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リアクション
序の五 尾行したりコーンポタージュ買ったり要するにチェリー達が外に出てる間に
〜見えてくる真実〜
「それにしても……何だか不穏な空気ね?」
3人で仲良くお買い物……とデパートに来たアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、変化した剣の花嫁達を何組も見かけ、天穹 虹七(てんきゅう・こうな)、ファリア・ウインドリィ(ふぁりあ・ういんどりぃ)と相談していた。
「原因は何なんだろう……」
「みんな大変そうなの〜……。お手伝いしたいの!」
「まずは調査ですわね〜♪ どうします〜?」
そう言う虹七とファリアに、アリアは考え考え話をする。
「当ても無く原因を探すよりは、警備室で監視カメラを借りてデパート内を一望した方が早いよね。フロア毎の発生頻度とかから、絞り込みもできるかもしれないし。……でも、クイーン・ヴァンガードは解体されたし、そう簡単には入れないかな?」
「困ったのー。お客さまは通してもらえないの……」
「「うーん……」」
「……アリアさん、アリアさん! 良い手を思いつきましたわ〜♪」
悩んでいる2人に、ファリアが顔を近付けてくる。
「虹七ちゃんに迷子役をしてもらうのですわ〜。そして私達はたまたま居合わせたお姉さん役です♪」
ひそひそと内緒話をするように、でものんびりとファリアは言う。
「はぐれたパートナーを一緒に探してあげる、ということであれば、きっと監視カメラの映像を見せてもらえますわ」
「えっと……」
アリアは、その様子を想像して、うん、と頷いた。
「それなら、入れてもらえるかもしれないわ」
「虹七ちゃん、よろしくおねがいしますね〜♪」
「う〜虹七あんまり演技できないの……でも、頑張るの!」
御凪 真人(みなぎ・まこと)とセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)も、店内の雰囲気がいつもと違うことに気付いていた。諍い、時には悲鳴。そして、体調が悪そうに休む人々とその同行者。その多く――或いは全部が剣の花嫁と思われた。
「……まったく、これでは落ち着いて買い物も出来ませんね」
残念というよりは、もう少し淡白な調子で真人は言った。彼としては、買出しに来たという感覚だったので休日に息抜きに来た人々とはがっかり感に差があるのかもしれない。セルファの方は、結構な如くがっかりしていたりするのだが。
「何が起きてるのかしら。さっきのフロアにも同じ様子の人達がいたし……イヤな感じね」
顔をしかめて言う彼女の隣で、真人はフロア内を歩いて、人々の状態にさりげなく目を遣っていく。
「さっと状況を見ると二重人格でしょうか。それとも、精神的に不安定になるのでしょうか? どちらにしろ、集団がこのような事態に陥るのは偶然とは思えませんね」
「……それって、必然ってこと?」
「そうですね……。何か原因があるのでしょう」
「原因ねえ……。自然発生的なものだとは考え難いわよね。特定の種族にだけ症状が出てるわけだし」
インフルエンザなど別種族には感染しない病気もあるが、それにしてもこの日この場所だけで突然発生したりはしないだろう。冷静な口調で真人は話す。
「もちろん、その可能性も残されてはいますが……人が故意に行っていると考えた方がいいでしょうね。だとすれば、それは悪意のある行動でしょうか。犯人を捕まえる必要がありますね」
「そうね、なるべく早く捕まえた方がいいかも」
店内を見回すセルファに、彼は続ける。
「一般の人も多いですし、派手に立ち回るわけにはいきませんね」
「私なら、殺気看破かな。こんな所で殺気を出してるヤツなんて普通いないわよね。周辺を探りながら普通のお客のフリをしておくわ」
そしてセルファは、早速殺気看破を展開した。
「では、俺はディテクトエビルを……」
邪念に気をつけながら周囲を捜索する。そうして歩いていた2人は、怒ったような顔で店内をきょろきょろしている少女に目を止める。白銀 司(しろがね・つかさ)だ。
「誰かを探してるみたいね。パートナーかな? それとも……」
「行ってみましょう」
真人達が近付くのに気付いたのか、司が「ん?」という顔でこちらを見た。向きを変えて走ってくる。
「ねえ! 誰か怪しい人見なかった?」
「いえ、まだ見てませんが……。怪しい人、というのは?」
