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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
「いましたあ〜」
「ピノ……! ここにも魔物か……!?」
 ピノは、オイレに乗ったまま立ち往生していた。彼女の行く手を強盗鳥が阻み、地上には狼。オイレの上にはスライムがぷるぷると乗っかっている。かわいい。頭がとがっていないのが残念な所だ。
 じゃなくて。
「ん……?」
 強盗鳥の上に人が乗っている。前に活発そうな少女と、その後ろにおしとやかそうな少女……活発そうな少女の肩の上にはデビルゆるスターが。強盗鳥の頭頂部には、ネコが。
「何だ……野生の魔物じゃないのか……」
 良く見ると、彼女達の周囲には退治された虹色鳥達が両目を「×」の状態にしてのびている。そして強盗鳥の後ろには、小型飛空挺に乗った風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)の姿が。
 少し安心するのもつかの間、なんと、少女達はピノに毒蛇を突きつけていた。
「テレサお姉ちゃん! この人すごい綺麗だよ!」
「く……大人の色香が……でも負けません!」
 とかそんな事を言っている。
「な、何……? 私に何か用なの?」
「とぼけないでください! 優斗さん!」
「は、はい……」
 引っ立てられた容疑者よろしく、優斗が前に出てくる。ピノがこの状態では、いくら違うと言っても説得力が無いではないか。彼の後ろでは、諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)がうふふ、と笑みを浮かべて成り行きを見守っていた。
「今すぐに優斗さんとの関係を解消してください! 優斗さんは私のモノです!」
 テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)がそう言えば、ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)も負けじと続ける。
「関係を続けるなら、お兄ちゃんの正式な婚約者として、慰謝料を請求するよ! ピノが二度とお兄ちゃんの浮気の相手をしない事と、僕とお兄ちゃんの関係を応援してくれる事を約束してくれたら、請求は取り下げるよ。優斗お兄ちゃんは僕のモノだよ!」
「えっと……本気で何言ってるのか判らないわね。誰かと勘違いしてるんじゃない? それとも、この写真の……あら、無いわ」
「いーかげんにしろ!」
 事態を一通り見て状況を把握すると、明日香の箒にぶらさがったままラスは怒鳴った。
「ピノは子供だ! まだそういうのは早いし許さないからな! 昼ドラやりたいなら他でやれ他で!」
 内容が内容だし、格好も格好なので全く迫力が無い。
「これで子供……?」
「庇ってるよ! お兄ちゃんを庇うあまり変なこと言ってるよ!」
「あ、あの、すみません……」
「…………これじゃあ埒が明かないな……おい、そこのちっこい方」
「ミアだよ!」
「ミア……まずその毒蛇引っ込めろ。毒蛇」
「嫌だよ! ピノが浮気を止めるって宣言するまで引っ込めないよ!」
「…………面倒くせー……おい、ピノ」
「私はピノじゃ……」
「うるさい。兎に角、こいつと付き合ってないと宣言しろ。どっちにしろ付き合ってないんだから」
「……そうね。ええ、ミア、私とそこの人は無関係よ。初めて会ったんだから。私の恋人は彼だけだもの」
 ピノはそう言って、飛空挺越しにラスにウィンクした。
「……恋人……ああ、そうだな」
「……思い出したの?」
 思い出すも何も別人だ。そう言いたかったが事態をとりあえず収拾するにはそう言うしかない。だから、嘘を吐いた。
「……関係だけな」
「……そう」
 ピノは嬉しそうに笑うと、ミアに言う。
「聞いたでしょ。私はその人と浮気なんてしてないわ。そうね、応援するわよ? “優斗お兄ちゃん”て結構優しそうだしいいじゃない」
「本当!? じゃあお友達だね!」
「そうね」
 にっこりと笑い、ピノはラスに言った。
「少しでも思い出してくれて嬉しいわ。ふふ、そんな冷たい顔しないで? ピノの事なんか忘れて、私と暮らしましょう?」
 その台詞に怒ったのは、真菜華だ。
「何言ってんの!? ピノちゃんを『なんか』扱いしないでよ! あんたこそ、いきなり出てきてピノちゃんを奪っていかないでよ! ピノちゃん! 聞こえてるんだよね! ピノちゃん! そんなやつぶっとばして戻ってきてよ!」
「……真菜華……いいから」
「だって……!」
