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2020年夏祭り…妖怪に変装して祭りに紛れ混んじゃおう!

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第4章 妖怪たちと祭りを楽しもう

「沢山いますね〜、さすが妖怪と言った所でしょうね」
 猫又の姿に扮している露草 恋(つゆくさ・れん)は、屋台で買った皮を剥くと飛び出るジャガバターを食べながら歩く。
「うわ〜中々に集まってるアルな。これは楽しそうアル!」
 古代禁断 死者の書(こだいきんだん・ししゃのしょ)は白い着物を着て雪女の姿をし、妖怪の集団を見て大はしゃぎする。
「皆さんで楽しく盛り上がるといいのでしょうけど。煙様が盛り上がってるときに情報流す予定ですから、それまでばれないといいのですけど・・・」
「結構盛り上がって来たら煙が情報流す予定だし、もっと盛り上がること間違いなしネ!」
 知っている者もいれば、まったく知らないような妖怪たちが集まり、祭りを楽しんでいる様子を見る。
 女郎蜘蛛が作ったパイナップル味の綿飴を食べながらキョロキョロと屋台を見ている。
「考えたくないですわね。後で、皆様で屋台見て回るのもいいですわね♪」
 後に始まる恐怖を知らず、のんびりと過ごす。
「何を恐れているのだ。恐れていては、これから始まる“お前は人間か?いろいろ調べちゃうぞーケタケタ作戦”が実行できないのだっ」
 九尾狐に変装した不動 煙(ふどう・けむい)が、焼き魚を食べながら何が何でも情報を流してやると意気込む。
「ちなみにばれないといいですねっていうのは、地球人や強化人間の人たちにばれなければいいですねってことです」
「妖怪にってことじゃないのだ?」
「それもそうですけど・・・、それ以上にですよ」
 首を傾げる煙に小さな声音で言う。
「もしばれたら・・・」
「ばれたら?」
「―・・・この先は言わないでいきましょう」
「もったいぶらないで言うのだっ!」
 途中で言葉を終わらせる恋の肩を、その先の言葉が気になる煙が掴みガタガタと揺らす。
「フフフッ・・・・・・」
「―・・・・・・!?」
「それよりも煙様その焼き魚、どこで買ったんですか?」
「はぐらかすな、なのだっ!」
「まぁ見て回ってればそのうち見つかりますよね。あっ、あのお店ですね!」
 姥ヶ火と海難法師の焼き魚屋を見つけ、駆け寄っていく。
「その奥のを1つください!―・・・よく焼けていて美味しいですね♪」
 妖怪自身の炎で焼いた焼き魚を夢中で食べる。
「(笑いの意味はなんなのだ・・・)」
 煙は後に恋の不気味な笑いの意味を、身を持って知ることになるとは夢にも思わないだろう。
「2人ともーっ、向こうに面白そうな遊びがあるアル!」
 死者の書が大声で恋と煙を呼び寄せる。
「店の奥に景品があるみたいですけど、店主はどこに?」
「屋台の前に携帯電話があるだけなのだ?」
 恋と煙は周囲を見回してそれらしき妖怪がいないか探す。
「おい、目の前にいるだろボケ」
「けっ携帯が喋ったのだ!?」
 驚いた煙は地面に尻餅をついてしまう。
「オレはアンサーだ。オレの質問に全員答えられれば景品をやろう。ただし、間違った答えを言った場合、間違った者だけが罰を受ける」
「面白そうアル、やるアル!」
 死者の書が恋と煙を巻き込んで、勝手にチャレンジすることを決めてしまう。
「それじゃあ質問をする。20分前以内にどの屋台の食べた物を食べたか全部答えろ」
「20分前アルか?わらわは女郎蜘蛛の屋台でパイナップル味の綿飴を食べたアル」
「私は姥ヶ火と海難法師の焼き魚屋で焼き魚を食べました」
「はうっ。俺は・・・その・・・あぅう思い出せないのだ」
 どうやって情報を流そうかということを考えたり、恋の笑いの意味が気になったりしていたせいで、煙はどこで何を食べたのかすっかり忘れてしまった。
