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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞

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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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リアクション

 光条兵器は体外に具現化し続ける事はできない。星剣も同じである。
 吊された腕にランチャーを装着、開けられた窓穴に向けて大砲のような波動の弾を放つ。
 放たれる度にソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)はビックリして体を跳ねさせたが、その姿を毎度グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)に見られては恥ずかしそうにしていた。グレンが何も言わない事が、余計に恥ずかしさを増していた。
 撃ち終えた弾道を見送ってから、グレンは両掌をパッフェルへ向けた。
「まだ… やるのか?」
「…… うるさい」
「… そうかぃ…」
 ヒールを唱える。ソニアも続いてSPリチャージを唱えた。
 波動弾の掃射は妨げず、またパッフェルの体力とSPを回復を施す事。これがミルザムからの指示であった。しかし、掃射の直後にパッフェルを全快にするのはソニアの意向だった。拘束されているというだけで苦痛を伴うのだから。その思いにグレンも同意しての事だった。
「ちょっと、良いかな?」
「………………」
 見上げると、男が1人、目の前に立っていた。2人に会釈をしている。その顔が向き直り、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)がの優しい目が見えた。
「青龍鱗を使っても、ミルザム様は水晶化を解除する事が出来なかった。これは君が強力な水晶化の力を使ったから、だよね?」
「…………」
 強力な水晶化… 青龍鱗の真の力を使わなければ解除できないレベルの光りを。
「この水晶化は、君が青龍鱗を使っても解除できないんだよね?」
「………… できる」
「えっ、出来る?」
「…… できるわ…… ミルザムには無理でしょうけど…」
 自分たちとミルザムの違い…… 彼女がこれを越えることは、決してできない。
「そうか、出来るんですか〜 困ったなぁ…」
 予想外の応えに優斗は言葉を乱したが、小さく首を振ってから、一枚の紙を取り出した。クイーン・ヴァンガード本部に送られてきたメール文章をプリントしたものだ。送り主は神代 明日香(かみしろ・あすか)、メールには、ガラクの村での争いに参加し、そこから得た体験から得た質問と導き出した推測が綴られていた。
 自分の推論が崩落してしまったので、優斗明日香の論から問いた。
「三槍蠍の毒を取り込みましたよね? 以前には無かった剣の花嫁以外をも水晶化させる能力は何処から得たのですか?」
「…… 以前には無かった?」
「取り込んで強化したのでしょう? どこで取り込んだのです?」
「加減していただけよ」
 ヴァルキリーの絵画。水晶化した街。私が水晶化の力を取り込んだ場所。思い出しても………… 止めよう、痛みが還ってくる……。
「ガラクの村での目的は何だったのです? なかなか攻撃を仕掛けなかったのは、何か目的があったから、ではないですか?」
「………… 目的のない行動なんて、ないでしょう?」
 … ガラクの村… 蠍の毒を得る事、そして思惑通りミルザムが来たと言うのに… 泉を造れなかった…… くっ……。
「なぜガラク村を水晶化したのです? 本当はフラッドボルグの策略だったのでは?」
「…………」
「鏖殺寺院ですよね? 奴らと繋がっているのですか?」
 … フラッドボルグ… なぜ奴の事が…… 繋がる要素など一切に見せていないはず…………
「ガラク村を水晶化した事、更には剣の花嫁たちを水晶化した事も全てフラッドボルグの策だったのではないかと」
「…………」
 否定するべき?… うぅん、これ以上は何も雫すべきじゃない……
「鏖殺寺院と繋がっているとなれば、それだけで逆賊という事になりますよ」
「………………」
「だんまりですか……」
「う〜ん、もう少し訊きたいのですが」
「それでは質問を変えましょう」
 パートナーの諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)も、落ち着いた声で問い訊いた。
「手段さえあれば、十二星華のリーダーであるティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と連絡は取れますか?」
 !!! …………… ティセラ……。
「あなたが出来るという事は、ティセラ殿にも水晶化の解除は行えるのでしょう。ティセラ殿と交渉をしたいのですが」
 ガラクの村で気を失ってから7日もの間、目覚めなかった。あの男は確かにそう言った。イルミンスールのノーム、憎らしい笑顔をする男だ。
「言ってもあなたは人質です。水晶化を解除してくれるのなら、あなたを解放すると伝えたいのです」
 … 人質…… 捕らえられたのに、捕まっているのに…… 7日も……。
「もちろんティセラ殿の迎えと退避するまでの誘導と護衛は私たちがします」
 …ティセラを護衛? そんなの… ティセラは負けない誰にも… 誰よりも強いんだから。
「お願いします! 水晶化した人たちを助けたいんです!」
「……………… 嫌」
「パッフェルさん!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
 次いで発しようとした優斗を、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は腕を掴んで止めた。
「もう止せ」
 全てを拒むように。パッフェルは肩で息をしていた。グレンに視線だけを送って、戦部優斗たちを連れて歩き始めた。
「もともと精神的には弱いのでしょうが、まだ混乱が収まっていないのでしょう」
「まる2日眠っていたとは言え、目覚めて間もないですからね、当然と言えばそうなのでしょうが」
「一刻も早く水晶化患者を助けたいという気持ちは分かります。しかし、彼女のティセラへの依存を解消しなければ… 難しいですね…」
 ティセラの名を出した時、僅かだが彼女は顎を上げた。ガラクの村でもティセラを侮辱された事で暴走したという。
 ミルザムが掲げるパッフェルの更正は、彼女のティセラへの依存心を減らさない事には有り得ない。振り向き、彼女を視界に捉えて戦部は改めて思ったのだった。
 胸の上下が収まってゆく、それを感じれる自分がいた。
 …… ティセラ…… どうして…… こんな奴ら、やっつけてよ……。
 再びに俯いてしまったパッフェルに、『こんな奴ら』はヒールとSPリチャージの続きを唱え始めた。


