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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 カフェ&デパート側が各学園に出した警戒要請。まあぶっちゃければ「何かうちでトラブルっぽい事があったんスけど『フーリの祠』なんて聞いた事ないしピノって子も変だったし、後で面倒な事になって寝覚め悪くなるのもなんなので何とかして下さい。あと、ファーシーって子も可愛いのにひでー事言われてこっちもちょっとやばい空気出してて心配なので何とかして下さい」という動機のSOSな訳だが、それを知って、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)は空京にやってきていた。
「……さて、銅板に魂を定着させた機晶姫がいると聞いて調査に来た訳だが……、もしや、あれか?」
 リリの視線の先には、歩道脇にある溝に車輪を取られ、一生懸命に引っこ抜こうとしている車椅子少女の姿があった。……立ち往生、している。
「……もう! 何で取れないのよ。パワー全開で回してるのにーーー!」
 ――緊急ピンチで別の意味で余裕が無い為、悩みは一時的にぶっとんでいるようだ。
「……やっぱり、さっき司さんから電池もらっとくべきだったかなあ……」
 ――もらうも何も、多分持ち合わせが無かったと思うが。
「? ……気のせいかなあ。どこかからツッコミが聞こえたような……」
 ――気のせいだ。
「大丈夫か?」
 ララがファーシーに声を掛けて抱き上げる。その間に、ユリが車椅子のスイッチを切って、落ち着いた所で引き上げにかかった。
 その時。

「……当たったか?」
「……ああ、当たった」
「馬鹿やってくれたおかげで追いついたんだな」
「……正直、私にはこのストーカー行為にどれだけの意味があるか判らないんだが……」
「……あるったらあるんだな」

