる。
「え、エルシー様。お食事中は危険です! 早くこちらへ来て下さい」
 心配性のルミに、エルシーは笑った。
「エルおねーちゃん、ルミおねーちゃん。ラビも食べたいよー」
「これはケルベロスちゃんのお食事だよ?」
「えー食べたいよー」
「………」
「──俺達が食うのなんて、ケルベロスにとったら一欠けらだぜ? 大丈夫だよ」
 垂が優しく声をかけてきてくれた。
「そうですよ! 僕は食い尽くすくらいの気持ちで食べようと思っているよ」
 ライゼが鼻息荒く言った。
 ラビは、エルシーとルミをすがる様に見つめる。
「いただくでございますか」
 ルミがぽつりと呟いた。
 途端にラビの顔が明るくなる。
「ケルベロスちゃんに、しっかりお礼を言いましょうね」
「うん!」
 エルシーが笑って、ラビの頭を撫でた。

 タネ子の脳みそを、少しばかりもらおうとしたエリスの手が、ケルベロスに食われた。
「ひょえぇええぇぇええ〜!」
 高く持ち上げられ、再び地面に転がされると、べろべろ舐められていく。
「…っ、な、なんでまた……!」
「よほどケルベロス君に気に入られているんですわね、エリス?」
「ティ、ティア、ティア! 助けておくんなまっし〜!!」
「……あ、あの…助けないのでござますか?」
 壹與比売が哀れみを含んだ眼差しを送っていた。
「助ける? あれを? どうして? 最高のショーですわ!!!」
「………」
 少しばかりサド心が芽生えつつあった壹與比売だったが、やはりティアの域に達するのは相当難しいと、強く思った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 悠希とネージュは、両手いっぱいの花を抱えて、校長室へと向かっていた。
 一応、事務局長に断りを入れようと声をかける。
「──あぁ、お花ね。そこにバケツがあるでしょ? 私がやっておきますので、後は……」
 顔を上げた事務局長は目を丸くした。
 全身ずぶ濡れ、ぽたぽた水滴をたらした格好で、校長に会えない落胆の色を隠せない二人の生徒が目の前に立っている。
「あ……」
 事務局長は一つため息をついて。
「持って行きなさい」
「え?」
「校長室に、直接持って行きなさい。今は忙しい時間だから、早々にね」
「はい!」
 満面の笑顔で校長室へ向かった。
 ノックする手が震える。
「どうぞ」
 中から、静香の声が聞こえた。
 部屋に入ると、大きな机に山積みの書類を前にした静香の姿が。
「あの……お花を持ってきました。どこに置けば……」
「あぁ、そこにお願いするよ」
 顔を上げることも出来ないくらい忙しいのだろう。
 こちらを向いてもくれない。
 だけど、同じ部屋の空気を吸えただけでも、良しとしなくちゃ。
 悠希とネージュは、せっせと花瓶に花を活けていった。
 楽しい時はあっと言う間に過ぎていく。
「……終わり…ました」
 これで終わり。
 悠希とネージュの口から、自然とため息がこぼれた。
「ありが……」
 ようやく顔を上げた静香の目が揺れた。
 椅子から立ち上がると、駆けるように目の前にやって来た。そして、ふわりと。
「ありがとう……」
 二人を抱きしめた。
「し、静香さま、お洋服が汚れちゃいます!!!!」
 悠希はパニくって、あわあわした。
「おおおおおおおお仕事の手を煩わせるわけには……!」
 ネージュもどうして良いか分からず、しどろもどろに答える。
 でも。
 それでも。
 ぎゅっとだきしめてくれる静香に、いつまでもこうしていてほしいと願う二人だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 日が翳っている。
 タネ子を食べさせてもらってお腹がいっぱいになったケルベロスは眠っていた。
 幸せな時間。
 しかしその横には。
 未だ石像のままのメンバーたちが。

「……いつ、起きるんだろうね?」
「私たちはもしかして……このまま夜を明かすのかな?」
「寒くもないし、おなかも減らないし、トイレに行きたいとも思わないけど……」

「早く起きてよ、ケルベロス君〜〜〜〜!!!!!」


 みんなの嘆きは、もちろんケルベロスには届かなかった。


 結局、石化が解けたのは、管理人さんが戻ってきた翌日の夕方だった……


担当マスターより

▼担当マスター

雪野

▼マスターコメント

こちらのシナリオを担当致しました雪野です。ご参加下さいましてあいがとうございました。

温室シナリオを、もう何回か書かせて頂きましたが、そろそろ別のネタを考えようかと思っています。
自粛するだのなんだの言っていた触○(もう伏せ字の意味が無い:笑)ですが……
熱いご要望を頂くと、気持が動かされ、ついついあのような結果になりました。

穴の開いた温室が今後どうなっていくのか、放置することに私自身微妙なところではあるのですが……。
などと言いつつ、また次回、温室でひょっこりやってきたりするかもしれません(笑)。

前回の温室シナリオの話を今回のアクションにも盛り込んで頂き、ありがとうございました。彼らもきっと喜んでいると思います。
ご参加下さいまして、ありがとうございました! 楽しんでいただければ嬉しいです。