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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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9-04 信徒兵〜解放〜

 精神が弱き者は湖の底へ行けたとしても肉体へ帰れず、意識を失った木偶人形の体は都合のいい操り人形。(帰って来れた奴はさしずめ隊長格か。)
 ていのいい兵士量産装置だが……
 と、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は思う。
 その兵士量産装置とも言える、黒羊郷の地下湖に、(すでに半ば意識と離れている)騎凛 セイカ(きりん・せいか)を連れてナガンは飛び込んだ。
 しかし。となると……
 湖の底知れぬ暗がりに沈みながら、ナガンは続けて思う。
 今まで行ったであろう膨大な数の信徒兵の意識は、無意識の世界に大量に漂っているのか?
 ……仮にそうだとして。
 ではその漂っている意識を解き放つことができれば、何らか事態を発展させることはできるんじゃないかァ?
 意識の漂っている場所か。つまり、この湖の底……ということになるのか。
 どこまで、沈んでいく。
 (肉体に帰れなかった奴ら。どうせ意識を持ってかれるような柔い精神の持ち主だろうが……)
 しかし、ナガンにさえ、この湖の水の冷ややかさは自らの命をどころか、まさしく自分そのものを奪っていかんとするもののような冷ややかさに感じられ、そして、とても重たい心持ちになってきた。ここで、戻ってしまえば、底まで行き着けなかったというだけになる。このくらい。ナガンはまだまだどうでもないと思った。
「まァ、褌なんで泳ぎやすいしな。……」
 褌はともあれ、ナガンの辿ってきた道も実際に尋常なものではなかった。ナガンはこの暗く、冷たく、重たい水に耐えた。それは、次第に、何故か心地よいとさえ思えるものになってくる、この暗さ、冷たさ……重さはそれを通り越すと、逆に軽やかになってくるとさえ思われた。
 これは、まるで……夢か。それとも、……死か。この先にあるのは……



 静かだ。
 ナガンは、湖の底に辿り着いた。
 こんなものか。いちばん底。辿り着いてしまえば……。さて。
 いる、いるナぁ。
 静かで、冷たくほの暗い水の中に、信徒兵となっている者たちの意識だけが、漂っている。それが強く感じられた。
「……」
 どうしたものか。まるで盲のようだ。何も見えていないように、漂っているだけ。
「ここもじき無に帰る(でまかせ。)……おまえらの現実の体はいいように操られているんだぞ! 帰るぞ」
 ……
 口からでまかせも通用しないかァ。ただ、帰る、という言葉に反応したのだろうか。意識たちが、ナガンの周囲に集まりだした気がする。すごい数だ。何を、何を求め彷徨っている!
 ナガンは叫んだ。帰る方法がないなら、ナガンの体にぜーんぶ乗っけて帰ってやるよぉ、ほら!!
 ナガンはすべてを受け入れるように両手を広げた。
「ウッ」
 一斉に、入り込んでくる。
 ナガンの体に、無数の彷徨う意識の群れが入り込んできて……ナガンは、
「ウワアアアアアアア!!」
 ナガン自身の意識がどこかへ飛んだ。
 誰かや、誰かの、もう誰のものかわからない意識や意識が入り込んだナガンの体は、しかしその誰もがそう望むかのように、一直線に湖面を目掛けて駆け上がっていく。
 無我夢中……しかしナガンはもうそんなこともわからない。
 湖を飛び出した無数の意識は、我の体を求め、ナガンの体を捨ててあちこちへ飛び去っていった。
 ナガンは抜け殻になってしまった。