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リアクション
★ ★ ★
「編み笠はたくさん落ちていますね」
巨大化した客寄せパンダ様に壊滅された村の跡で、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)はあちこちに落ちている編み笠を拾い集めていた。
「ええ、思った以上の収穫です。この数に、私が作ってきた新しい物をあわせれば、かなりの数を用意することができるでしょう」
同様に編み笠を拾い集めながら、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が言った。
この二人は、客寄せパンダ様が元の大きさに戻ったときのために、魅了よけの編み笠を確保しようとしていたのだった。
現在は魅了の力は消えているようだが、もし元に戻ったとたん再び魅了の力を発揮しだしたら結局は堂々巡りだ。
この二人は、それを見越して、魅了防止の編み笠を用意しようとしているのだった。
「これが役にたてばよいのですが」
「それは、パートナーたち次第でしょう」
「そうですな」
そう言葉を交わしながら、二人は黙々と編み笠を集め続けた。
★ ★ ★
「避けて通れぬ戦いですか。これ以上の狼藉は、このパラミタ撲殺天使が……きゃあですぅ」(V)
客寄せパンダ様の前に立ちはだかろうとしたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)であったが、荒れ狂う客寄せパンダ様が振った腕から放たれた衝撃波を近くに受けて、吹き飛ばされるようにして後退した。
「大丈夫ですか!」
ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)が、急いでメイベル・ポーターを助け起こした。
「うーん、いつもの愛用のバットじゃないと、いまいちしっくりこないんだもん」
ウォーハンマーをブンと一振りして、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言った。
「しかたありません。さすがに、あの大きさでは、撲殺……いえ、ザンスカールを防御するのは無理でしょうから」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、思わず本音を言いかけて、あわてて言いなおした。撲殺天使の活動は、一応三人だけの公然の秘密ということになっている。
さすがに巨大な客寄せパンダ様を野球のバットだけでどうにかできるとは思えない。それゆえ、メイベル・ポーターたちは今回は野球のバットを持ってきてはいなかった。だが、そうしたからといって、よけいに対抗方法がなくなってしまっている。
「とにかく、なんとかして別の方向にむかってもらわないとですぅ。あ、でもヴァイシャリーはだめですぅよ」
なんとか立ちあがると、メイベル・ポーターが言った。
「帰れ! 帰れ!」
メイベル・ポーターたちのすぐそばでは、ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)たちがシュプレヒコールをあげていた。
「そうだ。早くエリュシオンでもどこへでも行っちまえー!」
腕を突きあげてシンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)も叫ぶ。
「うーん、パンダさん、ユグドラシルまで、後何里……」
手に持った色紙に筆で俳句を書きながら山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)が落ち着き払って言った。
「ちょっと、何落ち着いてるのよ。ここまで来たら、パラミタ内海にでも入水してもらって、そのまま姿を消してもらうのが一番なんだからね。朝右衛門も頑張って、気合いで追い払うのよ」
「いや、気合いで帰ってくれるんなら苦労は……」
ユーナ・キャンベルに言われて、山田朝右衛門が困ったように言った。
「俺たちが頑張らなくてどうすんだよ。ザンスカールの方に行くなら行くでいいけどよお。世界樹を引き倒した後に、古巣に帰ろうとして葦原島に来ても困るだろが!」
とにかく追い払うんだと、シンシア・ハーレックが言った。
「あっちいけー、あっちいけー」
とにかく三人で声を揃えて、客寄せパンダ様を追い払おうとする。
その声に反応したのか、客寄せパンダ様が急に進路を変えた。
「やったー!」
ユーナ・キャンベルたちが喜ぶ。
「ああ、そちらはヴァイシャリーの方です」
客寄せパンダ様の歩きだした方角を見て、ヘリシャ・ヴォルテールが叫んだ。
「そっちはだめですぅ。別の方へ行くのですぅ!」
メイベル・ポーターが叫ぶ。
「水は冷たくていいよー。海水浴に行こうよー」
セシリア・ライトが、客寄せパンダ様を誘った。その声に反応してか、客寄せパンダ様が今度は進路を北に変える。かと思ったら、さらに西をむいた。
「雲海はだめー。パラミタ内海はむこうよ!」
ユーナ・キャンベルが叫んだ。
ギャンギャンわめく女の子たちに、優柔不断な客寄せパンダ様が、困惑したようにころころとむきを変える。
「好機!」
プラチナム・アイゼンシルトの運転するバイクのサイドカーに乗った紫月唯斗が叫んだ。口笛を吹いてレッサーワイバーンを呼ぶと、ジャンプ一番そちらへと飛び移る。
「天雷!」
すかさず、エクス・シュペルティアが天のいかづちを客寄せパンダ様に放った。
一本の雷光が直上から客寄せパンダ様に突き刺さる。さすがに少し痺れたのか、それともうろうろしすぎてバランスを崩したのか、わずかに客寄せパンダ様の足が浮いた。そこをすかさず紫月睡蓮がサイコキネシスで掬い上げた。
客寄せパンダ様の巨体がバランスを崩して宙に浮く。
「どいてどいてであります!」
そこにやってきたスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、小型飛空艇ヴォルケーノのミサイルを一斉発射する。
さすがに、爆発の衝撃で客寄せパンダ様が大きくのけぞった。
「突っ込むぞ!」
追い打ちをかけるように、小型飛空艇で突っ込んだ椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)が、上からハンドガンで客寄せパンダ様の目を狙い撃ちにする。
「倒れやがれ!」
椎堂アヤメの後ろに乗っていた椎堂 紗月(しどう・さつき)が、小型飛空艇から飛び出した。その勢いのまま、客寄せパンダ様の顔面を連打して打ち倒す。
「きゃー」
メイベル・ポーターたちがあわてて逃げだした。
ずうぅぅぅん!!
