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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第5章 踊る念動パーティー☆

「さて、わたくしも参加させて頂きますわ」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)もヘルメット型の超感覚増幅器を装着すると、ガラス越しにKAORIの正面に立って、向き合う。
「はじめまして。パイロット科のオリガと申します。おうちにお招き頂きありがとうございます」
 一礼して、オリガは挨拶の言葉を述べる。
 ピピピピピ
 KAORIの内部に、オリガのプロフィールが記録される。
「いきますわよ」
 目をつぶって、念じるオリガ。
「女子高生のお人形さんなのに周りは武器や防具だらけなんて可哀想ですわ。かわいいものもプレゼントしましょう」
 オリガは、KAORIの姿がどうすれば素敵になるか、想いをこらした。
 『力』を有効に活用するには、一点に絞った方がよい。
 オリガは、KAORIの頭部に想いをはせた。
 帽子。
 そうだ。
 白いつば広帽子を精製しよう!
 オリガが、帽子を着用したKAORIの姿を想い描く。
「KAORIさんに似合うようなかわいらしい帽子、プレゼントしますわ。そう、いつかKAORIさんが外に出る時、お役に立てるものがいいですわ。レースをあしらって、赤いリボンをつけてますわ。そして、全体のバランスを」
 明確なイメージのもと、オリガの念が、焦点を結んでいく。
 すると。
 ホールの床に撒いてあった、砂鉄のようなサイコ粒子が渦を巻き始めた。
 ぐるぐるぐる
 渦を巻きながら、その渦の中心からサイコ粒子が宙に浮き上がり始め、小さな竜巻のようになる。
「こ、これは!」
 KAORIを通じてデータを受け取っていた、学院上層部の研究スタッフが叫ぶ。
「サイコ粒子が反応を! まさか!」
 研究スタッフは、データの詳細な記録を指示する。
 キラッ
 KAORIの目が、一瞬光ったようにみえた。
 しゅるるるるる
 サイコ粒子の竜巻が、KAORIの頭部にまとわりつく。
 ごごごごごごご
 ピカー!
 すさまじい勢いでサイコ粒子が結合を始め、青白い光を放つ。
 そして。
「おおーっ!」
 観衆から、感動の声があがる。
 KAORIの頭部に、サイコ粒子から精製された、白いつば広の帽子が装着されていたのだ!
 帽子には、レースがあしらわれ、赤いリボンがついている。
 まさに、オリガのイメージどおりの帽子だった。
「ふう。何とかできましたわ」
 軽い疲労を覚えたが、オリガは自分の仕事に満足した。
 白いつば広帽子をかぶったKAORIは、その愛らしい顔が帽子の陰に縁取られることで、奥ゆかしさが増し、どこか神秘的な輝きさえ放つようになった。
 また、紫外線対策もバッチリなのである。
 オリガの気のきいた処置に、観衆は感嘆の想いを禁じえなかった。
「学院の生徒。パイロット科か。データはとりやすいな」
 学院上層部の幹部たちは口早にやりとりしながら、学院内部になったオリガのプロフィールをチェックする。
「疲労も少ない。イケるぞ」
「既に我々の掌中にある。拘束の必要はないが」
「しかし、家柄がよすぎる。他のパイロットに比べて、扱いにくいかもしれないな」
