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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!
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第5章 欲しいものを求めて歩く

「これなら“ボク”だと分かりますよね」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は肌を真っ赤に塗り、緑色の瞳に赤いカラーコンタクトをつけて赤鬼の変装をしている。
 昔殺されかかった相手に分かるように、わざと見つけやすい変装をしたのだ。
「妖怪たちの前では小さくなっておきましょうか」
 ちぎのたくらみでシュゥーンと背丈が小さくなり5歳くらいの容姿になる。
「妖怪の姿で夜祭りに出るのも面白いぎゃ」
 烏天狗に変装した親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)がはしゃぎながら出店を見て回る。
 夜鷹が祭りを楽しんでいる一方、雪女の格好をしている六連 すばる(むづら・すばる)は、林田樹を探し歩くアルテッツァをじーっと見つめている。
「(マスター・・・まだあの女に執着しているんですか)」
 アルテッツァが誰を探しているのか、必死に探す彼の姿を見たすばるには、それが誰なのかすぐに分かった。
「あの・・・マスター、向こうの出店に行ってみません?喋る林檎飴とか面白そうですよ。マスター・・・?―・・・・・・」
 アピールしようとしても自分に振り向きもしないうえに、適当な相槌すらも返してくれないことに、彼女はギリッと悔しそうに歯を噛み締める。
 すばるがライバル視しているしているその彼女は、怒りに満ちたその視線に気づかず、出店を見て歩きながら祭りを楽しんでいる。
「(見つけましたよイツキ)」
 アルテッツァは祭りにやってきた樹を見つけて近づく。
「留守番しているあの子の土産も買ってやらないと」
「ねぇ樹ちゃん、こんなのはどう?」
 章は出店で買ってきた林檎飴を、留守番している相手のために土産を探している樹に渡す。
「それなら喜びそうだな。―・・・顔?目と鼻と口の絵が描いてあるな」
「甘くて美味しい喋るやつなら喜びそうだよねぇ」
「そうだな。甘くて美味しい喋る・・・しゃ・・・しゃしゃ喋るだと、それがぁあっ!?」
「うん、喋るよ。僕も最初見たときビックリしたけど、どうせなら珍しいお土産がいいかなっと思ってね。ちなみにそれは絵じゃなくて顔ね」
 驚きあまり目を丸くし、すっとんきょうな声を上げる樹に章はニコニコしながら平然と言う。
「―・・・まぁ一応、食べ物だからあげても平気か」
「食べるの?食べちゃうの・・・?ボクを食べちゃうの?」
「えっ!?」
 瞳を潤ませて喋る林檎飴を見て、樹はぎょっとした顔をする。
「ちょっとあんころもち!そんなの喜ぶわけないじゃないですか!」
「食べなくても話し相手になるかもよ?」
「あのですね・・・賞味期限から1ヶ月とか過ぎたらどうなると思います?悲惨な状態の林檎飴を見たらあの子が泣いちゃいます!」
「冷凍庫に入れたら寒がりそうだしな・・・。これは遠慮しておこう」
 怒鳴るジーナの傍ら、樹も保存方法に困り林檎飴を章に返す。
「(どうしようかなこれ)」
 涙目の林檎飴を見つめて、今更見せに返しに行けない章は、食べるかどこかに捨てようか迷う。
「うーん、誰かにあげよう。これ食べない?」
 処理に困った彼は、通りがかった鬼女に声をかけてみる。
「あらくれるの?ありがとう、のっぺらぼう」
「(はぁー・・・なんとか普通に受け取ってくれてよかったー)」
「(ひょっとしたら私が手にかけた彼も、化けて出たりするのだろうか?いや・・・死者が妖怪化するとは限らないからな・・・)」
 章から林檎飴を受け取った鬼女を見た樹は、ひょっとしたら彼も祭りの中にいるのかもしれないと想像した。
「あれは・・・もしかして・・・・・・。そんなはずは・・・」
