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リアクション
目が覚めた時、それは同じように拘束されていた。
両腕を吊され、膝をついた状態で。それでもどこか、体が軽く感じた。
「目が覚めた?」
声をかけてきたのも同じ。ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)である。こいつが居るという事は……。
「…やっと起きたか… 寒くないか…?」
やはり居た……。グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)の言葉に、辺りを見回してみた。演舞場の至る所が壊れている、それも盛大に。よほどの事が無ければ、こうはならないだろうに。
「よほどの事が、あったんだよぅ」
そこにノーム教諭が立っていて−−−思い出した!
「よくも騙したな!」
「悪かったと思ってる、でも、ああするしか方法が無くてね。本当に済まなかった」
頭を下げている。演技だ、そうに決まってる! でも、なぜか次の罵倒が出てこなかった。
「君の体内の毒を完全に解毒するには、あの方法しかなかった。女王候補様殿は達成することに執着していたしねぇ」
「体内の毒を完全に? そんな事! できるはずが無い!」
「……………… そうかぃ?」
手が震えている、そんな指令は出していない、止めろ……。
「気付いているんだろう? 君の体内の毒は完全に浄化された。水晶化の光も出せないんじゃないかな」
震えは体全体に……。ランチャー、ランチャーを出して……。
出して、構えて、撃つ。波動弾を、波動砲を。力の限りに、続く限りに撃ち続けた。
「はぁ…… はぁ…… はぁ……」
「水晶化の力も、毒も。波動弾に込められないだろう?」
星剣が、ランチャーがある、波動を撃てる、それで敵を……。
「無くなったんだ。青龍鱗が、浄化した。あらゆる毒を飼い慣らす力も、水晶化の呪いも全て、青龍鱗が浄化したんだ」
私の…… 力…… 私だけの力が……。
「5日前、ティセラの襲撃があってね」
ティ…… セラ…… !! ティセラ!!
「君の力を青龍鱗が浄化したあの日、君が気を失っている間にね、ティセラが君を奪いに来たんだよ」
「ティセラが?! 本当に?!」
「だから言っただろう? よほどの事があったって。おかげでボコボコにされた」
演舞場は至る所が壊れており、ほぼ全壊状態だとも言えた、それほどにボコボコだった。これをティセラが…… やっぱり助けに来てくれたんだ!
「軍勢を率いてね、君を奪い返しに来た。が、何とか追い払ったよ」
「お前たちが? どうやって」
「そりゃあ、もう必死だったさ。青龍鱗を実体化して黄水龍を呼び出しまでしたんだ。知っているんだろう? その強さくらいは」
確かに情報としては聞いた、しかし、女王器の姿になってからは実体化させる事は出来ないはず…… またおかしな方法を使ったのだろうか……。
「そういえば、君の体内の毒を完全に浄化した、と教えたら、彼女、その直後に撤退して行ったねぇ」
…………………… え?
「あの時は戦況は五分だったし、あのままだとお互いに消耗戦になりそうだったからねぇ、撤退したのは良い判断だったと思うけどねぇ」
待って………… どうしてティセラは? どうして私を置いて…………。
「警戒はしてたんだけど、その後は何の音沙汰も無い。このまま大人しく、無茶な奪回は諦めてくれたんなら、助かるんだけどねぇ」
音沙汰も無い? 5日前からずっと……?
その前だって…… ずっと助けに来てくれなかったのに……。
「あぁ、まずは君の体調を回復する事、それが済んだらすぐに女王候補様殿の治療にかかって貰うよ、まだ全快じゃないんだ」
なぜ笑みを見せる…… 去り際に小さく手を振る…… 私を騙しておいて……
『君の体内の毒を完全に浄化した、と教えたら、彼女、その直後に撤退して行ったねぇ』
………… どうして…… ティセラ……
「うあ゛ぁぁあ゛ぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁあ゛あ゛〜」
瞳を開けても、何も変わらない。それならいっそ……。
「あっ、おはよう」
何も変わらない……。いつものコイツ。そしてコイツ。
「…羨ましいな… ずっと寝ていられて… 俺もさすがに… 疲れてきたというのに…」
「えっ、本当に? 少し休む? それともSPリチャージ? しばらく誰かに代わって貰えるように頼んでみようか?」
「……冗談だ… 本気にするな…」
「冗談?」
なぜかグレンが顔を赤らめたから、ソニアは声をあげて笑ってしまった。
笑い合う姿に、ティセラが重なった。私もあぁやってティセラと笑い合ってた、楽しかった。
………… ティセラ………………
準備に時間がかかってしまった、だから助けに来るのが遅くなった……
ミルザム側の抵抗が激しくて苦戦した、でも私を助けようと戦ってくれていた……
「それなら…… どうして? 」
……どうして退却したの? 私のこと諦めたの? 私はもう要らない子なの?
毒の力も水晶化の呪いもない私は、私じゃない。そういう事…… なのかな? だからすぐに諦めたのかな……
「ティセラ……」
泣いても泣いても沸いてくる。要らない子の頬に水が流れて落ちた。
瞳を開けても変わらない。そこにティセラは居な−−−
「ひゃっ!!」
「あっ、ごめんなさい」
いつものコイツが布を頬に付けたようだ。その冷たさに驚かされた。
「ごめんなさい、お顔を拭こうかと思って」
「… だから起きてからにするべきだ… と」
「だって! 起きてる時だと嫌がるんだもん、ねっ、パッフェルさん」
「………………いや……」
「えっ、嫌じゃないの?」
「………………そんなこと……言った?」
「言った! ……と思うけど……あれ?」
ソニアは考え思い返して、「ごめんなさい」と謝った。
……言ってないと思い返して。頭を下げ続けられるのは… 嫌だった。
「どうして、ずっとここ、なの?」
あれから2日も経っている。それでも復旧作業の続く演舞場に吊されていて。
「…ランチャー対策…だそうだ…」
見上げれば、そこには大きな穴があった。小窓だったはずに…… あれもティセラが襲撃した時に広がったのだろうか。
「でも、最近は撃ってないですよねっ?」
確かに撃っていない…… もう、撃ってもスッキリしないし…… 希望も見えないから……
「…… なら…… どうして居る…… の?」
波動を放出した後の回復の為に居る… そう言ってはいなかっただろうか…… それなら……。
「…悪いのか?」
「ここに居たいから、ですよっ」
「…… 私は敵……」
「…それがどうした」
「パッフェルさんは協力してくれた人たちを盾にすれば何時でも逃げられたでしょう? でも、しなかった……。本当はとっても優しい人なんだって私、信じてるんです」
信じる? なぜ? 敵なのに……。
信じた人は来てくれない……。止めよう…… 考えても何も変わらないんだから。
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