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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村 2

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第5章 悲しみに沈む魂の行方

「リーズ!崖のところに空洞とかないかー?」
 橋の下を調べるリーズに、陣が何か見つかったか声をかける。
「むぅー・・・何もないよ、陣くんー」
「まじか、そこだと思ったんやけどな・・・」
 見当違いだったかと、気の抜けた炭酸のように陣はへにょっと地面に座り込む。
「じゃあ違う場所を探さないとな。集会場に行ってみないか?」
 彼らの前を歩く一輝はクリスに、ポリカーボネートシールド越しにライトを照らしてもらいつつ、集会場がある方へ顔を向ける。
「そうですね、いそうな場所があるなら行ってみましょう」
「何か近づいてくる・・・。皆、気をつけて!」
 禁猟区に危険な気配が近づき、綺人は鞘から忍刀を抜く。
「塀の上に鬼がいるよ!」
「狙撃か」
 陣を狙う銃弾を一輝が盾で防ぐ。
「ふむ、3匹か」
 深緑の槍を握り、ランスバレストの一撃でノコギリを破壊する。
「最後のやつは私が倒しますっ」
 綺人の声にクリスはすかさず、雷の気を纏ったクレセントアックスの刃で鬼の手首を切り落とす。
「クイモノガ、タクサンイル。ギャヒャッヒャッ」
 片手を失っても平気そうに、もう片方の手で斧を握り綺人に襲いかかる。
「僕たちは一刻も早くオメガさんを探さなきゃいけないんだ。食べられるわけにはいかないよっ」
 斧を刀で防ぎ泥濘へ突き飛ばす。
「きゃぁあっ、寺子屋の中から鬼たちが出てきたわ!」
「後ろへ隠れて」
 ウェリスの叫び声を聞き、彼女を守るように立ちはだかり鬼の足首を斬り払う。
「生きている者は皆、食事としか見てないようでやんすね」
 捕まえようとする鬼の手を、礼海はひょいっと身軽にかわす。
「食事・・・。村人たちをそんなものにさせるわけにはいきませんね、村の闇世界化をなんとか阻止しないと!私が視界を奪いっている隙に、鬼の足を斬ってくださいアヤ」
「分かったよクリス」
 彼女が光術で鬼たちに目晦ましをしてくれている間に、追いかけられないよう綺人が鬼の足首を狙う。
「―・・・っ。数が多いですね」
 礼海に驚きの歌でSPを回復させてもらいながら、クリスは術を放ち続ける。
「後もう少しだから頑張ろう!」
 リーズがツインスラッシュで鬼の得物を叩き落す。
「ふぅ・・・足させ動かなきゃ、もう追って来れないよね。先を急ごう」
 仲間を呼ばれないうちにと、綺人たちは集会場の中へ走る。
「例の人形がいるのはここか」
 一輝は棚のある方を見ると、ぜんまいを巻かれていない人形が、棚と棚の細い隙間を行ったり来たりしている。
 その近くに隠し階段が無いか探してみる。
「ないみたいだな・・・。次は焼却炉へ行ってみるか」
 橋を渡り穴が開いたというそこの中へ下りれないだろうかと向かう。
「どうしてここに?」
「私は見上げ・・・は、オレたちを見上げていることじゃないか?つまりオメガは地下の、そしてオレたちが直接見える場所にいると思うんだ。一番怪しいのはこの焼却炉の穴だな」
 不思議そうに首を傾げる綺人に、一輝は言葉の意味を説明しながら焼却炉の穴を覗き込む。
「では入ってみるか」
 ユリウスは一輝と登山用ザイルで焼却炉の穴の中へ慎重に下りる。
「―・・・なかなか底へつかないな」
 周囲を警戒しながら一輝は辺りを見回す。
「一輝、これ以上下りられないぞ」
「外で拾った小石でも落としてみるか。底があるかどうか確認出来るからな」
 ぽいっと落とし、耳を澄ますが何も聞こえない。
「これは底がないってことか?」
「下りたら闇に飲まれて、もれなく村の外行きな感じがするぞ」
 明らかに無理だとユリウスは顔を顰める。