 目の前を通り過ぎた殺したはずの彼の姿を見てしまった彼女は、この世にいるはずのないと思っている相手を見て頬から冷や汗を流す。
「生きてるはずがないんだ。だって・・・私がこの手で殺したのだからっ」
 目を擦りもう一度見ると、幼い姿の彼が振り返らず、口元をニヤッと笑わせて広場の外へ歩いて行く。
「どこへ行くんだ・・・?」
 霊となって現れたのか確かめようと、妖怪たちに紛れて逃げようとする彼の後を追う。
「(ついて来ているようですね。フフフッ)」
 彼女が追いかけてくるのを確認し、見つけておいた最近人が引越しただの廃屋になったところへ走る。
 近くの住人たちは皆眠っていて近寄る気配はなく、妖怪たちは祭りに夢中でそこへ来る様子はまったくない。
「ねえ、樹様。このおみやげは留守番している子に・・・。あれ?・・・樹・・・様?」
 鼈甲飴の中にドライフルーツが入ったお菓子を見つけたジーナは、それを土産にどうか樹に聞こうとしたが傍にいるはずの彼女の姿がどこにもない。
「餅っ!探すのです!」
「しまった、見失っちゃったよ!かなり混んでるから逸れちゃったのかな。樹ちゃーん、どこにいるんだいー!?」
 行った場所や、まだ見ていない出店にいるのではと、章は彼女の名を呼びながら必死に探す。
「―・・・もしかしたら“ヤツ”に攫われた?!」
 樹を探しているジーナは突然足を止め、もしかしたら彼女のことを狙うアイツが攫ったのかと思い、さーっと顔の血の気が引き蒼白する。
「“ヤツ”が相手なら、そのパートナーが邪魔立てをしているはずだよ。早く探してアイツらを問いつめて行き先を吐かせよう!」
 章とジーナは広場内を駆け回り、その者のパートナーを探す。
「すばる、もしかしてあのオンナ気に入らないぎゃ?だったら、まだその辺にウロウロとオンナを探しているそいつのパートナーに知らせるといいぎゃ」
 嫉妬のオーラを放つ彼女に、夜鷹は恐れることなく声をかける。
「パートナーに・・・知らせるんですか?それって助けたことになりませんか・・・」
「んや、それは違うぎゃ。アルとオンナがいい仲にならないよう、邪魔するために知らせるんだぎゃ」
「なるほど2人の仲がよくならないようにするんですね」
「そうだぎゃ。人が引っ越した後のこの先にある廃屋に、アルがオンナを連れ込むことを教えてやるんだぎゃ。信用してもらえたら邪魔できるぎゃー」
「―・・・そうですね、それなら“あの女”を助けたことになりません」
 邪魔してやろうとすばるは周囲を見回しその女のパートナを探す。
「走っているのっぺらぼうと狸がそうでしょうか?」
 血相を変えて走り回る章とジーナを見つけ、2人が履いている下駄をサイコキネシスの力で引き寄せる。
「あわわっ。なっ何だ!?下駄が引っ張られるっ!」
「ワタシの下駄も引っ張られていますっ」
 すばるの念力で章とジーナはズルズルと廃屋へ引っ張られていく。



「(邪魔者が来ないうちに、この辺りで正体を明かしましょうか)」
 廃屋の茶の間へやって来たアルテッツァは、樹の目の前で5歳のサイズから元に戻る。
「本当に・・・アルテッツァなのか?確かこの手にかけて死んだはず・・・。もしかして幽霊・・・なのか・・・・・・?」
 死んだはずの相手が亡霊となって現れたのかと、樹は訝しげに問う。
「いいえ、幽霊ではありませんよ。霊ならこの手も冷たいはずでしょう?」
 生きていることを教えようと、アルテッツァは彼女の頬に軽く触れる。 
「―・・・ほ、本当に生きているのか。その・・・反射的とはいえ、撃ってしまってすまない。生きていてくれて本当によかった」
「いいんですよ、もうそんなこと。こうして会えたんですから」
「私も会えてよかった」
 優しく笑うアルテッツァの姿に、昔のような彼に戻ったのかと思い、ほっと息をつく。
「ずっとイツキに受け入れて欲しかったんです。ボクの気持ち・・・、受け入れてくれませんか?」
「あぁ・・・」
「イツキくん・・・愛してます!」
 嬉しさのあまりこくりと頷く樹を抱きしめようとする。
「いい友人としてな」
 彼女のその言葉にアルテッツァは手を止める。
「友人?違います」
「―・・・!?」
 樹は身体に刺さるような視線を向けられ、ビクッと身を震わせる。
