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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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3.タシガンの奇書
 
 
「石像ですか?」
 タシガンの公園を散歩中に百合園女学院の少女に訊ねられて、ジェイムス・ターロンは不思議そうに聞き返した。
「ええ。ストゥ伯爵とかいう人のお城から運び出された石像なんだもん」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、そう言って、さらに詳しく聞き込みをしていった。
 なんでも、海賊と学生たちの戦いでタシガンにある古城が一つ崩壊したらしい。そこには、アムリアナ・シュヴァーラの石像などがたくさんあったらしく、好事家から手に入らないかと依頼されたのだった。もっとも、事件の後にほとんどの石像は消えてなくなってしまったらしく、粗悪な一刀彫りの石像しか残されていなかったらしい。
「とりあえず確かなのは、石像を持ち出した者たちがいたらしいんだよね。あたしは、それを探してるんだもん。おじさま、知らない?」
「うーん、オークションなどに出品されたとか、そういった話は聞きませんな。誰かが秘匿しておられるか、どこかにうち捨てられてしまったのではありませんか」
 あまり自信がなさそうに、ジェイムス・ターロンは答えた。
「ありがとーなんだもん」
 ぺこりとお辞儀をすると、ミルディア・ディスティンは聞き込みを続けていった。
 
 
4.ツァンダの参考書
 
 
「こっちだよー」
「こら、勝手に走るな!」
 ジャンパースカートの裾を翻しながら走りだすミミ・マリー(みみ・まりー)に、大きな鍋を持った瀬島 壮太(せじま・そうた)が叫んだ。これから椎名 真(しいな・まこと)の家に遊びに行くところなのだが、はしゃぐミミ・マリーを見ていると、危なっかしくってしょうがない。
「そんなの持ってくるから走れないんだよ」
「別に、走ってかなきゃいけねえわけじゃないだろうが。まったく」
 両手持ちの鍋の中には、特製の豆腐が三丁も入っている。スーパーにある凝固剤で固めた安物ではなく、しっかりと豆の味がする本物の豆腐だ。そのため、一丁がかなりでかい。それが三丁ともなると、形を保つ水も入れてかなりの重量だ。とはいえ、瀬島壮太にとってはとりたてて重いというわけではないのだが、中の豆腐の形を崩さないように運ぶとなると、そうそう乱暴なことはできない。
「僕も持つ?」
「ぜーったいに、だ・め・だ!」
 手をのばすミミ・マリーに、瀬島壮太は断固として拒否した。ここまで無事に運んできたのだ。最後の最後で壊されたら困る。
「僕だって、やればできるんだからあ。ケチなんだからあ」(V)
 不満そうな顔をしてから、再びミミ・マリーは走りだした。
「おっとと」
 道を歩いていた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が、危なくミミ・マリーとぶつかりそうになってひらりと体を躱した。
「外にいる子たちは元気がよすぎるわね」
 うらやましいような、ちょっと迷惑なような、どちらともつかない顔で綾原さゆみはつぶやいた。
 家にいてもやることがないので、しかたなくという感じで散歩に出てはみたのだが、やっぱりこれといってやることがない。
 最近は世界情勢が激しく動いたので、それについていけてないのかもしれない。この怠惰な感覚は、なんとも形容しがたい。
 とはいえ、年がら年中ぴりぴりしているのもどうだろうか。別に、何かをやりたくないわけではないはずだ。だとすれば、今は次にする何かのための充電期間なのかもしれない。ほら、ジャンプする前には、ちょっとしたためをするようにだ。
「夏かあ。マジケットあたりでするコスプレでも考えようかなあ」
 そんなことを考えながら歩いて行くと、幟のついた自転車に乗ったアイス売りが通りかかった。
「一つちょうだい!」
 すかさず呼び止めて、素朴な棒つきアイスを買う。
 かぷり。
 あたった!
 木の棒に、赤い文字で「あたり」と書いてある。
「おっ、運がいいねえ。ほい、もう一本」
 アイス売りが、もう一本アイスを手渡した。
 アイス一本分、ちょっぴりだけやる気が出た気がした綾原さゆみであった。
 
    ★    ★    ★
 
「豆腐かぁ、さすがに壮太だ! っと、預からせてもらうよ」(V)
 瀬島壮太が持ってきた豆腐を見るなり、椎名真は歓喜の声をあげた。本当に豆腐が好きなのである。
「うん、固さといい、なめらかさといい、かんっぺきな絹豆腐だよ。素晴らしい!」
 いつもはあまり見せないキラキラとした目をして、椎名真が言う。
「いや、俺ばっかり喜んでちゃいけないな、壮太は好きな食べ物はないのか?」
「オレか? しいて言えば、ハンバーガーってとこかなあ」
 ちょっと考えてから、瀬島壮太が答えた。
「ハンバーガーか、よし、まかせろ」
 用意しいてたメニューは完全に無視して、椎名真が胸を叩いた。
「少しだけ待っててくれ」
 そう言うと、椎名真はキッチンへと姿を消した。
 彼がパートナーたちと今住んでいる家は、かなり大きめのシュアハウスだ。規模から言うと、下宿屋というか、寮に近いかもしれない。
「壮太にーちゃん。遊ぼー!」
 彼方 蒼(かなた・そう)が、暇そうな瀬島壮太の腕を引っぱって誘った。今日は、椎名真が一人で料理を作るとしているため、他の者たちは一応手持ち無沙汰だ。
「しっかたねえなあ。俺を楽しませてくれよ。ほら、行くぜ」(V)
 言葉とは裏腹に、用意してきたフライングディスクを持って、瀬島壮太は彼方蒼と共に庭に出ていった。
 フライングディスクを投げ合うというか、犬型獣人の本性丸出しで、彼方蒼は一方的にフライングディスクを取りに走り回る。
「いいなあ……」
 かなりうらやましそうに、原田 左之助(はらだ・さのすけ)はつぶやいた。仲間に加わりたいのであれば、声をかければいいのであるが、その一言がなぜか出てこない。
「京子の方はと……」
 庭の見える窓際を離れると、原田左之助は双葉 京子(ふたば・きょうこ)とミミ・マリーの姿を捜してみた。
 
