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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 29 ・・・ 避難の問題 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)

 前略。静香校長。
 
 マジェスティックの事件で受けた傷もだいぶ癒えました。あの時、バリツを覚えていれば、捜査途中でケガなどせずに、もっと活躍できたと思うといまでも残念でなりません。
 さて、前回の手紙では、おおよそのことしかかけなかったので、あの事件でのボク、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)とパートナーのクリストファー・モーガンのささやかな冒険を綴りたいと思います。
 負傷していたボクが意識を取り戻したのは、火事でまさに焼け落ちんとしている病院の中、クリストファーの背中の上ででした。
 その時、クリストファーは、なぜか歌を歌っていたのです。
「どうしたの。ううっ。すごい煙、ここ熱いよ。火事なの」
「やあ、起きたかい。もしかしたら、このまま焼け死ぬかもしれないから、寝てた方がよかったかもね」
「あ、おろしてくれていいよ。自分で立てると思う。ありがとう。で、なにがどうなってるの」
「病院は火事。普通の出口も、地下への入り口も建物の崩壊で失われてしまった。そこで俺は、この応接室の壁にかかれた暗号を見つけたんだ」
 クリストファーが指さしたところには、たしかに壁の模様のように、こっそり、CDD GAA EBBと書かれていました。。
「これをきみは」
「音階だろ。だから、歌ってた。イチかバチかだよ。ダメならおしまい」
「ドレレ ソララ ミシシだよね」
「たぶんね。音で作動する隠し扉でもあるのかと思ったけど、ダメみたいなんだよ」
「声じゃダメなんじゃ」
「クリスティーは、俺が音痴だとでも言うのかい。俺が声楽が趣味なのは、知ってるだろ。これくらい正確に歌えるさ」
「違うよ」
 僕が考えたのは。
「人の声じゃ、ダメなんだ。音量が足らない。もっと、大きな音をださないと」
「楽器なんて、ここにはないよ」
「いや、入院患者のいる病院だろ。レクリェーション用に、ちょっとした楽器くらいあるはずじゃ」
 僕の言葉に、クリストファーは、部屋の棚やクローゼットを調べてくれました。
「あったけど、管楽器なんて、俺は吹き方を知らないよ」
「ボクに貸して。クラリネットは子供の頃、練習したんだ。一番、人間の声に近い音のする楽器って言われている。意外に大きな音がするから気をつけて」
 ボクは、すごく久しぶりにクラリネットを口にあてました。
 CDD GAA EBB!
 一度めは、うまく音がでなくって。
「音量が必要なら、二人でやろう。オレも一緒に歌うよ。せーの」
 CDD GAA EBB!
 クラリネットの音色とクリストファーのアルトが合わさり、轟々と燃える炎の音さえ消し去りました。
 壁が開き、ボクたちは、ロンドン塔の地下、秘宝の眠る湖へと、そうとは知らずに地下通路を歩いったのです。
 ケガの影響もあってか、ボクは地下道をかなり長く歩いた記憶があります。クリストファーは、途中、気をつかって、何度も休憩をとってくれました。
「どこに着くかわからないけど、病院には戻れないし、行くしかないよね」
「ボクが歩けなくなったら、置いていっていいよ」
「その体でそんなこと言われてもなあ」
 ボクらは、ゆっくり、ゆっくり進みました。
 薄暗い通路のはるか前方に明るい光が見えてきた時、ボクは、あの歌を聞きました。
『God save the Queen』
 体から力が、誇りがみなぎります。邪なたくらみなどに屈してたまるものか。
 通路のはてには、地下湖がひろがっていました。そして、そこでは、勇者たちが、天を舞う巨大な戦士たちが、甦った古の守護神と戦っていたのです。女王とその王国をたたえる歌声に励まされながら。
 
 長くなりました。続きは、またにしたいと思います。
 それでは、風がだいぶ冷たくなってきましたが、お体にお気をつけて。失礼します。

 親愛なるあなたの友 クリスティー・モーガン