「利害が一致するうちは、自分の意志で動かせておこう。監視はつけといた方がいいな。教官にも連絡を入れろ」
「はっ!」
 学院上層部の陰謀にも似た話し合いに基づき、学院の管理職員たちに秘密裏に命令が下されていく。
 だが、そんな動きが陰であったことは、オリガも、彼女の素晴らしい念動をみた観衆たちも、全くゆめにも思わないことだった。

「オリガ、すごいわ。私も、負けないくらいすごいのをつくる!」
 芦原郁乃(あはら・いくの)は、オリガから超感覚増幅器を受け取ると、気合をあげる。
「芦原さん、あまり気負わない方がいいですわよ。わたくしは、たまたまうまくいっただけですわ。この増幅器、気をつけないとだいぶ疲労しますわよ」
 オリガは、芦原を気遣う。
「大丈夫ですわ。私は平気です、きっと!」
 芦原は、ヘルメット型の増幅器を装着する。
「主、はじめて『力』を使った際の負荷には個人差があって予測が難しく、大丈夫だろうとたかをくくるのは危険です。素質があるから負荷が軽くなるとは限らず、逆に、素質があるほど負荷が重くなるというのも十分考えられることなのです」
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は契約者に適切な助言を行う。
「マビノギオンがいうなら気をつけるけど、私も、魔法を修する身だし、魔法と超能力はそんなに変わらないとマビノギオンもいってたわよね。だから、やれると思うの」
 芦原の言葉に、マビノギオンはうなずく。
「いかにも。魔法も超能力も、行使者の意志の強さと集中力が成否に影響するものです。ですが、超能力は、魔法と違い、行使者の意志が物質間の法則を越えて作用するものです。主、この体験では確固たるイメージを想い浮かべることです。出来上がりのイメージ、 生成中のイメージ、そうしたものを強くそしてなるべく具体的に想像すること、そして今そこにあると強く念じることで成功する可能性が出てきます」
「うん、わかった! 任せて」
 芦原は、念じ始めた。
「む・む・む・む……」
 ひとつのイメージをはっきり想い描くというのは、意外と、難しいものだ。
 集中しなければと思えば、かえってそれが雑念になって集中できなくなる。
 芦原がイメージしたかったもの。
 それは、オリガがKAORIに帽子を与えたように、KAORIの美しさがより一層ひきたつようなアクセサリーを与えたいというものだった。
 芦原は、自分の前に華々しい念動の体験を行ってみせたオリガに、不思議なほど対抗意識を燃やしていたのである。
 そして、そのアクセサリーとは。
「むむむ。光り輝くもの、女の子の憧れ! 大地の神秘!」
 芦原のイメージは徐々にかたまっていくが、時間はどんどん過ぎてゆく。
「はあはあ。ちょっと中断。深呼吸して頭をときほぐそうっと」
 魔法とは別の、眠れる『力』を呼び起こすという作業に疲労を覚えた芦原は、疲労によって集中が乱されることを防ぐ意味で、念じるのをいったん中止して、深く息を吸う。
 すう。
 はあ。
「よし、再開するわ」
 芦原は再び念じた。
 すると、先ほどのオリガのときのように、床に撒いてあったサイコ粒子が渦を巻き始めた。
 おおーっ
 観衆が歓声をあげる。
 サイコ粒子の渦は、徐々に収束していき、小さな塊を形成していく。
 その塊のかたちが整えられ、色と、輝きが付与されていく。
「はあはあ」
 念じ続ける芦原の額が、汗にびっしょり濡れている。
 ピカリ!