 外れてしまったかと、一輝とユリウスは仕方なく登り穴の中から出る。
「他の場所を探してみない?」
「そうだな・・・ここには何もなさそうだ」
 綺人の言葉に頷き一輝たちは焼却炉から外へ出ていく。



「また闇世界化して結構時間が経ったけど、他の生徒たちは大丈夫かな?」
 草を身体に擦りつけて人の匂いを消したレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、光学迷彩で姿を隠しながら物陰の死角に入り、ズリズリと靴で砂利道の足跡を消しカモフラージュする。
「レキ、橋の近くに誰かいるアル」
 隠れ身の術で姿を隠してるチムチム・リー(ちむちむ・りー)は小声で言い、指でレキの肩をつんつんと突っつく。
「登山用ザイルで下りるのかな?」
「うぅーん・・・ボク的に言葉の意味を考えてみましたけど、底が見えないです・・・」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は橋の下の崖を覗き込み、落ちたらと思うとブルブルと震える。
 生徒たちが集めた情報を元に、行ったり来たり出来る長くて出れないところを橋とし、底がないから底が見えないところを崖と考えた。
 闇世界から出る橋の近くにいるのではと、登山用ザイルを身体につけてその橋の下へ下りる。
「これでも長さが足りないですかー!?とりあえずオメガちゃんを呼んでみるですっ。オメガちゃぁーん、どこですかぁあ〜っ」
 大声を出してオメガに呼びかける。
 しかし彼女からの返事が返ってくる気配はなく、少女の声は虚しく響き渡り崖に飲まれてしまう。
「ここじゃないんでしょうか・・・」
 外れてしまったかと思い、しょんぼりとする。
「ちょっとそんな大声出したら鬼に気づかれちゃうよっ」
 民家の玄関から様子を見てるレキは驚きのあまり目を丸くする。
「鬼が狙っているアルッ」
 チムチムが指差す方へ視線を移すと、橋の上から鬼がヴァーナーを狙っている。
「分かった任せて!」
 レキは星輝銃の銃口を鬼の足に向け、シャープシューターで狙いを定め撃ち込む。
 バランスを失った相手はドタンと砂利道に倒れる。
「はわわぁあ!?」
 倒れる寸前に鬼の撃った銃弾が、ヴァーナーの傍を通過する。
 また撃たれたら今度こそ当たってしまうと、急いで砂利道へ戻る。
「他の鬼が狙っているアル」
 木製の戸を開けて手にしているクワで、少女に襲いかかろうとする鬼をチムチムが見つける。
「道に戻ってくるのを待っていたみたいだね」
「あの得物を地面に落とすアル」
 機関銃でクワを撃ち、鬼の手から落とす。
 近くにいる少女からしか人間の匂いがせず、どこから撃たれたのか鬼はキョロキョロと辺りを見回す。
「まだ狙う気だね!」
 レキは携帯の明りを頼りに銃弾を補充し、クワを拾おうとする鬼の腕を狙い撃つ。
「お姉ちゃん、遊ぼうー」
 その場から逃げようとすると、民家の中から出てきた小鬼にしがみつかれる。
「ごめんなさいです、今は遊べないですっ」
「つまぁーんない。じゃあー食べちゃおう」
 わらわらと少女に群がり、尖った八重歯で噛みつき喰らおうとする。
「ボ、ボクを食べるですか!?いっ痛いですーっ!!きゃぁああーっ」
「このっ、あっち行くアルッ!」
 ヴァーナーを助けようとチムチムは小鬼の足元を射撃して追い払う。
「うわぁあーん、怖いですーっ」
 少女は泣き叫びながら走っていく。
「単独行動なのかな?」
「なんだか心配アルネ。一緒にいくアル、レキ」
 レキとチムチムはヴァーナーが鬼に襲われないように後をついていった。



「見上げるって・・・どういう意味かな?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は真っ暗な空を見上げて考え込む。
「上から見てみようかな」
 空飛ぶ魔法で上から村の様子を見てみる。
