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リアクション
「豊美様――もとい豊美ちゃん! 私を魔法少女にしてくださいっ! もう短冊に書いて、吊るしてきました!
はたきが魔法のステッキみたいだとか思ってたまに隠れて振り回してたりしてました!
もちろん誰にも見られたことはないですけどね。あくまでメイドですから!
決め台詞だって考えてきています! あの、一夜限りでもいいので!」
「わわわー、そ、そんなにかしこまられると、私もちゃんと認定してあげなくちゃって気持ちになりますー。思い返せば軽々しく認定しちゃったこともあるかもしれませんごめんなさいー!」
照れ隠しにまくし立てる高務 野々(たかつかさ・のの)の真っ直ぐな思いにすっかり押し込まれた豊美ちゃんが、多分悪いことはしてないはずだけど自分の行動を反省するところまでいきながら、野々を魔法少女に認定する。
「お呼びとあらば 即参上! お呼びでなくても あなたの元へ! マジカルメイド クレンリィ・ノノ!! さあ、ご奉仕しちゃいますよ!」
豊美ちゃんが出してくれたステッキを振りかざして名乗りを決める野々、豊美ちゃんが個人的にメモしている手帳に野々の魔法少女な称号を新たに加えて、口を開く。
「ステッキは今日だけですけど、魔法少女であることは野々さんがそうだと思っている限り、半永久的に認めちゃいますよー。私も野々さんに負けないように頑張りますよー」
「ありがとうございます、豊美ちゃん!」
頭を下げて、野々がマジカルメイドとして、七夕の夜の中を困っている人を助けるべく飛び立っていくのであった。
(一年に一度の特別な日、皆が心に残る思い出を作れますように)
『皆の想いが、願いが叶いますように』と書かれた短冊を結び付けて、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が笑顔を浮かべる。
「な、何だい君たちは!」
「キミの願いはもう分かっている。これを着ければ必ずキミの願いは叶う」
「勇気を出して、その言葉はきっと伝わるよ!」
「……そ、そうかな。だったら……」
そこへ、一組のカップルが二人組の少女に囲まれている、良からぬ気を感じ取ったナナが表情を引き締め、地面を蹴って校舎を伝い、事件の起きている現場へ駆ける。無理やり褌を渡そうとしている、同性の子にいかがわしいことをしている――ようにナナには見えた――者たちへ、星明かりを受けたナナが凛として名乗りをあげる。
「年に一度の二人の再会を邪魔する方は許しません! 星に願いを、七夕の魔法少女見参!!」
そのまま隙あらば、と構えを取ったナナの前で、二人組の少女は形勢の不利を悟ったか、抗うこと無く姿を消す。戸惑いつつも礼を言って去っていくカップルを見送ったナナの前に、拍手をしながら豊美ちゃんが姿を現した。
「ナナさんカッコいいですー。まるでヒーローみたいでしたー」
「恐縮です。……豊美さん、失礼を承知でお聞きしますが、今のは……」
「あー、私のせい、といえばそうですねー。実は……」
かくかくしかじか、と豊美ちゃんがナナにこれまでの事情を説明する。そんな新旧魔法少女が並び立つのを横目に、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)がさめざめとした視線を二人に送っていた。
「魔法少女ねぇ……子供が名乗るならまだしも、いい年した大人が魔法少女だなんて――」
「何か言いましたか、ズィーベン?」
「私には聞こえなかったので、もう一度言っていただけますかー?」
瞬間、何時の間にやら横に立ったナナと豊美ちゃんが、満面の笑みで拳と『ヒノ』をズィーベンの両脇に押し当てていた。
「…………こういう時は逃げるが勝ち、ってね!」
ただ一人笑ってない笑顔を浮かべたズィーベンが、普段からすれば驚異的な瞬発力を発揮してその場を離脱する。おそらく先程提げた『ナナとボクにいい事がありますように』が叶った結果であろう。
「では、ナナさんも魔法少女に認定しちゃいますねー。カッコいい魔法少女には憧れちゃいますー」
豊美ちゃんが自らの手帳に、新たな魔法少女の誕生を書き込んだ。
「……うん、出来た♪ 『立派な魔砲使いになれますように』!」
「あれ? その字で合ってたっけ? まいっか、ボクも書けたよー」
「はい、ナナも書き終わりました」