「うーん・・・たしか、恋が食べたのと同じ店で買ったはずなのだ。さっき、どこで買ったと言ったのだ?」
「煙様それは・・・」
「おっと、回答者に助言したり変わりに答えを言ったら、お前も失格だぞ」
「そうなんですか?じゃあ答えられませんね。頑張ってください九尾狐の煙様!」
「あぅうーっ。俺はたしか・・・姥ヶ火の焼き魚屋で焼き魚を食べたのだ!どうだ、正解なのだ!?」
「残念っ!1つ答えが抜けてたぜ」
「ぁああー、そんなぁあなのだぁあ!景品がぁああーっ、なのだ・・・」
「あらら残念でしたね九尾狐の煙様」
 しくしくと悲しむ彼を恋が慰める。
「―・・・も、もしかして・・・それって答えられないと、身体の一部を持っていかれるのでは!?」
 恐怖のあまり煙はブルブルと身を震える。
「安心しろ。今日は祭りだからな、ちょっとした罰ゲームで済ませてやろう」
「そうなのだ?よかったのだ・・・。なぜか猫娘がこっちに来るのだ?」
「にゃぁああっ!」
「―・・・へぶっ!?いっ痛いのだぁあ・・・肉球で叩かれただけなのに痛いのだぁーっ」
 罰ゲームとして猫娘に叩かれ、煙は頬を押さえてしくしくと泣く。
「何か食べてこの心を癒すのだ・・・」
 屋台で何か食べて癒されようと、恋たちと一緒に屋台を見て回る。



「逸れないように気をつけてくださいね」
 真っ赤なワンピースを着て大きいマスクをつけたコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は、口裂け女の格好をして祭りへ参加しにやってきた。
 マスクの下は口が裂けて見えるように、頬にまで赤い口紅を塗っている。
 葦原の掲示板を見て興味を持ち、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)を連れてきた。
「―・・・うん」
 赤いスカートをはいておかっぱのかつらを被り、トイレの花子さんの格好をした夜魅はキョロキョロと珍しそうに屋台を覗く。
「ママ。ようかいは、せーれーさんみたいなものなの?」
「違いますよ。アヤカシと書いて人を化かすのがほとんどですから」
「えぇーこわいの?」
「たしかに・・・怖いのもいますけど。こうして変装していれば大丈夫ですよ」
「うん、わかったママ」
「小豆洗いさんがいますね」
 夜魅を連れて真の屋台で田楽を食べている小豆洗いに声をかけてみる。
「あのーよければ一緒に花火をしませんか?」
「花火?まぁよいが」
「出来れば鬼火さんや河童さんも呼んでいただけたら嬉しいです」
「うーん・・・とりあえず声かけてみとくかのう」
「櫓の傍で待ってますね」
 コトノハたちは櫓の傍で小豆洗いが他の仲間を呼んでくるのを待つ。
「そこの若いの、連れてきたぞ」
「ありがとうございますっ。ナタは傍に置いておきましょう。小さなおじさんたちは危ないですから、バケツの傍にいてください」
 コトノハは小さなおいじさんに見えるように、小人の靴から呼び出した小人たちに着替えさせておいた。
「どうぞ」
 小人から花火を受け取り、それを妖怪たちに配る。
「それとこれ・・・プレゼントです。この祭りには初めて来たので、友好の証としてです」
「へー気が利くじゃんか!」
 鬼火に上物の油を渡すと、大喜びで燃え上がった。
「―・・・」
 新鮮なキュウリを河童に渡すと、無言でムシャムシャと食べ始める。
「ちょうど新しいのが欲しかったんじゃ」
 小豆洗いには国産の小豆を渡した。
「おくれーおくれぇー」
 すねこすりが自分にはないのか、コトノハの傍を跳ね回る。
「飴はどうですか?」
「おくれぇえ」
 ぴょんと飛び跳ね、彼女の手から飴を奪って食べる。
「白粉もありますよ」
 やってきたケサランパサランにコトノハが白粉をあげる。
「ふわふわしてるね」
 夜魅はちょんと人差し指でケサランパサランに触れてみる。
「きゃぁくすぐったい!あ、まってまってー」
