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リアクション
・『遺志』を求めて
「まるで迷路みたいね。ここ」
「この根っこをどうにか出来ればいいのにねー」
関谷 未憂(せきや・みゆう)はパートナーのリン・リーファ(りん・りーふぁ)と共に、遺跡内部を進んでいた。
木の根が蔓延る地下一階を迷わずに進むのは容易い事ではない。火術で燃やしてしまうという手こそあれど、魔力汚染下で使用するのは危険だ。
「さっきリヴァルトさん達が言った通りなら、やっぱり魔導力連動システムが関わってるのかな?」
「多分ねー。この感覚、やっぱりあの時と似てるもん。守護者の人が出てきた時と」
リンも気付いていた。厳密に言えば未憂もなんとなくで感じ取ってはいた。『研究所』でノインと何らかの形で接したならば、この感覚は共通なのだろう。魔女であるリンだからこそ、ほとんど確信に近い形で捉える事が出来ている。
「……あの人、ここにいるのかな?」
未憂は研究所で守護者が倒されたのはその目で見ているが、その後どうなったのかは知らない。最深部で調査団を逃がし、爆発に巻き込まれた事など。
「どうでしょうね。リヴァルトさん達の話だと、ここにあの人がいれば魔力汚染は起こってないという事ですし」
「ランツェレットさん!」
少し遅れる事、ランツェレット達が合流した。
「どちらにしても、ここには魔導力連動システムの秘密、あるいは全能の書か輪廻を司る三冊の魔道書の原典があるはずです」
彼女が手に取るのは、『研究所』でワーズワースのメッセージと共に受け取った一冊の本だった。
「三冊の魔道書は魔導力連動システムの実験場に存在する、とあります。おそらくそれはここでしょう。この文を」
例の本には具体的な場所までは記されていない。だが、魔力汚染が起こっている現状を考えれば、この遺跡である可能性は十分にある。
書かれている内容は、PASDのデータベースには一切開示されてないものだった。
・魔導力連動システムを実用段階にまで発展させるために、その大元となる理論を用いて一度魔力炉を生成した。
・しかし、その膨大な魔力が暴走してしまう。
・その魔力の奔流を実験場内に留めるために、魔道書の原典所有者三名が身を挺して封じ込めた。
未憂にその貢を見せる。この場所に来て初めて、この文章の意味するものが理解出来た。
「身を挺した、ってことはその方達は……」
「亡くなってるでしょうね。魔導力連動システムを使いこなせるのはただ一人だけのようですし」
思わず目を伏せる。ここが件の場所だとしたら、その者達の亡骸を拝む事になるかもしれないことを考えると、やりきれない気持ちになる。
彼女達は一冊の書を手掛かりとして、さらに下への階層を目指すべく進んでいく。
* * *
「学校の近くにこんな遺跡があったとはねぇ」
同じく地下一階を慎重に移動しているのは、相田 なぶら(あいだ・なぶら)だ。半ば原型を失いかけているこの階層が何であったかを把握するため、目に留まるものは丹念にチェックしていく。
「ここには特に何もないようですね」
パートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)がなぶらを見遣る。彼女は調査チーム以外の気配がないか、警戒をしている。
遺跡の内部で、PASD面々及び協力者がバラバラになってしまっているのは、構造上の問題だろう。
地下一階に入ってすぐ、進路は三つに分かれていた。元は広間だったらしい事は瓦礫がほとんどないことから推測する。
「これは何だ?」
なぶらがふと、床に視線を落とす。そこには魔法陣のような模様が記されていた。
「ルーンの類ではないですね。ですがこれがあるということは、この中では何らかの術式が発動した、ということでしょうか?」
慎重に見回していたのが功を奏したのだろう。根の陰になって見落としそうな死角に、それはあった。
機能不明な術式回路。しかし、もしこれを見つけたのが彼らではなく『研究所』の一件に関わった者だったならば――ある答えを導いたことだろう。
同系統の魔法陣を他にも複数見かけたとしたら、それはおそらく確信へと変わる。
「分からないなぁ。これが五機精とどう関わっているのか……」
なぶら達は五機精を保護するというPASDの目的は事前に聞いており、それゆえ遺跡で見つけたものは五機精関連だと考える。
それ自体は決して間違ってはいない。しかし事の経緯の全てを彼は知っているわけではないために、この時点で魔法陣の謎は解けなかった。
さらに一歩一歩、前進していく。
次に見つけたのは、破れた紙片だった。
「これは何て書いてあるんだろ?」
古代シャンバラ語と思しき言語が記されている。だが傷みが激しく、読むのは難しい。
「この遺跡で何が行われていたか、それについての報告書のようですね」
唯一、まともに読める部分からフィアナが推測した。
「報告書? じゃあ、ここも研究施設だったのか」
まだこの遺跡の用途は明らかになっていない。
『第四次計画』
はっきりと読めるその単語を読んだからこそ、彼らはここを研究施設だと考えたのだ。
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