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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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 3.溟海(めいかい)
 
 
 ゴチメイたちが出発する少し前、クイーン・ヴァンガードの者たちもすぐ近くに集結していた。状況が見えるようにと砂浜に面した森に避難所を作った狭山珠樹たちとは違って、拠点を作らなかった彼らは森の中に身を潜めている形になる。
「さて、そろそろ時間でしょうか」
 時刻を確認しながら、影野 陽太(かげの・ようた)がつぶやいた。
 クイーン・ヴァンガードからやってきた者たちは、すでにこの海域に集結している。だが、特別指揮官が派遣されているわけではない。看過はできないが、海賊ごときに貴重な正規の戦力を割く必要はないというのが本部の考えなのだろう。なにしろ、クイーン・ヴァンガードの主力は、古代戦艦ルミナス・ヴァルキリーと大型武装飛空艇ポーラスターに分乗してマ・メール・ロアへ総攻撃をかけるために忙殺されている。今よけいな攻撃で戦力を疲弊させるのは愚かだと考えている。そのため、自主的に海賊たちを排除する余力のある者たちだけを派遣してきているのである。
 とはいえ、本当にバラバラに攻撃をしかけたのでは、各個撃破される恐れがある。敵をなめるてかかるのは危険だ。なにしろ、ここは彼らの支配下にあるのだし、海賊たちの物らしい貨物飛空艇がサルヴィン川近くからタシガン空峡へと頻繁に行き来していたという未確認の報告もある。
「敵は手勢を集めています。陽動以外で、迂闊に先行すれば各個撃破されかねません。ここは、タイミングを合わせて、最初に一気に海賊船を攻撃して沈めてしまいましょう。よりどころとなる船を失ってしまえば、敵はただの烏合の衆です。必要以上の攻撃は無用ですから、一撃離脱を……」
「甘いですわね。へたに残党を残せば、後日の禍根とならないとも限りませんよ」
 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が、教導団らしく冷静に殲滅を提案する。
「とはいっても、移動手段をもたない君たちはここで待機してもらうしかありません。小型飛空艇に多人数で乗り込んで機動性をそぐのは不利ですから」
 徒(かち)でやってきたグロリア・クレインたち三人を見て、影野陽太が事務的に言い切った。
「……」
 ボクは動物たちを守りたいからここでもいいとレイラ・リンジー(れいら・りんじー)は心の中でつぶやいたが、あえて口にだしてまでは言わなかった。
「しかたないよ。私たちは、ここでみんなを追撃してきた敵を殲滅しよう。しつこい奴らなら、全滅させたっていいよね」
 アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)が、グロリア・クレインに聞いた。
「もちろんです」
 グロリア・クレインがうなずく。
「では、後衛をお頼みします」
 影野陽太が、少しほっとしたように言った。ここでもめても意味はないし、援護があるのならば安全に撤退ができる。戦いは、撤退の方が難しいのだ。
「ゴチメイたちも集結しているという話もあるから、うまく利用すれば敵を分散できそうだな。どうせ力押しに攻撃するだろうから、分断されて混乱した敵を、冷静に各個撃破していけば実に効率がいいはずだ」
「本当は連動できれば一番いいのですが……」
 影野陽太が、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)に言った。
「なあに、へたなことを言っても勝手に振る舞われるだけだろう。作戦に組み込まない方が安全だ。こちらの方で、彼女たちに合わせた方が間違いがない」
「やれやれ」
 斎藤邦彦の言葉を聞いて、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が陰で小さく溜め息をついた。
「素直じゃないですね。ゴチメイたちを手伝いたいのなら、はっきりとそう言えばいいのに……」
 海賊たちには、キマクのアジトであっさりと捕まったという苦い思い出がある。復讐に目を曇らすつもりはないが、きっちりと借りは返しておきたいものだ。
「では、攻撃を開始しましょう」
 影野陽太が言った。
「もう出発していいの? じゃあ、行くよ、スズちゃん!」
 ずっと待っていたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が、橇を牽くサンタのトナカイのスズちゃんに命令を発した。シャンシャンと鈴を鳴らしながら、スズちゃんが走りだす。
 あわてて、影野陽太と斎藤邦彦たちが小型飛空艇で後を追った。他にも来ている者たちがいるはずであったが、やはり作戦指揮官をちゃんとおかない弊害からか、それぞれ勝手に攻撃をしかけるつもりのようであった。せめて、タイミングを合わせてくれればと祈るだけである。むしろ、斎藤邦彦が言ったように、ゴチメイたちの動きに合わせて攻撃した方が現実的だったかもしれないが、こうなれば現場で臨機応変に立ち回るしかなかった。
 
    ★    ★    ★
 
『敵が来たじゃん』
 海賊島の周囲を警戒していた如月夜空が、日比谷皐月に伝えた。哨戒に出ていた小型船のそばで立て続けに小爆発や水柱があがっている。
「敵襲!」
 日比谷皐月が、ここぞとばかりに情報を無線で伝えた。
「おやおや、始まっちまったか。どれ、しばらくは様子見だ。方向性が決まったら、じっくりと相手をさせてもらおう。これだけの戦力、無駄にするのはもったいないからな」
 フリーの海賊を装って海賊島に入り込んだジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は、さりげなく身を隠していった。
 
