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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第6章 深い海の底で

「KAORIのいるホール周辺が、すごくにぎやかだよ。だいぶ盛り上がってるようだね」
 会場の奥、強化人間Xの側にいた、世話役の山田桃太郎(やまだ・ももたろう)がいった。
「みんなで、踊っているわね。興奮のあまり、羽目を外して変なことにならなきゃいいんだけど」
 真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)は、ホール周辺の様子を慎重に見守りながらいった。
 ホールのKAORIと、その周囲の踊りの見物を終えた参加者たちが、強化人間Xとの精神感応体験をしようと集まり始めている。
 警備がものものしいので、敬遠されるかと思ったら、そうでもないようだ。
 むしろ、参加者たちの精神感応への関心は、相当強いようである。
「こっちも、予想以上の人出になることが考えられるわね。万一に備えて、行列の誘導をする準備を整えておかないと」
 真里亜は他の委員に連絡をとり始めた。

「さてさて、私は、Xさんとの精神感応をやってみるですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は車椅子に乗ってぽかんと宙をみつめている強化人間Xの正面にある椅子に座り、Xと向き合うかたちになった。
 周囲には、多数の警備員たちが並んでいて、一般参加者には、XはVIPなみの扱いかと思わせるものがあった。
「メイベルちゃん、気をつけてね」
 何となく不安になったセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、メイベルに耳打ちする。
「大丈夫ですぅ。Xさんは、悪い人にみえないから! あと、セシリアも、感応体験するんだからね」
 メイベルはにっこり笑って、Xの瞳を覗き込んだ。
「Xさん、よろし……あっ」
 メイベルは、声を失った。
 メイベルの脳裏に、深い海の底の光景が広がる。
(ここはどこ? Xさん……?)
 戸惑いながら、メイベルの意識は、深い海の中をたゆたう。
(うーん、寂しいところだけど、何だか気持ちいいかも)
 海の中をさすらううちに、メイベルは、自分の心が解放されるのを感じた。
(ちょっと、歌ってみたい気分ですぅ)
 メイベルは、深い海の中で、即興で歌い始めていた。
(あっ、誉めてくれるんですか? 嬉しいですぅ)
 メイベルは、誰かが自分の歌を誉めたように感じて、嬉しくなった。
 すると。
 メイベルは、自分の心の中に眠っていた光が輝き始めるのを感じた。
(これは……?)
 メイベルの中の光が、深い海の底を照らす。
 光は、徐々に強くなっていく。
「……ちゃん! メイベルちゃん!」
 セシリアに肩を叩かれ、メイベルは我に返った。
「あれ? 私は、深い海の底にいたはずでは?」
「何、いってるの! ここは、『でるた1』の会場で、強化人間Xの前だよ。精神感応体験をやってたんでしょ?」
 セシリアは、不安そうにメイベルをみていた。
「あーっ、そうでした。なかなか貴重な体験をしたですぅ。Xさんが、私の歌を誉めてくれて。そしたら、光が、私の中から出てきて……」
「光が? 大丈夫?」
 セシリアはメイベルのいってることがわからない。
「大丈夫ですぅ。ちょっと頭痛がするけど、軽いものですね。さあ、次は、セシリアの番ですぅ!」
「えっ、ちょっと」
 急なことに慌てるセシリアの肩をつかんで、自分の座っていた椅子に座らせるメイベル。
「さっ、Xさんの目をのぞいて!」
 いわれるままXの目をのぞいたセシリアも、声を失う。
 脳裏に、深い海の底の光景が広がる。
(ここは? メイベルちゃんも、これをみていたのかな?)
 戸惑うセシリア。
(あれ?)
 セシリアは、もうひとつの意識が、深い海の底にいることを感じた。
(ヘリシャちゃん、どうして!)
 その意識が、ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)のものであると感じたセシリアは、驚きの念を禁じえない。
(メイベルが、私も一緒にやれっていうから、セシリアさんの脇にもうひとつ椅子を置いて、私が座ったんですぅ。ここって、一緒に入ることができるんですね〜)
 ヘリシャは、笑いながらいった。
(すごいね。これが、精神感応なんだね。Xさんの心の中の世界なのかな?)
 セシリアは、はじめての体験にだいぶ戸惑っていた。
(うーん、そうかもしれないですぅ。私、メイベルに歌えっていわれたんで、ここで歌いますね)
 ヘリシャは、メイベルがそうしたのと同じように、即興で歌い始めた。
(ラララ〜)
(わ〜。楽しそう!)
 ヘリシャの歌に、戸惑っていたセシリアも、気持ちが和むのを感じた。
(あっ、光が!)