 真菜華は振り向いて、そしてラスの顔を見て悔しそうに口を噤んだ。エミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)が冷静な口調でピノに言う。
「で、結局あなたは誰なんです? 前の契約者の大事な人ですか? お名前は?」
 エミールはラスが言った事を嘘だと見抜いていた。彼は何も思い出していないし判ってもいない。彼女の名前も、正体すら理解していない。ただ、嘘を吐いただけだ。事態を収拾しようとした、しかし、それ以外にも何か意図があるように思えた。それが何かまでは分からないが――
 どちらにしろ、エミールにとっては好都合だ。
 この状況は、剣の花嫁が何なのかという事を解明するまたとない機会である。彼は、剣の花嫁という存在そのものに対する疑問を持っていた。だが、自分で調べてみても大したことは分からず仕舞いだったのだ。
 この騒ぎでその真相に辿りつけるなら、願ったり叶ったりである。
「――それとも、剣の花嫁自身に自我というのが最初からあると?」
 ピノは、顔から笑みを消して同族であるエミールに言った。
「私も、いち剣の花嫁に過ぎない。あなたと同じ、数え切れない程に作られた存在の中の、1人。だけど、そうね……。もちろん、剣の花嫁も『人』である以上、最初から自我があるわ」
「『人』……」
 エミールは、対外的には記憶が無いと言っていたが過去に契約した人が数名いた。今の姿は恐らく、真菜華の前の契約者の恋人のものなのだろう。凍結期間がかなり長く、古い記憶は大分朧気だったが――
「私が知っているのは、剣の花嫁は製造時から契約者の『大切な人』の姿を取っている、ということかしら。ポータラカ人は、『未来がある程度予測できる』らしいわよ。まあ、伝聞だけど」
「未来が予測できる……」
「そして私の名前は、シェルティ。ユーリアンのパートナーよ」
「ですから、そのユーリアンというのは何者なのですか? 前の契約者か、それとも……」
 製造者なのか。それなら、多分彼女達は契約は出来なかった筈だ。それには答えず、ピノ――シェルティは言う。
「祠に行きましょう、ユーリアン。きっと、祠に行けば全部思い出す……」
 そうして再び、彼女はオイレで先へと行った。
「ラスさん……追いかけなくていいの?」
「ああ、祠はもうすぐそこだ」
 そう答えるラスに、ケイラは心配そうな目を向ける。見た事のある表情。銅板だった頃のファーシーを鍋にしようとした時に、垣間見た表情。
「ねえ、今の……嘘だよね? 思い出したって……何でそんな事を」
「別に、さっさと祠に行ってあいつの意図を知りたかったら、それだけだ」
「……嘘」
「は?」
「それも嘘だよね。彼女、嬉しそうだったよ。何も思い出してないって知ったら、傷つくんじゃないかな。それを、想像出来ない訳じゃないよね? 出来た上で、あんな事……、言わないよね」
「…………」
「すみません、ラスさん、もしかしたら僕達……」
 そう言う優斗に、ラスは小さく笑った。
「いや、お前らは関係ねーよ。どっちにしろ……」
 そこで言葉を切って、言う。
「ユーリアンというのは、あいつの契約者の名前だろう。そして、何故かは知らないが俺をその生まれ変わりだと思い込んでいる。契約者はパラミタ人に転生する。パラミタ人は契約者に転生する。それを繰り返せば有り得ない事でも無いかもしれないが、まあ、そんなご都合主義的な展開も無いだろ。十中八九、別人だ。だけど……あいつも1人の人間で、1度覚醒してしまった以上、生きていかなきゃいけない。もう、ピノが消えていたとしたら、俺が……」
「バカじゃないの!?」
 そこで、真菜華が彼の言葉を遮った。
「ラスのピノちゃんへの気持ちって、その程度だったの!? ピノちゃんは生きてるよ! 生きて、ラスの事を待ってるよ!」
「……そうなのかな……」
 ずっと話を聞いていた千尋がうーんと考えるような仕草をして、言う。
「……えっとね。ピノちゃんがピノちゃんじゃなくなっても、きっとピノちゃんの中にピノちゃんはいると思うよ! だからラスちゃんはピノちゃんが喜ぶ事をいつも通りしてあげれば良いと思うよ☆」
「喜ぶ事……?」
「うん! そうすれば、きっと、元に戻るよ!」
 千尋は、元気の無いラスを励まそうと一生懸命に明るく言う。最初は事情があまり分っていなかった千尋だったが、今は大体のことを把握していた。彼女は、社の実妹の思いと社の思いが合わさって生まれたアリスだ。だから、ラスの妹に似ているというピノがいなくなってしまうのは――
 ちょっと、感じる所があった。響子も言う。
「僕も、そう思います……。魂と体……簡単に割り切れるものでもないと思いますし、きっとピノ様も待ってると思うんです……」
 そこで、明日香が未だ判明しない謎について口にした。
「ところで、フーリの祠って結局何なんですか〜?」
「ああ、それは……」