「ルカ、見上げられるような場所のことではないか。言葉の意味を考えたら見下ろすことはないかと思うが・・・」
「あ、そっか!」
 夏侯 淵(かこう・えん)の言葉になるほどと頷く。
「んー・・・だとすると、棚と棚の細い隙間は路地かな?夜と昼で違和感がある道はないもの」
 彼の言う通り言葉の意味を考えながら、ルカルカは細い路地を探してウロウロと探し歩く。
 昨日と同じく道の形も昼夜でまったく変わったところはない。
「焼却炉は目的地で燃えてるのは魂かしら?うーん・・・分からないわね」
 彼女は頭から湯気を出し、知恵熱を出してしまいそうになる。
「エースとの連絡時間ね。細い路地を通った高いところが見える場所にいるかもしれない、っと・・・」
 メモ用紙を千切って書くと犬の首輪にその紙を括りつけ、仲間の元へ行かせる。
「むっ。ルカ、伏せろ!」
 民家の屋根から鬼に投げつけられた斧を、淵が最古の銃で撃ち落す。
 ザクッとルカルカの足元に斧が落ちる。
「チッ、ミエルノカ」
「生憎こっちは暗い場所でも目が利くんでな」
 ダークビジョンのおかげで暗闇でも、屋根の上にいる鬼の姿が淵たちにはっきりと見える。
「オトナシク、クワレロ!ソッチノボインハデザートダ、マズチビカラクッテヤル」
「ここで死ぬと朝まで死にっぱなしだからな。しばらく石になっていてもらいところだが、今回は逃げさせてもらう」
 背丈のことを言われた淵はムッとしながらも感情を抑えて我慢する。
「ニゲルナコゾウ。オイ、ソコノチビ!」
「(聞こえていない、何も聞こえていないんだ。我慢するんだ・・・)」
 淵は両手で耳を塞ぎ、ルカルカの空飛ぶ魔法で鬼から離れ、オメガの魂探しを再開する。



「うーん・・・煙突しか思いつかないですね」
 御堂 緋音(みどう・あかね)は見上げるもの、細い隙間をその中のこと、真っ暗で底がないことの意味は覗くことかと思い屋根によじ登る。
「ここは火にも関係しますし・・・。何か分かればいいんですけど」
「本当にそこか、何か違うような気がするのだが・・・。他の場所を探さないか?」
 下から見上げる真理の秘録書 『アヴァロンノヴァ』(しんりのひろくしょ・あう゛ぁろんのう゛ぁ)が彼女に話しかける。
「待ってください、もう少し探します。オメガさんー!」
 見知った者の声なら届くかと緋音は魔女の名を呼ぶ。
「―・・・返事がないですね」
 しばらく待ってみるものの、彼女の声は聞こえずしょぼんとする。
「他の生徒たちは林の方へ行ったが、そこへ行ってみてはどうだ?」
「うぅ、そうですね・・・」
「―・・・何だこの邪悪な気配は・・・。まさか鬼が近くに潜んでいるのか?緋音、早く下りろ!」
 緋音が屋根から降りようとした瞬間、ディテクトエビルの気配を探知する。
「えっ、そんな急に言われても下りれないですよ!」
「我が受け止める、飛び下りるんだっ」
「はい!」
 屋根の上から飛び降り、アヴァロンノヴァの腕の中へ飛び込む。
 抱きかかえられたまま砂利道へ転がると、眼前スレスレに小型の鎌が地面へ刺さる。
 少しでも彼女の反応が遅れていたら、その鎌で緋音の首は斬り飛ばされていた。
「生徒が2人、鬼に追いかけられているわね」
 雨宮 渚(あまみや・なぎさ)はスナイパーライフルのスコープを覗き込み、高台の上から鬼が手に持つ火縄銃を射撃する。
「どこかにまだいそうだわ。―・・・あら、焼却炉の高台から私に気づいたやつが狙っているわね。本物に当てられるかしら?」
 クスッと口元を笑わせ、相手の得物に照準を合わせる。
 ズダンッ、ガスッ。
 放たれた銃弾は彼女のミラージュの幻影を貫通し、高台を傷つけただけだ。
「その場所は奪わせませんよ」
 高台によじ登ろうとする鬼を見つけたサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)は、ロングスピアの柄で鬼を泥濘へ殴り飛ばす。
「イキテルヤツハ、ゼンブ、クッテヤル」