 ヘリシャの心の光が輝き始める。
 深い海の底が、徐々に照らされてきた。
 そこに。
(セシリア様、ヘリシャ様。大丈夫ですか?)
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の意識も加わってきた。
(フィリッパちゃん! どうして、ここに?)
(メイベル様に、わたくしも一緒に感応して、お二人をお守りするようにいわれまして)
(そうなんだ。でも、フィリッパちゃんは、ここ、驚かないの?)
 セシリアの問いに、フィリッパは微笑んだ。
(わたくしは、英霊として、いろいろ見聞きしておりますから。こうした感応世界のことも承知はしています。それにしても、X様の心の中は、荒涼としているかにみえて、すがすがしい流れもありますわね。もっとも、人によって感じ方が違ってくるようですが)
(Xと、お話できないかな?)
 セシリアは、さらに尋ねた。
(メイベル様はX様の声を聞いたようですが、あの方の人柄のなせるわざでしょうか。もっとも、言葉をかわさずとも、こうして感応しているだけで、お互い通じあっているのですよ)
(そうなんだ。あっ、ヘリシャちゃんの光がどんどん強くなっていく)
(ララララララ〜)
 2人のやりとりをよそに歌い続けていたヘリシャの発する光は輝きを増すばかりで、ついに辺り一面が真っ白な閃光に包まれることになった。
 そして。
 3人は、同時に、我に返った。
「セシリア、ヘリシャ、フィリッパ。どうでしたか?」
 メイベルが、ニコニコ笑いながら3人に尋ねる。
「うん。Xの声は聞けなかったけど、ヘリシャが、歌ってたら、光を放って!」
 セシリアは、興奮した口調でメイベルに語る。
「うん。私も、メイベルと同じ。強くなったかもしれないですぅ」
 ヘリシャは、ニッコリ笑った。
「ヘリシャ様だけではありませんわ。セシリア様もわたくしも、感応によって『力』を呼び起こされたのですよ」
 フィリッパがいった。
「本当に! 『力』って何だかわからないけど、楽しいかも? さっ、行こう!」
 メイベルは何となく嬉しくなって笑うと、自分たちの後の行列に配慮して、3人とともにXの前を退席した。
「あ……う……」
 Xは、よだれを垂らしながら、メイベルたち4人をぼんやりとみていた。

「よし、次は僕たちの番だ」
 メイベルたちに代わって、高月芳樹(たかつき・よしき)がXの前に座る。
「X、僕の呼びかけに……あっ」
 Xの瞳を覗き込んだ高月は声を失い、Xとの感応の世界にのまれていく。
(ここは……?)
 脳裏に広がる深い海の底の光景に、高月は戸惑う。
(感応世界に入ったようですね)
(あっ、アメリア!)
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の意識を間近に感じて、高月は驚く。
(私も入ったのよ。芳樹一人じゃ心配だしね)
 高月と、アメリア。
 2人の意識が、広大な海の中をたゆたう。
(しかし、これがXとの感応によって生じた世界なら、この光景は、Xの心の中にあるものなのか?)
 高月は疑問に思う。
(その通りですじゃ)
 答えたのは、伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)の意識だった。
(玉兎! 君も入ったのか? 陰陽道の知識で何かわかることは?)
(この状況についてなら、ぼんやりとじゃが、少しずつわかってきておる。「感応」といっても、お互いに引き合うというより、こっちが一方的にXに引き込まれてるわけですじゃ。じゃから、Xの心の中にある世界で、交流することになるのじゃ)
(なるほど。でも、僕たちが目を覗き込んだわけだから、僕たちが取り込まれるのは当然という気もするな。それにしても、玉兎も引き込まれてるわけだから、Xは相当強い「力」を持っているとみていいわけだね?)
(もちろんですじゃ。心得がある者なら、みな感じておるじゃろう。このXという男は、ものすごい「力」を持っておる。それこそ、わらわも驚くほどじゃ)
 そこに、もう一人、女性と思われる者の意識が現れる。
(でも、かなり不安定ですね)
 マリル・システルース(まりる・しすてるーす)だ。
(自分の心の中に引き込むだけで、なかなか、X自身の声が聞こえてこない。感応だから心で感じろ、といっても、これでは雲をつかむようです。ある程度言葉で導くのが正道だと思いますが、Xは、わかっていてもうまくできない様子です。Xは、自分自身の存在が崩壊しそうになるのを必死でくいとめながら、私たちと接しているのではないでしょうか)
(ほう、見事な分析じゃ。かなり的を得ているのではないかの)
 玉兎が、心からの賞賛の想いをマリルに伝える。
(ありがとうございます。でも、まだまだわからないことだらけだわ。Xという人は、何をしたいのかしら)
 マリルは、Xのことがわかればわかるほど、かえって油断のならない思いがするようだ。
 そのとき。
 深い海の底に、驚くほど明瞭な声が響き渡った。
(ここでは、みんなに、警告を伝えたい)
 その言葉の後、しばらく静寂が続くない。
(いまの声は?)