地上にいた者たちが、衝撃で宙に跳ね上げられた。たたみかけるような連続攻撃で客寄せパンダ様があおむけに倒れたのだ。
「凄いですな。ベストショットいただきました」
カメラ片手に、尼崎里也が、客寄せパンダ様の倒れる姿を撮影した。
★ ★ ★
「さあ、朔、出番ですよ」
「うおぉぉぉぉ!!」
尼崎里也の言葉に応えるかのように、待機していた鬼崎 朔(きざき・さく)が、待ってましたとばかりにバーストダッシュで飛び出した。狙うは脇の下。動物であれば急所である。一気にランスバレストで突っ込んだ鬼崎朔が、狙い違わず客寄せパンダ様の急所に剣を突き入れた。
「今です! 兄さん、行ってください!」
紫月睡蓮の声に、紫月唯斗もレッサーワイパーンを飛び降りて、客寄せパンダ様の腹に神速で鳳凰の拳を連打した。客寄せパンダ様のぽてっとした腹が衝撃で大きくへこむ。だが、直後に元通りにぽよんとふくらんだ腹が紫月唯斗を撥ね飛ばした。
同様に、目や脇を狙った椎堂アヤメや鬼崎朔の攻撃も、客寄せパンダ様の表皮を貫通することなく弾き返されていた。客寄せパンダ様が生物であれば、それらは確実な弱点となっていたのだろう。だが、いかんせん、巨大化して生き物のように動くようになったからとはいえ、元は不思議な金属に似た材質の物でできた置物の像である。生物学的な弱点を突いても、全身がほぼ均一の防御を誇っているため、ほとんど攻撃の効果は得られてはいなかった。
「うおっ!?」
大空高く飛ばされた紫月唯斗を客寄せパンダ様の爪が襲う。だが、間一髪、舞い戻ってきたレッサーワイパーンが紫月唯斗を拾って逃げ去っていった。
今が攻撃のチャンスとばかりに、まだ倒れている客寄せパンダ様に、学生たちが群がっていった。
「今や、レイチェルはん、ロープでパンダはんをしばりつけるで!」
倒れた客寄せパンダ様を見て、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が叫んだ。
「はい!」
ヴァンガード強化スーツの力で地面に深々と杭を打ち込むと、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がそれに結びつけたロープの反対側をルミナスジャベリンにくくりつけて投げた。客寄せパンダ様の身体の上を越えていったルミナスジャベリンが、大久保泰輔のそばの大地に突き刺さる。
「よっしゃあ。これで固定や!」
大久保泰輔が、ルミナスジャベリンをさらに地中に押し込んで固定する。
「今や。パンダはんが動けんうちに、くすぐり倒すんやあ!」
笑わせれば、客寄せパンダ様の怒りもどこかへ吹っ飛ぶだろう。すでに緋桜ケイがやろうとして失敗しているが、大勢でかかれば成功するはずだ。だが、それには……。
「あ。みんな、脇の下とか首筋とか性感帯を主に攻めてくすぐるように。要は、自分やったらこそばされたらかなわん嫌なとこ、そこ中心になー」
大久保泰輔が叫んだ。
「ちょ、ちょっと、泰輔さんったら、いったい何を口走っているんですか!!」
レイチェル・ロートランドが顔を真っ赤にして叫んだが、客寄せパンダ様をはさんで反対側にいる大久保泰輔の暴走を取り押さえることはできない。
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