「残念ならがら、今食べられるわけにはいかないんですよね」
 ザッとスピアを地面に突き立てて踏み台にし、相手の首を狙い延髄蹴りをくわらす。
 ズシャァアアッ。
 鬼の身体が砂利道へ滑り転がる。
「すみませんが、そこでちょっとだけ眠っていてもらいます」
 気絶した彼を見下ろし、スピアを地面から引き抜く。
「ありがとう、ベディ」
 渚は高台の下にいるサーに片手を振るう。
「火縄銃と違って、こっちは撃つまでに時間がかからないのよね」
 焼却炉の傍の高台へ向き直った彼女は的を狙うかのように、鬼たちの得物を地面に撃ち落していく。
「武器を失ってもまだ生徒を追いかける気ね」
 精神感応で氷室 カイ(ひむろ・かい)に、民家が3つ並ぶ方向へ逃げる生徒を鬼が追っていると伝える。
 彼は“了解だ”とテレパシーで返事を返す。
「こんなの当たったら、一発で死んでしまうな」
 緋音を狙って投げつける斧を処刑人の剣で叩き落す。
「腹が減っているなら、朝飯まで我慢しろ」
 少女に掴みかかろうとする鬼を突き飛ばし泥濘に沈める。
「食べることを本能として動いているのか?村が完全に闇世界化して元に戻れず人にあらざる者へ変わってしまったら、人であったことも忘れてしまうのか?そうなってしまったら生き地獄だな・・・」
 泥濘の中でもがく鬼を哀れむように見つめる。
「鬼は1匹2匹だけじゃないからな、探知出来る術があったとしても気をつけるんだ」
「はい、分かりました。助けてくれてありがとうございました」
 緋音はぺこっと頭を下げてカイに礼を言うと、細い道を通って湖がある林の中へ入る。



「そろそろ待ち合わせの場所に行く時間だな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とルカルカたちは2時間おきに連絡を取ることを約束している。
 彼女のペットの犬が彼の方へ走ってくる。
 首輪についている手紙を取ると、犬はルカルカがいるところへ走っていく。
「―・・・細い路地っていっても沢山あるんだよな。高台も結構あるな・・・」
「でも細い砂利道と、高台っていうポイントはあっていると思いますよ。他の言葉もあまり考えすぎないで、素直に考えてみると分かるかもしれません」
 考え込むエースに影野 陽太(かげの・ようた)は言葉通りの意味としてとってみてはというふうに言う。
「燃えやすいものってどんなところかな?」
 謎の言葉の意味を考えているエースの傍、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が首を傾げる。
「うーん・・・燃えたら無くなるものにあたりそうな場所を、俺なりに考えてみたんだけど林と民家だな。どっちだと思う?」
「他の人たちが民家の中を探していたみたいだから、そこっていうことはまずないよね」
 エースに聞かれ、清泉 北都(いずみ・ほくと)が答える。
「なるほどな。おっと、ルカたちが寺子屋の近くの倉庫で待っているから、そこで話そう」
「この大きな通りを通ったところだよね」
 クマラがパタパタと走る。
「ま、待てそっちに行くな!」
 ディテクトエビルで鬼の気配を探知したエースがクマラを呼び止める。
「えー、だってこっちじゃん?―・・・うわぁあ!?」
 獣化した白銀 昶(しろがね・あきら)に襟首を咥えられ、鎌の刃を間髪避ける。
「あら、またあなたたちなの」
 クマラに鎌を投げつけた鬼を殴り伏せた芽美が彼らを見て眉を潜める。
「殺すところを見たくないなら早く行ってちょうだい。闇世界化している時はどうせ死なないのだから、私を止めようとするなら殺すわよ?」
「行こう、クマラ・・・」
 何か言いたげな彼の手を引き、エースは昶たちと集合場所へ走っていく。
「大人しく行ったようね、闇を広げないための賢い選択だわ。でも・・・鬼は問答無用で殺すけどね!」
 民家の屋根にひょいと飛び乗り、彼女を狙撃しようとする鬼の背後へ回り、腕で首を絞めてゴキンッと折る。