「恋人として受け入れて欲しいのに・・・。どうして・・・どうして分かってくれないんですか?」
 氷のように冷たいの笑顔を浮かべ、デリンジャーのトリガーに指をかけ樹の片手を狙う。
「くぅっ!」
 襖を盾に避けようとするものの、まだ頭の中が混乱していて避けきれず、銃弾が樹の片手を掠めてしまう。
「また撃ちますか?ボクを」
 反撃しようと袂からアーミーショットガンを取り出し、銃口を向ける彼女を表情を変えず見据える。
「赤鬼の肌って・・・血の色に見えません?撃たれたあの時も、傷口から出る血で肌が染まりましたっけ・・・」
「それは・・・っ。アルテッツァが私を殺そうとしてきたから!」
「ボクがイツキを殺そうとしただなんて、どうして分かるんです?銃を向けたからといって、相手を絶対に殺すとは限らないでしょう?」
「だっ・・・だが・・・。あの時は本当にそう思ったんだ」
「そうそう撃たれた時、身体から力が抜けて、だんだんと意識がなくなってきたんです・・・それから・・・」
 畳の上へ膝をつき、混乱して動けなくなっている樹を見下ろし、どうやって自分の物にしようか考える。
「もうっやめてくれ」
「やめません。これからもっとお話したいことがありますし?逃げないでくださいね。逃げても逃がしませんけど」
 ずっと欲しかった彼女を目の前に、相手の手足を銃弾で掠めて少しずつ傷をつけていく。



 一方、夜鷹は樹がアルテッツァの物にならないように邪魔をしたいすばるを連れて廃屋へやってきた。
「ここだぎゃすばる」
「それでは2人があの女を連れて行くまで、外で待っていましょう」
 すばるは章たちの下駄を念力で引っ張るのを止め、廃屋へ入っていく2人を遠くから確認する。
「あれ?動けるようになった・・・。どこかなここ?」
 廃屋まで履いている下駄を引っ張られた章は、周囲をキョロキョロと見回す。
「あんころもち。あの辺とか怪しいです」
「なるほどねぇ。そこに樹ちゃんを攫っていったのかな」
 ジーナが指差す廃屋に彼女がいるかもしれないと、章はジーナと共に古びた木造のドアを蹴破り中へ侵入する。
「いたっ!こいつめーっ、よくも樹ちゃんを!」
 章はアルテッツァが得物を持つ腕に掴みかかり、彼の腹を拳で殴りつける。
「うっ!」
 殴られたアルテッツァは苦痛のあまりデリンジャーを手から滑り落とし畳の上へ座り込む。
「樹様、早くここからでましょうっ」
「こんなに傷を負わされて。早くどこかで手当てしなきゃ」
 ジーナと章は樹を連れて、廃屋から駆け出て行く。
「泥沼ないい感じだぎゃ。言葉で追い詰められ傷つけられていくオンナと、追い詰めて手に入れかけたオンナを連れて行かれて悔しそうな顔をするアルに、アルを慰めて振り向いてもらおうとするすばるをみてると面白いぎゃ!」
 壊れた窓や草陰から見ていた夜鷹がニヤニヤと笑う。
「マスター、大丈夫ですか?私が傍にいますから、ずっと傍にいます・・・。(マスターに相応しいのは、あの女ではなく私です。私だけです)」
 すばるはアルテッツァを慰めようと、そっと抱きしめる。
「(イツキ・・・今回はボクの物になりませんでしたけど。いつか必ず・・・っ)」
 樹が手に入らなかったアルテッツァは、すばるの頬をむにむにと引っ張り鬱憤を晴らす。
「まふたぁーっ、どふほふきははへひっぱっへふははふ。(訳:マスターッ、どうぞ好きなだけ引っ張ってください)」
 頬を引っ張られながらすばるは幸せそうな顔をする。
 章とジーナは樹を連れて他の者の目につきやすい、屋台の傍が安全だと思い、そこで彼女の手当てをする。
「傷口だけじゃなく、傷に触れる部分の包帯にも薬をつけてよ」
 医術の心得でナーシングで樹を手当てするジーナに章が言う。
「あんころもちに言われなくても分かってます!」
「すまないな。せっかく祭りに来たというのに、このようなことになるとは」
「いいんですよ樹様。他の生徒たちが帰る頃に紛れて一緒に帰れば、ヤツも樹様を探して追って来れないでしょうから」
「そうか・・・」
 気にしないように言う2人に、いいパートナーを持ってよかったと思い、樹は照れ隠しに顔を俯かせたまま微笑んだ。