 すねこすりはちょろちょろと夜魅の後ろを走り回り、少女が姿を見ようとするとまるで隠れるかのように、コトノハや他の妖怪たちの傍に隠れる。
「空京で買った花火で遊びましょうか」
「これがはなびー?」
「すみません鬼火さん、ちょっと花火に火をつけたいんですけどいいですか?」
「おうっいいぜ。ちっちゃい妖怪のお母さん」
「はい、夜魅」
 鬼火に火をつけさせてもらい夜魅に渡す。
「別のもあるけど、火傷しちゃうかもしれませんからね」
「わぁーきれい!」
 他のはまだ危ないからと、コトノハに線香花火を渡された。
 影龍の一部だった夜魅は妖怪も花火も見たことが無く、見るもの全てが新しく見えて興味津々の様子で、パチパチと火花を散らす線香花火に夢中になる。
「ほかのもみたいなぁ・・・。あたしにやってみせてくれるの?」
 ぽふぽふっと尻尾で夜魅の足を軽く叩き、すねこすりが花火をやってみせる。
「ありがとう!こんどのはあおいろね」
 暗闇の中で輝く青い花火の色に、少女は可愛らしく目を輝かせて喜ぶ。
「(フフフッ楽しんでくれているみたいですね)」
 コトノハは線香花火で遊びながら、妖怪と遊ぶ娘の姿を見つめて微笑んだ。



「あの妖怪可愛い、本物かな?あっでも傍にボクと同じような格好の口裂け女がいる・・・」
 トイレの花子さんに変装した夜魅を見てレキは近寄るのを諦める。
「妖怪のお嬢さん、私と一緒にお祭りを楽しみませんか?」
 櫓から離れようとすると雪ん子と遊んでいるエッツェルが声をかけてきた。
「私、綺麗?」
「えぇっとてもお美しいですよ」
「これでもぉおぉぉお?」
 マスクをとりエッツェルにニヤッと笑って見せると、彼はショックのあまり凍ったようにその場に固まった。
「悲鳴じゃなくて凍結かのう?脅かせしすぎたのではなのかのうレキ」
 ミアは凍結から彼が戻らないか少し待ってみる。
「そうかなぁー。もしもーし大丈夫?―・・・反応がないだね、ごめんねー」
 マスクをつけ直したレキはミアと一緒に遊びに戻った。
「いえ・・・口が裂けていても・・・っ。て・・・いないですね?どこに行ったんでしょう・・・」
 エッツェルの思考が再起動したころには、彼女たちの姿はなくなっていた。
 一方、レキたちは屋台めぐりを楽しんでいる。
「豆腐料理かー食べてみようかな」
「煮ても焼いてもそのままでも美味しく食べられて、なおかつヘルシーで健康にもいいんだよ!ぜひ食べてみてよっ」
 店の前に来るなり豆腐小僧の真が豆腐を勧める。
「揚げだし豆腐と田楽をちょうだい」
「はーい、まいどどうもっ」
 火の上で豆腐に刺した串をくるくると回し、出来たての田楽と揚げだし豆腐をレキに渡す。
「おとーふおいしーよー!」
「わぁあっ、可愛い妖怪がいる。(この子、本物かなー?)」
 雷獣の姿をした蒼の頭を撫でる。
「レキ、焼き豆腐も頼むのじゃ!」
 もらった豆腐料理を食べきったミアが、他の頼もうと言う。
「そうだね。2つくれるかな」
「はぁい。にーちゃん、やきとーふ、ふたーつおねがーい」
「焼き豆腐2つだね、了解っ。はい、お待たせ。どうぞ」
 手早く炭火で焼きレキとミアに渡した。
「まずは何もつけずに食べてみてよ。豆腐にもちゃんと味があるんだからさ!」
「そのままでもいけるのう」
「美味しいっ」
「でしょー!?素材本来の味をこうして楽しむことも出来るんだよっ」
「そうだねぇ。ごちそうさまー」
 レキはそう言うと今度は、妖怪苦笑の弥十郎の屋台へ行く。
「稲荷寿司をちょうだい」
「2つかな?」
 笑いたくなくてもニヤニヤしている顔を作り接客する。
「そなた!なぜニヤニヤ笑っているのじゃっ」
「いやぁどうしてか笑いたくなくっても笑ってしまうんだよ」
 見知った顔の相手でも周りの妖怪にばれないように弥十郎は演義を続ける。
「はむはむっ。稲荷寿司は美味しいけど、そなたは怪しいのぅ」
 笑い続ける相手をミアはじーっと見つめる。
