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【怪盗VS探偵】闇夜に輝く紫の蝶

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【怪盗VS探偵】闇夜に輝く紫の蝶

リアクション

「あの……ところで、小谷さんを盗んだら……どうするつもりなのでしょうか?」
 携帯番号交換が終わったところで影野 陽太(かげの・ようた)がおずおずと手を挙げた。
「決まってるじゃない! すぐに帰すのよ! だって、人の大事なものを盗むのが楽しそうなのであって、盗んだものをどうこうする趣味はないわ」
「そうですか」
 蝶子の断言を聞き、陽太はほっと胸をなでおろした。
「では、わたくし達は防衛している人達を眠らせることにしますわ」
「うん! ワタシも〜!」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が陽太の言おうとしていた言葉を先に言い、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はそれに賛同した。
「ところで、どうやって盗むのですか?」
 目の周りを隠す仮面を付け、正体がばれないように参加しているのは霧島 春美(きりしま・はるみ)だ。
「そりゃ勿論……屋上とか高い場所からハングライダーに乗って、一気に盗むのよ!」
 アジトの隅に置かれている複数のハングライダーを指差して、断言した。
「あらら……」
 そんな蝶子の言葉を聞いて、同じく仮面を付けているピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら)が苦笑いをした。
「それだけ?」
「ええ」
 春美は頭が痛いとばかりに額を抑えると、暫く考え事をしていた。
「良いですか? 誘拐時は――」
 春美は一瞬で考えた誘拐プランを蝶子に伝授していく。
「そんなやり方があるなんて! あなた……天才?」
「違います! これくらい出来るようになって下さい!」
 春美はいつもは敵になる怪盗に必死にそう告げた。
「そうね……もう少し面白くなるように今後は考えることにするわ」
 蝶子はにやりと笑う。
「私も陽動をやらせていただきます」
 お気に入りの紫のバニースーツを着こみ、紫の布で目から下を隠したガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)がそう申し出た。
「あら、あなたも紫なのね」
「盗賊パープルバニーです! 紫が好きなところに共感しました!」
「素敵! やっぱり紫って良いわよね! あたし達、良い友人になりそうね」
 どうやらこの2人は意気投合しそうだ。
「はいは〜い! 色柄の違う衣装ってないですかぁ〜? あればお借りしたいですぅ〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が元気よく手を挙げた。
「あるわよ! 紫と蝶が基調になってるのは変わらないけど、ミニのやつが……確かこの辺に……」
 そう言うと、蝶子は自分の部屋へと入って行き、何やらごそごそとやっている。
 少しすると部屋から出てきて、その手には確かに、ちょっと違う衣装があった。
 蝶子のは長い裾だが、これは短いもののようだ。
 蝶の柄もテイストが違い、蝶子のは和風だが、明日香に手渡した方は可愛らしい雰囲気のものになっている。
「わ〜! ありがとうございますぅ〜。お借りしますね〜!」
「あら、それもらっちゃって良いわよ? もう着ないやつだから」
「良いんですか? やった〜♪」
 明日香は嬉しそうに衣装をぎゅっと抱きしめた。
(暇だったから来てみたけど……やっぱりちょっとくだらないなぁ)
 今までずっと傍観していたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)はそんな事を思いながら、少し眠たそうに欠伸をしていた。
「ねぇ、質問して良い?」
 じっと聞いていた神和 綺人(かんなぎ・あやと)が突然、声を出した。
「『怪盗』って何? 盗むってことは、泥棒や盗賊と同じ? 違うの? 違いは何?」
「ん? 怪盗? 知らないわよ? 私はただ格好良いからその言葉を選んだだけ!」
 蝶子はぐっと拳を握り、力強くそう言った。
「愛美さんをターゲットにしたのは何で?」
「なんとなくよ!」
(やっぱりか!)
 一同心の声。
「何で盗むの?」
「人の大事なものを盗んでみたかったからよ。そして、盗まれた人の表情を見るのが面白そうだから! 人に悪戯するのも大好きだから!」
 疑問に思っていたことを全て聞けて、満足したのか、ちゃんと協力することを約束して、綺人は少し後ろにいるクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の元へと戻った。
「まとも……ではないけれど、なんて生き生きとしているんだろう……蝶子さん! ちょっぴりファンになっちゃいました! 是非近くでその仕事ぶりを拝見させて下さい!」
 さっきまでとは一変して、リースは目を輝かせている。
「ええ! このあたしについて来なさい!」
「はいっ!」
 こうして蝶子のファン一号が誕生した。
 全ての質問に潔く答えていた蝶子を見て、はらはらしていたのは青太だ。
 そんな青太に神和 瀬織(かんなぎ・せお)が近づく。
「なぜあの人は怪盗を目指すことになったんです?」
 瀬織は蝶子を指して、聞いた。
「えっと……蝶子お姉ちゃんは住んでいた集落での悪戯に飽きたみたいで……それで人の多い空京に出てきたんだけど、小説か何かの影響を受けちゃったみたいで……怪盗とかいう方向に……はぁ……」
 青太は大きな溜息をついた。
「苦労しているんですね」
「そうなんだよ! わ、わかってくれる人が……」
 同情の眼差しを向けると青太は顔を手で覆い、少し泣いているようだ。
 こうして無事に(?)作戦会議は終了した。
 もうすっかり夜になっている。


 会議終了後。
 どこかに電話を掛けている人物の姿が空京の街にあった。
「あ、マリエル? うん……あ、探偵達には伝えないでね。うん……それじゃ」
 路地裏で電話を切ったのはさっきまで会議に参加していたエル・ウィンド(える・うぃんど)だ。
 そして、違う場所でも電話を切った人物がいた。
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
「キャラが被ってるなんて許せないんだから!」
 和服に黒ニー足袋の事を言っているようだ。
 こちらが掛けていたのはどうやら探偵だったみたいだ。
 マリエルにも伝えて欲しいと言っていた。
 さて、どういう行動に出るのだろうか。


 そして、探偵事務所の近くのマンションの屋上から双眼鏡を使っている者が2人。
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)だ。
 この2人、ネットで怪盗側に参加表明だけし、先ほどの会議には参加していなかった。
 双眼鏡の先にあるのは探偵事務所の応接室。
 中では、火焔と橙歌が今日の分の書類仕事をこなしているようだ。
「これでバッチリだよ!」
 エリシュカは隣にいるローザマリアにそう告げた。
「了解。それじゃあ、あとは本番に向けてちょっと練習しておくだけね」
 そう言うと、2人は自分達の家へと帰って行ったのだった。