 サイコ粒子の塊は、いまや小さな、みたこともない宝石となって、七色の光を放った。
「おお。精製に時間がかかり、また、さっきの帽子よりも小規模だが、この光は興味深い」
 学院の会議室から実験をモニタしている学院上層部の研究スタッフが、興味深い視線を宝石の映像に注いでいる。
「何色とも特定できず、絶えず移り変わってゆく、不思議な色合いだ。イメージが絞りきれていない可能性もあるが、だとしても、曖昧ゆえにかえってこうした成果を出せるというのは興味深い」
 研究者たちは芦原の詳しいプロフィールを取り寄せようとしたが、芦原は蒼空学園の生徒であるため、天御柱学院内部に資料はない。
「ちっ」
 研究者たちは、もどかしい思いを禁じえない。
 だが、他校の参加者を許容するからこそ、こうした思いがけないデータをとることができるのだ。
「だいたいできてきたら、次は、くっついて!」
 芦原は宝石を宙に浮かせて、白いつば広帽子をかぶっているKAORIの胸にくっつけさせた。
 一瞬だったが、成功する。
「おおーっ!」
 頭部の帽子と、胸の宝石によって飾られたKAORIの麗しい容姿に、観衆は声をあげ続けた。
 だが、次の瞬間、宝石は光を失い、ざざーっと崩れて元の粒子に戻ってしまう。
「あー、やっぱり、イミテーションみたいなものか」
 芦原は増幅器を外して、汗をぬぐう。
「ですが、主、なかなか上出来だと思いますよ。宝石を浮かせる辺りが、非常に難しいところだったと思います」
 マビノギオンが、契約者の苦労をねぎらった。
「そうですわね。わたくしも、あの光の色合いには、感嘆させられましたわ」
 オリガがいった。
「それに、みて下さい。わたくしの帽子も」
 オリガが指さす。
 オリガが精製してKAORIの頭部に装着させた白いつば広帽子も、芦原の宝石と同様に崩壊して粒子に戻り、床に流れ落ちているところだった。
「サイコ粒子で精製されたアイテムを長持ちさせるのは、難しいようですわ」
 オリガは興味深そうに粒子をみつめていた。
(でも、オリガさんの帽子の方が私のより長持ちしていたような? うう。でも、大丈夫。確かに、私の宝石の色は素晴らしかった!)
 芦原はオリガに対抗意識を燃やしながら、自分の成果も評価する。
 マビノギオンも、芦原の成果は確かに評価できると、うなずいていた。

 その後も、一般参加者によるKAORIの念動実験は続き。
「よーし! そろそろ私も、やっちゃうよー」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)の順番になった。
「蒼空学園のアイドル、小鳥遊美羽ちゃんが、今度は超能力アイドルを目指すよ!」
 気合とともに、超感覚増幅器をかぶり、両手を交互に振り上げてポーズを決める小鳥遊。
 そのテンションの高さに、観衆も興奮を禁じえない。
「うおー、やれー、美羽ー!」
「かわいいぞ、美羽ー!」
 小鳥遊は超ギリギリのミニスカ姿であったため、男子生徒たちは特に熱狂していく。
「私のイメージは思いきりかたまってるよ! 念動実験、開始! KAORIよ、踊れー!」
 小鳥遊は振りまわしていた腕を胸の前のクロスさせ、一心に念じる。
 ピピピピピ!
 KAORI内部のデータ集計プログラムが、非常に強い『力』を感じ取った。
「なに!? 蒼空学園に、これだけの人材が!!」
 データをみた学院上層部の研究スタッフが思わず身を乗り出す。
「ミニスカ姿に熱狂した男子たちの興奮が、体験者の『力』を後押ししているのか? この作用の経過を、詳細に記録しろ」
 スタッフの指示が、KAORIに伝えられる。
 そして。
 KAORIの両手が、両足が、動き出していく。
「ほらほら、ミュージック、ゴー!」
 ノリノリの小鳥遊が、運営委員に命じる。
「えっ? あっ、ハイ」
 突然の指示に戸惑ったものの、運営委員はダンスに使えそうなBGMを流し始める。
 ズンタタ、ズンタタ
 音楽が流れると同時に、念じる小鳥遊の身体が、自動的に動き出していた。
「わー、ノッちゃうな、もー!」
 増幅器をかぶったまま、ステップを踏んで踊り出す小鳥遊。
 ミニスカがひらひらとめくれ、男子たちは少しでも小鳥遊に接近したいと、血まなこになって寄り集まり始める。
 ピピピピピ!
