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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・戦闘開始


 地下に入ってすぐ、機甲化兵の一団が調査チームを出迎えた。
「来ましたよぉ」
 調査チームの護衛として第一陣で踏み入れたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が機甲化兵の一体と対峙する。
「メイベル様、まずはわたくしが」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が轟雷閃を繰り出す。量産型と思しき機甲化兵は、それだけで動きが鈍った。
「これで、どうだ!」
 続いてセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が轟雷閃の当たった箇所目がけてウォーハンマーでチェインスマイトを加える。
 その上から、メイベルが則天去私による一撃を与える。
「……っ!」
 だが、まだ決定打にはならない。機甲化兵の装甲に傷をつけるには、雷電を纏った打撃を加え続けるほかない。
 一人一人は戦える力を備えてはいるが、この属性攻撃を行えるのはフィリッパのみだ。
 一体に対して三人掛かりで挑むのは、過去の機甲化兵との戦闘データを元にすれば、最も勝率の高い正攻法だ。
 一対一ならば。
 バシュ、っと背後から何かが発射される音が聞こえる。
 背後から、別の機甲化兵の放った小型ミサイルのようなものが飛んできた。このままだと、メイベル達に直撃する。
 しかし、そうはならなかった。
 スナイパーライフルによる銃弾が、それらを着弾前に爆ぜさせたのである。
「荒事は得意では無いのですけど、やるしかないようですね」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が地下一階の階段から狙撃を行ったのだ。
「目視出来るだけで四体、ですか」
 メイベル達が交戦している一体と、彼女達にミサイルを放った一体。さらに二体の剣を持った機体が眼前にいる。
「まずは、動きを鈍らせる必要がありますね。電撃が有効ならば……白、お願いします」
 真人の指示を受け、彼のパートナーの名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が詠唱する。発せられるのは、サンダーブラストだ。
 一瞬の閃光に照らされ、地下一階の内部が露わになる。
「ふむ、あとは明かりがあった方がよさそうじゃな」
 続いて光術で機甲化兵の位置を分かりやすくする。だが、狙いは姿をはっきりとさせることではない。
 最も離れた一体に、ライトニングウェポンによる銃弾を撃ち込む。狙うは、より目視可能となった関節部だ。
(この距離だと、敵の射程には入ってないようですね)
 ダメージは間違いなく受けているはずだが、その一体が向かってくる気配はない。センサーの範囲内で捉えた限りで迎撃に移るようなシステムらしい。
「トーマ、今のうちです」
「はいよ、にいちゃん」
 獣人であるトーマ・サイオン(とーま・さいおん)が狼の瞬発力を生かして、ショートしかけた機甲化兵へ飛び込んでいく。
「これでも食らえ!」
 飛び蹴りで機甲化兵をそのまま引っくり返らそうとする。無論、重力のある機体はそう簡単には倒れない。
 トーマの本命は蹴りではない。
 関節部に突き立てられるのは、彼の持つ翼の剣。
 そこに加わるのは、轟雷閃。
「うりぁぁああ!!」
 渾身の一撃を受け、機甲化兵の一体は煙を上げたまま動かなくなる。
 その間にメイベルら三人の集中攻撃によって、もう一体の方も沈黙させられた。
「まだ来るよ!」
 だが、倒したと思えばすぐに次の機体が現れる。
 一体を倒すのにも骨が折れるのに、斥候からの連絡では少なくともあと五体は動いているのだ。
「それでも、皆さんを守りますぅ」
 立ち向かうメイベル。
 ウォーハンマーを構え直したところで、向かい合う機甲化兵が氷に覆われていった。氷術による凍結である。
 続いて、それが火術によって溶かされ、
「今です!」
 雷術が繰り出される。
 同時に、フィリッパが轟雷閃による一撃を叩きこむ。
「このくらいではまだ倒れませんか」
 ファレナ・アルツバーン(ふぁれな・あるつばーん)が口元を歪ませる。氷術、火術、雷術のサイクルによる援護を行ったのは彼女だ。
 眼前にはさらに二体の機甲化兵。
 即座に、ファレナが有効な手段を判断する。放ったのは雷術だ。フラッシュのような点滅で雷が機甲化兵の中に侵入していく。
 これは実のところ、時間稼ぎだ。
 止まった機体の関節部に銃弾が撃ち込まれていく。こちらは真人によるライトニングウェポンだ。
 徐々に緩慢な動きになっていく。だが、
 
 ドガガガガガガガガ

 まるで機関銃から銃弾が放たれるかのような音が響いた。
「まずいのう」
 白き詩篇が咄嗟に氷術によって、それらの銃弾を凍らせる。同じく氷術の使えるファレナも合わせてサポートを行う。
 銃撃の方向を真人が見る。また別の、銃撃型の機体が静かに彼のいる階段の辺りに移動しているところだった。
「今のがまた来たら厄介ですね」
 狙いを近接型の二体から、銃撃型へ変更しようとする。しかし、その必要はなかった。
 その一体の背後から二人の人物が同時に轟雷閃を放ったのだ。
 前のめりに倒れていく機械の兵士。だが、それを倒した者の姿はない。
『あとは、今動いているので敵は全部です』
 無線を通じて伝達が来る。その声の主はマティエだ。瑠樹と共に光学迷彩で姿を隠し、音を立てない事で機甲化兵のセンサーの死角から攻撃を繰り出したのである。
 さらに、この二人は本隊の第一陣が入ると同時に、機甲化兵を一体倒している。ほぼ不意打ちに近い形だったが、そのおかげで残りは三体だ。
 