短冊を掲げたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に応えるように、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)が『ボクに関わった人たちがみんな幸せでありますように』、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が『みなさまが笑顔で日常を過ごし、幸せを感じられる事』と書かれた短冊を手に頷く。
「え〜、二人ともかしこまり過ぎよ〜。そんなこと言って、裏に何か書いてあるんでしょ〜。……えいっ!」
悪戯な笑みを浮かべて、ルカルカが翔子とナナの手から短冊を抜き取り、裏を覗き見る。
「なになに……『アイスたくさん食べるぞー』に、『ルースさんとこれからも一緒にいられるように』。ほらやっぱり〜」
「いや、ほら、誰しも一度は願うことだと思うからさ」
「……ちょっとした乙女心、というものです」
そんな三人のやり取りを聞きつけて、ミーミルがやって来た。
「あっ、お姉ちゃん♪ お姉ちゃんも来てたんですね」
「ミーミル……わ、どうしたのその胸!?」
「えっと、やっぱり気になっちゃいますよね。実は……」
ミーミルが、大きくなった胸のことを三人に話す。
「そっか〜。それじゃルカの願いも叶えてもらっちゃお☆ 天辺に飾って直ぐに見てもらうんだ♪」
「あっ、じゃあ私が付けましょうか?」
「ううん大丈夫、ルカも飛べるようになったのよん♪」
言ってルカルカが、背中に羽を伸ばしてふわり、と浮かび上がる。ナナが私も手伝います、と申し出るが、べらぼうに高いわけでもなかったこともあってルカルカ一人で天辺まで辿り着き、まずは自分の分を結び付ける。次に翔子をお姫様抱っこする際は浮力を得るため、ナナの爆発的な加速力を助けにして飛び上がり、翔子の分を結び付け、最後にナナ自身がルカルカに抱っこされつつ地面を蹴って浮き上がり、自らの短冊を結び付ける。
「はーい、呼ばれた気がしたので来てみましたよー」
すると、『ヒノ』を掲げた豊美ちゃんが一行の前に姿を現した。
「豊美ちゃん、初めまして! ルカも魔法少女の仲間に入れてほしいなっ☆」
「はい、いいですよー。……最終魔砲少女、ですねー。分かりましたー、よろしくお願いしますー」
手帳に新たな魔法少女の名を書き込んだ豊美ちゃんが、ぺこりと頭を下げる。
「ありがと、豊美ちゃん。お礼にこれあげるっ」
「わー、ありがとうございますっ」
妖精スイーツを受け取ってご満悦といった表情の豊美ちゃんが、次の願い事を叶えるべくもう一度頭を下げて立ち去っていく。
「さ、後は星を眺めながら、お菓子をつまんでガールズトークしましょ♪」
「ねね、ルースさんとはどこまでいったの?」
「うっ……早速それを聞くのですか」
「短冊にも書いてあったしね〜。翔子さんも気になるところでしょ?」
「いや、ボク、特定の相手いないしー」
「そうなのー? じゃあじゃあ、どんな人がタイプなの?」
「そうだねー、面白い人、かなー。一緒にいて飽きない、ってのは一番大事な要素だと思うなー」
「あっ、それ分かる分かる〜。……で、ルースさんとはキスした? それとももっと先までいっちゃった?」
「忘れていなかったのですね……は、はい、キスくらいでしたら」
「あはっ、ナナさん恥ずかしがっちゃって、可愛いな♪ やっぱり、夏の間に勝負かけたりとかする?」
「はい、折角ですので、海やプールなどへ行ってみたいと思っているのです。……ルカルカ様に是非、恋愛の先輩としてアドバイスを頂ければと思います。鷹村様との近況についてもよろしければ」
「う〜ん、自分に自信を持って、思い切ってアタック、かな? ……彼とのことは、結婚するまでは、ね?」
意味ありげにルカルカが微笑み、察したナナが頬を染めて俯く。
(えーと、織姫と彦星の寿命を80歳として、恒星の年齢を80億歳とすると、1億倍の差。1年の1億分の1は約0.3秒、つまり恒星の年齢を人間の寿命に置き換えると、約0.3秒に1回遭っている……それ、ただの同棲じゃ……)
電卓を叩いた翔子が、導き出した結果に首をかしげつつ、まあいいやと星を見上げて乾杯する。
天の川が見守る下で、華やかな女子の会話が続けられる――。
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