「フッ、残念ね。背後を狙ってきても殺気で分かるもの」
 屋根に片手をつき、雷の闘気が篭った足でもう1匹の腹部を蹴り飛ばす。
「痛覚がないなら感電しても分からないかしら。だけど殺される恐怖は分かるわよね?」
 屋根の上に転がる鬼の頭部を無慈悲に、グシャッと踏み殺す。
「陽子ちゃん・・・躊躇わないで」
 なかなか鬼を殺せない陽子に、躊躇せずに霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が殺すように言う。
「で、でも・・・」
「気絶させたり泥濘に落としただけじゃ、また襲ってくるよ。戦って傷つけ合うなら、殺したほうが誰も傷つけられずに済むんだよ」
「そう・・・ですよね」
「そのほうが、捜索する人たちも動きやすいはずだよ。せめてなるべく苦しませずに殺そう」
「―・・・はい」
 透乃の説得に陽子はしぶしぶ頷き、凶刃の鎖を鬼の首に巻きつかせて断裂させる。
「なるべく早く見つけてくれるといんだけどね」
 高台から飛び降りた透乃がターゲットの頭を掴み捻り殺す。
「じゃないと闇世界化が進んじゃうから・・・」
 泥濘の色がくすんだ灰色へ、不気味に変色していくのをちらりと見て呟く。
 集会場の屋根の表面がベリベリと剥がれ、塵のように舞って消える。
「本当に・・・悪夢のような光景ですね」
 剥がれた部分が赤く錆びた色へ変わっていく様子を、陽子は眉を潜めて見つめる。
「クイモノ、ミツケタァアア!」
「悪いけど人間に戻ったら普通の食事をしてね」
 迫り来る鬼の頭部を透乃が容赦なく破壊する。
「(ごめんなさいっ)」
 陽子は心の中で謝りながら、鬼の手首を鎖で引き千切る。
「ちゃんと殺しておかないとまた襲われちゃうよ」
 彼女が殺しきれなかった者の背を殴り倒して首をへし折る。
「一通り片付いたかな?」
「この辺りにはいなさそうね」
「―・・・また闇が深まっていく・・・」
 夜よりも暗く染まる空を見上げた陽子は悲しそうに呟く。



「おーいルカ!」
「ちょっと遅刻ね、エース」
「ごめん、さっき鬼と遭遇してさ。他の生徒が鬼から守ってくれたんだけどな・・・」
「そうなの?まぁ遅刻っていっても2分くらいだから許してあげる♪」
 沈んだ表情のエースに、ルカルカがニコッと笑いかける。
「(何かあったのか?あの様子からして深く聞かないでおいたほうがよさそうだな・・・)」
 暗い表情の彼を見た淵は、その理由は聞かないほうがいいかと眉を潜める。
「ルカルカが分かったことは手紙で知らせた通りだけど、そっちは何か分かった?」
「あぁ、あの紙に書かれたような場所は合っているみたいだ。でもそれだけだとまだ場所が分からないから、これからポイントを絞っていこうと思うんだ」
「突然、焼却炉の中が燃えたのは、何か燃えやすい場所を示しているんだよね?」
 クマラが確認するように北都へ顔を向ける。
「そうだね。焼却炉は集めて燃やすところだから、集まった場所といったら林しかないと思うんだよね」
「俺もそう思います」
 北都の言葉に陽太が頷く。
「底のないようなところといったら泥濘でしょうか」
「底無しの闇からの連想すると、俺もそれじゃないかと思うんだ」
 なるほどと頷き、エースも同じ考えだと言う。
「林の傍の細い砂利道が高台に接している辺りかもしれませんね」
「―・・・でも、それだと真っ暗の言葉が入ってないよ」
「というとどこかしら?」
 ルカルカが聞きたそうに北都の傍へ寄る。
「真っ暗で何も見えなくて底が無いっていうと崖のことじゃないかな?」
「へぇー、そっか。よく分かったわね!」
 言葉の意味を説明する彼に、ルカルカは感心したように言う。
「場所は林の方の堀に挟まれた道の先・・・崖に近い位置にある高台の近くだと思うよ」
「ではそこへ行ってみましょうか。(悲しい結末になんてさせません・・・)」
 想い人の写真が入ったロケットを見つめ、陽太は仲間と共にオメガの魂を探す。