天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション公開中!

魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~ 魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

リアクション

 
 
 その10分ほど後。ツァンダ・蒼空学園
 諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)(以下リョーコ)は風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)の部屋で、充電中の携帯電話を勝手に弄りまくっていた。電話帳に登録されている番号を「あ」行から順番にチェックする。真新しい番号も無く、つまらなそうに画面を送り――
「あら?」
「は」行までいったところで、リョーコの指の動きが止まる。そこには、『ピノ・リージュン』という名前と電話番号が表示されていた。
「優ちゃんたらいつの間に……?」
 はてと考え、心当たりを思い出す。
「……ふふ、面白くなりそうね」
 彼女は早速、テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)を部屋に呼んだ。
 そして。
「…………」
「…………」
 テレサとミアは、向けられた画面を2人揃ってじーっと見つめた。
 正座している。
「女ですね……」
「女だね……」
 呟く2人に、リョーコはピノについて解説する。
「ピノちゃんはとてもかわいらしい女の子よ」
 ぴくっ、と2人が反応する。
「蒼空学園で、ピノちゃんをナンパしていた優ちゃんの姿が目撃された事があるわ」
「ナンパっ!?」
「それ、本当ですかっ?」
「わらわは嘘はつかないわ。一応授業中だったし、目撃者もいっぱいいるわ」
「授業中にナンパ!? 優斗お兄ちゃんがっ?」
「それと、この番号……優ちゃんは『真剣な顔で』ピノちゃんの番号ゲットに取り組んだらしいわ」
 最後にこう言うと、2人は再び携帯画面を凝視した。
「間違いありませんね……」
「浮気だね……」
「ミアちゃん、優斗さんを問い詰めますよ!」
「うん、詰問して真相を究明するよ!」
 普段から優斗は自分のモノと主張しているテレサとミアである。これ以上、他の女性に手を出すなんて許せないことだ。
 そこに、タイミング悪く優斗が帰ってきた。自室に勢揃いした女性陣に驚く。
「わっ、びっくりした……皆さん、どうしたんですか?」
「優斗お兄ちゃん!」
 ミアはリョーコの持っていた携帯をぱっ、と取って優斗に突きつける。
「これ、どういうこと? ナンパして番号ゲットしたって聞いたよ!」
「え、ナンパ? 何の事です? ……あ」
 優斗は画面を見て状況を理解した。が、その「あ」は余計だった。
「その反応……! やっぱり浮気なんですね!」
「ち、違いますよ。ナンパというのはリョーコさんが……」
「言い訳しないでください!」
「人の所為にするなんて男らしくないよ!」
「だ、だから……リョーコさん、一体何て説明したんですか! というか何で皆で僕の携帯見てるんですか!」
「見られて困ることをしなきゃいいのですわ。わらわは、客観的に見た事実しか言ってないわよ」
「客観的にって……それ雑誌とかのやり方ですよねそうですよね……」
 一部の事実だけを切り取って、さもそれが全てのように見せるあれである。
「ミア、テレサ、聞いてください」
「うん、何?」
「包み隠さず話してくださいね」
 頭痛を覚えつつ、優斗は言う。
「まず、ピノさんはミアより小さな子供です。従って、恋愛対象外の女の子です」
「僕よりも子供……?」
「疑わしいですね……」
「そしてですね。電話番号はろくりんピックの借り物競争の際に借り物指定があって、それでお願いしたんです。決して下心的なものはありません」
「番号が借り物……? それなら、仕方ない気もするけど」
「今となっては確認できませんね……」
 ろくりんピックの運営はすっかり解散してしまっている。ミアとテレサは矛を収めてきたようだが、まだ信用しきれないらしい。
「分かりました。じゃあ、ピノさんに電話して直接確認しましょう。本人の口から今と同じ話を聞けば納得できますよね。ミア、携帯を……」
「ちょっと待ってください。私が電話します」
「え? テレサ、なんで……」
「『私が』事実確認をします。ミアちゃん、携帯」
 優斗がピノへ直接電話をすると話を都合良く誘導する可能性がある。そう思ったテレサは、ミアから携帯を受け取ると発信ボタンを押した。
(……小さな子供かどうかは声や口調で判りますから……。もし違ったりしたら……)
 コール音数回の後、回線が繋がる。
『何?』
「…………」
 テレサはその声を聞いて沈黙した。
“大人の”声だ。いや、どこかの長寿名探偵アニメみたいに7歳くらいの子が大人っぽい声を持ってるのかも……
『何なの? これで繋がってる……のよね。用が無いなら切るわよ』
「…………」
『この表示、男からの電話よね……。私と付き合ってた子かしら』
 ……ぶちっ!
「……て、テレサ? どうしました? まだ一言も……」
 優斗がうろたえた様子で言う。大人だ。もう完全に大人だ。そう、どこかの長寿名探偵アニメもあれは大人が子供になったんだし、第一あれは大人が演っているのだ。
(優斗さんは嘘をついている……後ろめたい関係にある可能性が高いです! それにあの、何人もと付き合ってるような言い方、彼女の方も……!)
「ミアちゃん! ピノって人に会いに行きますよ! 会いに行って、優斗さんとの爛れているであろう異性関係を解消するように要求します!」
「ええっ! そんなにひどいの!?」
「ひどいなんてものじゃありません!」
「まさか、そんな訳……もう1度、僕に電話させてください! あの子は結構悪戯好きだし、あの……」
「あれは子供の声じゃありません!」
「分かった! じゃあ僕、すぐにお友達を連れてくるよ!」
 ちなみにお友達、というのは毒蛇、狼、強盗鳥、デビルゆるスター、スライム、ネコという豪華メンバーである。道中に優斗が変な事をしない為の監視用だ。
「優ちゃん、大変なことになってきたわね」
「……誰のせいですか!」
 やがて、ミアはお友達を連れてきて優斗に言った。
「……それじゃあ、携帯電話は没収するよ。テレサお姉ちゃん」
「はい、ミアちゃん」
「えっ、返してくれないんですか!?」
「お兄ちゃんが逃げ出したり、浮気相手に連絡・1人で接触し証拠隠滅とか口裏合わせとかをしたりさせないためだよ」
 当然のように言うミアに頷くテレサ。
「そんなことしませんよ……大体、ピノさんがどこにいるか聞いたんですか?」
「あ、聞いてませんね」
「今度は僕が電話します。返してください」
「だめだよ! それなら僕が……」
「……男性ならいいでしょう。ラス・リージュンという名前で登録されている番号です」
「ラス? ……うん、男の人っぽいね」

