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なし

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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少年探偵と蒼空の密室 A編

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ANOTHER 死と相容れぬもの

 疲れはて、もうろうとしたニコ・オールドワンドを大時計の針から落としたメロン・ブラックは、次の瞬間、自分が『斬撃』で、切り伏せられたことに気づかずに、倒れていた。
「おかしい。即死のはずだが、まだ息がある。メロン・ブラック。貴様は、死人か」
 崩れ、傾斜した塔の大時計の針の上でさえも、冷然としている鬼崎朔に、博士は倒れたまま、笑いかけた。
「死などとうの昔に忘れました。それを自分は、後悔している」
「身も、心も、化け物か。死など貴様には不要。ここにいる資格はない。ただ、人の世を去れ」
 『黒檀の砂時計』で素早さを上昇させ、超感覚を発動させた朔は、一撃必殺の技を連続攻撃で博士に撃ち込み、死に体の博士をその衝撃で数分間、宙に浮かせ続けた。
 そして、殺戮の風がやむと、ボロ切れのようになった博士の体は、頭から大地へ。
「復讐代行者の役目、果たした」
 息さえ乱さず、朔は塔を去った。

Take a key and lock her up,
Lock her up,lock her up.
Take a key and lock her up,
My fair lady.

(あの娘を閉じ込めろ、
閉じ込めろ、閉じ込めろ。
あの娘を閉じ込めろ、
マイ・フェア・レイディ) *この歌詞のマイ・フェア・レイディには、ロンドン橋建設成功のために人柱となった女性をさす、との説があります。

 童謡ロンドン橋落ちた、の有名な替え歌を歌いながら、茅野菫はロンドン塔の堀にかけられた橋を歩いていた。
 空からの爆撃も、大地からの噴出する水柱も、ずいぶんと静かに、落ち着いてきた。
「この橋はまだ沈んでないけど、城が沈むわ。新しい朝のために、誰かが人柱になったのかしら。今回も、もう終わりね」
 菫はそれと気づかず、風に舞う博士の体を遠くから眺め、つぶやいた、


V:榊さん。こちらパンプキン3だ。メロン・ブラックを発見した。殲滅前に、二分間、時間をとるから、きみの目的を果たしてくれ。きみの行動は、僕が援護する。位置は、いま、データーを送った。博士は倒れている。
V:パンプキン3。こちら、榊孝明だ。了解した。感謝する。

 榊の機体は、着陸し、博士をかばうように身をかがめた。榊は、外部スピーカーを通して語りかける。
「博士。天御柱学院の榊孝明です。俺の声が聞こえますか。博士、俺はあなたについて考えました。
仲間から情報も集めた。俺の推理では、あなたが蒼空の絆に脳波測定装置をつけ、サイコパスを選定し、選んだ人間を拉致、洗脳して自分の手下として使っている。マジェスティックで起きている切り裂き魔事件、パラミタミステリクロニクルは、あなたが洗脳した人間で組織したチームで行われている。俺は、自分の推理が間違っているとは、思わない。でも、もうこれらにはっきりした解答を得る機会は得られないのでしょうね。コリマ校長は今回の件をすべて闇に葬り、あなたは、ここで死んでしまうのだから。
 一つだけ、あなたに聞きたいことがある。
 俺は、それが知りたくてこの件にかかわったんです。
 天御柱学院のイコンのコクピットで、バラバラ事件がありましたね。あの事件の被害者は、俺の同期でした。
 メロン・ブラック博士。なぜ、彼女を殺した?」
 横たわっている博士は、反応を示さなかった。
 榊は待つ。
 制限時間が終わるまで、待つつもりだ。
(起きろ。メロン・ブラック。俺にこたえろ)
 時間は過ぎていく。残り三十秒を切った。
 遺体かと思われた博士は、上体を起こし、よろよろと立ち上がり、まるで榊がそこにいるように、カメラのレンズ越しに、榊と目を合わせた。
 榊は、博士の唇の動きに意識を集中する。

 ア・ソ・ビ・ダ・カ・ノ・ジ・ョ・ノ・シ・ハ・キ・ミ・ヲ・タ・ノ・シ・マ・セ・タ・ロ・ウ

「ふざけるなッ!」
「孝明。落ち着いて」
 怒声をあげた榊を同乗しているパートナーの椿がなだめる。
「あそこにいるのは、人じゃないよ。あたしたちには、理解できないモノ」

V:こちらパンプキン3だ。時間だ。榊さん。離陸してくれ。
V:了解。用はすんだ。現在地から、離脱する。

榊の機体が空に上がり、そこを離れると、空中からぐるりと標的を囲んだ全機体が、一斉射撃を開始した。
 攻撃は、数分間も続き、轟音がやんだ時、大地はえぐれ、不細工なクレーターが誕生していた。

V:聞こえるか。パンプキンヘッド。こちら、レン・オズワルドだ。地下湖の戦闘は、終了した。所属不明の超巨大
人型兵器は、俺たちとの交戦中に、大地の割れ目に墜落、割れ目は閉じ、姿を消した。
 こちらのダメージは、テンペストの二機はかなりの損傷をしているが、地上まではいけると思う。俺とメティスの他に、影野陽太、クリストファー・モーガン、クリスティーモーガンが戦闘に参加した。
 全員、負傷している。特にクリスティーはひどい。救援を頼む。湖の水位も上がってきている。このまま天井をブチ破って、外へ水があふれだすんじゃないのか。
V:了解。こちら、パンプキンヘッド。クリスティーさん以外は、どうなんですか。
V:早く迎えにきてくれないと、クリスティーもふくめて、全員、這ってでも帰還するくらい気持ちだけは充実している。戦闘の途中から、いまでも、この洞窟には、どこかから、歌声が響いてきている。数百人、千人単位かもしれない。俺たちは、この声に背中を押され、励まされて戦い抜いた。勝手な思い込みかもしれないがな。
V:了解。こちら、パンプキンヘッドこと茅野茉莉。レンさん、私事ですが、あたし、最近、茅野菫にあってないんです。叔母にあったら、よろしく伝えてください。レンさん。聞いてますか?