リアクション
イルミンスールにて 「すぐに、客寄せパンダのつがいを開放してくれ。ここにいるのは分かっているんだぜ」 客寄せパンダがザンスカールへとむかっていることを知ったクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、すぐさまイルミンスール魔法学校に行って校長室に直談判を行った。 「ええと、なんの話なんですぅ?」 ちょっと面食らったように、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が答えた。 「隠しても無駄だ。巨大化した客寄せパンダはこちらへむかっているんだ。これは、きっと、つがいであるもう一つの客寄せパンダ像を求めてに違いない」 「なんとのことかさっぱりですぅ」 エリザベート・ワルプルギスが困惑する。 「ですが、早く人形を渡さなければ、町が滅びてしまいます。つがいでなければ繁殖できないのですから、客寄せパンダは二頭いるはずです」 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も懇願した。 「その根拠のない自信はどこから来るんですぅ。だいたい、客寄せパンダが巨大化したって、どういうことですぅ?」 逆にアーデルハイト・ワルプルギスに訊ねられて、クリストファー・モーガンが事態を説明した。 「分かりましたけどぉ、とんでもない勘違いですぅ。だいたい、パンダ像が巨大化したというのも初耳ですし、たとえそうだとしてもアーティファクトが繁殖したなんて話は聞いたことがないですぅ。もしそうだとしたら、そこら中巨大パンダで、パラミタは滅んでしまっていますぅ。生き物ではないのですから、前提条件が間違いですぅ」 「それは、校長君が知らないだけではないのか。むしろ、こういうことにはアーデルハイト君が詳しいと思うのだが」 ぞんざいにクリストファー・モーガンがアーデルハイト・ワルプルギスに問いただした。 「それが、大ババ様は急に雲隠れしてしまったんですぅ」 ちょっと困ったように、エリザベート・ワルプルギスが言った。なぜか、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が姿を隠してしまっているのだ。その行方は杳としてしれない。 「もしかしたら、大ババ様が人形を隠しているのかも……。大変だ、早く捜しだして、人形を返してもらわないと、ザンスカールが滅びちゃうよ」 「そうだな。急ごう」 それはないからと、立てた小さな手を顔の前で可愛く振るエリザベート・ワルプルギスを無視して、クリストファー・モーガンたちは、アーデルハイト・ワルプルギスを捜しに校長室を飛び出していった。 誰がために 森が二つに割れた。 その木々の間から、白と黒の二極に彩られた大きな丸い顔が現れる。 客寄せパンダ様だ。 「パパパパパパ……」 その口から、音とも声ともつかない咆哮があがった。可聴範囲を超えた腹にズンとくる超低周波が、周囲にいた者の全身を震えせしめる。 「スペクタクルです」 メモリプロジェクタでその様子を冷静に記録しながら、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が言った。 ブンと、爪のある大きな手が横に一閃する。衝撃波で木々が薙ぎ払われ、吹き飛ばされた地表が土津波となって周囲の地形を変えた。 「おや? あんな所に人が……」 巨大な客寄せパンダ様越しに丘を見た重攻機リュウライザーが、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)を呼んだ。 「危ないな。いや、危ないのにあそこだけ客寄せパンダが襲っていないと見るべきか。よし、行ってみよう」 武神牙竜は、重攻機リュウライザーをうながすと、その丘へとむかった。 ★ ★ ★ 「う、撃ちたい……」 愛用のレールガンを地上に設置しながらジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、プルプルと身悶えした。 敵はでかい……目を瞑ってもあたる。敵は鈍足……射線固定でいい。敵は敵……大義名分は我にあり。 「う、撃ちたい……」 ジュレール・リーヴェンディが、もう一度つぶやきつつトリガーに指先をかけかけた。 「だめでしょうが!」 すぱこーんと、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がジュレール・リーヴェンディの頭をひっぱたいた。 「ザンスカールの危機なんだから。