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リアクション
●願いを短冊に込めて
(んー、書いたのはいいけど見られるの恥ずかしいなぁ……そうだ! ミーミルちゃんにお願いして高いところにつけてもらえばいいんだ♪)
短冊を書き終えた秋月 葵(あきづき・あおい)がミーミルを探す、手に持った短冊には『地球やパラミタの皆が幸せになれますように』と書いてあり、裏には小さく『……ぺったんこの胸が少しでも大きくなりますように……』と書いてあった。
「あっ、いたいた……ってええーー!!」
ミーミルを見つけて呼びかけたところで、葵はミーミルのありえない光景に目を丸くする。
「あっ、葵さん。何か、誰かの願い事を豊美さんが叶えたそうで、私こんなのになっちゃいました。豊美さんは今日だけって言ってましたけど……」
困った顔をしながらミーミルが、随分と豊かになった胸をたゆん、たゆんと揺らして葵に近づいて来た。
「そ、そうなんだー。本当に願い事叶うんだね……今日だけなんて言わないで、ずーっと大きくなっててくれたら――」
「? どうしました? えっと、やっぱり変ですよね?」
呟く葵に、ミーミルが自分の胸をぺしぺし、と邪魔そうに叩く。
「ううん、そういうわけじゃないよ! そうだミーミルちゃん、ちょっとお願いできるかな?」
たゆん、たゆんと揺れる胸から視線を逸らして、葵が願い事を書いた短冊をミーミルに渡す――。
(はぁ……このずっしりとくる重み、押せば返ってくる感触……一日限りって分かってても嬉しくなってきちゃうな)
見事願いが叶い、豊かな胸を手に入れた葵は、感動に打ちひしがれていた。
(そうだ、エレンたちにも見てもらおーっと! 今日だけはあたしも負けてないぞー!)
意気揚々と葵がその場を立ち去る、その様子を垣間見ていた五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は自らのしたためた短冊にぐっ、と力を込めた。
(やっぱり、私の他にも同じ願いをしてる人っているわよね! あの子も大きくなったんだし、わ、私だって……!)
『もう少し胸が大きくなりますように』と書かれた短冊を笹に結び付け、真剣な表情で理沙が祈る。
(お星サマ、織姫サマ。乙女のお願い、ソコん所よろしゅうお願い申し上げます)
随分と気合の入った祈りが終わったところで、理沙の視界に隣に提げられたセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の願い事が書かれた短冊が映る。
『皆が争い無く、幸福に暮らせますように』
「ちょっ、何いい子ちゃんな願い事書いてんのよっ」
「? こういう時は、個人の努力では如何ともしがたいお願いをしてみるのがいいかなと思ったのですけど? ……理沙の願い事もいいと思いますわ、女の子らしくて」
「なっ、バ、バカ、そんなつもりじゃ――」
反論しかけたところで、理沙の身体が光に包まれ、次の瞬間には存在感を増した胸を手に入れた理沙の姿がセレスティアに映った。
「……あら。願い事が叶ったようですわね。可愛いですわよ、理沙」」
「…………」
セレスティアに茶化され、顔を真っ赤にしつつも理沙は、柔らかな感触を返してくる胸にご満悦といった表情であった。
「この際ですから、女の子同士遠慮のない話に加わってみるのはいかがでしょう」
言ったセレスティアが示した先には、願いを受けて大きくなった胸に気分を良くしている瀬蓮と生徒との会話の輪があった。
「そ、そんなこと言われたって、何話せばいいか分かんないわよ」
「大丈夫ですわ」
渋る理沙を急かしながら、セレスティアは心に思う。
(理沙にも、百合園の校風を知っていただく良い機会ですものね。朱に交われば赤くなる、と言いますし)
そんなセレスティアの思惑を知らぬまま、なし崩し的に女の子同士の華やかで時にストレートな会話に、理沙は加わっていったのであった。
「なんで貴方がこんな場所におられるんでしょうかね」
「いわゆる保護者という立場ですよ。危険がないとも限りませんからね」
校門前でスヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)と志位 大地(しい・だいち)がそれぞれ、目が笑ってない笑顔でもって見えない火花を散らしていた。
(よりにもよってこんな輩と……ああティティ、叶うなら今すぐにでも会いに行きたい)
(まったく厄介ですね。ここが百合園でなければ、さっさとティエルさんと二人きりにでもなりましたのに)
「……くしゅんっ!」
「あら〜、風邪かしら〜?」
「あ、いえ、大丈夫だと思います」
思慮の対象になっているとは露知らず、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)はシーラ・カンス(しーら・かんす)、薄青 諒(うすあお・まこと)、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)と七夕の一時を楽しんでいた。
「これが日本の風習ですか、すごいですねー」
生徒たちによって飾り付けがなされた笹を見上げて、ティエリーティアが感嘆の声を漏らす。そのまま手近に見えた笹の葉へ手を伸ばしたところへ、ぬっ、と虎の頭が遮るように飛び出してくる。
「笹の葉はうっかり触ると指を切ってしまうの。せっかく可愛らしい格好してきたティエルちゃんが怪我でもしたら、大地さんが心配しますわ〜」
「あ、ありがとうございます。服のことは……というかシーラさん、知っているならからかわないでくださいよー」
「うふふ〜、何のことでしょう〜」
トボけたフリをして、シーラが笹に願い事をしたためた短冊を結び付ける。ティエリーティアはそこに『大地さんとティエルちゃんが今後も幸せでありますように』と書かれてあるのを見て、何とも言えない心地になるのであった。
(悪気はないんだろうけど……?)
