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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANSWER 12 ・・・ 被害者の問題 春夏秋冬真都里

 ううっ。意識を取り戻したぜ。
 俺は、春夏秋冬真都里。マジェスティックで女装しておとり捜査をしていたら、カン違いした男連中に追われて、逃げ込んだのがメロン・ブラック博士の手下の馬車で、このロンドン塔に連れてこられて、拷問されて気を失った。
 そ、そんな目で俺を見るな。お、俺は不憫なんかじゃない! ただちょっと人より運が悪いだけだ! それに、俺はロリコンでもない! 気になる子がロリなだけだ!
 馬車に乗る前にトマト果汁で石畳にメッセージを残してきたから、そろそろ、捜査メンバーの誰かが俺を助けにきてくれるはずなんだぜ。
「ぐぇ」
「いつまで寝てるんだい。さっさと起きて、またいい声をきかせておくれ、王子様」
 クソっ。いきなり、背中を踏まれたんだぜ。拷問使のやつめ、俺は、ここに捕まってひどいめにあってる女の子たちのために、できることをやってみるんだぜ。
 気絶したフリをしたまま、作戦開始だ!
 ヒロイックアサルトの「墜ちた聖女」で存在感を希薄にして、「冥府の瘴気」で禍々しい気をまとい、「アボミネーション」でおぞましい気配を発するぜ。
どうだ、拷問使、俺が怖いか。
「きゃああ。この人からへんなオーラがでてるぅ」
「きっと悪霊にとりつかれたのよ。こわーい」
「寝たまま、ぶつぶつ言ってたわ。頭がおかしくなったのかも」
 女の子たちが悲鳴をあげてる気がするけど、敵をあざむくには、まず、味方からだしな。許してくれ。
 仕上げに「闇術」で、周囲の頭痛、吐き気、不安を煽って、俺の得意の演技で拷問使をビビらせてやる。
 いまから、俺は春夏秋冬真都里じゃない。この塔に閉じ込められた少女たちの怨霊の化身だ。
 俺は、怨霊だ。
 怖いものはない。復讐のために、真都里にとりついた。俺は怨霊だ。ヒヒヒヒヒ。
「キャー。起きたわ」
「うわわわ。こないで、こっち見ないでぇ」
「わーん。誰か、助けて、拷問使さん、なんでも言うことききますから、この人をどうにかしてください。お願いします」
  すごい反響だ。
  白目をむいたまま、呪いの言葉を吐き続けるぜ。
「ククククク。感じるぜ。無念のうちに死んでいった少女たちの黒い、暗い、怨嗟の嘆きを。拷問使。あんたも感じるだろ? 俺の体を使ってあんたに訴えてる、あんたに借りを返したがってる、カノジョタチノウラミヲ、ヒィーッ、キキキッキ」
 バゴ。
 一歩、歩いちまった俺の頭に、天井が崩れて破片が落ちてきたんだぜ。痛みを感じるぜ。血がどくどく流れてるぜ。
 「墜ちた聖女」を使ってる時は、不憫ってほどじゃないけど、いつもよりちょっと不運になってるから、へたに動かないほうがいいんだ。
「くるな。私に近寄るな。みんな、逃げるぞ。こいつと一緒にいては、危険すぎる。別の部屋へ移るぞ」
「ありがとう。拷問使様」
「感謝します。みんな、早く逃げよう」
「はーい」
 おい。なんか、展開がおかしい気がするぞ。
 ちょ、ちょっと待て!
 ズボ。
 もう一歩、前にでたら、床が抜けて膝までハマっちまった。
「ヤバイ。こいつの怨霊パワーで塔が破壊されるぞ」
「キャー」
 ドアが閉まる音と、遠去っていく足音。俺は、一人、ここに残されたのか。
 うん? 足音が戻ってくる。そうか、いまのは、みんなの演技で、部屋の外で拷問使をやっつけて、きっと俺をむかえにきてくれたんだぜ。
 ドアが開いた。
「く。これは」
「ね、副長、真都里ちゃんは、怨霊にとりつかれて、別人になっちゃってるんだよ。いまは、ふれないほうがいい。真都里ちゃん、もう、ボクの言葉の意味なんかわかんない状態だろうけど、みんなでこっからでたら、ちょうど捜査メンバーが助けにきてくれて、拷問使はやっつけられたよ。みんな、保護された。きみのことは、忘れないよ。じゃ」
「維新殿の言う通りだな。すまぬ、真都里殿。いま、我にできることはない。塔には、他にも捕らわれている者もいるであろうし、ひとまず、ここにいてくれるか」
 藍澤の兄貴と、かわい維新がそれだけ言うと去っていったぜ。
「しかし、あれでは我の知っている真都里殿とは、別人だ。人は霊によってあんなふうになってしまうものなのだな」
「心霊関係はこわいよね」
 廊下から、二人の会話が聞こえたぜ。
「おおおおおお。二人とも、戻ってきてくれ。俺は、正常だ。全部、演技なんだぜ。おおおおおお」
 血まみれの頭、トマトまみれの裸の体を振り回して、俺はその場で叫んだ。
 また、ドアが開いた。
「この声は一体、真都里。どうしたんだ。ぐあ。これは、ぺルディータ、見るな。見ちゃダメだ」
 捕まっていた少女たちを連れて、推理研の七尾蒼也とぺルディータ・マイナがきたんだぜ。
「この人、悪霊になっちゃってるんです」
 女の子の誰かが余計なことを言ったんだぜ。
「真都里くん」
 それでも俺を助けようと、ぺルディータが部屋に入りかけ、俺も彼女の手を握ろうと、つい、前にでてしまって、
 グシャグシャーン。
 俺とぺルディータの間の天井が落ち、壁が崩れ、床が抜けた。
俺は、体が宙に浮いたのを感じたぜ。