だいたい、イコンよりでっかいのに、レールガンなんか効くわけないでしょうが」 「いや、試してみぬことには……」 「無理!」 カレン・クレスティアが、一言で片づけた。 「ここは、パンダ様の心に訴えるのよ!」 そう言うと、カレン・クレスティアはジュレール・リーヴェンディの手を引っぱって果敢にも客寄せパンダ様の眼前へとむかった。 「パパパパパパ……」 ズンズンと足音を響かせて、客寄せパンダ様は確実にザンスカールへと進んでいく。 その前に突然飛び出してきたジュレール・リーヴェンディが、こけっと転けた。 そのジュレール・リーヴェンディに、客寄せパンダ様の巨大な足が迫る。 「ああ、パンダ様、お待ちください」 わざとらしく、カレン・クレスティアがジュレール・リーヴェンディに駆け寄った。 「この子はまだ幼いので助けてあげてください、代わりにボクが……」 用意した台詞を言いかけたカレン・クレスティアを、客寄せパンダ様がビシッと指さした。 「えっ、何?」 小芝居を途中でやめて、カレン・クレスティアが客寄せパンダ様の指さす方を見る。そこには、先ほどジュレール・リーヴェンディが地面に設置しておいたレールガンがあった。 「あれですか?」 問い返すカレン・クレスティアに、そうだと客寄せパンダ様がうなずく。 「はーい、あれは我のレールガン……」 蹴りっ! 「あーれー」 客寄せパンダ様の怒りのキックが炸裂し、カレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディが空の星になった。 ★ ★ ★ 「遅かったわ」 カレン・クレスティアたちがお星様になった直後に、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)と童子 華花(どうじ・はな)を小型飛空艇アルバトロスに乗せたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がやってきた。 「もう止めてください! そんなことをしたって望む物が実現するわけではないはずです!!」 飛空艇に乗ったソルファイン・アンフィニスが、客寄せパンダ様に訴えかけた。 望む物ってなんだと言いたげに、客寄せパンダ様が憤怒の表情でソルファイン・アンフィニスを睨みつける。そのあまりの威圧感に、ソルファイン・アンフィニスがひっと身をちぢこませた。 「きっと寂しかったんだよね。みんなと友達になりたかったんだよね。いいよ、オラが友達になってあげる。だから、パンダさんもオラの友達になってくれ!」 童子華花が、その両手を客寄せパンダ様の方に差しのばした。 「そうよ。みんなでパンダなんか取り合ったのがいけないのよ!!」 突然割り込んできた言葉に、リカイン・フェルマータたちが、えっという顔で振り返った。 「だいたい、最初に手を出したのは、明倫館でしょ。だったら、ザンスカールじゃなくって、明倫館を踏みつぶせばいいのよ。なんで、毎回毎回みんなザンスカールとか世界樹とか狙うのよ。まったく、迷惑なんだから」 腰に両手をあてた志方 綾乃(しかた・あやの)が、上から目線で矢継ぎ早にまくしたてた。 「パンダさん聞いてください! 今回の一連の騒動は、鏖殺寺院地球支部とエリュシオン帝国が結託してシャンバラを破壊しようとする巨大な陰謀なんです。欺されてはいけません。パンダさんが本当に襲撃すべき場所はザンスカールなんかではなく、エリュシオンの世界樹ユグドラシルなんです!」 ぶっちゃけ、ザンスカールが無事なら他の都市がどうなってもいい志方綾乃は、客寄せパンダ様にむかってそうまくしたてた。 その言葉に、なぜか客寄せパンダ様が反応を示す。最初、西をむいて、数歩歩いた。まさか、明倫館にむかうつもりなのだろうか。 だが、その直後に、今度は真逆の東にくるりと振り返った。その方向はエリュシオンだ。 「やったあ。そのまま行っちゃえ、パンダ!」 勝ち誇った志方綾乃が叫ぶ。その言葉に、また客寄せパンダ様が振り返って、彼女をギロリと睨みつけた。そして、今度は、元のように北へ、ザンスカールの方向へと歩きだす。 「なんていう優柔不断。敵はあっちよ、あっち。さっさと踏みつぶしに行きなさ……」 「ちょっと、そんなことを言ったら。せっかく私たちが客寄せパンダ様の心を開かせようとした努力が……」 あわててリカイン・フェルマータが志方綾乃を取り押さえようとしたが遅かった。 「パパパパパパ……!!」 怒りに満ちた客寄せパンダ様の、素手一閃千倍ソニックブレードが炸裂して、志方綾乃ごとリカイン・フェルマータたちをその場から吹き飛ばした。 |
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