 ビル陰に隠れて会話するチェリー達とバズーカ攻撃に、5人の中の誰1人として気付く事はなかった。
 その中で、ユリは身体の変調を感じ始めていたのだが――何とか車椅子を持ち上げ、溝とは反対側のガードレール側に置く。ララが再び座らせると、ファーシーは彼女達にお礼を言った。
「ありがとう!」
「いや、大したことではない」
 ララが応える横で、リリがファーシーをまじまじと見る。
「車椅子の機晶姫……、となれば君が噂のファーシーなのだな?」
「噂?」
 きょとんとするファーシーに、ユリが僅かに微笑んで言う。
「……お会いできて光栄なのですよ」
 その隣で、ロゼは興味薄げに扇で自分をあおいでいた。別の方を向いている、着物を着た彼女とユリ達を戸惑いながらファーシーは見て、それから名乗った。
「? ……? えっと、うん、わたしがファーシーよ」
「そうか、君が……」
 ララは感慨深げに言うと、姿勢を正してファーシーに挨拶した。
「私はララだ。同じ機晶姫として君には興味がある」
「う、うん……」
 続いて、リリも自己紹介をする。
「リリなのだ。銅板への魂の定着について調査しているのだよ」
「ちょ、調査? えと……」
 ファーシーは立て続けに色々言われてびっくりしていた。初対面の人達に名前を知られていたのもそうだし、突然調査と言われても困ってしまう。まあ、前者については本人のみ知らずという奴で、過去に何度も依頼を出している以上、噂になって然るべきなのだが。
(調査って、何をすればいいんだろう?)
 そんな事を考えるファーシーの前で、リリとララはユリを見た。次に名乗る番だ、という意味だったのだが、ユリの様子に視線を外せなくなっている。ファーシーも遅まきながらそれに気付き、ユリに目を移した。ロゼだけは先程と同様、扇を使っていて無関心だ。
「…………」
 ユリは、ただ自分の手をじっと見詰めていた。いつの間にか、薄茶色の髪が黒く、髪よりは濃い茶色であった目も、同じく黒くなっている。柔らかく優しそうだった表情も、きつい目つきに変わっていた。虹彩の変化までは把握出来なかったが、髪の色についてはファーシーも気付いた。それが意味する所は解らなかったが――
「なんということだ……」
 ユリはゆるゆると顔を上げると、絶望に満ちた表情で全員を見た。
「…………」
 続けて、こちらに流し目を送っていたロゼ、リリ、ララに向けて順番に言う。
「痩せこけた魔道書、力無き魔導師、……守護剣士は技も記憶も失っておるな。ああ……、これが我がマスターの選びし道なのか……」
 ユリ――契約する前のユリは、『ロゼを含めた魔道書』の主たる魔導師のパートナーだった。つまり、今の彼女は――今の彼女から見たロゼ達は――
(我等は、マスターの掌で踊らされているのか?)
「……ユリ?」
 嘆きの声を上げるユリに、ララが怪訝そうに声を掛ける。
「……ではないな、何奴なのだ?」
 リリが問いかけるが、ユリはリリをガン無視した。その顔には一瞬嫌悪めいたものが垣間見えたが、当のリリは気付いていない。そして、ユリはその視線をファーシーに固定した。
「時にお主はどうした。魂魄……、魄の流れがねじれておるぞ」
「? な、何? みかげ? きゃ」
 彼女は『?』を出しまくるファーシーの膝に手を置き、すぐに離す。
「……うむ、これで良かろう」
「? ? ?」
「なんだ?」
 ララも、突然のユリの行動に眉を顰めた。意味が解らないという顔をしている2人に、リリが解説する。
「魂は精神を支える気、魄は肉体を支える気なのだ。奴にはそれが見えるようであるな」
 ユリは、フンとはかりにリリから顔を背けると、ララとロゼに向けて言った。
「気まぐれもこれで終わりだ。脆弱なる者どもよ。お主等の弱弱しき足掻きが我がマスターの望みなれば、我とお主等の関わりをマスターは望むまい」
 そのまま、ユリは目を閉じた。ララがその顔を伺う。
「ユリ?」
「ユリ……さん?」
 目を開ける気配を見せず、ユリはふらふらとどこかに歩き出した。
「……何? ……そういえば、さっきのユリさんの変化……、ちょっと違うけど、性格が変わって訳分かんない事言うあたり、ピノちゃんに似てるような……きゃあっ!」
 不意に、近くで激しい銃声がしてファーシーは本気の悲鳴を上げた。頭を抱えて身体を折る。その時、膝から先が意思を持つように動いたのだが彼女自身はそれどころじゃない。
「嫌っ……!」
 街の中でどうして……!?
 そう思って出来るだけ身体を縮めるが、銃声は続くことなく途絶え、数秒しても再び鳴り響くことも無かった。
「…………?」
 おそるおそる顔を上げると、ロゼが機関銃を手に持っていた。銃口からはキナ臭さが漂っている。ロゼは、ビル陰を指して説明した。
「あそこで銃のスコープが光ったのじゃ。ま、気のせいかもしれぬがの」
「……人騒がせな奴」
 力を抜くララだったが、ファーシーは未だに驚きから覚めることが出来ずにいた。おびえの残った瞳でビル陰を見ていたが、やがて彼女も息を吐く。
「……大丈夫みたい」
 胸を撫で下ろし、落ち着いてからロゼに抗議する。
「ちょっと! 撃つ時は一言断ってからにしなさいよ。こんな街中でいきなり……、びっくりするじゃない!」
「それは、無茶な注文じゃな……」
 いちいち断っていたら、タイミングを逸してしまうではないか。

 その頃。
「な、ななななんなんだなあの女はあの女に攻撃するんだな!」
 機関銃攻撃に動揺する太郎は、そうチェリーに指示した。どこぞの漫画のように壁にぴたりと張り付いている。しかし、コートにいくつか穴が開いている。
「あれは剣の花嫁じゃない……。効かない」
「なんでそんな冷静なんだな!」
「何でそんなに慌ててるんだ。見つかるぞ」
「…………逃げるんだな、デパートに戻るんだな!」
「何しに来たんだ……まあ、収穫はあったし良しとするか」