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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 避難スペースは、この場を見つけた当初よりも環境が整っていた。長原 淳二(ながはら・じゅんじ)閃崎 静麻(せんざき・しずま)緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)によってフロアにある各店から毛布や膝掛けが調達され、給湯設備も完備されている。
 しかし、人が多い。
 その為にプラスチックの壁を取り外して並べ直し、開放度も上がっていた。
 そこに3人の男女が訪れる。琳 鳳明(りん・ほうめい)セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)だ。セラフィーナは剣の花嫁だったが、幸いにしてまだ無事だった。
「たまたまデパートに来たらこんなことになってるなんて……」
 目の前で苦しんでいる人がいるのだから何とかしないと。そう思った鳳明は、人々の中でサポートをしている淳二に声を掛けた。
「ねえ、何が起きてるの? 原因とか、詳しいことを知ってたら教えてほしいんだけど……」
「ああ、ちょっと待ってくださいね」
 淳二は一旦奥へ行くと、デジカメを持ってきて写真を見せ、剣の花嫁と症状と共に説明した。
「……この2人が犯人であるのはほぼ間違いないでしょう……。武器はバズーカらしき大型火気。ですが、ここに写った光線を直に見た方はいません。目視出来ない類の攻撃……という可能性もあります」
 そう言う彼はどこか悔しそうだ。もしかしたら、彼のパートナーも被害に遭ったのかもしれない。
「そっか……ありがと」
 鳳明は避難スペースから少し離れると、セラフィーナと天樹に言った。
「セラさん、天樹くん、この騒動の犯人を捕まえるよ! 冒険屋としても、許せないよ!」
(……どうやって……)
「どうやって? そうだね……」
 天樹は、鳳明との精神感応か筆談でしか話をしない。傍目からは、鳳明が1人で喋っているように見え、だからこそ、彼女が天樹の言葉を復唱してセラフィーナに伝える必要があった。
 セラフィーナが言う。
「今回の騒動、剣の花嫁が狙われているのですよね。ワタシが囮役になりましょう」
「囮って……」
「ワタシは、鳳明以前に契約者がいませんから、攻撃を受けても大した被害はありません」
「でも……」
 鳳明が心配そうな顔をする。
「監視カメラの視界内に収まるようにデパート内を歩きます。天樹は警備室から監視カメラの操作をしてください。ワタシが根回ししておきます」
(……光線は映像機器には映るらしいから……これでセラくんが撃たれた時の映像が撮れれば……そこに映った光線の角度、方向を元に敵が潜伏している狙撃ポイントが逆算できるってことだね)
「それにしたって……」
「天樹は、敵の位置が特定できたら鳳明に話しかけてください。鳳明は……屋上で、どこへでもすぐに行けるように待機していただけたら。……ワタシは大丈夫ですよ」
 セラフィーナが微笑むと、鳳明はそれ以上は何も言わずに頷いた。
「……分かったよ。一緒に犯人を捕まえよう!」
 3人は一旦別れ、それぞれの役割へと向かっていく。その中、天樹はぼんやりとこんなことを思っていた。
(……正直、今回の事件そのものには余り興味はないな……けど、契約する度に一つの体に複数の魂を宿していくってどういう感じなのかな? ……共感は出来ないけど、興味はあるかな……)

