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KICK THE CAN2! ~In Summer~

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KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション


間章


 天沼矛への入口の前に、黒コゲになった人が倒れていた。
 王 大鋸(わん・だーじゅ)である。
 なぜ彼が倒れているかといえば、エミカの持つ紫電槍・改の「デストロイモード」に巻き込まれたせいだ。
 彼は守備に行こうとしている途中、雷の奔流に巻き込まれた。直撃だったらそれこそ消し炭どころか跡形もなく蒸発していただろう。
 彼が放置されている理由、それは大鋸がこのゲームに参加するということを、ほとんど全ての人間が忘れているからだ。
 ろくりんピック中にエミカに無理矢理付き合わされて海京に来たにも関わらず、その張本人によって気絶させられるというのは実に憐れだとしか言いようがない。
 出落ちキャラにすらなりきれていないのだから。

 そして、文字通り胸の怒りを晴らさんとしているエミカは、
「しょーごくん、あーそびーましょ」
 逃走した正悟を探していた。
 その顔には攻撃的な笑みが浮かんでいる。
「もう怒ってないから、ね。どこにいるのかなー、あははははははは」
 どう見ても危ない人である。
 だが、彼女に気付かれないようにこっそりと近付こうとしている勇者がいた。
(エミカさん、発見。だけど、すごい殺気……)
 どす黒いオーラのようなものを幻視してしまうほどの強い殺意だ。
 朝野 未沙(あさの・みさ)はそんな彼女にそっと声を掛けようとする。彼女の想い(殺意)は一途なため、彼女に害をなすことはないはずだ。
「エーミーカさん」
 声を掛けると、すんなり未沙の方を振り向いた。
「あ、未沙ちゃーん……ひゃうっ!」
 エミカが妙な声を上げた。
 未沙が彼女の胸を触り、そのままハグしたからだ。
「い、いきなり、ど、ど、どうしたの、の?」
 顔を赤らめ、ひたすらに動揺するエミカ。どうやらこういうことには慣れていないらしい。
「エミカさん、女の子の価値はおっぱいの大きさじゃないよ」
「……どうしてあたしが気にしてることを!?」
 そりゃ大声で『Bカップバカにするなー!』とか叫べば聞こえていたって不思議ではないだろう。
「エミカさんのおっぱい、柔らかくて張りもあるし、揉み応えも充分で最高だよ!」
 大事なのは大きさじゃない、そう力強く伝えようとしていた。
「ほんとに……?」
 不安そうに声を震わせながら未沙の方を見ているエミカ。どうも、彼女は過去に胸にまつわる何かで非常に嫌な思いをしたのだろう。それのせいでコンプレックスになっているに違いない。
「だから自信を持って!」
 普段の快活な様子とは違う、とっても女の子らしい一面を垣間見た未沙だった。
「そうだよね。胸が大きいからって、魅力的とは限らないよね」
 エミカが顔を上げる。
「でも……あいつはしばく!」
「え、エミカさん?」
 胸の悩みと、胸をからかわれたことはあくまでも別の話だ。やっぱり貧乳をからかったことはどうあっても許せないらしく、未沙の手を掴んで駆け出した。
「ちょっと手伝って、女の敵を討伐するよ!」
 有無を言わさず、エミカに連れられていく未沙であった。
 彼女の行き先は南エリアだ。

            * * *

 ゲーム開始から一時間半ほどの時間が経過した。大体、攻守ともにそれぞれ戦略を固め、あとは動くだけといったところだろうか。
 現在の状況は、どのエリアも拮抗した状態である。
 捕まっている者もそう多くはない。あと三十分、ゲーム開始から二時間くらい経ったあたりで、動きが生じることになるが、まだ参加者がそれを知る由はない。

(特に問題はないようだ)
 天沼矛の展望デッキから、結界術者であり審判でもあるノイン・ゲジヒトが地上の様子を眺めていた。
「あの、すいません。そこは危ないので降りて頂けないでしょうか」
 彼女の真下から声が掛かる。天沼矛の職員だ。
「許可は取ってある。それに、この程度の高さなど大した問題ではない」
 彼女がいるのは厳密には展望デッキではなく、その屋根の上だ。
「しかしですね……」
「地上の試合が終わるまでだ。その後はすぐに戻るから待っていろ」
 ぱっと見、十三、四歳くらいにしか見えない少女だからこそ止められるのだろう。彼女は白衣を纏い、肩くらいまである髪を縛り眼鏡をかけた研究者さながらの姿をしている。実際、研究者である司城の助手をしているのだから間違いではない。
(ふむ。やはり天御柱学院の生徒よりも、パラミタで長いこと経験を積んだ契約者の方が高い能力を持っているな)
 コリマからのテレパシーがノインに伝わる。
(やはりあっさりとこの街の使用を認めたのは、契約者の力を間近で見るためか?)
 彼女もまたテレパシーで言葉を返す。今でこそ声を発している彼女だが、以前は声を失っていた。そのため、この程度の会話などお手のものなのだ。
(それもあるが、学院の生徒にとっても自分より強い者と戦うのはいい経験になると思ってな)
(学生思いだな)
(私としてはお主にも興味はある。私の知る魔術形態のどれにも属さない、未知の力を使っているのだからな)
(魔導力連動システム、とだけ伝えておこう。あとは主に直接聞いてくれ)
 その単語を聞き、コリマは何かを察したようだ。
(……なるほど。そうするとしよう)
 そこで会話は終わった。
「しかし、本当に人間か……?」
 思わず呟くノイン。コリマの力は「現時点での」五機精と自分を合わせても敵わないということを、海京に来た時点で感じ取っていた。
 いくら数千、数万のパートナーがいたとしても、これは異常である。そこに彼女は疑問を感じているようだ。
(……何者かは、いずれ分かる時が来るだろう。主も彼の者を知っているようだったからな)
 そこで思考を打ち切り、再び試合の審判のため視線を地上に落す。

 缶蹴りの方は、少しずつ激しさを増し始めていた。