「フフフッ」
「むー・・・」
 訝しそうな目で見ながらも他の屋台へ行く。
 レキたちが去った後、弥十郎の店に河童がやってきた。
「売り文句が河童に美味いを言わせたい、か。胡瓜の1本漬けをおくれ」
「どうぞ。(どんな反応するかな?)」
 ボリボリと1本漬けを食べる河童を見て、どんな感想が返ってくるのか待つ。
「(わー河童が来た!よぉし観察しようっ)」
 窒息しないよう開けておいた空気穴から、響はオペラグラスで外を覗き、実物を見ながらメモ張にさらさらと河童の絵を描く。
「―・・・」
 食べ終わった河童が無言のまま離れていくのを見て、美味しくなかったのかなっと弥十郎はしょんぼりとする。
 そう思いきや突然振り返り、“美味かったよ”と言い残して去っていく。
「(やったね!言わせることが出来たよ」
 売り文句が達成された弥十郎は心の中で喜んだ。
 その頃、レキたちの方は別の屋台で食べ物を買っている。
「ジャガバターかな?―・・・わぁっ、中から小さなジャガイモがいっぱい出てきた!?」
 皮を剥くとぽぽぽぽぽんっと中からジャガイモが出てきた。
「ほくほくで美味しいね」
「バターが利いていて美味いのう」
 レキとミアは爪楊枝で刺しながらケケッケケケケタケタを笑うジャガバターを食べる。
「飲むアイスがあったから買ってみたよ」
 雪女の店から買ったアイスをミアにあげる。
「んむー・・・ふはぁっ!熱い食べ物を食べた後のアイスはまた格別じゃのう!」
 じゅるうぅうーっと飲み干し、ミアたちは食べ歩きながら祭りを満喫する。



「豆腐か、冷やっことかあるのか?」
 氷術で着物に氷の結晶を纏わせた雪女の姿の透玻は、真の店で注文する。
「もちろんあるよ!待ってて、すぐに用意するから」
「これなら私たちでも食べられますね、雪女の透玻様」
 璃央は他に食べられそうなものがないか見る。
「冷やっこお待ちどうさま!」
「刻みネギや他のやつと一緒に食べると、いろいろと味が変わるな。妖狐の璃央」
「そうですね」
 透玻と璃央は受け取った豆腐を美味しそうに食べる。
「あー、ごめんね。冷たいのはあまり用意してないんだよ」
「お店大変そうですし、仕方ないですよね。他のところも見てみます」
 璃央たちは冷たい食べ物がないか探しに行く。
「にーちゃんおきゃくさんきたよ」
 また別の客が来たと蒼が真に教える。
「いらっしゃーい」
「おねーさんくびながいー!―・・・ながい?じゃあ・・・だれかのいしょーじゃなくてほんものぉお!?ぉおば、おば・・・っおぉおばっ」
「なんだい雷獣の坊や。私の首で絞められたいのかい!?」
 妖怪なのにお化けと言われかけた轆轤首の女がギッと蒼を睨む。
 お化けなのか妖怪なのか分からないものではないのに、お化けだと言われかけたのが癇に障ったようだ。
「まぁまぁ、そんなに怒らないで。豆腐を食べて機嫌を直してよ」
「今度そんなこと言ったら承知しないからねっ。揚げだし豆腐をくださいな」
「はい、温かいうちにどうぞ」
 揚げだし豆腐を渡して轆轤首が去った後、蒼の方を見るとブルブルと震えながら、ライトニングブラストの放電をしている。
「うぁあんっ。こわかったよー、にーちゃん」
「よしよし。―・・・ん?少し作り置きが減っているような・・・?ここに田楽を置いておいたんだけど蒼、知らないか?」
「しっしらないよー」
「うーん・・・気のせいかな?」
 田楽が減っているのが気になりつつもカウンターへ戻る。
 蒼は知らないような態度をとっているが、実は真に隠れてちょこちょこ摘んでいるのだ。
「客が来た、いらっしゃーい!」
「おや豆腐小僧が豆腐料理を売っているとな?食べたら身体中にカビが生えるんじゃないのかのう?」
 舌長婆が訝しそうに真を見る。
「そんなの生えないよ!俺は無害な豆腐小僧だから、安心して食べてよっ」
「ほんじゃあ冷やっこをいただくかのう」
「どーぞ」
 冷やっこを渡すと、長い舌でぺろりと豆腐に巻きつき、すぐに食べきってしまった。
