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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「幸せそうな寝顔……」
 自宅のソファーで眠りこけている匿名 某(とくな・なにがし)の顔をのぞき込んで、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)はささやいた。
 細い指先で、そっとほつれた髪を直してあげる。そのとき、微かに指先に痺れのような物が走った。
「また……」
 最近、頻繁に身体に痛みが走ることがある。
 原因が不明なだけに、自分の生い立ちに理由があるのかもしれないと考えてはいるが、はっきりとした答えは出ていない。
 もし、匿名某に相談したとすれば、間違いなく病院に連れていかれるだろう。そうすれば、理由ははっきりするかも、いや、はっきりしてしまうかもしれない。
 感覚のない指先で、結崎綾耶は匿名某の髪を直し終えた。
 もし、自分の身に何かあれば、パートナーである匿名某にもその影響はおよんでしまう。最悪、その前に安全にパートナー契約を解除できる方法を探す必要があるだろう。
「……某さん。もし、もし『その時』がきたら、あなたはどうしますか?」
 何も知らず、何も知らされずに眠り続ける匿名某の顔を見つめながら、結崎綾耶はそう問いかけずにはいられなかった。
 
    ★    ★    ★
 
「また壊しおって!」
 ルシファー・セラフィム(るしふぁー・せらふぃむ)の声が部屋中に響き渡った。
「いやいや、悪かったと思ってます、ハイ」
 しきりに頭を下げながら、櫻井 馨(さくらい・かおる)がしきりに媚びを売った。
「……派手に壊しましたね、マスター」
 呆れ顔で綾崎 リン(あやざき・りん)が言う。三人の前には、装甲がぼろぼろに傷ついたパワードアーマーの各パーツが並べられていた。直さないで放っておいたら、次の使用で完全に破壊されてしまうだろう。
「……これで、完全に休日は潰れましたね。みんなででかけたかったなあ。ちろり」
 横目で睨まれて、櫻井馨が再び恐縮する。
「もうちょっと丁寧に扱うことはできないんですか。機械は繊細な物なんですから」
「いや、戦いの最中は、そんなことは……」
「気にしてください」
 ぴしゃりと、綾崎リンに言い訳を途中でぶった切られる。
「とにかく、こういった精密機械は、専任の機工士でないと手が出せないのじゃ。へたにいじると、保証対象外になるからのう」
「保証期間あるんですかあ?」
「あったりまえじゃ。違法改造は、メーカー修理がきかなくなるのだぞ」
 間の抜けた綾崎リンの問いに、ルシファー・セラフィムが言い切った。
 実際、特別なスキルを持たない彼女たちにできることは、表面的なパーツの交換だけである。言ってみれば、刀傷だの、銃創のついた装甲を外して新しい物につけ替えるぐらいである。それ以上のことは、各学校の購買に付属する専門の修理窓口に持っていくしかない。おそらくは、そこに常駐している専門の機工士がその場で直すのであろう。いずれにしても、精密部品をいちいち修理するなどというのはナンセンスきわまりない。現代の機械部品は、すべて機能ごとにユニット化されたパーツを交換するだけである。破損したパーツはヒラニプラに運ばれて、そこで本当の修理が行われる。
「とりあえず、必要な物を集めてくるのじゃ。まずは、たっぷりと砂糖の入ったミルクココアじゃな」
「そんな物、パワードスーツにかけてどうするんだ……」
「馬鹿者、わしが飲むに決まっているじゃろうが。早くせい!」
「はは、ただいま……」
 もの凄い理不尽さを感じながらも、従うしかない櫻井馨であった。
 
「ふう、こんな物かのう」
 ドライバーをおいて、ルシファー・セラフィムが一息ついた。一応、傷だらけだった装甲板がピカピカの新品に交換されている。
「お疲れ様ー」
「まあ、働いたのはわしだけじゃからな」
 自身の肩を揉みながら、ルシファー・セラフィムが櫻井馨に言った。
「毎度ありがとうございます。さあ、肩でもお揉みいたしましよう」
 へつらいながら、櫻井馨が言った。どうせまた壊して戻ってくるのは目に見えているのだ。次も直してもらわなければ困る。
「まだ、パーツ交換ですんでいるうちはいいが、これ以上壊すと、修理に出すしかないのじゃぞ」
 こっちの方と、軽く肩を動かして位置を指示しながらルシファー・セラフィムが言った。
「へいへい……、ん? リン、何をしてるんだ」
「塗装ですよ」
 ピンクのペンキをぺたぺたと真新しい装甲に塗りたぐりながら、綾崎リンがしれっと答えた。
「やめろ、ショッキングピンクのパワードスーツなんて恥ずかしくって着られるか!」
 やめさせようとして、櫻井馨が手をのばした。だが、ルシファー・セラフィムの背後からでは、とうてい綾崎リンに手が届くわけもない。つんのめってバランスを崩した櫻井馨の手が、何か小さい物をむんずとつかんだ。
「ひゃうっ!」
 いきなり胸をつかまれたルシファー・セラフィムが、小動物のような悲鳴をあげた。
「ま・す・た・あ!!」
 綾崎リンが、怒りを込めて櫻井馨にペンキの缶を投げつけた。
「いでっ」
 顔面を直撃したペンキ缶が垂直に跳ね上がる。間一髪ルシファー・セラフィムが逃げだした後に、ピンクの液体がドボドボと櫻井馨に降り注いだ。
「どうしていつもこーなるのー!」
 ピンク色の櫻井馨が叫んだ。