「はい、脱いで脱いで♪」
 なぜか楽しそうに、双葉京子がミミ・マリーを脱がしている。
「ぶふっ、こんな所で……」
 思わず真っ赤になりながら、原田左之助は一歩後退った。
「あら、さのにぃ、のぞきだあ」
 なぜか楽しそうに双葉京子が言う。いいのか、それで。
「大丈夫だよ、だって僕男の子だもん」
 それでも少し恥ずかしそうに、ミミ・マリーがフリルひらひらの服で身体の前を隠しながら言った。
「いや、それならなおさら、いいのか?」
 原田左之助は、ニコニコしている双葉京子の方を見てつぶやいた。
「ちょっと、真の方手伝ってくるわ」
 そう言うと、原田左之助はまた移動していった。
「変なの。ねえ。それよりも、さあ、お着替え、お着替え。えいっ!」(V)
 怪訝そうに原田左之助を見送ると、双葉京子はミミ・マリーと顔を見合わせた。あっちは放っておいてと、着せ替えごっこを再開する。
「これとかどうかな? これもかわいいよ!」
 次々に出てくるかわいらしい服に、ミミ・マリーも声をあげて喜ぶ。
「でも、なんでこんなにたくさんのお洋服持っているの?」
 聞かれて、双葉京子はちょっと顔を翳らせた。
「だって、真くん、最近ちっとも依頼に連れてってくれないんだもん。淋しいから、お家の中だけでも、着飾ろうと思って、つい買いすぎちゃったんだよね」
「多分、一緒に戦いたい人と、傍にいて欲しい人って違うんだよ。でも、ちゃんと連れてってと言えば、連れてってもらえるんじゃないの?」
 双葉京子の話を聞いたミミ・マリーは、素直にそう答えた。
「その一言がねえ……。今の話、真くんには内緒にしててね。その代わり、一番似合った服をあげるから」
「わーい」
 
 そんなこととはつゆ知らず豆腐料理に精を出している椎名真の許へ、原田左之助は顔を出した。
「なんか手伝うことでもあるか?」
「いや、もうじきできるよ」
「じゃ、味噌汁だけでも作らせろよ」
 することがなくてしようがないと、原田左之助は言った。
「じゃあ、お願いするかな」
 そうは言ったものの、後で彼の作った味噌汁を味見した椎名真は、煮すぎて鬆(す)の入った豆腐に陰で涙を流しつつ、味の微調整をするはめになるのだった。
 
 どちらかというと邪魔だけして居間に戻ってきた原田左之助は、ソファーで一人くつろいでいる瀬島壮太を見つけた。彼方蒼の方は、まだ一人でフライングディスクを追っかけて走り回っている。さすがに、瀬島壮太の方は疲れてしまったらしい。
「ちょっといいかなあ」
 原田左之助は、思い切って相談を持ちかけてみた。
「瀬島……、蒼に好かれるにはどうしたらいいんだ?」
「はあ?」
 予想もしない質問に、瀬島壮太が一瞬きょとんとした。どうやら、原田左之助は彼方蒼に怖がられ敬遠されているらしく、それを気にやんでいるようだ。
「あんた仏頂面だから、彼方はそれが怖えんじゃねえの。変に気負わねえで一緒に遊んでやるだけでも違うと思うけど。一声、遊ぼうと言ってやればいいことだな」
「その一言がなあ……」
 そう言って、原田左之助は軽く溜め息をついた。
 
「さあ、遠慮なく食べてくれ」
 椎名真は、テーブルの上に並んだ夕食を前にして、誇らしげにみんなに言った。
 そこには、豆腐サラダ、揚げ出し豆腐、三色田楽、だしという刻んだ漬け物を載せた冷や奴、炒り豆腐、豆腐となめこの味噌汁に、豆腐を練り込んだハンバーガーが所狭しと並んでいる。
「ふう、えへへ、たくさん動いたらお腹すいちゃったあ。どうしよう、どれも美味しそうだよ〜。うーん幸せー」(V)
 たくさんの料理に目移りしながら、ミミ・マリーが言った。
「遠慮しないで食べてね」
「食べるー!!」
 ミミ・マリーに勧める双葉京子に、彼方蒼が元気よく返事をする。それを見て、思わず原田左之助が小さく苦笑すした。その笑い顔を見て、彼方蒼がびくんと少し下がる。ほらと、瀬島壮太が原田左之助を陰でつついた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
 椎名真の音頭で、一同は一斉に食べ始めた。