「カビは生えないが物足りない味じゃ。まぁただの豆腐だからのう」
「んなぁあっ!?きっと君はまだ本当の豆腐の美味しさを知らない!これだけ口当たりがよくて、体にもいいのなんてほとんどないよ!」
「はぁあ?何か言ったのかぅ?よく聞こえんのうー」
「だーかーらっ。こーんなに食べやすくって、栄養もあるような食べ物なんてあまりないよってこと!」
「はーぁああ!?近頃、耳が遠くてのう〜」
「(くぅううっわざとなのかな。いや、妖怪だから年取っても、耳が悪くならないわけじゃないかもしれないし・・・)」
「ほれ豆腐小僧、何を言ったのか言ってみるのじゃ」
「だからね・・・豆腐は何にでも合うし、食べやすくって健康にいいんだって!」
 聞こえないふりをする妖怪に真が豆腐について熱く語り続ける。
 その頃、璃央たちは別の店にやってきた。
「あんず飴か?あれは」
「何でしょうね。私にはそう見えますけど」
 不思議に思いながらも食べてみると、お腹の中で溶けて炭酸のようにシュワシュワ感が広がる。
「なっ何でしょうか!?」
「慌てるな、他の生徒も食べているから平気だ」
「あれ、何だか身体の中から涼しくなっていく感じがしますね?」
「そうだな・・・。深夜だから少しは涼しいが、この混み方では熱気の影響で気温が高く感じるからな。こういうのがあると助かる」
「食べ物じゃなくてこれは飲み物なんですね」
 飲み物ですというふうに、看板に書かれている文字を読んで透玻に教える。
「ほう食べられるのに飲み物なのか。妖怪たちは不思議なものを作れるみたいだな」
「カキ氷屋に行ってみましょう」
「どれにするかな」
 雪女のカキ氷屋へ来た透玻は何味にするか迷う。
「ミカンのフローズンフルーツをカキ氷にしたやつにするか」
「私はマスカットと葡萄の2段重ねにします」
「器に凍った粒が落ちていくところがキレイだな」
「えぇ、なんだか見ているだけで冷えてきますね」
 2人はシャリシャリと出来ていくかき氷を眺める。
 出来上がったカキ氷の器に雪女がそっと触れると、ピキキッと器が凍結して冷気を漂わせる。
「どうぞ、1時間くらいゆっくりかけて食べられますよ」
「ほぅ。いただくとするか。(なるほどああやって溶けにくくするのか)」
 透玻はスプーンですくいカキ氷を食べる。
「なんだか爽やかな味わいですね」
「そうだな。私もミカンとレモンの2段にすればよかったかもな・・・」
 美味しそうに食べる璃央を見て、自分も別の氷果実を重ねればよかったと思った。
「ここへ来る途中で林檎飴を買ってみました。食べてみませんか?」
「顔があるが、普通の林檎飴なのだろうか」
「ただの絵だと思いますよ」
「そうか・・・。―・・・なっ何だ今の悲鳴は!?口の中から聞こえた気がするのだがっ」
「雪女の透玻様、林檎飴が喋りました!」
「なんだと!」
 璃央が持ってるやつを見ると、食べてしまうの?食べるのぉ?と可愛らしい声で話しかけてくる。
 透玻のそれは彼女がもう半分以上食べてしまったため、応答不能ですでに息絶えている。
 店主ののっぺらぼうに聞くとそれは、生き物らしくどうやってどこから取ってきたかは営業ヒミツらしい。
「いやな酸っぱさがなくて美味かったし、歯ごたえも林檎と何の変わりもなかったが・・・」
「生き物なんですねこれ」
 2人が食べたそれは普段口にしている、鳥や牛などと同じような感覚で妖怪たちも食べるようだ。
「変わったものがあるとは思っていたが、まさかこんなのまであるんだな。まだこういうのがあるんだろうか?」
 他にも変わった食べ物ないか探してみることにした。



 白っぽい着物を着て顔が隠れるほど頭巾を深く被り、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は木霊に仮装してパートナーの魔道書をなんとか出来ないか、出店をウロウロと見て歩く。
