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リアクション
・司城とリヴァルト
「異常値を示してる。魔力汚染とは聞いていたけど、これは厄介だね」
イルミンスールの森南西部の遺跡の上層で、司城 征が呟いた。
「身体に影響はないみたいですね。ですが……」
樹月 刀真(きづき・とうま)が、光条兵器を起動しようとする。
「どうやら魔力の影響を受けるものは使えないようです」
彼の光条兵器、「黒の剣」の光の部分は、酷く不安定だ。ノイズが走るテレビのように、ジリジリとしている。
「……刀真、ヒールもパワーブレスもダメみたい」
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が補助魔法を試してみたが、その魔力の奔流は魔力汚染下にある空気中へと溶け込んでいった。
「攻撃魔法の類は危なそうですね。暴発しかねませんし」
リヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)もまた、懸念しているようだった。
「それに……」
「リヴァルト、君も感じましたか」
リヴァルト、刀真の二人はある感覚を感じていた。しかし、それは二人だけではない。
「あの時と似てるよね?」
「『研究所』だったね」
「最深部に向かってる時、確かあれは……」
秋月 葵(あきづき・あおい)、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)、東間 リリエ(あずま・りりえ)もまた身に覚えがあった。
「ノインが現れた時です」
『研究所』において守護者ノインが発していた魔力。それとこの魔力汚染の原因となっているものが同系統であると、あの場にいた者は感じている。
「しかし、あの時は彼女によって膨大な魔力が制御されていました。だから今と違って魔力汚染とはなっていなかったのでしょう。しかし、今はそうではありません」
ノインの力を知っているリヴァルト達としては、彼女以外の可能性を考える。
「魔導力連動システム。その魔力炉がここにもあって、そこから魔力が漏れ出しているとしたら……」
データベースの情報と、直接ノインから聞いた内容から考える。もっともらしいが、確信は持てない。
いずれにせよ、内部を調べれば分かる事だろう。
「司城先生」
各々が思考を巡らしている時、ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)が司城に声をかけた。
「実は、以前の『研究所』で受け取ったのはメッセージだけではありませんでした。ある魔道書の存在を示唆する一冊の本も残されていたんです」
これまで秘匿していた事実を告げる。それが公になれば、噂は間違いなくイルミンスール魔法学校の耳に入り、それを手に入れんと動き出していたかもしれない。そうなると、ワーズワースの遺産の調査に支障をきたす。ランツェレットはそう考えてずっと黙っていたのだ。
「なるほどね。もしかしたらその魔道書ってのがこの汚染の原因で……魔導力連動システムの大元なのかもしれないね」
年齢、性別不詳の司城の顔に驚きの色はない。冷静に彼女の話から推測するだけだった。
「わたくし達はそれらの確保を優先して動こうと思います。見つけたら連絡しますが――『契約』してしまうかもしれません。その点はご了承下さい。今後も調査には協力致しますので」
「それで構わないよ。原典クラスだったら、それも五千年の年月を経てるのなら、自由意思を持ってる可能性は高いからね」
司城は微笑みながらランツェレットに告げる。
「ボクはここで連絡役として残ろうと思ったんだけど、今回は内部へ行く事にするよ。無線はいつも通り用意してあるし、申し出てくれさえすれば、一時的にヒラニプラ方面の人とも連絡が取れるようにする事も出来る。ただ、装置はエミカに持たせてるから携帯電話、無線とも彼女の近くにいる人としか無理だけどね」
どうやら、これまでの遺跡調査用の無線機や電波送受信機をかなりバージョンアップさせたらしい。それでも、まだ完全に遠距離での連絡を取れるようにするのは難しいようだ。
「じゃ、行こうか」
その声を合図に、イルミンスール側の調査チームは地下一階へと踏み込んでいった。
リヴァルト、司城の一行に、わずかばかり距離を置きながらついていく者がいる。鬼院 尋人(きいん・ひろと)と、彼の契約者である西条 霧神(さいじょう・きりがみ)だ。
「この前に引き続き、今回もこのような場所に来ようとは、少々意外ですね」
「五機精をはじめワーズワースの遺産には、シャンバラ古王国の謎の多くが隠されてると思うんだ。それを突き止めたいんだよ」
謎に迫りたいと主張する尋人の言葉を、霧神が微笑みながら聞いている。
(尋人は謎を追いかける頭の良い人が好きなんですよね)
彼の心情など、霧神にお見通しだった。
(しかしあの方もそうですが、お隣の方もどこか掴みどころがありませんね)
リヴァルトと司城の二人を見比べる。
前回の一件で、リヴァルトと今起こっている出来事には何らかの因縁があるように見受けられた。今回もまた、彼には何かが起こる事だろう。
対し、見た目には二十代後半、それでいてPASDの責任者となっている空京大学客員講師の司城。リヴァルト以上に底が見えない。
(まあ、信じる人の為に動くという気質は決して悪い事ではありませんからね。これも尋人にとってはいい経験になるでしょう)
そのような事を考えながら、自分のパートナーである少年を、彼は見守るのであった。
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