 ガタン、ギギギ

 突然、機会が駆動する音が鳴る。
 それまで動きを止めていた、フロアの中心部にいた機甲化兵が動き出したのだ。起動している機体の数が減ると、自動的に迎撃に移行するシステムだったのだろうか。
 その数は十。
 しかも、今度はセンサーの感知に関係なく、フロアの『殲滅』にあたるようだった。
「この数が相手では……ッ!」
 前衛だけでは到底敵う相手ではない。しかも、動き出したうちの半分の機体は大型の発射口を持っている。
 その時、階段の背後から雄叫びが聞こえてきた。
「とつげーき!」と。
 次の瞬間、フロア内を雷術が満たす。
「てえーいッ!!」
 一直線に機甲化兵の集団に飛び込んでいったのは、紫電槍・改を構えたエミカだ。
 フロアに躍り出るなり、彼女目がけて高出力のビームが射出された。
「このくらい、どうってことないよ!」
 跳躍。
 そこへ他の機体からの銃撃が飛んでくる。空中では彼女も無防備――ではなかった。
 回転、紫電槍・改の先端の電撃を一時的に拡散させ、バリアのような状態を作り出した。
 その勢いのまま、
「いっけえええ!!!」
 槍を、ビームを放った機体へぶん投げた。勿論、それは発射口に吸い込まれるように入っていき――
 ドン、と音を立てて内側から破壊された。
 エミカは着地すると、すぐに敵から槍を引き抜いた。
「エミカちゃん、危ない!」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が彼女の死角から銃口を向けた機甲化兵に、轟雷閃を纏わせた矢を放つ。
「一人で突っ走らないでくれよ」
 再び、エミカを囲む機甲化兵に雷術が当たる。如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だ。
「この数相手に一人は無茶にもほどがあるだろ」
 呆れつつも、彼女を守るために機甲化兵の動きを止め、時間を稼ぐ。
「まずはあいつらを止めりゃいいんだろ?」
 護衛がついてるガーネットが呟く。
「だったら……」
 彼女が近くに倒れている撃破済みの機甲化兵を――持ち上げた。
「手っ取り早くいこーぜ!」
 機甲化兵の軍団に向かって、それを思いっきり投げつける。
「エミカ、離れろ!」
 ガーネットが投げた機体が別のに激突、そのまま弾きだされるように、ぶつかった方は後方へ吹き飛ぶ。
 ガシャン、と金属が押し潰されるような音が響く。
 それでも完全に破壊されたのは二体。
 その間にも、機甲化兵は攻撃を繰り出し続ける。フロア全体への、縦横無尽の集中砲火だ。
「あたいにそんな小細工が効くかよ!」
 ガーネットは、確かに銃弾程度では傷付かない肉体を持っている。だが、
「無茶はすんなよ」
 悠が彼女をそれ以上前進させないようにする。
 その隙に彼のパートナー、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)が機甲化兵の銃口へ向けてシャープシューターを行う。
『雷電属性の魔法、遠距離攻撃が行える者は、合図をしたら一斉に攻撃を』
 小次郎が指示を出す。
 集中砲火に対抗するには、こちらも雷電属性の集中により、室内の機甲化兵を一時的にでも無効化する必要があった。
 タイミングは、敵が銃撃に移る瞬間。
『前衛は一度敵から距離を取って下さい』
 電撃に巻き込まれないよう注意を促し、
『今です!』
 後方からサンダーブラスト、雷術、ライトニングウェポン、ライトニングブラストとそれらが使える者達が一斉に攻撃を繰り出す。

 轟音。

 爆発にも似た衝撃が、フロア全体を包み込んだ。

            * * *

 調査隊全員が地下へ突入してからしばらく経った頃。
 一人の男がやって来た。
「よう、また会ったな」
 豪傑を思わせる風貌の男――芹沢 鴨だ。
「ええ、お待ちしてましたよ」
 面と向かい合うのは、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)である。
 両者にはまだ距離はあるが、二人とも互いの存在を認める事が出来ていた。
「こんな小細工はなしとしようじゃねぇか。そんなもん、俺にとっちゃ何の意味もねぇぞ」
 鴨が言うのは、優梨子が奈落の鉄鎖を使って重力干渉を行っていることにある。鴨の動きを鈍らせようとしているが、あまり意味をなしていない。
 ただ、彼はゆっくりと歩み寄って来るだけだ。
 優梨子はさらに光精の指輪によって、明度の高い光を鴨の目にちらつかせる。
「面白ぇ、嬢ちゃんの戦い方に乗ってやらァ!」
 にやりと笑うと、鴨は抜刀して距離を詰めよう駆け寄って来た。
 
 優梨子と鴨の第二ラウンドが始まった。