「あぁ・・・、もう1度封印出来ないかな・・・。何考えているか分からない、ていうか怖い・・・。なんていうのかな・・・行動がもう、―・・・!?」
 ゾッと何かの気配を感じ、そっと後ろ見ると物陰に占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が隠れて彼女の後をついてきている。
 それを見た結和は悪いと思いながらもやってきた気分がどこかへ飛んでしまった。
「(何でまたついてきてるのかなこの人・・・)」
 妖怪たちに紛れてまこうと、気づかないふりをし早足で歩く。
「まったくもーっ。いくら他の女子生徒とかが祭りに来ているからって、女の子が夜中に1人歩きだなんて信じられないよ!」
 そんな結和の気も知らず、占卜大全の方はますます危険者のように見られる。
「彼はともかく俺も連れて行かないなんてっ」
 彼女と同じ変装をし、ササッと屋台の傍に隠れたり大型の妖怪の後ろに隠れながら、徐々に接近していく。
「何で1人で来たの結和ちゃん」
「(来た!)」
 ザワワッと悪寒を感じ、ゆっくりその方向を向くと、占卜大全の姿が視界に入った。
「何で1人で来たの結和ちゃん・・・」
 その辺で折った木の枝を持ち歩きながら結和が鸚鵡返しをする。
「ねぇ帰ろうよ」
「ねぇ帰ろうよ・・・」
「パートナーじゃん?」
 耳打ちで話しかけようとする占卜大全だったが、結和は袖を内側から掴み耳に当てて防ぐ。
「パートナーじゃん・・・?(うっ・・・最悪。まだついてくる・・・それなら・・・)」
「あれ?返事を返してくれるのかな。ねぇ結和ちゃん」
「あれ?返事を返してくれるのかな。ねぇ結和ちゃん・・・。(と・・・見せかけて、逃げるっ)」
 歩いた道を戻ろうとしていると思わせ、フェイントをかけ妖怪たちに紛れて全速力で走り去っていく。
「(何とかまいたかな・・・。何か食べようかな)」
 翡翠たちの焼きトウモロコシ屋へ行き、3分の1サイズのやつを買う。
「焼きたてですよ」
「(はむ・・・・・・。ありがとう、美味しかったよ)」
 美味しかったと仕草をしようと、ぺこっとお辞儀をして去る。
「(小物屋がある・・・行ってみよう。すみません、木魂だから話せない・・・っと)」
 木魂だから話せないと、店主の身体の半分が大蛇の辰子姫の手に指で書く。
「(魔道書を封印する御札とか何か置いてある?それか他の店にあるのかな?)」
「あいにくわらわの店にも、他の店にもそのようなものはありませんわ。他のどこかにあるとも聞いたことがありませんし」
「(じゃあ誰か解除出来る妖怪はいないのかな?)」
「いませんわ。だいたい・・・なぜそのようなものが欲しいんですの?」
 辰子姫は無理だというふうに首を左右に振る。
「(いつも後をついてくるストーカーのような行動が怖くて・・・どうしたらいいか分からないんだよね。パートナーってことを盾にされると、何も言えなくなっちゃうんだよ)」
「本当にそうですの?いつもどうして、どういう時にいるか考えてみてください」
「(―・・・いつも、どういう時に・・・?)」
 ストーカー的に追いかけ回しているだけと思っていたが、何のためにどんな状況の時にいたのか思い出してみる。
「それに。祭りでも終わったら誰かの目につくことが少なくなって、他の妖怪に食べられてしまうかもしれませんわよ?」
 こちらを見ている占卜大全に、ちらっと視線を移して言う。
 祭りが終わっても妖怪同士いきなり争う分けではないが、結和を心配している彼のために、彼女に分かってもらうとわざと恐ろしい言葉を言ったのだ。
「(そう・・・だったんだね。ただついて行きたかったんじゃなくて、私のことが心配だから・・・)」
 占卜大全の方へ振り向くと、ずっと会計を待っていてブーブー文句言っている妖怪たちを筆談で宥めている。
「(あぁっ、やめて!頭巾が、頭巾が取れちゃうよ!もう少しで結和ちゃんが話し終わりそうだから待ってーっ)」
