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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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3-06 テント山の罠

 テング山の攻略後、「鏡」の合図を受けた鋼鉄の獅子は状況を開始、隊長のレオンハルト自らはパートナーのシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)と共に50を率い、テント山へ進軍した。
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)ら騎狼一行は機動力をもって、テント山へ一番乗りする。
 ここへテング山から残兵を駆って駆け下りてきた天霊院配下の豹華も合流してくることになる。ただ、敵はテント山の付近まで来るとそのままテント山頂上の陣に行かず、ばらばらに逃げ散った。「どういうこと?!」
 豹華は、麓に布陣するレオンハルトに合流する。
 メイベルたちはすでに騎狼の機動性と隠密性を生かし、テント山の中腹にあった。
「さて、いよいよこの先は敵中突破ね。強行するだろうから、気を引き締めていかないと。
 メイベルやフィリッパたちも意気込んでいるけれど、僕も負けないように頑張らないとね」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が先陣に立つ。
 殺気看破には今のところ反応する特別な敵はなし。数も、思ったよりさほど多くはない……
 メイベルは、騎狼を撫でる。「また戦いになるけど、しっかり。お願いしますぅ」
「撲殺されたくなければ道を開けてよね!」
 敵は脆い。この分だと、頂上まで到達できる……!
 ユハラ(ゆはら)までもが、拳を振るって駆けた。
 一方で、レオンハルトはやや慎重になっていた。
 シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)の言う通り、確かに、
「食料や物資は情報管制の僕が大分切り詰めてはいるものの、保給線が断たれている以上そろそろ余裕が無くなって来ています」
 だが、テント山に物資が集まっているという情報がピンポイントで入っているのは怪しい……シルヴァはそう読んだ。物資はあるのかもしれないが、伏兵を置いている可能性もある。ここはいっそ敵の物資に頼ることはやめ、物資があるにしても敵ごと焼き払ってしまおう、という大胆な提言を出した。問答無用だ。
「保給に餓えてる人の前で食料を焼く。
 酷いと思いますか? 最悪だと思いますか?
 あは、でもほら僕、魔性の子とか呼ばれてた位ですのでー☆」
「一杯練習したルインの魔法、甘く見てたら火傷するかな――っ!」
 盛大に浴びせよファイアストーム。
「篝火は小さくとも、風が味方すれば容易く猛火へと変わる……
 火計とはこう使うものだ」
 風下から。炎が拡がる……火計を知る男。レオンハルトの火計は見事だ。
「何? メイベル他数騎が深入りしている……うむ。
 風上へ誘導しよう。ちょうど良い、逃げてくる敵の首は全て刎ねよ。行くぞ!」
 焼け焦げるカラスもあるが、数は少ない。
 セシリアの、「殺気看破に、やぁな、悪寒が……」
「きゃぁ?!」フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が落馬する。
 ――{ぼるど}怒鳴堵濁酢憤怒一世(どなるどだっくすふんどいつせい){/ぼるど}。パラ実出身もとオーク騎狼部隊隊長、バンダロハムで傭兵をやったこともある猛者。メイベルとはオーク戦からの因縁だ。そして怒鳴堵濁酢憤怒一世はメイベルのことが……
「めいべる……」
「展開は、予想してたですぅ」
「ここまでは、な」
「?」
「メイベル。とにかくコレを倒せば、頂上は目の前だもんね!」
 セシリア・ライトは鈍器をかまえる。
「待ってくださいですぅ。ちょっといつもと様子が……」
「めいべる……」いつになく、真剣な漢の眼差しだ。
「めいべる。何故、よりによっておまえが来た……
 ひゃっはぁぁぁ……おれが、いちばん死んでほしくないおまえが」
「死……ですぅ?」



ウォーレン! よく、無事で……」
「レオン。……」
 感慨を噛み締め、しかし今は伝えねばならないことがある。
「レオン、このテント山は……」
「……何」
 ウォーレンは、敵陣で掴んできた情報を伝えた。彼は、戦闘中、情報を持ち帰るため故意にイリーナのパートナーに捕らわれる演技を見せたのであった。
「急がねば。ウォーレン、ここは我らに任せひとまずは後方で、休むと……ウォーレン?」
 ウォーレン。どこへ行く。
 ここに至るまでに、ウォーレンにも色々重いことがあったのだろう。今は、そっとしておくのが良いか。
 レオンハルトは、全軍をテント山から退かせる。
「マッドモモ……いないの? 何、撤退命令?」
 敵将を討ち取らんとやっきになっていた豹華も、驚く。