    ★    ★    ★
 
 戦闘が始まった海域では、一台の小型飛空艇に乗った斎藤邦彦とネル・マイヤーズが、接触した小型船を銃で攻撃していた。
 斎藤邦彦が無線を改造したジャマーで、極近距離だけではあるが通信妨害をして敵を混乱させている。そこへネル・マイヤーズが恐れの歌を口ずさみながら、爆炎波を叩き込んでいった。魔法防御処理もしていない小型船なら、その一発で中破する。とはいえ、一撃で沈めるには、船腹に大穴を開けるかでもしないと難しい。当然、高速ですれ違った後に、反撃がやってくる。
 小型船に据えつけられた機関銃から発射された弾丸が、水飛沫をあげて水面すれすれを旋回する小型飛空艇の後を追いかけて、次々と小さな水柱を立てていった。
 火線が追いつくかと思われた刹那、影野陽太の星輝銃によって狙撃された機関銃が暴発して操作していた海賊が吹き飛ばされる。
「沈みな」
 とって返した斎藤邦彦が、小型船の船尾に三連回転式火縄銃の銃弾を一気に叩き込んだ。エンジンが爆発し、小型船が傾いて沈み始める。
「船を回せ。海賊島に近づけさせるな!」
 海賊島の四方に展開して警備を担当していた大型海賊船が、事態に気づいて攻撃を始めた。近くにいたもう一隻も、回頭してむかってくる。他の海賊船はまだ停泊中だが、小回りのきく中型船や小型船は一斉にあわただしく動き始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「もう始まっているみたいだわ。出遅れた分取り返すわよ!」
 遅れて戦場へやってきたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、小型飛空艇で高度をとりつつ叫んだ。死角である上空から海賊船に接近していく。
「おいおい、何をするつもり……あちゃー」
 キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が、思わず天を仰いだ。
 大型の海賊船が斎藤邦彦たちにむかって攻撃を始めるのを見て、リカイン・フェルマータがいきなり小型飛空艇から飛び降りたのだ。
 そのまま、敵船に乗り込むつもりらしいが、見つかったとたんいい的だ。僧侶のくせになんという攻撃を……、だいたい乗り捨てた小型飛空艇はどうするんだ。
 そんな思いを口にする間もなく、キュー・ディスティンは氷術でできる限り大きな氷塊をリカイン・フェルマータの足先に出現させた。
「いっけぇ!」
 氷塊を敵の銃撃からの盾にしたまま、リカイン・フェルマータはそれを蹴り落とすようにしてドラゴンアーツによるキックを海賊船のマストに見舞った。砕け散る氷塊とともにミシリとマストに罅が入る。反動を利用して身を翻したリカイン・フェルマータが、甲板に両手をつくと大きくその身を捻りながら回転させた。脆くなっていたマストが、二度目の回し蹴りで根元から粉砕される。
 リカイン・フェルマータは勢いで美しい金髪がその身に絡みついたのを軽く手で払いのけると、慌てふためく海賊たちの前に立ちあがった。その背後で、音をたててメインマストが倒れていく。
「なんて奴だ、やっちまえ」
 唖然としながらも、海賊船の甲板長が手下に命令した。曲刀を抜いた海賊たちが、リカイン・フェルマータに殺到しようとしたところへ、扇状に広がる爆炎波が彼らを吹き飛ばした。剣を振り下ろした体勢で片膝をついたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が、ゆっくりと立ちあがる。
「抜け駆けはだめですよ」
 淡々とした口調で、リカイン・フェルマータに言う。
「いいじゃない、やりたかったんだから」
 背後にある船室への扉をドラゴンアーツの拳圧で破壊しながら、リカイン・フェルマータがちょっと口をとがらせて言い返した。船内から甲板へあがろうとして駆けつけた海賊たちが、扉ごと再び船内へと叩き落とされる。
「この船には、女王関係の物はなさそうね。いいわ、シルフィスティ、狐樹廊、やっちゃって」
「やれやれ、荒っぽいことですね。参ります。秘奥義、曼珠沙華」(V)
 シルフィスティ・ロスヴァイセが飛び降りた後の小型飛空艇に残っていた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が、手にした扇をさっと振るった。風が舞うごとく、リカイン・フェルマータとシルフィスティ・ロスヴァイセの位置から周囲にむかって炎の嵐が渦巻いて広がる。炎は、あっと言う間に船全体に燃え広がっていった。
「おいおい、早く乗れ。一緒に沈んじまうぞ」
 リカイン・フェルマータの小型飛空艇を引っぱってきたキュー・ディスティンが呆れ顔で言った。空京稲荷狐樹廊とともにそのまま甲板に着地するが、パニックになった海賊たちは海に飛び込むのに忙しく、彼らに構う者はいなかった。とはいえ、他の海賊船の者たちは違う。もはや船が役にたたないと悟ると、容赦なく砲撃を浴びせかけてきた。
「むなしいものですね」
 味方であった者たちによって破壊されていく船を見回して、シルフィスティ・ロスヴァイセがつぶやいた。
「何やってんだ、二人とも早く乗れ! いったん逃げるぜ」
 キュー・ディスティンが叫んだ。その声に従って、リカイン・フェルマータとシルフィスティ・ロスヴァイセが小型飛空艇に飛び乗って、急いで船から離れた。