 空を見上げれば、そこに一筋の白い線が立ち昇っていた。学園の校舎から雲一つない青空へ。
「また放ってるですぅ」
 見上げて、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は口も開いていって。
「あんなに撃てるなんて、やっぱりスゴいですぅ」
「確かに、あれだけハッキリ見えるって事は、あの大砲みたいな奴だよねっ」
 背をピンと伸ばしてセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は見て笑んだ。
「あんな大きなのを何発も撃てるんだからっ、やっぱり化け物並だよ」
「回復をしてさしあげているようですけど、それでもあの威力は、さすがです」
 言いながら思ったのだろう、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は首を傾げた。
「星剣を封じられている為に逃げる事が出来ないのだとしたら、特出して強力なのは星剣、という事になるのかしら」
「そっかぁ、じゃあ、もし他の十二星華がパッフェルちゃんを助けに来たら、星剣に気をつけて戦えば良いんだねっ?」
「気をつけるというより、封じなくてはダメでしょうね」
「封じる? って、どうやって?」
「さぁ? パッフェルさんを捕らえるのにも大騒ぎでしたから、向こうが数人で来られたら… 難しいかもしれませんね」
「もしそうなったら、まずは敵を分散させるですぅ。それから、1人ずつ相手にするですよ」
 大空にもう一発。大砲を撃つ間隔がこんなに短かったのは初めての事だった。治癒魔法だって唱え終えていないだろうに。
「何かあったのかなっ?」
「何か考えがあるのかも知れませんね」
「きっと、仲間に合図を送ってるですぅ、私はここですよ〜って」
「それは有り得ますね」
「じゃぁじゃあっ、もうすぐ十二星華が来るって事っ?」
 そうなったら学園のほとんどが大破してしまうだろう。そんな事にはさせない為に。
 メイベルは強い決意と共に、強く、強く、野球のバットを握りしめた。


 学園の敷地内、植えられた木々の中にフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は身を潜めていた。
 通路を見て走路をイメージし、構築して繋げゆく。逃げるときの事を考えずに仕掛ける事はただの自殺行為でしかない、それは初めから策とは言えぬのだ、と。
 学園内の散策も情報も集まった、もう少し、あと少しだ。
「面白くなるわよ」
 フィリッパはイメージの隅に、Xルートサーバの様子を思い出しては、漏れ笑んでいった。


 学園内の廊下を歩むミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)に、八神 誠一(やがみ・せいいち)は問いているのだが−−−
「ミルザムさんっ? 聞いてます?」
 一向に反応しないまま。彼女と共に歩んでいるノーム教諭も、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の2人も反応しないままに歩み続けていた。
「だから!日比谷 皐月(ひびや・さつき)の指名手配とツァンダ立ち入り禁止を解除して欲しいんだ!」
 言ってもみても一向に。聞こえていないのか? いや、そんなはずはない。それなら。
「僕は青龍鱗の奪回の為に邁進した! 成果もあげた! クイーン・ヴァンガードでもない功労者に、戦功に応じた褒賞を与えないと言うのはどうなのでしょう」
 倣慢と言われたって構わない、それでも叶えたい事があるのだから。
「彼も最後は自分から青龍鱗を渡したんです、彼なりの考えや理想があったんです…… うっ……!」
 ミルザムは頬も鼻先の一つも動かしていない。じっと前を見つめて歩いているだけなのに。思い詰めたような、いや、殺気にも似た気配を感じて誠一は足を止めた。
「いったい、何だって言うんだよぉ!!」
 叫び声も背に阻まれる。やり場のない怒りと戸惑いが体中を駆け巡っている。
 その背が見えなくなるまで、誠一はその場に立ち尽くしていた。