 服を掴んで退かそうとしてくる妖怪を宥めつつ、頭巾を両手で押さえて必死に深く被り続ける。
「(話しを聞いてくれてありがとう)」
 それだけ指で書き終わると、自分のために妖怪たちの苛立ちを抑えている可哀想なパートナーのために辰子姫から離れた。
「お話終わったのかな?そっか!」
 彼女が無言で頷いたのを見ると妖怪たちの前から退いた。
「聞こえなかったけど何話してたの?ねぇ何?教えてよーっ」
 辰子姫と何を話していたのか聞いてくる占卜大全だったが、ただのストーカーからちょっと変だけど悪い人じゃない、と結和はそう思えた。



「凄い綿飴の作り方しているわね」
「綿飴が棒に引き寄せられるように巻きついていくな」
 修験者の衣装を着て天狗の仮装をした須藤 雷華(すとう・らいか)は、北久慈 啓(きたくじ・けい)はフードつきのローブを纏い般若の面で被り鬼のふりをする。
「次は何を食べようかな」
 苺味の綿飴を食べながら、他にも美味しいものがないか探す。
「ちょっとは晩飯になるものを食べたほうがいいんじゃないのか?後で腹が減るぞ」
「いいのっ!お祭りなんだから、食べたいもの食べたいし」
「俺は焼きトウモロコシでも食べるか。天狗、1つくれ」
「あれ?そっちの子のはいいのか?」
 傍にいる雷華の分はいらないのかとレイスが聞く。
「ぁあ1つでいい。出来れば3等分したやつじゃなくて、1本で焼いてくれ」
「そうなのか?おーい、白狐の翡翠。切らないで1本丸ごとくれって注文が入ったぞ」
「分かりました、今焼きますー!」
 ジュウジュウと醤油の香りがし始める。
「ちょっと他のも焼かないといけないんで、渡してあげてください」
「分かりましたわ白狐の翡翠様。冷めないうちにどうぞ」
「ありがとう」
 啓は美鈴から焼きトウモロコシを受け取る。
「林檎飴もあるのね!」
 雷華はのっぺらぼうの店に行き買う。
「あら顔みたいなのが描いてあるわね?」
「ぇえー食べちゃうの?ボクのこと食べるのー?」
「これ喋るの?ていうか生き物なの!?」
 驚きのあまり林檎飴を凝視する。
「ぁあ生き物さ」
 疑問符を浮かべたような表情をする彼女に店主が答える。
「とりあえず食べてみようかしら。―・・・はむ」
「ヒヤァアアアァアア!」
 食べられた林檎飴が大絶叫する。
「容赦ないな。喋るやつを躊躇なく食べるなんて」
「何言ってるの、変に躊躇したらばれちゃうじゃないの」
 ぼそっと言う啓に雷華が小声で話す。
「次はあんず飴よっ」
 何の抵抗もなくもぐもぐと食べる。
「お腹の中でしゅわしゅわぁあーってする。炭酸?なんだかソーダみたいな感じがするわね」
「平気なのか?」
「大丈夫よ、どこか具合悪くなったわけでもないし」
「へぇそうなのか。ん?これは飲み物らしいな?食べられる飲み物か」
 啓はそれが飲み物だと看板に書かれているのを見つけた。
「少し身体が冷えて、涼しくなった感じがするわね?」
「そういう飲み物らしい」
「へぇー不思議ねぇ。でも、もうちょっと涼しくなりたいわ、氷苺でも食べに行こうっと」
 雪女のカキ氷屋の屋台の前に来た雷華はメニューを見て選ぶ。
「思ってたよりもいろいろあるわね。このフローズン果実の苺をカキ氷にして、苺アイスを乗せてね」
「何時間持ち歩きます?」
「だいたい1時間くらいね」
「分かりました、どうぞ」
 冷気で溶けにくくし雷華に渡す。
「カキ氷って熱いところで食べるとすぐ溶けちゃうのに、こういうサービスがあるのっていいわね♪」
 スプーンですくって食べながらニコニコ顔になる。
「少しもらうぞ」
「あっ!ちょっと、ケイ君。自分の買えばよかったじゃないの!」
「そんな全部は食べられないからちょっとだけ食べたかったんだ」
「むーっ!もうっ」
「(甘いものに目がないのか?まったく・・・)」
 少し減ってしまったカキ氷を眉を吊り上げながら、とられまいと急いで食べる姿を見て啓はおかしそうに笑う。