「お待たせー! ピノちゃんを追いかけるよ!」
 その頃、待ち合わせ場所には小型飛空挺に2人乗りした真菜華とエミール、軍用バイクに乗った響子とケイラが到着していた。買い物袋が沢山積まれているのは目の錯覚か。
「何だかとんでもないことになってるみたいだね……。大丈夫? ラスさん」
「…………。兎に角、いい加減遅れてるんだからさっさと行くぞ!」
 ぴりりりり。ぴりりりり。
 着信音が鳴ったのはそんな時だった。
「〜〜〜〜! 今度は何だ! ……ああ、あいつか」
 少しはまともな奴から掛かってきた、と電話に出る。
「もしもし?」
『うん、男の人だね……はい、お兄ちゃん』
(……お兄ちゃん?)
 少女の声に眉を顰めていると、次に優斗の声が聞こえてきた。何だか参っているようだ。
『あ、すみません風祭優斗です。唐突で申し訳ないんですが、今、ピノさんがどこにいるかご存知ですか? 実は、ちょっと誤解されてしまって。少し長くなりますが……』
「……短くまとめろ」
 ラスは携帯を持ったまま、小型飛空挺を低空で発進させた。もう片手運転とか知ったこっちゃない。沙幸や真菜華、ケイラ達も後に続く。そして、一通り事情を聞いた彼は、こう言わずにはいられなかった。
「何勝手にピノ巻き込んで暢気に昼ドラ展開やってんだよ……」
『あの……、そういう訳なのでピノさんと会いたいのですが……あ、後、ナンパについてラスさんからも説明してもらえませんか? 特にあの、補習の時の……』
「あんなもん説明したってややこしくなるだけだ」
 ちなみに、補習だの授業中だのというのは、入れ替わり事件の時に優斗の中に入ったリョーコがピノの中に入ったラスをナンパした時の話である。つまり、全てはリョーコの仕業である。
『ですよね、やっぱり』
「あと、こっちも今、面倒なことになってっから……会えても誤解がとけるかは保障しねーぞ」
 現状を一通り説明すると、優斗は神妙な声を出した。
『……そうですか、それで大人の……、分かりました。僕達も行きます』
「つーか、お前今どこに居るんだ? まさかツァンダなんてオチじゃ……」
『ツァンダです』
「…………。待たないからな! もう待たないからな! 最悪、自分で『フーリの祠』探して合流してこい。以上!」

「では、すぐに出発しましょう!」
「優斗さん、いきなりやる気に……そんなにピノさんに会いたいんですね……」
「これはいよいよ本格的だね!」
 別の意味で息巻くテレサとミアに、リョーコはひそひそと入れ知恵、もとい話をする。
「優ちゃんは、何かと血縁がないにも関わらず兄妹間の『兄妹の絆』の強さとか素晴らしさを強調しているけど、『夫婦の絆』の方がもっと凄いのよ。だから、兄妹から夫婦になれば完璧なのよ」
「兄妹から夫婦……!」
「もちろんだよ! お兄ちゃんは僕の婚約者だからね!」
「リョーコさん! 余計・意味不明な事を言うのは止めて下さい!」
 ……どうやら聞こえていたらしい。