ふと、寒気を感じて首を向けたティエリーティアの視界に、微笑んだシーラと彼女が手にしているもう一枚の短冊が映る。嫌な予感がして短冊を覗き込もうとするが、主人の意向を察した虎が進路を塞ぐので、気にしないようにして別の所に視線を向ける。
(はぁ……こんな格好恥ずかしいよ……でもここ百合園だし、シーラさんに何されるか分からないし……)
百合園の制服に身を包んだ諒が、自らの格好に恥ずかしがりながらもしたためた願い事は、『かっこよくなりたい』だった。
「ようやくボクたちの出番のようだね。……その願い、叶えてあげようじゃないか」
「へ? な、何なのキミたち?」
突如現れた二人組の少女に面食らった諒へ、少女の一人が褌と拳銃を手渡す。
「キミに足りないのは力だ。これを着けて力に抗えば、キミは必ずかっこよくなれる」
「え、ええー? こんなもの渡されても――」
「君なら大丈夫、必ず出来るよ!」
「…………ほ、ホントかな?」
その気にさせられた諒がそれらを身につけると、不思議と力が湧いてくるようだった。
(い、いける! 今ならシーラさんに文句だって言える! うわ、何だか僕かっこいい!)
意気揚々とシーラの所へ向かっていく諒を見送って、二人組の少女が姿を消す。
「……い、今のは一体何なのですか?」
首をかしげたティエリーティアの耳に、とても悲しげな鳴き声が届く。何となく事態を察したもののこれまた気にしないようにして、短冊を凝視していた千雨に近づいていく。
「千雨さんは何をお願い……」
話しかけたティエリーティアはたまたま、短冊に『胸が大きくなりますように』と書かれていたのを目撃してしまう。直後、呼ばれたのに気付いた千雨がティエリーティアを見て、短冊を見て、真剣な表情で詰め寄る。
「……見たのね? 見てしまったのね?」
「あ、あのその、えっと……願い事は人それぞれだと思いますっ」
あたふたと言葉を紡ぐティエリーティアをしばらく見て、千雨が素早く笹に短冊を取り付け、素早く戻ってくる。
「……見られたのがティエさんでよかったわ。これが大地ならまず間違いなくからかいのネタにされるわね……!」
わなわなと拳を震わせる千雨にティエリーティアが苦笑していると、千雨の身体が光に包まれ、次の瞬間には千雨の胸がそれまでの絶壁から豊満へと変貌していた。
「……どうしてでしょう。願い事を叶えてあげているはずなのに、どうしてこんなに悲しいのでしょう。もしかして、願い事を叶えるというのはこういうものなのでしょうか」
何が起きたか分からずにいる二人の所へ、豊美ちゃんが姿を見せる。その瞳には、何かを悟ったような感情が含まれているようにも見えた。
「あの、豊美さんが、これを……?」
「はいー、色々ありましてー。詳しいことは聞かないでいただけると嬉しいですー」
一日限りですけど楽しんでくださいねー、と告げた豊美ちゃんに、千雨はまんざらでもない顔をして立ち去っていく。
「あの……豊美ちゃん、大丈夫ですか? 僕には泣いているように見えますけど……」
「ありがとうございますー。おかげ様でもう少し頑張れる気がしてきましたー」
ティエリーティアの慰めの言葉に、豊美ちゃんが笑顔を取り戻して去っていく。
「……あ、いけない。スヴェンと大地さんにも短冊を持っていってあげないと。……その前に、僕の短冊を……」
ティエリーティアが自らしたためた短冊を、注意して笹にくくりつけ、そして校門へと向かっていく。風にたなびく短冊、そこにはこう書かれていた。
『僕のお友達がみんな幸せになりますように』
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