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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


第三章


・魔法研究


 イルミンスール側、地下二階。
 地下一階とは異なり、小部屋のような場所が多く存在する。しかし、その全てに入れるわけではない。
 森の浸食は、そこへの出入りすらも阻んでいるのだ。
「さて……何かしら新たな発見があることを期待して……行きましょうか」
 木の枝によって破壊された扉の前にレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は立っていた。
「お嬢様、気をつけて下さいね。こういう室内の方が、廊下とは違って閉じ込められたりと危険があるものですから」
 彼女のパートナーのリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が注意を促す。
 慎重に中へ足を踏み入れると、そこは資料室のような場所だった。
「んくくく……さてさて、以前入手し切れなかった様々な情報、この場に眠ってると良いのだがのぅ」
 レイナのもう一人のパートナー、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)が室内を見渡した。中は案外広い。
 どうやら、外周沿いの部屋が他の部屋と繋がっているようだ。枝や根が邪魔をしているが、不思議と室内の方が浸食の度合いは少ない。
「ふむ、上の広間は用途不明じゃが、ここが資料室であるのは間違いなさそうじゃな」
 アルマンデルが銃型HCでここまでのマップを確認する。マッピング上では、浸食部分を除く施設本来の図面の表示と、浸食がどの程度影響しているのかをそれぞれ見れるため、それで構造を把握する。
「では……探しましょうか」
 特技の資料検索を生かして、本棚を漁っていく。
 しかし、魔力汚染の影響なのか、それとも浸食によるものなのか、保存状態のいいものは驚くほどに少ない。
 が、少ないだけで「ない」わけではない。
「前の遺跡には……『魔導力連動システム』なるものがありましたが……魔力汚染といい関係ありそうですね」
「身体にさほど影響はないが、妙な違和感だけはずっと感じるのう。しかも、これは前の遺跡で魔道書に同調を図った際に感じた魔力とも似ておる」
 それは彼女が魔道書であるが故か。
 言い知れぬ魔力が漂っている事は紛れもない事実だ。しかも、体感した覚えのあるものに似ているという。
「お嬢様、これを」
 リリが一つの紙片を発見した。
「魔道書ではありませんが、魔術研究に関する書物の一部のようです」
 レイナが受け取って、そこに書かれた文字を読む。

『多重魔法発動の困難性』

「どうやら……魔法理論のようですね」
 そうはいうものの、魔法関連の資料という事で、文章を読んでみる。

――魔法の発動においては、術式の構成、詠唱を基本動作とする。前者は魔法陣や魔道書に記されたものを考えれば分かりやすいだろう。後者は、それを具現化するための『センテンス』だ。つまり、どちらか一方が異なるだけで魔法は発動しない。つまり、一人が同時に複数の魔法を発動させるのは原理的に不可能だとされる――

 実際問題、何の道具もなしに火と水を同時に操るなどという芸当が出来る魔法使いはいない。あらゆる属性魔法を習得したとしても、それらは単一でのみ扱う事が出来る。
 出来るとすれば、二つの属性を『融合』させた状態で発動させることだ。これは複数の魔法の同時発動ではなく、二つ以上の属性を持った「単一」の魔法を指す。
「この時代から……研究されていたのですね」
 この理論は、現在の魔法理論においても研究されているが、可能だとする見解は少ない。術式と詠唱の言葉の組みわせ次第では「二重」までは可能とする学説があるものの、『正統』の魔法界においてはまだ認められてはいない。
「ですがこんなものは……さして真新しいものでは……」
 レイナが指を動かすと、張り付いたもう一枚の紙片が出てきた。

『詠唱の思考抽出システム構想について』

            * * *

同階。別の一室でも古代の魔法に関する資料を探す者がいる。
(この遺跡の事、どこかに書いてないかな?)
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)である。
 彼女もまたイルミンスール魔法学校の生徒であり、自分の学校の近くで発見された「魔法の存在を匂わす」遺跡に引かれた一人だ。
(師匠がいれば何か分かりそうだけど……いや、頼ってばかりじゃなくて私も出来るってとこ知らしめてやらなきゃ)
 研究資料と思しき断片は多く残されている。
 書かれているのは魔法の根本に関わる仮説の検証や、その応用に対する考察。魔道書、というよりは複雑な数式に彩られた理論書と言った方が近いかもしれない。
 彼女のいるフロアに、二人の影が現れる。
 なぶらフィアナだ。
 見つけた紙片に記された『第四次計画』についての手掛かりを求め、この部屋に足を踏み入れたようである。
「第四次計画ってなんだろうねぇ」
 なぶらが考えるものの、答えは出てこない。しかし、その言葉が聞こえたのか、玲奈は反応する。
「第四次計画だって?」
 『研究所』での一件に関わっている彼女に、その単語は聞き覚えがあった。
「魔導力連動システム」確か、それに関するものではなかったか。
「ちょっと、それ見せてもらってもいい?」
 玲奈が二人に言い寄る。
「何か知ってるのか?」
「前の遺跡で、ちょっとね」
 第四次計画と書かれた紙片と、それに関連する文献を漁る玲奈。まとまった情報は得られないものの、次第にここで何が行われていたのかは掴めてきた。
「第四次計画、魔導力連動システム、魔力汚染……」
「ここって五機精関係の場所じゃないのか?」
「多分、五機精は後になってここに封印されたの。その前は魔法を応用するための研究施設だったみたいだね」
 それが『研究所』で守護者が見せた圧倒的な力の源へと繋がる。
「大魔法を生み出すんじゃなくて、個人の扱えるレベルの魔法の『限界』を超えようとした、そんなとこかな」
 今玲奈の手にある資料にはこう書かれていた。
 ――『術式の簡易化と同時発動における研究』と。