 KAORIにかかる『力』は強まるばかりだ。
 ついに、KAORIは、ゆっくりと、ステップを踏み始めた。
「あっ、KAORIが! うおーっ」
 ガラス張りのホールの中のKAORIの動きに、男子も女子も熱狂せずにはいられない。
 KAORIは、やや緩慢ではあったが、小鳥遊と同じ振りつけで踊り始めていた。
「はー、よいよい! どんどんいくよ、マイクプリーズ!」
 小鳥遊の指示で、運営委員はマイクを持ってくる。
「みんな、聞いて! アイドルソング、歌うよー!」
 小鳥遊は、歌い始めた。
「わたしの愛と、あなたの愛が、あいたくてー。嬉しくて、哀しい気持ち、切ないのー」
 歌って踊る小鳥遊。
 ゆったりと踊っていたKAORIも、次第に動きが速くなっていく。
「ひらりひらりと、愛が舞うよー」
 くるくる身体を回転させながら、KAORIを収容するガラスの壁の周囲をまわっていく小鳥遊。
「美羽ちゃーん! うおー!」
 感極まった生徒たちも、小鳥遊の後について踊り始める。
 KAORIも、ゆっくり回転するなどしている。
「す、すごい! 研究室では決してみられない光景だ!」
 学院上層部の研究スタッフたちも、感動を禁じえない。
「しかし、こうした技能が、実戦ではどのようにいかされるのかね?」
 上層部の幹部たちが、研究スタッフたちの熱狂ぶりを怪訝そうな目でみながら、意見を述べる。
「実戦でどうかはわかりませんが、このようなかたちで大きな『力』を引き出せることがわかったのです。もっとデータをとって詳細に分析すれば、『力』のあらたな側面がわかることでしょう!」
 研究スタッフたちは熱く語る。
「基礎的研究も結構だが、予算をなぜ出してもらっているか考えたまえ。必ず実用との結びつきを……」
 幹部たちは説教しようとしたが、タイプの違う人間にいってもわからないような気がして、やめた。
 学院上層部も、一枚岩ではないようだ。

「こ、これは貴重な資料だ! 撮っておくしかない!」
 小鳥遊たちとKAORIがともに踊っている光景を、七尾蒼也(ななお・そうや)が驚嘆の声をもらしながらデジカメで撮影していた。
「でも、KAORIは過激な動きをしてないから、スカートがいまいちまくれないな。って、何をいってるんだ俺は!?」
 七尾は頭を振って邪念を振り払った。
 KAORIのスカートの中身に関する噂は、七尾も、他の参加者たちもかなり気になることだった。
 だが、いまのところ、スカートをまくろうとする輩は出てきていないし、そういう話も出ていない。
 このまま、イベント終了まで無事にいって欲しいものである。
「そうだ、小鳥遊の踊りにみとれて、他の参加者たちが増幅器の装着をいったんやめている。この隙に、俺も念動力の体験をしてみよう」
 七尾は、空いている増幅器のひとつをかぶると、一心に念じた。
「俺も、魔法の勉強をしているし、超能力と魔法がそんなに違わないなら、何とか!」
 七尾は、サイコ粒子で猫のような生き物をつくってみようと念じた。
 すると。
 もりもりもり
 KAORIが踊っているホールの床に散乱しているサイコ粒子が動き出して、ひとつにまとまり始めた。
「よし、いけるか!? 鳴け、鳴け!」
 七尾がさらに念じると、
 ニャ〜!
 喉がかれたような、猫的鳴き声が粒子の塊からもれる。
「いいぞ、動け!」
 七尾が念を強めると、粒子の塊は四つ足の動物のような姿をとり始めた。
「この際だ、みんなに合わせて踊れ!」
 四つ足の動物は、前足を持ち上げ、後足で直立したような状態になり、くねくねと踊りを始めた。
「やったか!?」
 だが、次の瞬間、謎の動物は崩壊し、元の粒子に戻って、床に散らばる羽目になった。
「あー、惜しい」
 増幅器を外し、七尾は落胆する。
 ふと、踊っているKAORIが七尾の方を向いて、「がんばったね」といいたげな様子で手を振ったように思えた。
「いま、KAORIが……? 気のせいかな」
 『力』を使った疲労で額ににじむ汗をぬぐうと、七尾は再びデジカメで踊りの撮影を始めた。