「こんなにいるの……?」
 ファーシーはその人数に驚き、悲しそうな顔をした。そして、彼女は一瞬、何かを懸念するような逡巡するような表情になった。
「ファーシー」
 彼女に気付いて、静麻と遥遠達が近付いてくる。
「皆でここに来たって聞いたわ。もしかして……」
「ああ……でも、今は大丈夫だ。俺が傍にいるし、魅音も安定してる」
「霞憐は姿が変わってしまいましたが積極的に働いているので……遥遠はそこに合流しただけですよ」
「こんにちは」
 霞憐がにっこりと笑って挨拶する。
「うん、初めまして!」
 そこに、皐月と淳二がデジカメを持ってきた。プリムローズが念写を成功させた画像が、ディスプレイに映っている。
「これが、犯人の写真だ」
「この人達が……。光線が写ってる。これが攻撃手段ね」
 ファーシーはその画像を、とっくりと見つめる。
「うーん……男の人は背が高いのかな。それほど特徴が無いなあ。女の子の方は……あんまり表情が無いけど髪型と色で分かるかな。かわいいわね……耳が」
「……耳?」
「えっ、あ、じゃなくて……この写真、プリント出来ないかな? 皆に配れば……」
「俺達もそれは考えましたが、残念ながら無理なんです」
 淳二はそう言って、フロアを見渡す。
「デパートには、そういう類の機械が置いてありません。ショッピングモールとかならあったのでしょうが」
「そっか……」
「このデジカメ、借りていけばいーんじゃねーか?」
 そうして相談する彼らの姿を、如月 夜空(きさらぎ・よぞら)は毛布を被って離れた場所から眺めていた。主に見ているのは、皐月とファーシーの姿。
「何を考えている?」
 横に立つマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が聞いてくる。見目では分からないが、彼も結構なお人好しだ。心配しているのかもしれない。
「……べっつにー? なぁんにも」
 軽く感じられるように答え、息を吐く。
 ――あたしは日比谷皐月の大切な人の姿をしている。
 でも、日比谷皐月のそばに居るのは彼女だ、あたしじゃない。
 ……当たり前か。皐月にとっての“私”は、退屈な日常から連れ出してくれるヒーローだったんだから。
 そしてもう1度2人を見て、思う。
 ――だから、それを悔しがる訳も無い。
「ふむ……」
 マルクスはそれだけ呟くと、ファーシー達の所へ歩いていった。
 その時。

 雰囲気をぶち壊すような、例の放送が流れた。
 ぴんぽんぱんぽーん……
『7階、婦人ファッションフロアの黒いコートのロリコンさん、“剣の花嫁のパートナーが迷子”なので至急事務所までおこしください〜』

「…………」
「…………」
 皐月とファーシーは、思わず顔を見合わせた。
「ロリコンって……これ?」
「これなのだ」
 リリが答える。
「確かに何か変ね。“剣の花嫁のパートナーが迷子”だけやけに強調されてるみたいだし……、その割に、迷子の名前を放送しないのも不自然だわ」
 いや、一番変なのはロリコンだろう。
「誰かが犯人を見つけて、伝えてきたのかもしれないな」
「犯人……」
 ファーシーは、少し目を伏せた。憤りと、また、緊張の色を乗せて。
「世の中は、すべからく闘いだ」
 その声に顔を上げる。そこには、マルクスが立っていた。彼は、言う。
「……闘い……」
「外敵と。己と。争い勝利を収める為の、闘いの連鎖。為すべきも、闘うべきも、各々が持ち得た物がある筈だ」
「…………」
 暫くファーシーは呆っとマルクスを見詰めていたが、それから自分の脚に目を遣り、肯いた。
「……うん、そうだね」
 そんな彼女を見詰め――皐月は声を掛ける。
「ファーシー」
「……? 何?」
「君が、自分を諦めねーで歩くつもりなら……いつだってオレがファーシーの翼になって、何処までも連れてったって良いからさ、だから……」
「…………それって……」
 ファーシーは、フリードリヒをちらりと見てから、皐月に笑いかけた。
「うん、ありがとう……うれしいよ」
「おい! 何か全然態度違わねぇか!? さっき嫌がってたじゃねーか!」
「皐月さんはバカみたいに無理矢理持ち上げて運んだりはしないのよ! それに……」
 いつも唐突に持ち上げられて嫌なだけで、言葉自体が嫌だったわけじゃない。
「……なんでもないわ」
 そして、彼女は皆に言った。
「すぐに7階に行きましょう! ……えっと、20人以上いると、全員はエレベーターに乗れないから……別々にね! 上で落ち合いましょう」
 そんな彼女を皐月は吃驚した顔で見ていたが――やがて笑う。
(ああ、そうだ……)
 手を取り合えばいい。
 目に映るそれは、全て大切な世界の一部。何一つ欠けさせない為に、手を取り合おう。
 車輪を回す彼女の背に向け、皐月はそう心で詠った。