「めいべる。おれは、オークシリーズ・黒羊郷探訪のあと職を失いてんてんとし、そして自爆兵団長に就職したのだ。
 めいべる。このテント山は……罠だ」
 山頂が、爆発し、吹っ飛んだ。



 ウォーレンは陣地へ戻っており、少し元気のない様子だったが、シルヴァの質問に答えていた。
「聞かせて頂きたい質問は三項です。
 ジャレイラの求心力? ジャレイラが止まれば、黒羊軍は止まるか」
「"しるしの女"としての話も聞いたぜ。族長たちから聞いた、戦いの話だけじゃない、"しるしの女"としての話……
 黒羊軍が族長たちにしたことを忘れるなどはできない。ただ、彼ら族長らが信じた彼女と、彼らが求めた平穏も忘れはしない。
 ジャレイラは、部族たちの信を得ている」
「黒羊軍だけじゃない、部族たちも……」
 おそらく、ジャレイラと共に戦った者たちは、ジャレイラと同じ信念を共有した。戦うことを止めない、か。疑問を持っている部族もあるが、根っこの部分ではジャレイラを信じている。ジャレイラが死ぬようなことがあっても、最後まで戦うのだろう。
「黒羊軍内での派閥構成は? 一枚岩でないなら各派閥の代表など」
 メニエスの名が挙がった。
「メニエス。何を企んでいる……」
 綺羅瑠璃。虚ろな瞳で、もしかしたら操られているのかもしれないこと。しかし、指揮を預かり今までの通りジャレイラに忠実に従い攻めてきていることは事実。ジャレイラをどうにかせねば、ここは崩せないかも知れない。
 鴉賊にはもう頭もおらず、こちらに抵抗できる兵力は残っていないだろう。
シャトムラ(しゃとむら)?」
 後方を預かる指揮官であり、黒羊教の敬虔な信徒であるらしい。
「ふむう……」
 レオンハルトは方針を固めた。
 ジャレイラを捕虜にする。そのための条件は整いつつある。
「ここからは、痛み分け上等、陣地の被害は覚悟の上。
 戦術的勝利より戦略的な勝敗に於いての逆転を狙う」
 不敵に、微笑んだ。



 テント山は、消し飛んだ。
 落馬し、山を転がり落ち(なんてイメージは全然似合わないお姉さんなのだけど)、ともあれ爆発に巻き込まれるのを免れたフィリッパ
 葉っぱで小さな船を作り、そこにシャンバランフィギュアを寝かせて、東河に流す。
 しゃがみ込んで、ぼうっと流れていく小船を見つめるフィリッパ。
「さようなら……シャンバラン。
 さようなら……メイベル」
 シャンバランフィギュアの隣にはそっと、メイベルフィギュアが添えられていた。フィリッパの手作りだ。世界に一体しかない。セシリア・ライトの分は、撲殺っ娘らしく、石ころ辺りで……メイベルフィギュアの頭の上の辺に置いておいた。
 こうして霊を弔うと、シャンバランとメイベルの墓も作った。墓石には、手書きで"シャンバランとメイベルのはか"と記す。
「シャンバランとメイベルのはか……シャンバランとメイベルのばか。……ばか……」
 嗚咽が漏れる。フィリッパは、声を押し殺して、泣いた。
「このふぃぎゅあも、一緒に流してあげてくださいですぅ」
「え、ええ……いいですわ、……は、あっ。メイベル……! セシリア……! そ、それに……」
 ぼろぼろになったメイベルとセシリアが帰ってきた。二人が抱えているのは、ユハラ……じゃなく、巨大な漢。
「え、それフィギュア……?」
「いえ、こちらですぅ」
 メイベルの手に、何故か怒鳴堵濁酢憤怒一世ふぃぎゅあがあった。
 怒鳴堵濁酢憤怒一世は、メイベルを抱え、爆発の中、ひた走った。
「めいべる。ひゃっはぁ。おまえがすきだ。めいべる……」
 山の麓で、そう最後の言葉を言い残し。
 怒鳴堵濁酢憤怒一世のはか。「これでよし、ですぅ」怒鳴堵濁酢憤怒一世のばか。シャンバランのばか。
「怒鳴堵濁酢憤怒一世に、シャンバラン……こうしていると、オークシリーズを思い出しますぅ。
 そして黒羊郷探訪、南部戦記……このシリーズも、もうすぐ終わりですね……」