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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞

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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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リアクション

 膝をついて。天井から腕を吊されている。
 その体を、青龍鱗から放たれる光りが包み込んでいる。
 蒼空学園の地下演舞場では、拘束されているパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)が青龍鱗を向けていた。そして、そのすぐ傍にはミルザムと同じ情を抱く神野 永太(じんの・えいた)燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が添っていた。
 神野は瞳を閉じたままのパッフェルをじっと見つめていた、己の情が変した要因を探そうとしていたのかもしれない。
「静かな顔だ…」
 何日も目覚めていないという彼女の表情は、幼い少女の寝顔そのものに見えて。あれほどに冷酷で非道な事をしたのだということが嘘のようにさえ思えてくる。
「ザイエンデ、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、えぇ、大丈夫、です」
 ザイエンデは、息を整えるとすぐに驚きの歌を歌い始めた。幸せ、嫌悪、怒り、悲しみ、恐れの歌に続いての熱唱になる。
 歌う事で、歌を聞く事で、少しでも彼女に感情というものを知って欲しい。そう願っての事だった。
 機械の体を持つザイエンデ
も、歌を知ってから豊かな感情と、それが生み出す幸福を知った。これまでの戦いの中でパッフェルの情が揺れる様を見る機会は多くなかったが、それは元々彼女の情が乏しいからなのではないか。昔の自分と同じなのではないか、と。
 また、彼女が怒りの感情を爆発させた、あの場面。ティセラを侮辱された時、そして協力者たちが水晶化した時。
「私だって、彼女を傷つけようとしたし、そう有ってしかるべきだと思っていた」
 しかし、捕らえられ、力なく護送される彼女を見た時、彼女を、パッフェルを救いたいと思ってしまった。
「彼女を平凡という日常の中に導いたなら… 一体どんな表情をするのだろうか」
「きっと、良い笑顔が見れると思います」
 この会話が、そしてミルザムの想いを知った時、神野ザイエンデの指針は決まった。ミンストレルの、ザイエンデの歌には他者の心に働きかけ、様々な感情を芽生えさせる事ができる。
 何の策も講じないまま彼女を殺すなんて許さない。気を失ったままの彼女を前に、彼女の更正を信じる者たちの戦いが続いているのだった。
「お待ち下さい」
「ん?」
 演舞場外から室内へ足を踏み入れようとしたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)にその足を止められた。
「僭越ながら入室者のチェックをさせています。どのようなご用件です?」
「用件って… パッフェルさんに会う以外にあるのか?」
「いえ、彼女は重要参考人ですので、誰それと簡単にお会いさせる訳にはいきません」
「重要参考人…? 主犯で極悪人の死刑決定人だろ?」
「あなたは、お通しできませんね」
「待て待て! 冗談だ、マジにするな」
「私は通っていいですかぁ?」
 エヴァルトの影からミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)が、チョンと顔を出した。
「私はキュアポイゾンが使えます。ミルザムさんの治療をしたいんです」
「… ヒールは使えますか?」
「えぇ、ナーシングもつかえますよ♪」
 は少し考えてから振り向き、室内を見渡すと、パートナーのレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)を見つけ呼んだ。
「この方、ミュリエル・クロンティリス、をミルザム様の元へ」
「すごぃ、名前、一度しか言ってないのに…」
「ええっと、応援の方ですか?」
「はい、ヒールにキュアポイゾン、ナーシングも修得しているそうですので」
「本当ですか! 助かります♪ 早速お願いします」
「はぃは〜ぃ、がんばります」
 跳ねるように室内に駆け入る2人に続いて入ろうとしてエヴァルトは、しっかりとに止められた。
「何だ、俺も入れろって」
「エヴァルト・マルトリッツからは、一瞬でしたが殺気を感じました。何が目的です?」
「漏れたのか… なかなか難しいもんだな」
 エヴァルトは口端を上げて、小さく笑った。
「クイーン・ヴァンガードの狙いはティセラだろ? ティセラを引っ張り出すのに使えないかと思ってな」
「それは… ミルザム様の了承が必要になります」
 パッフェルを連れ出して、地球に突き落としてやろうと考えていたのだが。
 面倒な奴に捕まった。エヴァルトが頬を硬くしたとき、それよりも硬く細い声が室内から響いてきた。
「ミルザム様っ!」
 レオポルディナに、もたれるように。ミルザムは力なく膝をついていた。