もしやと思いつつ聞くと、司はちょっと困ったように首を傾げた。
「うーん……、直接見たわけじゃないから服装とか分からないけど、とにかく怪しい人だよ! 悪いことしてそうっていうか、そうだね……」
彼女は屋上での状況を思い出して、言う。
「多分、遠距離攻撃が出来る武器か何か持ってるんじゃないかな」
「それって……剣の花嫁に攻撃してる誰かってこと?」
セルファが言うと、司は驚き、そして思い切り頷いた。
「そうだよ! セアトくんにひどいことしたんだから!」
「そうですか……やはり、犯人がいるんですね」
真人は少し考えてから、司に言った。
「俺達も、犯人を捜しはじめた所だったんです。一緒にどうです?」
「ほんとっ? もちろんだよ!」
即答した彼女を加え、3人で索敵を開始する。だが。
「人を隠すなら人の中。不審な人物を見つけてもすぐに行動せずにチャンスを待ちましょう」
「えっ! 待つの?」
司としては即、とっちめてやりたい所だったが。
「反撃や、逃亡の可能性を考えるとその方がいいと思います」
「どんな目的があるにしても、向こうもこんなところで派手な騒ぎは起こさないでしょ。でも、もしバトルになったら、その時はぶん殴ってやればいいのよ」
「……うん! でも、デート中だったんでしょ? いいの?」
「……え? デ、デートなわけ無いじゃない。ふ、普通の買い物よ、買い物。別に何も無いわよ……」
言って、ちょっと落ち込むセルファだった。
◇◇◇◇◇◇
「う……、ん……?」
「……ミーナ!?」
長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は、横を歩いていたミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が倒れこむのをぎりぎりの所で支えた。このデパートに来るまで、どこも悪い所は無さそうだった。ほんの少し前までは、普通に楽しそうに話をしていたし……。それが、突然不調を訴えたのだ。
倒れたのは、慌てて症状を聞いていた時だった。本当にいきなりの事である。一体、何が起きたのか……。
(なんだか……ふわふわします……)
意識が薄れていく中、ミーナは浮遊感に身を委ねていた。雲の上に寝ているような、それでいて、しっかりと支えられているという安心感。このまま消えてしまいそうで不安で堪らなかったけれど、今は……
(きっと……)
そこでぷつりと意識が途切れる。淳二は、目を閉じたミーナを抱き上げて安全な場所を探していた。何が起きたのかと思っていたが、しかし、フロア内を歩いているうちに、身体に変調を来してしまった客が他にも居ることを知った。押し問答のような展開をしている人達も居る。その多くは、剣の花嫁のようだった。
「剣の花嫁……。だから、なのか?」
周囲に目を配りながらもあくまでもクールにいつも通り。表情めいた表情は出さずにミーナを運ぶ。
近くで淳二を見れば判っただろう。
彼の目から少し、涙が流れていることを。
その涙は静かに伝い落ち、抱きかかえているミーナの頬を濡らしていく。もちろん、気を失っているミーナがそれを知る事は無い。
そうして歩いていた淳二は、女性服売り場の隣に白い壁に囲まれた妙なスペースを見つけた。壁はプラスチック製で臨時で組み立てられただけのようだが天井近くまであり、脇に簡単な出入り口が1つだけある。壁に貼られた案内板にはこのスペースにあった店が閉店した旨と『テナント募集』の文字。
もしかして、と思って中に入ると、そこにはがらんとした空間があった。カウンターと、脚立が幾つか、それにパイプ椅子が点在しているだけで何も無い。まさか、ここに人が居るなどとは誰も思わないだろう。適度な照明もあるし、倒れてしまったパートナーを寝かせておくには良いかもしれない。毛布のような物があれば、尚良いのだが。
ミーナをそっと寝かせて立ち上がった淳二は、壁に思い切り拳をぶつけた。
「俺は……自分のパートナーすら……守れないのかよ……」
怒りと悲しみがごっちゃになったような声でつぶやく。これまでに抑えていた感情が、そこには籠められていた。
だが、フロアの様子を見るに、他にも急を要する剣の花嫁はいるようだ。彼女達の安全を確保しないといけない。ここは結構広いし、一時的な避難所にいいだろう。
淳二はミーナに1度視線を送ると、再びフロアへと出て行った。
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