 アメリアが戸惑う。
(まさか。Xの声か?)
 高月は、なぜかはわからないが、ひどく緊張させられるように感じた。
 Xの「声」にこもっていた緊迫感が、そうさせるのかもしれない。
(警告って、何かしら?)
 マリルが尋ねる。
 しばらくの間、静寂が続いた後、再び声が鳴り響く。
(危険な飛翔体が、闘いを変え、世界を滅ぼす引き金となる。その開発は、とても危険だ)
 そこまでいって、Xの声は再び消え失せた。
(危険な飛翔体って?)
 マリルは重ねて尋ねたが、もう答えは返ってこない。
(ずいぶん謎めいた言い方をするんだな)
 高月は、どうにかならないかと思案する。
(Xは、何かを予知しとるのかもしれんな。じゃが、あまりにみえすぎるがために、みえていない者に伝えるのがうまくいかないようじゃ)
 玉兎は、仕方ないといった口調。
(そろそろ出ましょう。これ以上感応を続けていて、芳樹に悪い影響が出たら大変よ)
 アメリアが促す。
 4人は、感応世界を抜け出て、もとの世界で我に返るのだった。

「Xさん。聞こえますか?」
 東間リリエ(あずま・りりえ)は、感応世界でXに語りかけた。
 返事はないが、東間は、Xが聞いているという実感を抱いた。
「あなたに名前がないのは、問題だと思います。私は、あなたの名前を考えてみたいんです」
 そのとき、Xの声が響いた。
(ここでの実験のいくつかは、非常に危険なものだ。運営委員も、一般の参加者たちも、みな、大きな計画のために利用されているに過ぎない)
 自分の話したことと全く関係ない内容だったため、東間は戸惑う。
「あなたは、自分自身のことに、興味がないんですか?」
 東間は尋ねるが、答えは返ってこない。
「あなたも、もとは一人の人間だったんでしょう? 私たちと全く変わることのない存在だったんでしょう? 自分の名前を持てば、そのことを思い出せるのではないですか?」
(僕は、いまも一人の人間だ)
 答えは返ってきたものの、東間の本意が伝わっているとは言いがたい。
「あなたは、こういったそうですね。『あの子も、もてあそぶというなら、報復をためらわないだろう』と。それなら、その『あの子』がひどい目にあわずにすむように、護ればいいんじゃないかと思うんですが。だから、あなたの名前は『護』なんてどうかと思ったんです」
 だが、答えは返ってこない。
 どうやら、Xは自分の名前という問題に関心がないようだと、東間は感じた。
「東間。僕からも聞いてみよう」
 東間と一緒に感応世界に入っていたジェラルド・レースヴィ(じぇらるど・れーすゔぃ)がいった。
「X。本当に、君には名前がないのか?」
 ジェラルドは、問うた。
 答えはない。
「名前がないなら、こっちでつけたいが、それでいい? どう思う?」
 すると、今度は答えが返ってきた。
(僕のことは、何とでも呼べばいい)
「じゃあ、東野のいった名前でいいか?」
 答えはない。
「いいってことでしょうか」
 東間がジェラルドに尋ねる。
「いや、これじゃ、一人一人が自分の好きな名前で呼べばいい、ということになっちゃうな。『これが彼の名前だ』とみんなが共通の認識をもてるような、ひとつの名前を決めるべきだと思うんだ。でも、それには、本人が心の底から納得して、受け入れられるような名前を考える必要がありそうだね」
 ジェラルドは、決心をかためて、Xに問うた。
「X。君は、そうなる前に、ちゃんとした名前を持っていたはずだよね? そのことは否定できないだろう?」
 返事はない。
 Xは、以前の記憶をなくしてしまっているか、あるいは、自分の過去という問題に興味がないのか。
 いずれにせよ、ジェラルドは、Xの名前を考えるというのが、なかなか難しいように感じた。
 どうすれば、Xは、自分の名前や、過去のことに関心を持つだろうか?
 ジェラルドは、もう1度尋ねた。
「教えてくれ。君は、自分の以前の名前は思い出せるのか?」
 すると、シンプルな答えが返ってきた。
(思い出せない)
 それ以上、Xは何もいわない。
「X。君は、それでいいと思っているのか?」
 返事はない。
 肯定、か?
「これはダメだ。とりあえず、ひこう」
 東間とジェラルドは、感応世界から抜け出して、自分たちの体験を他の生徒に伝えて、対策を考えてもらうことにした。